「君のことが大大大大大好きな100人の彼女」中村力斗×赤坂アカ対談 読者を“笑わせたい”2人が語るラブギャグな「100カノ」

「君のことが大大大大大好きな100人の彼女」はモテない男子・愛城恋太郎が、恋の神様から「高校で出会う運命の人は100人いる。しかし、運命の人と出会った人間はその相手と愛し合って幸せになれなければ死んでしまう」と告げられたことから始まるラブコメディ。週刊ヤングジャンプ(集英社)にて連載中で、現在TVアニメが放送されている。

TVアニメの放送が佳境を迎えるのに合わせ、コミックナタリーでは「100カノ」原作者の中村力斗と「かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~」「【推しの子】」「恋愛代行」(「【推しの子】」「恋愛代行」は原作担当)の赤坂アカの対談を実施。「100カノ」のファンだという赤坂は、「100カノ」をどう見るのか。また、ギャグの比重が高いラブコメディを描いている2人に、笑いを中心に作品を描く理由やその魅力、原作者としてのアニメとの関わり方などについて語ってもらった。

なおTVアニメ11話放送に合わせ、第9話から第11話で描かれた原作初の長編にまつわる原作執筆時の裏話を追加で公開した。同長編は中村が原作で最初の山場として用意し、赤坂も登場キャラクターの羽々里について「コロンブスの卵だ」と称賛したエピソードとなるので、その内容を確認してほしい。

取材・文 / はるのおと写真 / 小山美里

「100カノ」は既存のラブコメに対するカウンター

──おふたりがお話しするのは初めてですか?

赤坂アカ はい。コロナ禍で出版社のパーティもなかなかなくって。

中村力斗 ちょうど「100カノ」の連載が始まってから一度も行われていません。

赤坂 かわいそうに。

中村 だから、赤坂先生とこうしてお会いして話すことになってすごく緊張しています。

左から赤坂アカ、中村力斗。

左から赤坂アカ、中村力斗。

──「100カノ」の連載開始時に、ヤングジャンプでは同じラブコメの「かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~」(以下「かぐや様」)が連載中でしたが意識していました?

中村 正直に言ってしまうと、とても多くの人に認知されている作品なので雲の上の存在というイメージでした。だから僕が何か描いたところで「かぐや様」に影響が出るみたいなこともないだろうし、ライバル視するとかも全然なかったです。

赤坂 こっちはヒロインが100人になったりするような作品でもないしね(笑)。

それまでまったくモテなかった主人公の恋太郎だが、急に2人の少女から告白される。

それまでまったくモテなかった主人公の恋太郎だが、急に2人の少女から告白される。

中村 ただ、意識していたというのとは違いますが、「かぐや様」という作品は主人公の恋愛においてヒロインレースが存在せず、しかもギャグがメインの作品ですよね。そういう形のラブコメでも大ヒットできる例を作っていただいていたので、僕もヒロインレースをやらなくてもいいし、ギャグに重きを置いてもいいんだと安心しながら描いております。

赤坂 少し昔の話をすると、ヤンジャンにおいてラブコメ開拓時代というのがあったんですよ。「かぐや様」が始まった2010年代中盤ってかわいい絵のコメディは「干物妹!うまるちゃん」が目立つくらいであまり多くなかったんじゃないかな。「かぐや様」はそんな誌面に対するカウンターとなり、「ヤンジャンでラブコメやってOKなんだ」という風潮ができて、他誌で描いていた作家さんがどんどん参戦してきて。僕としてはそんなふうにラブコメが増えるのはうれしいし、開拓した甲斐があったなと思っていたんです。

中村 本当に今のヤンジャンの状況は、赤坂先生のおかげだと思います。

赤坂 でもそんな文脈と全然違うところから「100カノ」が入ってきた。「かぐや様」はヤンジャンの誌面に対するカウンターだったけど、「100カノ」は既存のラブコメをネタにしたギャグをやっていて、これまでのラブコメに対するカウンターになっているんですよね。ただ僕もそうだけど、カウンターという体ではあるけどエンタメとしてちゃんと面白く描こうというのも感じて、楽しく読ませてもらっています。

「100カノ」には多くのギャグが盛り込まれている。

「100カノ」には多くのギャグが盛り込まれている。

くっついてゴールした後が描きたい……だからたくさんゴールを作った

──赤坂先生は「100カノ」を初めて読んだときにどんな印象を持ちましたか?

赤坂 これは読者はみんな思ったでしょうけど、「君のことが大大大大大好きな100人の彼女」というタイトルの時点で「そんなバカな!」「どういうことだ?」って驚きました。恋愛は1対1が普通なのにどうするのか……と思っていたら、それをギャグで処理してくるとは(笑)。しかもその処理の仕方などに細かいテクニックが使われていて、「あ、これは実力のある方が描いているな」とわかりました。

中村 ありがとうございます。やっぱり他人と違うものを描かないと目立てないですし、そもそもラブコメはくっついたらゴールみたいなところがありますけど、読者としての僕はその後の幸せ模様が好きなんですよ。だからそれを描きたいけど、ゴールが1個だとすぐに終わっちゃう。だからゴールをいっぱい用意すればいいんじゃないかと考えたんです。

赤坂 おかしいおかしい。狂人の発想ですよ(笑)。でも、作品はすごく理詰めで作っていますよね? 読者の反応までちゃんと想像したうえでギャグを描いている印象があるし、読者にウケるネタとウケないネタのラインみたいなのも把握しているなって。

中村 僕は本当に理詰めタイプです。「これで正しいのかな?」「これくらいなら大丈夫かな?」とかうんうん悩みながら読者の許容ラインを探り、少しずつギャグの幅を増やしていっています。

赤坂 「100カノ」だと、彼女が増えるたびに「こちらの方を新しい彼女として迎えていいですか?」と今までの彼女に紹介するくだりが定番になっているじゃないですか。僕はあの流れが好きなんですよ。

TVアニメ「君のことが大大大大大好きな100人の彼女」第5話より。

TVアニメ「君のことが大大大大大好きな100人の彼女」第5話より。

中村 恋太郎が汗だくで新しい彼女を紹介するやつですね。

赤坂 わかりやすいギャグになるし、天丼的になっているし。でもあの流れって、最初の1回きりのつもりだったんですよね? たぶん。

中村 はい。新しい彼女をどう紹介していくか、最初に固めたつもりはありませんでしたけど、その後の定番になりました。

赤坂 やっぱり。連載ってそういうふうに成功体験を積み重ねて少しずつ洗練されていくんですよね。

2023年12月18日更新