クール教信者は「超速筆」、天原は「性癖博覧会」
──お互いの作家性を一言で表すとしたら、どんな言葉になりますか?
天原 超速筆。
クール教信者 性癖博覧会。
──あはは(笑)。天原さんがおっしゃるクールさんの作家性はわかりやすいですね。
天原 6ページくらいの描き下ろしネームを渡した次の日にクールさんから原稿が上がってきたときは「この人おかしい」って思いました。
──天原さんを「性癖博覧会」と表現した理由はいったい……?
クール教信者 天原さんはエロいパロディイラストをよくアップするんですが、シチュエーションを捻っていたり着眼点を変えてみたり、非常に多様性に富んでいて、よくそんなアイデアを思いつくなあと感心させられるんです。
──確かにマジョリティからマイノリティまでさまざまな性的嗜好を刺激してくれる気がしますね。エルフ、妖精、獣人といった異世界の風俗店で働くさまざまな種族の女の子について男たちが意見を交わす「異種族レビュアーズ」、男女の貞操感が逆転した「貞操逆転世界」も「性癖博覧会」の1つだと考えるとしっくりきます。
天原 「韋駄天」以外の連載は、全部ネットにあげる一発ネタの絵から生まれたものだからアイデア勝負になるんですよね。実は「韋駄天」の原案はノートに書いていたけどボツにした韋駄天の陸上マンガでした。
クール教信者 なんと!? もともと陸上マンガだったんですね!?
──“韋駄天の陸上マンガ”と言うと、神様たちの陸上競技を描くイメージですか?
天原 大昔のボツマンガなので細かく覚えていませんが、概ねそんな感じです。「デカスロン」(山田芳裕)を読んでいた影響で描いたんだと思いますが、死ぬほどつまらなくて40ページくらいで描くのをやめました。
クール教信者 そっちも読んでみたいですけどね。
天原 競技に入る前の段階で投げたので本当にどうしようもないですよ(笑)。でもその作品の「心臓を物理的に潰すくらい修行したら強くなる」という設定は使えるんじゃないかと思って、流用してバトルマンガにしたのが今の「韋駄天」です。その修行法と師匠がリンであること以外、何ひとつ原型は残ってませんが。
「価値観の差」がキャラとストーリーを生む
──神、人、魔族の生存競争である今の「韋駄天」からは想像できない原案ですね。最後に、おふたりは「韋駄天」の面白さの核はどこだと思いますか?
天原 韋駄天、人間、魔族の価値観の差です。これに関しては「韋駄天」に限らず全作品共通して、キャラの立ち位置や考え方の違いによる価値観の差を描くようにしています。
──それはなぜ?
天原 キャラクター性って価値観の異質さによって発生してると思っていて。ストーリーも価値観の競い合いみたいな部分で構成されていますし、作品におけるすべてが価値観の差から生まれると考えています。あからさまな敵がいて、ヒーローがそれを倒して終わるシンプルな話を描くのにはあまり向いてない方法論ですが。
──天原さんがマンガを描く方法論として、価値観の差がキャラクター性とストーリーの重要な構成要素ということですね。
天原 ええ。まあ、そこを重視して描くとマンガ作品として完成しやすいのでよく使ってる手法なんです。
クール教信者 「韋駄天」はどのキャラも強いアイデンティティを持っていて、そこが話の筋をしっかりさせていると思ってます。
──クールさんの言う“強いアイデンティティ”も、天原さんがキャラの価値観を重視しているから生まれるのかもしれません。クールさんの作品、例えば「メイドラゴン」や「ピーチボーイ」も、価値観の違いからくるすれ違いと受容が描かれている気がしていて。
クール教信者 ああ、そういう意味では少し似たような感性を持っているのかもしれないです。主人公には価値観の違いを感じてもなお、それを乗り越えて理解しようとしたり、価値観をすり合わせて共存まで持っていく力があるとうれしいんですよ。
天原 私の場合ではすれ違いっぱなしでもいいかみたいなところがあります(笑)。
クール教信者 私はちょっとウェットな部分がありますから。そういえば、韋駄天は強い思念があった人間の姿を取るわけですが、その人間時代を想起させるような部分がもっと見たかったりするんですよね。扉絵で描くとかいかがでしょう?
天原 人間時代は話すと長くなるのと、初期構想から設定が変わったことによってシナリオにおいて語る意味があまりなくなってしまったので、放置しちゃってるんですよね……。
クール教信者 キャラの背景部分はどれだけ掘ってもいい派なので。何かご一考いただけたらうれしいです!
天原 検討します!