コミックナタリー PowerPush - 不安の種
トラウマ必至の名作ホラーが実写化
中山昌亮原作によるホラー映画「不安の種」が、7月20日から公開される。作品を代表する怪異「オチョナンさん」の実写ビジュアルも解禁され、すでにファンの間では悲鳴にも似た期待の声が高まっている。
コミックナタリーは公開に先駆け、監督を務めた長江俊和にインタビューを敢行。長江が中山に創作の秘訣を尋ねる誌上インタビューと併せて、ご覧いただきたい。
取材・文・撮影/井上潤哉
監督・長江俊和インタビュー
なるべく原作に忠実に、マンガの画を映画に置き換えるように作った
──原作の「不安の種」は毎話、舞台も登場人物も違うショートオムニバスですが、映画はとある市に暮らす3人の男女が主軸となって物語が展開されます。原作で描かれた怪現象の数々が、彼らに集中的に振りかかるという構成によって、さまざまな短編が見事1本のストーリーに集約されていました。
原作とは違う1つのストーリーにする、という点はこだわりましたね。いちばん簡単なのは人気のある怖いエピソードをランダムに羅列して、映画もオムニバスにしちゃうことなんでしょうけど、それはやめようと。あのショート形式はマンガだから小気味よいテンポが成立するんでしょうし。
──ストーリーものとしてある種リミックスしたような形ではありますが、エピソードの数々は基本的に原作に忠実ですね。
やっぱり長年たくさんの人に愛されているマンガですから、僕なりにファンの方を裏切らないようなものにしたくて。細かいところで言うと、マンガのコマ割りと映画のカットが同じところも結構あるんですよ。なるべく原作の画の力を映画に置き換えるように作っています。
シナリオも演技も演出も、すべて観客を不安にさせるように心がけた
──一方で物語の進め方には趣向が凝らされています。3人それぞれの物語が同時進行で描かれるので、場面がよく入れ替わったり、時間軸が前後したりと、普通のホラー映画とは少し趣が異なると思いました。
そうですね、いわゆる「Jホラー」と呼ばれるような、パターン化しつつある日本のホラー映画の枠組みには嵌らないような作品にする、というのはひとつの目標でした。そこで、物語が進むにつれて彼ら3人がどういう接点を持つのか、先がまったく読めない展開を狙ったんです。展開を予測させないことで、観る人を不安にさせたいと思いました。
──観客を不安にさせたいという点がこの映画のテーマですか?
原作の読後感と同じような不安を生みたかったんです。「不安の種」って人間の不安をものすごく掻き立てる作品で、今までに体験したことのない手触りの恐怖だと感じたんですね。これはパターン化したホラー映画との差別化を図る僕らにとって、とてもいい題材でした。マンガの中に充満している不安感を映画ならではの形で表現できるように、シナリオだけじゃなく、演技も演出も、すべてお客さんを不安にさせるように心がけて。
──演技で不安にさせる、というのは具体的にどういうことでしょう。
何を思って行動してるのかわからないような、簡単には割り切れないキャラクターを演じてもらうことです。特に主演の石橋杏奈さんには、普段はクールなのに突然口汚い言葉で激昂する、二面性のある陽子を見事に演じてもらいました。感情移入して観ていた方は、不安に襲われるんじゃないかな(笑)。
人間って理解できないものに接することがいちばん怖い
──「不安の種」というマンガが、読む人に不安を与える理由はなんだと思いますか。
ふたつあると思っていて、ひとつは自分の身の回りで起きているような、日常性があること。いかにも自分が住んでるような町や部屋が舞台になっているから、リアリティを持って、不安を与えられる。もうひとつは説明がないこと。「不安の種」は普通の物語と違って、登場人物が何者かもわからないまま怪現象が起こり、あっという間に終わっていく。怪現象も、ただ何が起きたかを描いているだけなんです。
──確かにあの不気味な生き物はなんだったのか、といった説明は一切ありません。
人間って自分で理解できないものに接することが、いちばん不安で怖いんですよね。本で読んだんですけど、妖怪っていうのは、何が起きているのかわからない現象を妖怪の仕業と説明づけることで、不安を解消しようとしてきた歴史らしいんですよ。そう考えると、やはり説明がない状況というのは大きな恐怖になるんだろうなと。
──原作の中で、監督お気に入りのエピソードはなんでしょう。
一番に気に入ったのは、生け垣に体が半分埋まっている男性に出くわす、「目撃証言」ですね。
──映画の冒頭で描かれるエピソードですね。
このエピソードは絶対映像化したいと思うとともに、ここからストーリーを始められないかなと考えたんですよね。事故の被害者の過去と、目撃者の未来を軸に展開させたいなと。そこに町で起きる怪現象について、何か事情を知ってそうな陽子というヒロインを入れて、3人の主人公が織り成すようなストーリーを作っていきました。
- 映画「不安の種」2013年7月20日よりシネクイント、テアトル梅田ほかにて全国順次公開
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あらすじ
奇妙な出来事ばかりが起こる地方都市──富沼市。
バイク便ライダーの巧(浅香航大)は、バイク事故に遭った誠二(須賀健太)と遭遇。助けを求められるが、誠二の身体は半壊し医学上はすでに死亡していた。そんな2人を遠くから眺める少女・陽子(石橋杏奈)。誠二は薄れゆく意識の中、恋人である彼女と出会った半年前の記憶を遡る……。
一方、事故に遭遇後バイク便を辞めた巧は、新しいアルバイト先で陽子に出会うが……。
出演
石橋杏奈
須賀健太
浅香航大
岩井志麻子
津田寛治監督・脚本
長江俊和(「放送禁止」シリーズ、「パラノーマル・アクティビティ第2章TOKYO NIGHT」)
主題歌
ムック「狂乱狂唱 RMX for 不安の種」(ソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズ)
(C)中山昌亮(秋田書店)2004/「不安の種」製作委員会2013
長江俊和(ながえとしかず)
1966年2月11日大阪府生まれ。1997年、TVシリーズ「奇跡体験!アンビリバボー」の立ち上げからディレクターとして参加。以降「学校の怪談 春の呪いスペシャル」や、「世にも奇妙な物語 春の特別編」など、怪談・心霊ドラマを数多く手掛けた。2003年からスタートした「放送禁止」シリーズは深夜帯の放送でわずか6編が作られただけだが、ドキュメンタリー番組のスタイルを踏襲してフィクションを撮る手法が論議を呼び、翌日のクレーム数ナンバーワンになると同時に熱烈な支持を獲得、後に劇場版2編も製作された。映画では「放送禁止 劇場版 ~密着68日 復讐執行人」「放送禁止 劇場版 ニッポンの大家族 Saiko! The Large family」のほか、「パラノーマル・アクティビティ第2章/TOKYO NIGHT」「エンマ」といった作品で監督を務め、型に捉われない映像表現と、リアリティと深みのあるドラマ演出で高い評価を得ている。
中山昌亮(なかやままさあき)
1966年12月16日北海道旭川市生まれ。1988年に月刊アフタヌーン(講談社)の新人賞・四季賞冬のコンテストにて「離脱」が準入選。また第20回ちばてつや賞一般部門では「SHUTTERED ROOM」で準入選を果たす。1990年、モーニング(講談社)の増刊号にて「いい人なんだけど……」でデビュー。2006年にはビッグコミックオリジナル(小学館)で連載していた「PS-羅生門-」がTVドラマ化された。このほか代表作に「オフィス北極星」「不安の種」「不安の種+」など。2010年からNEMESIS(講談社)にて「後遺症ラジオ」を連載中。