「ワンパンマン」のONE、「東京喰種トーキョーグール」の石田スイ、「ケンガンアシュラ」「ダンベル何キロ持てる?」のサンドロビッチ・ヤバ子らが自身の作品を投稿していたサイト・新都社(にいとしゃ)をご存知の方も多いだろう。「異種族レビュアーズ」のアニメ化が決定した天原、そして「小林さんちのメイドラゴン」などで知られるクール教信者も新都社出身の作家。天原が新都社で発表していた「平穏世代の韋駄天達」はユニークユーザー550万人を超える人気作で、2016年に更新が止まってからも続きを待ち望む声が絶えず、クール教信者の「ピーチボーイリバーサイド」もいまだに新都社の人気ランキング3位を維持している(2019年11月現在)。
「平穏世代の韋駄天達」は現在、ヤングアニマル(白泉社)で商業連載中。原作はもちろん天原、作画はクール教信者が手がけるという、ファン垂涎のタッグが組まれた。単行本2巻の発売を記念した本特集では、2人の対談を実施。連載を6本以上抱えるクール教信者が「平穏世代の韋駄天達」の作画を引き受けた理由、“チラリズム”が好きな天原と“モロリズム”が至高と信じるクール教信者の性的嗜好の違い、そして「平穏世代の韋駄天達」の面白さの核まで、たっぷりと語ってもらった。
取材・文 / 三木美波
世界を滅びる寸前にまで追い込んだ魔族に、戦いの神・韋駄天が勝利してから800年。平和な時代になってから生まれたハヤト、イースリイ、ポーラは戦いの経験がない“平穏(ゆとり)世代の韋駄天”だった。しかし、再び魔族が復活。神・人・魔族の800年ぶりの生存競争が幕を開ける。
肉体をボコボコに“潰されて”強くなる異端の修行法、神・軍人・忍者・係長・ロボットなどが混在する荒唐無稽な世界観、個性の塊のようなキャラクターたち……。意表を突いた設定を得意とする天原の魅力が光る初期作「平穏世代の韋駄天達」を、天原自らが再構成。かわいらしさも醜さも描けるクール教信者が作画を担当し、二人三脚でWeb発の人気作をリメイクしている。
天原にファンアートを送るクール教信者
──まず天原さんとクール教信者さんの出会いについて聞かせてください。おふたりとも、自作マンガと小説の投稿サイトである新都社ご出身ですよね。
天原 そうです。クールさんの作品に初めて触れたのは2008年くらいだったかな? 新都社でランキング上位のマンガをざっくりチェックしていたときですね。
──今でも新都社のランキングには3位にクールさんの「ピーチボーイリバーサイド」、5位に天原さんの「平穏世代の韋駄天達」がランクインしています。天原さんが初めて読んだクールさんの作品は「ピーチボーイ」ですか?
天原 おそらくそうですが、クールさんを意識し出したのは新都社でやっていた「心燃える漫画」というテーマの読み切りマンガを描く企画で。「僕の右手はお酒になった」でしたっけ?
クール教信者 ええ。懐かしいですねー。
天原 普通、こういうお遊びの読み切り企画なんて10ページ前後で終わらせるものでしょう? でもクールさんの「僕の右手はお酒になった」は60ページ近いボリュームがありつつ、しっかりと完成されていた。「なんだ……この人は……」となったのを覚えています。
クール教信者 この企画はプロレスみたいな煽り合いがあって、「マンガで勝負だ!」って流れだったんですよ。ならば本気で行かねばなるまいと。
──60ページの大作を仕上げたんですね。クールさんが天原さんの作品に触れたのは?
クール教信者 私も当時は新都社の更新作品を片っ端からチェックしていたので、「韋駄天」は1話から見てました。作画がしっかりしてるな、というのが第一印象で。始めのほうはのんびり読んでたんですが、ニッケルとリンの戦いあたりから更新が待ち遠しくなりましたね。飄々としたキャラクターが強キャラ感マシマシで襲いかかってきてからのスピード感と言いますか、一気にバトルマンガなノリが強くなって。そういうのに弱いんですよねえ。
天原 リン……つまり主人公側がサクッと勝つ展開は当時珍しがられたんですが、最近は主人公側TUEEE展開のほうが主流になってきて、あんまり新鮮味が感じられなくなりましたけどね(笑)。
──作品を通してお互いを認識し合ってたと思うのですが、実際にコンタクトを取ったのは?
天原 正直なところ、昔過ぎてよく覚えていなくて。
クール教信者 絵チャ(お絵描きチャット)でしたっけね?
天原 MSNメッセンジャーとか絵チャとか、新都社の投稿者たちで会話しているうちに流れで交流が始まった、みたいなノリだったかもしれません。
クール教信者 あの頃の私はなんにでも絡む、イキったところがあったので、天原さんにもそんな感じで絡みついてた気がします。会話して間もない頃にコラボ表紙をお願いしましたね。
天原 え、記憶にないです(笑)。ニッケルのファンアートを描いてもらったのが最初だった気も……。
クール教信者 ファンアート、描きましたね!
天原 クールさんと実際に初めて会ったのは、クールさんや「ワンパンマン」のONEさん、「オーシャンまなぶ」のたくすさんらと描いた合同同人誌でコミティアに参加したときだったと思います。
クール教信者 そうでしたね! 顔合わせはやっぱり緊張しましたよ。もう10年近く前ですね。
クール教信者の生産量は「すごいというよりおかしい」
──おふたりの“始まりの場”とも言うべき新都社で、天原さんが投稿していた「韋駄天」をクールさん作画で商業連載しているのは不思議な縁ですね。そもそも、クールさんが作画を担当することになった経緯を教えてください。あとがきやツイートを読むと、編集さんが何人か候補の作家さんを選ばれて、その中にクールさんがいらっしゃったと。
作画に関しましては、デフォルメ効いててアクション描けそうな人がいいんじゃないすかねくらいの要望だしてたら、のちに上がってきた候補の中にクールさんがいて、ああうnなるほど。って感じでしたね、ピーチボーイ別作画でやってる状況なのに引き受けるわけ無いでしょとその時は思ってたんですがw pic.twitter.com/c99hvnMhMf
— 天原 (@amaharateikoku) 2018年8月10日
天原 担当さん曰く、クールさんにお願いしたのは「小林さんちのメイドラゴン」のアクション描写と女性キャラのかわいらしさが決め手だったとか。私はクールさんが今の連載数で受けるわけないでしょ、と思ってました(笑)。
クール教信者 担当さんから依頼のメールが来て「お、『韋駄天』か! やるか!」みたいな感じでしたね。すぐに返信して翌日編集さんとお会いしました。
天原 行動が早すぎる!
クール教信者 「韋駄天」は好きな作品でしたし、挑戦してみたいって気持ちがありました。原作の良さをもっと布教できたらとも思っていたので、原作に興味を持ってもらうために引き受けたという思いもあるかもしれません。
──天原さんは、作画がクールさんに決まったときはどんなお気持ちでしたか?
天原 「マジで!? できるの? ……いや、あいつならやるかもしれんぞ……」みたいな、主にマンガの生産力方面に思考が引っ張られました(笑)。私も4ページだけ自分で作画している連載があるのですが、それでもしんどいって思うくらい生産力が低いんですよ。
──クールさんは今、連載を何本持ってるんですか?
クール教信者 「小林さんちのメイドラゴン」「小森さんは断れない!」「ぱらのいあけーじ」「チチチチ」、そして「平穏世代の韋駄天達」が主に作画をしている作品で、原作担当が講談社版の「ピーチボーイリバーサイド」、合計6本です。「ピーチボーイ」は監修が中心ですし、今は連載が少し減って楽な時期ですね。
天原 「メイドラゴン」のカンナやエルマのスピンオフにはどのくらい関わってるんですか?
クール教信者 スピンオフ作品も主に監修をやっている感じです。
──作家さんから見ても、クールさんの生産力はすごいですよね?
天原 すごいというよりおかしい。まったく参考にならないレベルです(笑)。
クール教信者 クオリティをもっと上げねばと思う日々ですよ。
──天原さんがご自身で「韋駄天」を描くという選択肢はあったんでしょうか?
天原 「韋駄天」の連載が決まったとき、原作ものを含めて3作連載を持っていたんです。なので自分で描くのは無理だと思ってました。なんなら「韋駄天」に関しても「『韋駄天』が始まる頃には連載の1つや2つ減ってるから、原作だけならいけるでしょ」と思ってたんですが、何も減る様子がなくてどうしようかと思ってるくらいで……。
クール教信者 (静かに頷く)
──クールさんが今頷いているのはどの部分にですか?
天原 おそらく連載が減ると判断して新しい仕事を受けて、減らなかったという打算的な部分でしょうね。
クール教信者 その通りです。計算が甘いんですねえ!
──あはは(笑)。新都社時代からのクールさんのファンには、「韋駄天」の作画をクールさんが担当して、「ピーチボーイ」の作画をクールさんではない作家が手がけていることを不思議に思っている方もいると思います。ヨハネさんが「ピーチボーイ」の作画をしている理由を教えてください。
クール教信者 新都社で発表しているほうは私が描くので、商業で「ピーチボーイ」をやるなら作画はほかの人にお願いしたいなと思ってて。月刊少年マガジン(講談社)の担当さんから「何か一緒に仕事をしませんか」とご依頼いただいたときに相談して、作画の方を見つけていただいたという流れですね。ヨハネさんも「メイドラゴン」スピンオフの作家さんも、オリジナルもいける人ですので自力があっていろいろ助かってます。
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チラリズムとモロリズム、それぞれの良さ