文 / 平賀哲雄
AKB48やももいろクローバーZの大ブレイクを皮切りに全国から幾多数多のアイドルグループが台頭し、アイドルが世界に誇るサブカルチャーとして隆盛した「アイドル戦国時代」から10年以上。そのムーブメントはアニメシーンにも大きな影響を与え、2011年に放送スタートしたアニメ「IDOLM@STER」が大ヒットしてからというものの、これまた数え切れないほどのアイドルアニメが制作されていった。
ゆえにアイドルアニメというジャンルは、その歴史の中であらゆる手法が使い尽くされ、真新しい印象を与える作品の制作は当然ながら難しくなっていくわけだが、2021年にアイドルアニメの新機軸にも成り得る作品が誕生。そのタイトルは「IDOLY PRIDE -アイドリープライド-」。ストーリー、システム、劇中アイドルの構成、音楽、そのいずれもがセンセーショナルな内容となっており、感度の高いアイドルやアニメのフリークから注目を集めている。
ヒロインの死から始まるストーリー、それを上回る衝撃
本作は第1話からして衝撃的だった。星見高等学校に通う美少女ヒロイン・長瀬麻奈(CV:神田沙也加)がクラスメイト・牧野航平(CV:石谷春貴)の協力を仰ぎ、関東郊外にある小さな芸能事務所・星見プロダクションから新人アイドルとしてデビュー。二人三脚でアイドルシーンの頂点を目指していく……という一見どこにでもある王道ストーリーの様相を呈しておきながら、新人アイドルのナンバーワンを決める決勝戦当日、会場に向かっていたヒロインがまさかの事故死。かの昭和のラブコメアニメの金字塔「タッチ」の上杉和也を彷彿とさせる、アイドルアニメらしからぬヘヴィ過ぎる展開が待ち受けていたのである。
が、しかし、視聴者は更なる衝撃を受けることになる。最愛の人を失った世界で生きていた牧野航平のもとへ、あの日死んだはずの長瀬麻奈が出現。そこで流れるナレーションは「俺は幽霊になった麻奈と再び出会った──」なんだこの映画「ゴースト ニューヨークの幻」的な展開は! いや、まるでアニメ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」のじんたんとめんまじゃないか! そんなツッコミを入れながらも衝撃を受けたのは私だけじゃないだろう。実際に過去の名作オマージュであるかどうかは置いておいて、本作はアイドルアニメがこれまで取り入れてこなかったサプライズ要素を満遍なく起用しており、その振り切れっぷりは第1話から視聴者を熱中させていった。
そして、さらに驚くのは、ここまで記した長瀬麻奈と牧野航平の物語はあくまで「IDOLY PRIDE」のプロローグに過ぎず、真のメインヒロインたちは第1話のエンドロール後に登場、第2話以降に活躍することとなる。
あらゆるアイドルが事務所の壁を超えて争うシステム
本作で描かれるアイドルシーンには、“VENUSプログラム”なるアイドルランキングシステムが存在する。現実のアイドルシーンでも、48グループの総選挙をはじめとする、アイドルの人気度を数値化する企画は存在するが、VENUSプログラムはあらゆるプロダクションに所属するアイドルたちが登録しており、例えるならば、48グループや坂道グループ、ハロー!プロジェクト、スタダアイドル、WACK等々のアイドルが全員参加しているようなアイドルランキングシステムであり、VENUSプログラムの頂点=アイドルシーンの頂点を意味する。よくアイドルが「天下を獲ります」とインタビューなどで答えたりしているが、現実では明確にナンバーワンアイドルを決めるシステムは存在しない。が、本作の世界では「天下を獲ります」を有言実行したければ、VENUSプログラムで1位になればいい。
そのVENUSプログラムの頂点を目指して劇中で争うのは、声優アーティストユニット・TrySailの3人(雨宮天、麻倉もも、夏川椎菜)がCVを務めるTRINITYAiLE、日本を代表するスター声優陣によるユニット・スフィアの4人(戸松遥、高垣彩陽、寿美菜子、豊崎愛生)がCVを務めるLizNoir。そして、主役となる星見プロダクション所属アイドルたちによる2つのグループ、長瀬麻奈の妹・長瀬琴乃(CV:橘美來)がリーダーを務める月のテンペスト、長瀬麻奈と同じ歌声を持つ女の子・川咲さくらがリーダーを務めるサニーピース。無数に存在するアイドルグループの中から主にこの4組が頂点を目指して競い合うのだが、いずれも亡くなってしまった長瀬麻奈となんらかの因果関係を持っており、そんな彼女たちの活躍を幽霊となって見守る長瀬麻奈のストーリーもドラマティックに絡まっていく。
清竜人による主題歌など豪華作家陣が担当した劇中歌
そんなストーリーも設定もキャストも規格外のアイドルアニメ「IDOLY PRIDE -アイドリープライド-」だが、劇中で披露される楽曲も実にハイレベル。歌唱する声優陣の豪華ぶりは前述した通りだが、星見プロダクション所属のヒロインたち10人によるオープニングテーマ「IDOLY PRIDE」は、ジャンルレスに独自の音楽表現を追及し続け、アイドルグループをプロデュースしていたこともある清竜人が制作。エンディングテーマ「The Sun, Moon and Stars」は、音楽プロデューサーの利根川貴之が作詞、沖井礼二(ex.Cymbals)が作曲&編曲を手がけている。ほかにも、大石昌良、北川勝利(ROUND TABLE)、さかいゆう、田中秀和(MONACA)、やしきん、kz(livetune)、Q-MHz、Wicky.Recordingsと多種多様な豪華作家陣が劇中歌を担当しており、いずれもそれぞれのアイドル人生をダイレクトに音楽化したようなドラマティックな楽曲となっている。
アイドル本来の魅力であるピュアネスを貫いたアニメ
本作はどの角度からフォーカスしても画期的なアイドルアニメだが、最大の魅力は「アイドル=タスキの物語」に重点を置いているところだ。20年以上の歴史を紡いできたモーニング娘。もメンバーの卒業と加入を繰り返してきて今があるように、幾多数多のアイドルが始まりと終わりを繰り返してきたから今日のアイドルシーンはある。本作の劇中に登場するアイドルたちも、偉大なる長瀬麻奈が遺したタスキのプレッシャーと戦い、やがてそのタスキを自分色に染め上げるために奔走する。センセーショナルな要素を数多く盛り込んだ作品ながら、アイドル本来の魅力である 「私らしく輝きたい」というピュアネスに到達してみせるアイドルアニメ、それが「IDOLY PRIDE -アイドリープライド-」なのだ。
- 平賀哲雄(ヒラガテツオ)
- インタビュアー、ライター、MC、コメンテーター。1999年に音楽情報サイト・hotexpressを立ち上げ、2012年よりBillboard JAPAN.comの編集長を務める。現在はフリーで活動し、ロックバンドからシンガーソングライター、アイドルまで幅広いアーティストの取材やイベント司会を担当。アイドルシーンでは特にモーニング娘。らハロー!プロジェクト、BiSHらWACKの各グループのインタビューを多く手がけている。