「アイナナ」のアイドルたちは……甥っ子って感じです(種村)
──先ほどは驚いた展開や企画を伺いましたが、おふたりがこれまで「アイナナ」に携わってきた中で印象に残っている出来事はなんですか?
種村 今パッと思い浮かぶのは1stライブ(2018年7月に埼玉・メットライフドーム[現:ベルーナドーム]で行われた「Road To Infinity」)後に掲出された広告。1stライブ開催にこぎつけるまでに、すごく時間がかかったんですよね。だからスタッフとしてもマネージャーとしても夢というか念願で、終わったときにみんな燃え尽き症候群になっちゃうんじゃないかと思ったんですけど、ライブの次の日に池袋駅が周年の広告で埋め尽くされていて感動しましたね。まるで魔法みたいで、「アイナナ」のスタッフさんってすごいなと思いました。
都志見 自分はリニューアルされた「新ブラホワ」について書かせていただいた第6部ですね。これまではシナリオに合わせて曲やMVを作っていただいたんですけど、今回は初めて順番を逆にして、曲やMVを堪能させてもらってから書いたんです。それもあって没入感のあるシナリオが書けたんじゃないかなと。実は「新ブラホワ」のミニライブ対決の企画も種村先生が協力してくれて、セットリストや舞台についてアイデア出ししてくださったんです。
種村 4グループのテーマ決めなどを任せていただきました。まず各グループの曲を並べて、これを何かテーマでくくることはできないかと考えたんです。そしてIDOLiSH7は空、TRIGGERは劇場、Re:valeが鍵、ŹOOĻは檻だなと思い浮かんで。そういう部分をプロデューサーさんやスタッフさんを交えつつ、文太先生と密接に打合せしながらシナリオを作っていただいた感じですね。
──そんな第6部の終盤ではアイドルたちが「ライブとは?」「アイドルとは?」という質問に答えていく場面がありましたが、おふたりにとってアイドルとは?
都志見 ファンと「ありがとう」を交換しあって大きくなっていく存在、ですかね。交換がうまくいくとまっすぐ成長するけど、少しでも感謝が損なわれると、なかなかうまく育っていかないところがあるなと思っています。
種村 「自然と笑顔にさせてくれる存在」でしょうか。どんなに悩んでいても、アイナナのニュースが入るとそれどころじゃなくなってしまう、影すら映さない強い光です。
──広義でアイドルについて伺いましたが、「アイナナ」のアイドルたちはおふたりにとってどんな存在でしょう?
種村 「アイナナ」のアイドルたちは……甥っ子って感じですかね。息子ではないんですよね。血のつながりはあるけど毎日会ってそばにいるわけではない、みたいな。
──たまに会うとすごくかわいがってしまう。
種村 そうです。自分が育てたわけではないけど、たまに会うと「遊ぼうか!」となる感じ。
都志見 甥っ子という感覚も共感できます。自分にとっては、“メッセージを背負ってくれている人たち”という存在ですね。16人いたら16人分の価値観があって、(七瀬)陸が好きな人は陸の価値観に親しみを覚えるでしょうし、(和泉)一織が好きな人は一織の価値観に親しみを持つと思うんです。だからシナリオを描くときには、誰か1人の価値観に寄りすぎないようにメッセージを投げかけるようにしていて。例えばモモくんは仲間を大事にするし、そのために戦略的に動ける。ユキさんはアーティストらしい魅力と不器用さがあって……と、人物ごとに持っているメッセージ性を、ユーザーさんに届けてくれる存在なんですよね。
──「このアイドルにはこういうメッセージ性を持たせたい」というのは、事前に考えられていたんでしょうか?
都志見 最初に基礎の部分はありましたが、物語が進むにつれてどんどん育っていった部分もありますね。この子は楽しいときにはこうする。悲しみも1つじゃなくてたくさんの種類がある中で、こういう種類の悲しみにはこの子が対応できる。同じ種類の悲しみでも、対応したことがない子は戸惑いや動揺が大きく出てしまう。そういうのはだんだん育てていった感じがします。
種村先生はひと言で言うなら“恒星”(都志見)
──「アイナナ」に携わる中で、おふたりそれぞれの生み出したシナリオやイラストを見ていると思いますが、お互いのクリエイターとしての魅力ってどんなところだと思いますか?
種村 第1部のストーリーは、箇条書きしたときに大筋は王道だなと感じたんですよ。ただその王道のストーリーをこんなに魅力的に描写できるところに文太先生の底知れない才能を感じて。ほかの方が箇条書きにした同じストーリーをシナリオに起こしてもこんなに魅力的にはならないと思うんですよね。登場人物から何気なく出た言葉から、その人の人生や育ってきた環境を感じることができて、説得力が半端じゃない。そこがいつもすごいなって思っています。
都志見 うれしいです。種村先生みたいな人にそう言ってもらえて。
種村 いえいえそんな。
都志見 もう種村先生のことを話してもいいターンでしょうか?
──お願いします。
都志見 種村先生はひと言で言うなら“恒星”。よく友人とも話しているんですけど、惑星じゃなくて恒星なんですよ。描かれるイラストやマンガのクオリティが高いのはもちろんなんですけど、種村先生、ずっと描いているんです。皆さんもわかると思うんですけど、種村先生くらいになるともうそこまで描かなくてもいいはずなのに、本当にめちゃくちゃな修羅場をずっとくぐっていて。普通の人だったら16人分のアイデアって3回もやればもう尽きてくると思うんです。でも種村先生はずっとアイデアが尽きないし、かつクオリティの高いものをずっと描き続けている。さらにこの物量をこなす種村先生の精神力を支えているのが、ファンの人に喜んでほしいという思いなんですよ。「アイナナ」を通して出会ったクリエイターさんの中でも、種村先生の精神力やクリエイティビティには特に驚きました。
種村 ありがとうございます……。
都志見 照れて話を早く切り上げようとしてますね?
種村 いやいや、いいんですよ私のことなんか、と思って。
都志見 本当にすごいなあと思ってます。「アイナナ」のビジュアルは何枚くらい撮られたんですか?
種村 先月は16人を3セット撮りました。
都志見 通算だとどれくらいですか?
種村 すべてはちょっともうわからないですが、まだまだ“撮りたい”ですね。16人のことを。
都志見 種村先生が描く16人がいたらお客さんは喜ぶだろうなというタイミングって絶対にあると思うんです。ただ人間だから時間がなかったり眠かったりするでしょうし、全部に対応することって難しいことだと思います。それでも種村先生はお客さんが喜ぶからってやりきっちゃうんですよね。
種村 喜んでほしいと思うのと同時に、がっかりさせたくないという気持ちも同じくらい大きくて。サービスを怠りたくないというか。私の努力1つでなんとかなるなら、なんとかしたいって思います。
──クリエイターとしての矜持が伝わってきました。おふたりは「アイナナ」に関する作品をクリエイトするうえで、実際に現実のアイドルやライブを観てインスピレーションを受けることはありますか?
種村 私は普段の生活っていうものがなくて、仕事以外は食べるかお風呂に入るか寝てるかしかないんです。だから何かからインスピレーションを受ける暇がなくて、「アイナナ」における創作のインスピレーションは、「アイナナ」の各グループの楽曲からいただいています。
都志見 自分は今パッとは思い出せないところではあるんですけど、最初にアイドルに関する資料を集めて、取材はしました。そのときにアイドルの描きたい部分がハッキリわかりましたね。周年のシナリオやコメディパートは、普段の生活の中から思い付いたことを書くことはあります。