「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-」木村昴(山田一郎役)×服部昇大(「日ポン語ラップの美ー子ちゃん」作者)|僕もあなたも気付けばヒップホップ! たくさんの入り口がある「ヒプマイ」の世界 「日ポン語ラップの美ー子ちゃん」描き下ろしマンガもあるわよ♡

ヒプノシスマイク、1回羽織ってみて?(木村)

「このマンガがすごい!comics 日ポン語ラップの美ー子ちゃん」より。

──昨今のラップブームについて、服部さんはどう感じていますか?

服部 すごくいいことではあるなと思います。ここ10年くらいはずっとそういうブームってなかったので。あとは今のラップブームで世間的なラッパーのイメージが少し変わったのかなと。今までだと「ラッパーって不良なんでしょ?」「ダボダボの服着てるんでしょ?」みたいな決まった印象があったと思うんですけど、フリースタイルが流行ったことにより、進化した日本語ラップの技術が一気に知られて、「即興でこんなふうにラップができるんだ」っていうすごさをわかってもらえたのはよかったんじゃないかなと思います。

──木村さんは近年「ヒプノシスマイク」以外の作品でもラップをやられる機会が増えてきたように思いますが、それも最近のラップブームの影響がアニメ界にも届いたからなんでしょうか。

木村 僕がそういう機会を多くもらえるようになったのは「ヒプノシスマイク」のおかげかなと思います。僕がラップ好きって知ってくださってる方も結構いたんですけど、いかんせんイメージが悪いっていうので自粛していた部分もあって……。

服部 自粛?

木村 自粛というか、自らは言わないようにしてることが多かったんです。内緒でやっていたわけでないんですが、僕は16歳のときからクラブのイベントとかに出て、ラップをやっていて。

服部 へええ。そうだったんですね。

木村昴

木村 すごくクリーンなイベントですし、デイイベントなんですけど、自分がまだ未成年だったり、ハタチを過ぎていたとしても声優がクラブに出入りしているのはあまりイメージがよくないんじゃないかっていうので、自ら大っぴらにはしてなかったんです。だから「ヒプノシスマイク」でラップをやるチャンスをいただいてから、ほかの仕事場でも「ラップをやりませんか」とお話をいただけるようになっていった感じで。そういう意味でもきっかけを作ってくれた「ヒプノシスマイク」にはめちゃくちゃ感謝してます。

服部 どうしてもヒップホップっていうだけで悪いイメージがついて回りますよね。

木村 たぶん平成の不良のイメージなんですよね、B-BOYとかラッパーって。ヒップホップは危険なものだと思われている。確かにヒップホップのルーツを辿っていくと、アメリカのスラムやギャング、差別問題に関わってくるので、そういう側面もあるんです。ただ日本語ラップっていうのは、海外のものとはちょっと違うジャンルだなとも思っているので。日本語ラップはもっとエンタテインメント性があって、ショー的なものに近い。そういう部分が「フリースタイルダンジョン」からの流れで認識されるようになったのかなと思います。

「このマンガがすごい!comics 日ポン語ラップの美ー子ちゃん」より。

服部 確かに昔から「日本人にラップは無理」「アメリカの真似だ」って決まり文句のように言われますし、そういうイメージが定着してしまったから、未だにネットとかではそういうふうに言われることがありますよね。でも本当は全然そんなことないし、日本語ラップは日本語ラップとして進化していて。

木村 うんうん。

服部 知られていないだけで、日本語ラップの中にも多くの人に受ける要素っていうのはもともとたくさんあるんですよね。そういう部分を「ヒプノシスマイク」は楽曲の中にうまく取り入れてるなって感じたんです。日本語ラップとしてのラップの文法に沿っているというか、それこそショー的な楽曲もありますし、耳馴染みもよくて面白い。そういうところもすべてにおいてわかってる人が作ってるなと思いました。

──確かに日本語ラップは日本語ラップとしてのよさがあるんだろうなというのは、「このマンガがすごい!comics 日ポン語ラップの美ー子ちゃん」の中で紹介されている楽曲の数々を見ていても感じました。ただひたすらに吉田沙保里選手がすごいということだけをラップにした楽曲(※4)があるとか、もうなんでもありなんだなって。

服部 そうそう(笑)。各自いろんなことを勝手にやってるものであって、何かに対してのメッセージ性だけで作られているわけではないんですよね。

木村 最近、日本語ラップも一周した感じがあるなと思っていて。もともと日本にラップが入ってきた当初はいとうせいこう(※5)さんとかがアルバムを発表してヒップホップを広めていって。スチャダラパー(※6)さんが活躍され始めた頃は、みんな「ラップってカッコいい」「もっとやりたい」っていう楽しい気持ちでやり出したものだから、もっとポップだったはずなんですよ。

服部 そうですね。

木村 そこにルーツを辿って、リアリティを追求し始める流れができて、「団地育ちじゃないとダメ」(※7)みたいな雰囲気が生まれていって……(笑)。

左から木村昴、服部昇大。

服部 すごい人がどんどん出てきたおかげで、だんだん選ばれた人間しかできないものみたいな感じになっていきましたよね。

木村 そうそう。だから最初はとっつきやすかったはずなのに、だいぶ世間的にも怖いイメージになってしまって。でも最近はまた気軽にラップを楽しめるようになったと思うんですよね。CMでもラップが使われてますし。

服部 最近は多いですよね。ここ数年でラップをテーマにしたマンガもすごく増えたと思います。

木村 受け取る人によってはギャグ的に捉えられてる部分もあるのかもしれないけど、それも裏を返せばポップに思われているってことなので、そういう意味ではいい流れだなと思ってます。結局どれだけカッコよくても聴く人がいなかったら意味がないので。

服部 そうなんですよね。リアルに作っても聴く人がいなかったんですよ、今までは。

木村 なので、ちょっと言い方が悪いかもしれないですが、ファッションでいいから1回着てみてほしいんですよね。とりあえず「ヒプノシスマイク」を1回羽織ってみて?って。羽織ってみて「ヤバい」と思ったら袖通してみて、みたいな(笑)。

「このマンガがすごい!comics 日ポン語ラップの美ー子ちゃん」より。

服部 (笑)。

木村 そうやってちょっとずつ触れていってもらいたいですし、もっと気軽にヒップホップを楽しんでもらえたらいいなって思うんです。僕らがやってるのはラップミュージックって呼ばれるものですけど、ヒップホップっていうのはそもそもDJ、ブレイクダンス、グラフィティ、ラップの4大要素を擁した文化のことを呼んでいて。その中でいろんな表現方法があっていいと思うんですよね。今回のように声優が集まって、キャラクターのビジュアルがあって、ラップをやって。「ヒプノシスマイク」だってヒップホップじゃん!って。みんな知らず知らずのうちにヒップホップしてたらいいですよね。

服部 それくらい触れる機会も多いですしね。

木村 「『私、ヒップホップなんて無理ー!』って言ってる君、それもうヒップホップだよ」「えっ!? 私知らないうちにヒップホップしてたー!」みたいな(笑)。それくらい身近なものになったらいいなって思いますし、絶対みんなヒップホップに触れる機会ってあると思うんです。もしかしたらちょっとオーバーサイズのTシャツを着ている時点で、それもヒップホップかもしれない。

美ー子's チェックポイント!

4MC松島
札幌のラッパー・MC松島がリリースしたデジタルEP「She's a hero」は、女子レスリング選手・吉田沙保里をテーマとしたコンセプトアルバムで、18曲すべてが吉田沙保里選手をテーマに作られているの(後に新録2曲が追加されCD化)。表題曲「She's a hero」ではただひたすらに「吉田沙保里が強い」ということをラップしているわ。[↑戻る
5いとうせいこう
タレントや小説家、□□□のメンバーとしても知られるいとうせいこうだけど、実は日本語ラップの先駆者でもあるの。彼の活動がさまざまなラッパーに影響を与えていたと言われているわ。「フリースタイルダンジョン」では審査員も務めているわね。[↑戻る
6スチャダラパー
1988年に結成された、Bose、ANI、SHINCOによるヒップホップグループよ。1994年に小沢健二とのコラボシングルとして発表した「今夜はブギー・バック」は大ヒットを記録し、日本にヒップホップを浸透させるきっかけになったわ。多くのアーティストにカバーされ続けている色褪せない名曲ね。[↑戻る
7団地とヒップホップの関係性
ヒップホップという文化が発達したきっかけにあるアメリカの貧困問題。アメリカの公営住宅・クイーンズブリッジ団地からは数多くのヒップホップアーティストが輩出されてきたわ。そんな背景から「裕福な日本人にラップなんて」「日本のラッパーはボンボン」とかよく言われるけど、それも昔の話。ANARCHY、BAD HOP、KOHHなど、貧しかった生活を曲にしている日本のラッパーも多くいるわ。[↑戻る

負ける意味がわからない曲を作ろう(木村)

──5月にリリースされた「Buster Bros!!! VS MAD TRIGGER CREW」はiTunesの総合アルバムランキングで1位、オリコンのウィークリーランキングで2位になったり、新情報が解禁されたときにはTwitterのトレンド上位に関連ワード(※8)が上がったりと、「ヒプノシスマイク」の人気を実感する機会が増えました。

木村 (ガッツポーズで)「ヨッシャー!」ですよね。最初に「ヒプノシスマイク」のお話をいただたとき、スタッフの皆さんも「これは挑戦だ」とおっしゃっていて、僕も地道にやるものだと受け取ってたんです。やっぱりヒップホップをすぐに受け入れてもらうのは難しいかなと感じていたところもあるので、いつか人気が出たらいいなというふうに思っていたんですけど……。

──企画の始動が発表されたのは2017年の9月なので、まだ世の中に出てからは1年も経っていないんですよね。

木村 そうなんですよ。予想外って言ったら変ですけど、思ってた以上の反響があって僕もびっくりしてます。

──現在「ヒプノシスマイク」の第2章としてユーザー参加型のトーナメント企画「Battle Season」が展開されていますが、その“First Battle”として「Buster Bros!!! VS MAD TRIGGER CREW」がリリースされました。服部さんはこの中でお気に入りの楽曲はありましたか?

服部 1曲目の「WAR WAR WAR」のトラックをYuto.com(※9)さんが作っているっていうのにもびっくりしたんですけど、特に好きなのはBuster Bros!!!が3人で歌ってる「IKEBUKURO WEST GAME PARK」ですね。すごくポップだし、始まり方とかもRHYMESTERの「ライムスターイズインザハウス」(※10)っぽさがあっていいなと思って。

木村 ああ、そうなんです! まさにイメージしていたのはあんな感じなんです。

服部 あと、途中で木村さんが(ヒューマン)ビートボックス(※11)までやってるじゃないですか。「すげえな、本気じゃん!」って感動しました。

木村 ありがとうございます(笑)。

服部 この1曲にあらゆる要素が詰め込まれている、王道的なトラックだなと思いました。「ああ、こういうのあるある! わかるー!」っていう。だから、思わず聴いてて笑っちゃいましたよ(笑)。

木村昴

木村 あはははは!(笑) ありがとうございます。

──最高の褒め言葉じゃないですか?

木村 めちゃくちゃうれしいです。笑っちゃうって(笑)。うれしいなあ。

服部 ビートボックスは今までもやっていたんですか?

木村 そうですね、でも作品でやったのは初めてです。今回は出し惜しみしたくないって思ったんですよね。この曲には僕が思うヒップホップのカッコいい要素を全部入れたいなと。一緒にトラックを作ってくださってる皆さんとも、とにかくポップで、カッコよくて、とっつきやすい曲を作りたいと話していて。最初の頃に持っていたイメージは、RIP SLYMEさんの「FUNKASTIC」(※12)だったんです。

服部 なるほど。キャッチーな感じといいますか。

木村 そうそう。ライブでやっても楽しくて、みんなも声を出せるような。……なんていうんだろう、今回は投票制のバトルなので、好良瓶太郎(※13)としてリリックを書かせていただいてるときも、「ヨコハマに負けたくねえ」っていう気持ちが超強かったんですよね。もう……絶対に負けたくない、って(笑)。だからビートボックスもやるしセリフもしゃべるし、コールアンドレスポンスもやるし、超オールドスクールなビートだけでラップする部分とか、そういうのも全部入れて。負ける意味がわからない曲を作ろうっていう。これで負けるなんてありえないでしょ!っていうくらい、いろんな要素を詰め込みたいなと思って作った曲なんです。……まあ、ちょっと今僅差で負けてるんですけど!(笑)(※取材は中間発表後の5月下旬)

服部 (笑)。

木村 でも、やれることはすべてやったので、今となっては勝っても負けてもどっちでもいいかなとも思っていて。自分の中でも落としどころがあるんですよね。これだけやって負けたら時代が追いついてないんだな、みたいな(笑)。

服部 カッコいい(笑)。

木村 そうやって勝手に思えるくらい、この1曲に詰め込むことができたなと(笑)。とにかく、イケブクロが勝っても負けても「ヒプノシスマイク」っていうコンテンツがそれで盛り上がったらいいなって今は思ってます。実際にMAD TRIGGER CREWの「Yokohama Walker」もすごくカッコよかったですし。ライバルなので、最初は「なんだよヨコハマ」って思ってたんですけど。

服部 そんなに入れ込んでるんですね。

木村 超入れ込んでますよ! だから最初はすごい思ってましたよ、「ヨコハマ超嫌い!」って(笑)。

──でもやれることはすべてやったおかげで、服部さんのようなリスナーの方にはしっかり響いたわけですよね。

服部 そうですよ。「詰め込み過ぎや!」っていうくらい王道を行っていたので(笑)。すごく刺さりました。

木村 よかったです(笑)。でも「IKEBUKURO WEST GAME PARK」では本当にいろんなところにこだわったんですよ。BPMも一郎、二郎、三郎にあわせて123にしてみたり。

服部昇大

服部 あっ! そうなんですか。すごい。

木村 池袋の西口公園で兄弟たちがサイファー(※14)してるイメージなんです。リリックの中に「深夜零時」っていうワードが出てくるんですけど、僕が実際に池袋の西口公園に行って、深夜0時きっかりの雑踏を録音して、それをトラックの冒頭に入れたりもしてるんですよ。

服部 えええ……。サカナクション(※15)みたい。

木村 あはははは!(笑)

服部 音へのこだわりがサカナクション並みですね(笑)。本気なんだなって。

木村 そうですね(笑)。そこまでやってるんです。もう楽しくてしょうがないんですよね、本当に。「俺たちがヒップホップを盛り上げよう」みたいな、変な使命感を持ってしまうとそれはそれで凝り固まったものになってしまうので、自分も純粋に楽しみながらやっていて。皆さんにも「ヒプノシスマイク」をきっかけにヒップホップのことを知ってもらえたらうれしいですし、「ヒップホップって楽しいんだよ」っていうことも伝わればいいなって思ってます。

美ー子's チェックポイント!

8「ヒプマイ」関連ワードがTwitterのトレンドに
ここのところ勢いが止まらない「ヒプノシスマイク」だけど、「Battle Season」のアンセムとなる「ヒプノシスマイク -Division Battle Anthem-」の動画が公開されたときには「ヒプマイ」がTwitterのトレンド上位に登場したわ。さらに「カラオケの鉄人」とのコラボメニューが発表された際には、ケバブ、カレー、ロシアンシューといった1000円の商品が並ぶ中に8万1000円のシャンパンタワーが含まれていて、ファンも思わず突っ込まずにいられなかったの。「シャンパンタワー」「ドンペリ」がTwitterのトレンド上位に食い込んできたわ。[↑戻る
9Yuto.com
日本で活躍する音楽プロデューサーよ。これまでに般若、Kダブシャイン、サイプレス上野、KEN THE 390、DOTAMAなどなど……数多くのヒップホップアーティストと制作を行ってきている人気のトラックメーカーなの。[↑戻る
10RHYMESTER「ライムスターイズインザハウス」
1989年に結成し、1993年にインディーズデビューを果たしてから常にトップを走り続ける“キング・オブ・ステージ”RHYMESTERの楽曲は、マニアから初心者まで幅広くオススメできるわ。「ライムスターイズインザハウス」はライブで自己紹介代わりの1曲として披露されることもあるナンバーよ。[↑戻る
11ヒューマンビートボックス
人間の発声器官のみを使って音を作り出す表現方法の1つよ。日本ではヒューマンビートボクサーのAFRAが2004年に出演したFUJI XEROXのテレビCMが話題となって、お茶の間にも広く知られるようになったわ。[↑戻る
12RIP SLYME「FUNKASTIC」
2001年にメジャーデビューしたRIP SLYMEは、RYO-Z、ILMARI、PES、SU、DJ FUMIYAの4MC&1DJからなるヒップホップユニット。「FUNKASTIC」は彼らにとって4枚目のシングルで、2006年には布袋寅泰「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」と同楽曲をマッシュアップしたコラボシングル「BATTLE FUNKASTIC」がリリースされてこちらもヒットを飛ばしたわ。[↑戻る
13好良瓶太郎
山田一郎のソロ曲「俺が一郎」の作詞など「ヒプマイ」の楽曲クレジットでも名前を目にする好良瓶太郎だけど、何を隠そう、彼の正体は木村昴さんなの。ラップやビートボックスが上手いだけでなく、自らリリックも書いてしまうなんて、驚きね……。ちなみに“好良瓶太郎”の名付け親は、木村さんが公私ともに“師匠”と仰ぐ関智一さんなのよ 。[↑戻る
14サイファー
複数人が公園や広場などで輪になって即興でラップすることを意味するヒップホップ用語よ。フリースタイルの腕を磨くのはもちろん、ラッパー同士の交流の場にもなっているわ。[↑戻る
15サカナクション
日本の5人組ロックバンドで、2013年には「第64回NHK紅白歌合戦」にも出場したわ。その音作りには並々ならぬこだわりを持っていて、先日放送されたテレビ番組でもその“音の変態”ぶりに迫る特集が展開されたのよ(参照:本日放送「関ジャム」でサカナクション特集、“音の変態”たちの異常なこだわりに迫る)。[↑戻る

2018年8月8日更新