5番勝負その3・物語編
どちらも少年マンガ的な部分は共通だけど……(三木)
──次のお題として用意していたのが物語だったのですが、それでは川原さんは物語とキャラクターなら前者を優先して考えて書いているということでしょうか?
川原 どちらも、その場その場で考える感じですね。
三木 さっきから天才の発言が続いている(笑)。
川原 いや、本当にプロットを作るのが苦手なんですよ。
──それはWebに連載としてアップするという当初のスタイルが影響しているのでしょうか。
川原 そうですね。毎日Webで決まった量を書くとなったら、プロットなんていちいち切ってられないですから。ライブ感覚で出たとこ任せみたいなところがあって、キャラクターもストーリーも感覚としては一体化したものです。ちなみに鎌池さんはプロットをどれくらい作られているんですか?
鎌池 私は作るときは結構作りますね。
三木 鎌池さんのプロットは、基本はA4で30枚くらいかな……。しかもこちらのオーダーによって対応してくれて、「とある魔術の禁書目録」はプロットから作ってくれますが、「ヘヴィーオブジェクト」の場合はプロットなしでいきなり原稿をあげてくれています。これはそのようなオーダーをしているからです。
川原 すごい! 「アクセル・ワールド」の15、6巻くらいで展開に迷ったとき、珍しくプロットを作って三木さんと相談をしたんですけど、その打ち合わせ後に「僕、こういうの楽しいな。もっとやりたいな」とおっしゃっていたのを覚えていますよ。
一同 (笑)。
──話を戻しまして、三木さんから見て「とある魔術の禁書目録」と「ソードアート・オンライン」の物語面での魅力の違いをどう感じますか?
三木 僕が少年マンガ的なものが好きだからその目線で語ってしまうんですが、人を信じることが勝利につながるとか、ロジカルで重要そうな要素を、人の気持ちが凌駕して打ち負かすとか……そういった描写や要素は両作品に共通しています。それが根本にあったうえで、鎌池さんだったら魔術や科学技術について「こんなのどう思う? 面白いでしょ!」という気持ちを込めていて、川原さんは「VRMMOって最高じゃない?」と気持ちを込める。そこは作家さんのフェチズムの部分だから優劣は付けられないですね。
5番勝負その4・制作過程編
僕は担当しがいがない作家でしょう(川原)
──続いて作品というよりは作家としての比較になりますが、制作過程での違いは? これまでにも部分的にお話いただいていますが。
三木 こちらも全然違いますね。鎌池さんはできあがった原稿を元に打ち合わせをして改稿して……というのを繰り返して、最終的には10回くらい直すんです。だからプロットから結構変化していって、本になる頃にはキャラクター名も用語も展開も変わる。でも川原さんは1回書き終えたらそれで完成ですね。原稿ができあがったら細かいところや大きい流れの確認はするけど、基本的にはそれでできあがり。
川原 それは僕が悪い子ちゃん進行だから、大きく直している時間的な余裕がないせいでは。
三木 いやいや、それとはまた少し違うんですよ。川原さんは編集者が付かなくても世に作品を発表し続けてきた人だから、自分の中でリテイクをする癖があるんでしょう。逆に鎌池さんは作品を発表するまで長く編集とやり取りするのに慣れているから、そちらのほうがしっくりくるのかもしれません。
川原 確かに、いつの頃からか脳内に三木編集BOTがいまして、原稿書いてる最中に「ここで三木さんこういうこと言うだろうな」「ここでもう少し説明を欲しがるだろうな」とか考えますね。だから編集者としてはあまり担当しがいがないでしょう(笑)。
三木 僕は最近、その脳内三木編集とどうにか知り合いになれないかと日々模索しています(笑)。とにかくいろんなパターンの作家さんがいて、それに対応していくのも編集者の仕事ですし、カタルシスのある部分ですね。
5番勝負その5・メディアミックス&スピンオフ編
「SAO」実写ドラマはちゃんと進行しています(三木)
──最後にメディアミックスやスピンオフの多様さについて比較しましょう。両作品とも幾度となくアニメが作られ、スピンオフ作品も多数存在します。三木さんをはじめ電撃文庫の編集者はそういったメディアミックスのプロデューサーとしての側面もお持ちですが、どういった考えで進めているのでしょうか?
三木 基本的に作品の個性に合わせるというのはもちろん前提ですが、やはりエンタメに特化している電撃文庫の作品なのでコミカライズと相性はいいですし、人気があればゲーム化やアニメ化も当然あり得る。ただ、だからこそそこで終わりではなく、ファンの傾向や好みを考えてさらに喜んでもらうための次のアプローチをどうするかが腕の見せどころですよね。「とある魔術の禁書目録」で言うと、上条ではできないことや描ききれないことをスピンオフコミックでやる、というようにです。それは本作が魅力的なキャラクターが多いからできることだと思います。
──御坂美琴が主人公の「とある科学の超電磁砲」はその典型ですよね。
三木 第1巻でほんの数ページしか出てこなかったのに彼女が人気をさらっていったときは、主人公以外のキャラクターも支持を得られるんだと驚きました。それもこの作品のいいところだと思います。そして、なにより鎌池作品は“原作”に向いているんですよ。まず、30枚書いてくれるプロットに夢がすごく詰まっているから、これをいろんな媒体で動かしてみたいと思えるんです。
ヒロインの1人だった御坂美琴。その後、彼女を主人公としたスピンオフのマンガ「とある科学の超電磁砲」はアニメ化されるほどの人気に。
三木 なので、そんなプロットの結晶である「とある魔術の禁書目録」をほかの創作者が読むと、どこかでインスパイアされるのかもしれません。それくらい細かな設定、ネーミングのセンスなども含めて“原作”向きな部分があると感じます。
鎌池 枝を付けやすいんでしょうね。「私ならこうする」って。
三木 それは自分を卑下しすぎでしょうけど(笑)。
──最近だと「とある魔術の禁書目録」は「電脳戦機バーチャロン」とのコラボレーションが印象的です。
川原 本当にまさかのコラボでしたよね。
三木 あれはすべてカトキハジメさんのおかげです(笑)。まさかこんな感じでコラボレーションするなんて、誰も想像していなかった。まさに「禁書目録」の自由度の高さを証明したプロジェクトじゃないかなと!
──「ソードアート・オンライン」はハリウッドでの実写ドラマ化も発表されています。まさにヒット作の王道を歩んでいますが、三木さんは著書の中で「ハリウッドでの映像化はメディアミックスの最終目標」と書かれていましたね。
三木 「ソードアート・オンライン」については、個人的にはWeb版を商業小説として出した時点で、1回メディアミックスしたという感触なんですよ。そこで一旦成功できたので、以降は勝って当たり前、横綱相撲をしなきゃいけないというマインドでした。だからメディアミックスにおいては王道感をテーマとして意識しています。ハリウッド企画については、世界で一番エンターテイメントにお金をかける場所だから、そこで一度やってみたいという憧れはあったし、スカイダンス・メディアという一流の製作会社と勝負してもいいんじゃないかなと思ってオファーを受けました。ほかからもオファーはありましたが、やはり王道でいきたいという思いからの決断です。
──ちなみに、制作発表から続報がありませんが……。
一同 (笑)。
三木 制作は進行しています! 今はシナリオを作っている段階で、止まってはいません!
──では東京オリンピックよりは先になりそうだけれども、完成には近づいていると。
三木 うーんうーん、ノーコメントで(笑)。
川原 ハリウッドは、脚本が決まったら最初のパイロットフィルムの制作まで早いらしいんですよ。
三木 今回はそのパイロットもなく制作という可能性があるので、割と早くお見せできるかもしれません。
──楽しみにしております。さて、ここまで5つの切り口で語っていただきましたが、最後に三木さんから総評をお願いします。
三木 そりゃあ優劣は付けられませんよ! 僕も引き続き両作についてがんばっていただきたいので、よければ皆様は、10月から同時に始まるアニメを観て判断していただければと思います。よろしくお願いいたします!
──期待通りのコメントありがとうございます。
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アニメに適した小説の描写もある(鎌池)
- 「ソードアート・オンライン アリシゼーション」
- 放送情報
-
TOKYO MX:毎週土曜24:00~
とちぎテレビ:毎週土曜24:00~
群馬テレビ:毎週土曜24:00~
BS11:毎週土曜24:00~
MBS:毎週土曜27:08~
テレビ愛知:毎週月曜26:05~
AT-X:毎週月曜22:30~ ※リピート放送あり
※放送日時は変更となる場合あり。
- ストーリー
-
原作小説9巻から18巻にわたる、「SAO」シリーズ最長の《アリシゼーション》編を全4クールで描くTVアニメ第3期。
気がつくと、見覚えがないファンタジーテイストの仮想世界にログインしていたキリト。ログイン直前の記憶があやふやなまま手がかりを求めて辺りをさまよう中で、彼はNPC(ノンプレイヤーキャラクター)のユージオと出会う。仮想世界の存在であるにも関わらず人間と同じ感情の豊かさを持つ、その不思議な少年と一緒にゲームからのログアウト方法を模索するキリト。そんな中で彼の脳裏には、本来あるはずのない幼少期のキリトとユージオ、そして金色の髪を持つ少女・アリスの記憶が蘇る……。
- スタッフ
-
原作:川原礫(電撃文庫刊)
原作イラスト・キャラクターデザイン原案:abec
監督:小野学
キャラクターデザイン:足立慎吾、鈴木豪、西口智也
助監督:佐久間貴史
総作画監督:鈴木豪、西口智也
プロップデザイン:早川麻美、伊藤公規
モンスターデザイン:河野敏弥
アクション作画監督:菅野芳弘、竹内哲也
美術監督:小川友佳子、渡辺佳人
美術設定:森岡賢一、谷内優穂
色彩設計:中野尚美
撮影監督:脇顯太朗、林賢太
モーショングラフィックス:大城丈宗
CG監督:雲藤隆太
編集:近藤勇二
音響監督:岩浪美和
効果:小山恭正
音響制作:ソニルード
音楽:梶浦由記
プロデュース:EGG FIRM、ストレートエッジ
制作:A-1 Pictures
- キャスト
-
キリト(桐ヶ谷和人):松岡禎丞
アスナ(結城明日奈):戸松遥
アリス:茅野愛衣
ユージオ:島﨑信長
©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
- 「とある魔術の禁書目録Ⅲ」
- 放送情報
-
AT-X:毎週金曜22:00~ ※リピート放送あり
TOKYO MX:毎週金曜24:30~
BS11:毎週金曜24:30~
MBS:毎週土曜27:38~
※放送日時は変更となる場合あり。
- ストーリー
-
TVアニメ2期より、8年ぶりの放送となる第3期。原作小説がひとつの区切りを迎える、“神の右席”との激しい戦いが描かれていく。
上条当麻は超能力開発が行われている巨大な学園都市に住む高校生。自分の右手に宿る、異能の力ならなんでも打ち消す「幻想殺し(イマジンブレイカー)」のせいで、不幸まっしぐらの人生を送っていた。そんな上条は、インデックスという少女に出会ったことから、学園都市を統べる「科学」サイド、インデックスに連なる「魔術」サイド双方の事件に巻き込まれていく。そして、ついには魔術サイドの十字教最大宗派のローマ正教が、上条の存在に目を向けることに……。
- スタッフ
-
原作:鎌池和馬(電撃文庫刊)
キャラクター原案:はいむらきよたか
監督:錦織博
シリーズ構成:吉野弘幸
キャラクターデザイン:田中雄一
美術監督:黒田友範
色彩設計:中村真衣、安藤知美
撮影監督:福世晋吾
編集:西山茂(REAL-T)
音響監督:山口貴之
音楽:井内舞子
制作:J.C.STAFF
- キャスト
-
上条当麻:阿部敦
インデックス:井口裕香
御坂美琴:佐藤利奈
アクセラレータ:岡本信彦
浜面仕上:日野聡
©2017 鎌池和馬/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/PROJECT-INDEX III
- 川原礫(カワハラレキ)
- 第15回電撃小説大賞《大賞》受賞。2009年2月、受賞作「アクセル・ワールド」にて電撃文庫デビュー。別名義にてオンライン小説も自身のホームページにて発表しており、その作品「ソードアート・オンライン」を2009年4月より電撃文庫から刊行開始。2012年には、両作品がアスキー・メディアワークス創立20周年記念作品としてTVアニメ化された。2018年10月からは、「SAO」アニメ第3期が放送されている。
- 鎌池和馬(カマチカズマ)
- 2004年4月に「とある魔術の禁書目録」を上梓してデビュー。同シリーズはコミカライズ、アニメ化、ゲーム化、劇場映画化と数々のメディアミックスを果たし、名実ともに電撃文庫を代表する作家となる。「とある」シリーズ以外にも多くのシリーズを持ち、驚異的な刊行ペースで作品を生み出し続けている。2018年10月からは「とある魔術の禁書目録」アニメ第3期が放送されている。
- 三木一馬(ミキカズマ)
- 2016年4月にKADOKAWA アスキー・メディアワークス電撃文庫編集長を退職し、株式会社ストレートエッジを設立。鎌池和馬、川原礫の担当編集とアニメプロデューサーを務める。他担当作として、「灼眼のシャナ」「魔法科高校の劣等生」「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」など。著作として「面白ければなんでもあり 発行累計6000万部──とある編集の仕事目録」がある。