古代兵器“イムリの道具”の力
イムリに伝わる詩をヒントに、デュルクは兵器である“イムリの道具”を体に宿してしまう。やがてデュルクとドープはカーマの追っ手に捕らえられる。ドープを守ろうとしたそのとき、デュルクの体が輝き、軍人たちの首が次々に落ちた。首をはねたのは、無意識のうちに働く“イムリの道具”の力だった。血まみれの部屋で「僕がやったんじゃない!」と動揺するデュルク。
その後、ミューバと再会したデュルクは、自分がカーマではなくイムリなのだと知る。ミューバと双児として産まれるが、出生後すぐに2つの星に引き裂かれたのだ。イムリの双児はお互いの夢を見合う。ミューバもまたデュルクの夢を見て、その存在を励みに生きてきたという。再会を喜ぶ2人は、これからは一緒に暮らそうと手を取り合って喜ぶのだった。
イムリでありながら特権階級に生きるミューバは無邪気に笑う。「自分がイムリだからってなにも恥じることなんてないんだよ!! 地べたのような所で暮らしているイムリ大陸のイムリなんかとは全然違ったでしょう!? こんなに幸せなイムリなんていないハズだよ!!」。しかし、ドープとの出会いでイムリを知り、またカーマが行ってきた非情な仕打ちも知るデュルクは、複雑な表情を見せるのだった。
こっだらとこで暮らせなくたって、わしはぜんぜんかまわねえだよ。
森さ生えてる根玉子はうんめえぞ!
自由のため、隷属を選ぶが……
イムリの道具を宿したデュルクは、カーマへの忠誠心を試される。騙されて集められたイムリの民たちが、カーマの手で獣化される現場を見せられたのだ。労働などに使役されていた醜い獣奴ゴンガロは、大地で暮らすイムリたちの末路だったのである。真実を知り激昂するデュルク。「本当の心が『間違っている』と思ってしまうんです!」「心に意味などないのなら なにも感じずに済む奴隷でいるほうがよっぽど楽ではないですか……!」。
だが自らも被差別民イコルの血を引くラルドは告げる。「我々は変えていくことができるんだ!そのチャンスを持っているのはお前と私だけなんだぞ!」。希望を失わず、身を粉にしてカーマに尽くしてきたラルドに心を打たれたデュルクは、いつか内側から世界を変えるため、“本当の心”を持ったままカーマに尽くすことを受け入れる。
しかし、心を交わした旅のイムリ・ドープが奴隷化されたことを知り、デュルクは再び反逆者として逃亡。自分とミューバの悲しき出生の秘密を知り、逃避行の最中で見かけたイコルの人々が軽々しく扱われるさまを見て、再び「カーマは間違っている」と煩悶する。一方、慕い続けていたデュルクに見捨てられたと思い込み、さらにはデュガロに奴隷化までされかけたミューバは、日に日にデュルクへの憎しみを募らせていく。やっとともに過ごせることを喜んだはずの2人は、異なる道を歩み始める──。
(絶句)。こっただおっかねえとこ早く逃げ出してこい! デュルク〜〜!!
守りのイムリとの出会い
デュルクが逃避行を続けて数年が経った。イムリの教えを求めてさすらうデュルクは、少女チムリと出会う。チムリの育った村はゴンガロに襲われ、双児の片われを含めた村人たちはカーマ軍に連れ去られたのだ。罪のない彼らを救いたいと思いながらも、戦いに巻き込むわけにはいかないと苦悩するデュルク。そこへ非情な指揮官に変貌したミューバが、彼を追ってやって来るのだった。
わしとデュルクの運命的な出会いじゃ。
もっとこう、情熱的に書いてほしいだよ……
戦争か、不戦か。自らの道を探すデュルク
イムリたちの間には、銀髪の“夢見のイムリ”が現れてイムリを救うという言い伝えがあった。道具を宿し、体に印があるデュルクは、岩山の洞窟の村のイムリたちに「あなたこそが伝説のイムリだ」と祭り上げられる。そしてカーマと戦う準備をしている岩山のイムリを止めてほしいと懇願されるのだった。
岩山のイムリ・ニコたちは、伝説のイムリは“戦うイムリ”だと信じ、ともにカーマと戦えとデュルクに迫るが、デュルクは戦わずに世界を変える、平和解決への道を模索していた。それはカーマの元にいるミューバを守るためでもあった。
しかし皮肉なことに、ミューバの生きがいはデュルクを殺すこととなっていた。ミューバはチムリの片われ・ミムリの夢を利用し、イムリたちが道具の力を引き出しつつあることを知る。
こっただカンカンになっちまったら、
双児でもミューバはデュルクの夢さ見れなくなっちまうだよ。
わしとミムリみたく仲よくしねえとな
絶望する復讐者、ミューバ
残忍な復讐者へと変貌を遂げたミューバ。さらにはイムリの道具を体に宿し、呪大師らカーマ最高位の者たちを抹殺して“覚醒者”となる。しかしそれは、ミューバを利用するため養女として育ててきたデュガロ呪大師の罠なのだった。
カーマ軍は岩山へ空襲を仕掛けるが、印を宿したニコたちが軍船団を撃墜。イムリの術の威力を実感したミューバは、奴隷化したイムリに道具を宿した“イムリ兵”を量産して対抗。戦争は激化していく。
デュガロ呪大師は、秘密裏に手塩にかけ育てていた青年・タムニャドを最高権力者“賢者”とすり替え、己の権力を強固なものとする。同時に、道具として利用し終えたミューバの奴隷化を企てる。しかし最強の命令彩輪を得たミューバは、逆にデュガロをも従わせるのだった。
イムリ兵の中には、おっ母そっくりのやつもいた。
でも、違ったかもしんねえ。
だっておっ母なら、わしのことばすぐわかるはずじゃでよ……
KEYWORD
- 賢者
- カーマの階級社会の最高権力ポスト。その始祖は覚醒者と呼ばれるイムリだった。
- 抗体
- 賢者の証として受け継がれてきた道具。イムリの血を汲むものが身につけると、命令を無効化することができる。その力を得るためカーマの呪師たちは、代々イムリと血を混ぜて子孫を繁栄させてきた。
奴隷民・イコル、自由のため立ち上がる
ミューバの暴走は止まらず、気まぐれにラルドを奴隷化。従者イマクは、慕い続けた師を失い、失意に暮れながらも「誇りある『行い』でイコルの血を作ろう」というラルドの教えを思い出し、自分もまたカーマを変えようと立ち上がる。
秘密裏に乗り込んだ船でイマクが逃亡した先は、彼の故郷であり、奴隷化される前のイコルが集う隔離地域・イコル区。師の思いを遂げるためにできることは、奴隷たちに侵犯術を伝え、すべてのイコルを解放すること。そう強く決意した彼は、カーマの暴政に4000年間奴隷として耐えてきた民を先導し、居住区の高い壁を越える。
いっけえイマク!! 革命じゃ〜〜!!
イムリか? カーマか? デュルクはどちらを選ぶのか。
イコルたちが蜂起したことで、戦乱は3民族が複雑に絡み合いさらに混戦。イムリたちは道具の謎を次々と解き明かし、激しい戦闘をくぐり抜けてきた。デュルクを伝説のイムリとして祭り上げ、「カーマを皆殺しにするぞっ!」と、イムリの民たちを鼓舞するニコ。そこへ、カーマの軍人が生け捕りにされてくる。軍人ドネークは、デュルクの寄宿学校時代の上級生だった。処刑しようと盛り上がるニコたちだが、デュルクは捕虜として扱うと言って譲らない。「お前の心はイムリなのか?カーマなのか?」と迫るニコだったが──。
“術”と“道具”を手にしたイムリは、かつてのカーマのように暴走し、星と人間を傷つけてしまうのか。すべての民族を傷つけることなく、戦争を終わらせたいというデュルクの願いは、果たされるのか──。
人の心は支配できるものなのか。
デュルクとミューバ、そしてすべてのイムリ、イコル、カーマは、
本当の心のままに生きられるのか……?
結末は自分の目で確かめるだよ!
奥村勝彦(元コミックビーム編集総長)コメント
あー。イムリ完結かあ。すげえなあ。連載スタートした時は、担当の岩井から「えれえ長く続くっすよ」と言われて、正直ビビッた。なんせウチは“俺たちに明日はない”コミックビームである。それが今まで続けて完結でけた。うむ、やれば出来るのだ。
イムリが恐ろしいのは、その世界観の緻密さである。なんだ、あの彩輪の設定の細かさは‼︎ 俺みてえなアホだったら、確実に組み合わせ間違えて無茶苦茶になってるぞ‼︎ ああ、イムリに生まれなくて良かった。
んで思うのは、本格SFを描ける漫画家って朝から晩まで、日々世界観を空想しとるんだなあ……って事だな。あのシャガレ声でガラッパチな三宅さんがそんな事してるなんて、最高に面白れえじゃねえか‼︎ 日本の漫画家ナメたらあかんぜよ!!
長くてヘビーな連載を終えた三宅さんには、少しの間、愛するブタさんと共に骨休めしてもらって、またどヘビーなヤツをブチかましてもらいたい。楽しみにしております。
「イムリ」初代担当編集者 岩井好典氏コメント
「イムリ」完結に寄せて
あれは、たぶんもう十五年ほど前のことか。
三宅乱丈さんから「連載用のネームがあるのだが…」と電話があった時点では、それまで、短い原稿を一度いただいたことがある程度の、ごく薄いお付き合いでしかなかった(「ネーム」は、漫画界では「絵コンテ」の意)。
だが、野心作「ペット」等でその端倪すべからざる才能を知っていた自分は、内心「しめた!」とほくそ笑みつつ、「ぜひ拝見させてくださーい」と軽いノリの返事をした。
間を置かず、編集部のFAXが受信音を発した(時代ですねえ)。一枚目を見ると、三宅さんからということが分かる。その時でも自分は、「へへへ。しめしめ。才能ある漫画家さんの新作、いただきー」と、やはり軽いノリで喜んでいた。
だが、そのFAXはいつまでも終わらなかった。
今も、FAXの受信棚に紙がカタカタと分厚く積み重なっていく光景を、鮮やかに思い出せる。
送られてきたネームは120ページに達した。紙の重みで傾いだプラスチックの受け皿を、自分は茫然と見つめた。
それなりにキャリアのある編集者なら、ある種の漫画家のネームが発する“怨念”のようなものを感じとることができるだろう。「これを描かずにはいられない!」という描き手の魂が乗り移ったネームというものが、この世界には存在するのだ。
「イムリ」のネームは、まさにそうした“妖気”をビンビンに発していた。
自分の軽いノリはとうに霧散し、「大変なものを託されてしまった」と…正直に言う、慄(おのの)いていた。
送られたネームを精読した自分は、心の底からプレッシャーを感じた。
「イムリ」は破格の作品だった。
120ページのネームは最初の4話分だったが、綿密に構想された長大な物語の、ごく端緒であることも明らかだった。
描かれれば間違いなく途轍もない作品になる、と、編集者である自分には分かった。
だがこれは、どこをどう見ても“簡単”な漫画ではない。
世界設定から精緻に組み上げられた、完全に“架空”の大河物語である。作中で使われる固有名詞はすべてオリジナルなものだし、世間に馴染みのある「普通」が、そこにはなにもない。漫画家にとっても、編集者にとっても、読者にとっても、極めてハードルの高い漫画だった。
だが、「この作品を載せない」という選択肢は不思議と頭になかった。
「どうすれば、読者に届くか」、そして、「どうすれば、この作品を最後まで描いてもらえるか」だけを、ただひたすらに考えていた。
連載開始から数ヶ月経った頃、当時の奥村編集長に尋ねられた。
「岩井さあ、『イムリ』って何巻になるの?」
自分は、「いやあ、12~13巻くらいはイクっスかねえ」と、すっとぼけた。すると奥村さんは、「おめえよお、おれを舐めるなよ。どう考えたって、これ、ちゃんと描いたら30巻とかかかるだろ?」と詰(なじ)るように言った。
もちろん自分もそう思っていたから、返答に窮した。奥村さんは、「しかしこれ、ちゃんと描いてもらわんとなあ…大丈夫か、ホント」と、やはりプレッシャーを感じているように呟いた。
コミックス化の際、投込みの用紙で、登場人物紹介や単語解説等を付けたことは、少しでも読者の助けになればと、自分がしたことのひとつである。しかしそれも、愛読していた宮城谷昌光の文庫本でなされていたことに倣っただけで、別に独自の工夫ではない。とにかく、自分は、編集者としてできることをできるかぎりやろう、と思っていた。担当している期間中ずっと、「この恐るべき漫画を、最後まで描いてもらわなければ」とだけ念じていた。
***
「イムリ」が完結した。
著者が当初設定していた物語の、どこまでを描き切れたのかは分からない。少なくとも、三宅乱丈の構想ノートには、実際に描かれたものの数倍の“物語”があったことを、自分は知っている。
だが、とにかく、この驚くほど遥かで濃密な作品が、著者自らが意図した終わりまで、取りあえずでもたどり着いたとするなら、やっと今、あの十五年前から感じつづけていたプレッシャーから、自分は解放されたことになる。
三宅さーん!
本当にお疲れさまでした。
すごい漫画を描いちゃったねえ。
そして、これまで「イムリ」の世界を一緒に生きてきてくださった読者の皆さまに、心からの感謝を。
でもね、この漫画、読めて本当によかったでしょう?
なかなか、こんな漫画、ないでしょう?
嗚呼、よかった。
ホント、よかった。
やっと、十五年前、おれにかけられた“促迫”が解けたよ、三宅さん。
素晴らしい“経験”だった。
ありがとう。
三宅乱丈コメント
私にとって初めての長期連載となった「イムリ」は、連載開始当初から最終回までに14年かかっていますので、その間の体の変化に対応するのが一番大変でした(主に老化)。
てっきり連載を始めた頃の40歳の体のまま最終回まで描くものだと思い込んでおり、50代を過ぎた頃からは、昔平気でやっていたこと(連続徹夜とか)が全く無理になっていき、職場環境はホワイトになってはいくものの、作業が計画通りに進まないというジレンマに陥り、若いアシスタントさんには、もし長い連載をやるのならば体力のある若いうちから始めた方がいいよと愚痴っていた気がします。
そう言う意味で私にとって「イムリ」は、体調管理を学ばせてくれた作品になりました。
それはさておき、長い連載だと本当にたくさんの方々に助けていただき、それに見合う作品になっているのかがいつも不安でした。
そして、読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。最後まで描かせていただけて本当に感謝です。