小学館のマンガアプリ・マンガワンにて連載されている、たみふる「付き合ってあげてもいいかな」の1巻が発売された。同作は“絶対友達にならないタイプ”と思っていた女子大生2人がひょんなことから距離を縮めていくガールズラブ。マンガワンのアプリ上では「女子向け」カテゴリーのランキングで常に上位に食いこんでいる人気作だ。コミックナタリーでは単行本の発売を記念し、たみふるにインタビューを実施。「世間から後ろ指を指されがちなことを肯定的に描きたい」という、作品に込めた思いを聞いた。
取材・文 / 熊瀬哲子
作品紹介
たみふるインタビュー
恋愛ものの1つとして読んでもらいたい
──「付き合ってあげてもいいかな」は、もともと同人誌で発表していた作品なんですよね。
そうなんです。前作はとなりのヤングジャンプ(集英社)で「空気人形と妹」という、しゃべるダッチワイフのマンガを描いていたんですが、それがちょっとニッチなところに行き過ぎたので、今度はもう少しメジャーな題材の作品を描きたいなと思っていて。みんなが絶対好きで、絶対読みたいものはなんだろう?って考えていたんですけど、逆に「みんなが好きなものって何?」と煮詰まってしまって。「それならもう、自分の読みたいものを描こう!」と、COMITIAで発表したのが「付き合ってあげてもいいかな」でした。
──半ばヤケクソになりながら(笑)。
はい(笑)。それを読んだマンガワン編集部の方に声をかけていただいて、連載することが決まったんです。
──同人誌で発表しているときは「百合」という表現を使われていましたが、マンガワンでの紹介文では「ガールズラブ」と表記されていますよね。
「百合」という言葉を使わないでほしいっていうのは、連載が始まるときに編集さんと話し合いました。マンガワンという一般誌で連載するにあたって、どういう作品にしていきたいかを改めて考えたときに、「ああ、この人たちは女の人同士で付き合っているんだな」くらいの軽い気持ちで、あくまで恋愛ものの1つとして読んでもらいたいなと思ったんです。なのでバンドメンバーのみっくんたちは、すれ違ったりイチャイチャしたりするみわと冴子の関係を、普通のカップルと同じように見守ったり、なんならうんざりすることもある。女性同士で恋愛していることに変に気を遣ったりしない、“特別じゃない”在り方を描いてみたいなと思ったんです。冴子も過去に恋愛関係でいろいろあったという描写はありますけど、冴子自身は同性が好きだということをポジティブに捉えていて。ハッピーな読み味で、誰でも軽い気持ちで楽しめるような作品にしたいというのは、連載が決まってから特に意識しました。
──第1話の読者コメント欄を見ていると、「これから悲劇的な方向に進んで、ドロドロになっていくんじゃないか」と危惧している人も見受けられました。
仮に今後、みわと冴子の関係に変化があるとしても、それはあくまでみわと冴子という2人の人間だからこそ生じる問題であって、同性同士だからドロドロになるわけじゃないというのは、自分の中で線引きしています。誰もが軽い気持ちで楽しめる作品にしたい、というのは変わりません。
──近年は国際的にもLGBTに関する話題がいたるところで取り上げられていますし、SNS上でもたびたび言及されます。そういった時代の流れを意識している部分はありますか?
リアルなLGBTの現状に寄り添おう、ということはあまり考えていないですね。私としては、近年になって百合というジャンルが以前よりもずっと一般的になって、「やっと商業でも百合が描けるんだ、やったー」みたいな気持ちがありました(笑)。ただ、私はもともと百合がすごく好きだったかと言われるとそういうわけでもなく。百合ならなんでも好きとか、熱心に百合作品を追いかけているというわけでもなかったんです。マンガやアニメで女子キャラ同士が絡んでいたらうれしいみたいな気持ちはあるんですけど、それよりもたぶん、女子そのものにすごく興味があるというか、気になる生き物だなと思っているんです。
“スケベ”と“おしゃれ”が共存している作品
──「付き合ってあげてもいいかな」は、マンガワンで女子向け作品の1つとして掲載されています。
この作品を「女子向け」としてもらえたのはうれしかったですね。今までは2次創作も含めてずっと男性向けの作品を描いてきたので、お色気シーンを入れるなど、男性読者を意識することはあったんですけど、COMITIAで「付き合ってあげてもいいかな」を発表するとなったときに、もう少し女性読者を意識して描いてみようと思って。自分なりに女性はどういうものが好きなのか、傾向を分析してみたんです。程よいリア充感とおしゃれな絵柄や画面、登場人物たちのリアルな描写は女性に受け入れられやすいのかなとか。
──読者コメント欄を見ていると、男女問わず感想が寄せられている印象です。
男性読者を意識したお色気描写に女性読者も喜んでくれたり、女性読者を意識したリア充感やおしゃれ感を男性読者も求めていてくれたりと、 結果的に読者にあまり男女の垣根がなくなっていることが、この作品の反響としてうれしく感じているところですね。“スケベ”と“おしゃれ”がこの作品には共存しています。私はどちらも読みたくて、私を満足させるためだけに描きましたが、それを読者も同じように求めてくれたのは意外で、いまだに感激しています。
──ちなみに、少女マンガから恋愛の描写を学んだり、影響を受けたりは?
少女マンガは昔から流行りのものを友達に借りて読むぐらいだったので、そこから影響を受けた感じはないですね。でも、女性読者さんには、少女マンガを読んで「こんなイケメン、身近にいないけど好き」みたいな感覚を持つのと同じように、「女の人と恋愛するつもりはないけど、付き合ったらこんな感じなのかな」って想像しながら楽しんでもらってもいいのかなと思います。
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女性同士の恋愛をリアルに、かつ前向きに描いてみたい
- たみふる「付き合ってあげてもいいかな①」
- 2019年1月11日発売 / 小学館
私に、彼女ができました。
超モテるのに「好きな人と両思いになったことがない」パッと見いい女のみわ。大学入学を機に軽音サークルに入り、絶対友達にならないタイプ!と思ったお調子者の冴子と急接近。なんだかちょっと新しい扉が開いちゃう感じ…?
「せっかくだからあたしたち、付き合ってみない?」
軽音サークルの仲間たちと織りなす、ホンネの女子大生ガールズラブ!!
- たみふる
- 2012年頃より執筆活動を開始。2014年に「女神さまと呼ばないで!」で商業デビュー。2016年にはとなりのヤングジャンプ(集英社)にて「空気人形と妹」を連載。2018年8月からは小学館のマンガアプリ・マンガワンにて「付き合ってあげてもいいかな」を連載中。