「火狩りの王」久野美咲×石毛翔弥インタビュー|物語の主軸を担う2人が押井守脚本の“行間”に奮戦 (2/2)

この世界に存在するので必死だった

──「心情的にはやりやすかったものの、技術的には難しかった」というお話ですけども、その両極がうまく噛み合った瞬間などはありましたか?

石毛 お芝居としては噛み合っていたんじゃないかなと思いますね。常に煌四とともに葛藤しながら演じて生きることに必死だったので……。全話を録り終えた後に監督からも「常に葛藤しながら臨む姿勢がお芝居にそのまま反映されていて、最終的にいいテイクが録れたと思う」と言っていただけたので、悩みながら葛藤して演じるというのも悪いことばかりではないんだな、と学びました。

──言うなれば、“演じていた”というよりも“ただそこに生きていた”感覚に近い?

石毛 そうかもしれませんね。アニメ作品としてのできあがりを見据えて演じるのではなく、久野さんをはじめ、周りの皆さんのことを信じてついていった、食らいついていったような感覚です。収録もほぼほぼ全部、久野さんと一緒に録らせていただいて。

久野 収録は毎回一緒でしたよね。第2シーズンは灯子と煌四が一緒に行動することが多かったので。それこそ2人でね、ずっと作品と向き合ってましたよね。

石毛 収録前や終わった後もいろいろお話をしたり。今回の取材前にも久野さんとちょっと話してたんですけど、第1シーズンも第2シーズンもこの世界に存在するので必死だったから、「このシーンはうまくできた/できなかった」とかではないのかもしれません。

左から久野美咲、石毛翔弥。

左から久野美咲、石毛翔弥。

久野 そうですね。それに、たとえ自分がうまくできたと思ったとしても、それが作品にとっての正解とは限らないですし……「OKです」と言ってもらえたら、それがゴールというか……。

石毛 そうですね。

久野 そのOKを出す判断を妥協するスタッフさんではないということがわかっていたので、安心感がありました。だから灯子として生きるのに必死ではあったけど、つらいだけじゃなくて、すごく楽しくもありましたね。

石毛 それは間違いないですね。細部まで丁寧にこだわって録っていただけたので、OKが出たらそれは本当にOKなんだろうと心底思えたというか。

久野 特に第2シーズンは最初からそうでしたね。第1シーズンのアフレコを経ていたことで、その信頼関係や安心感ができあがったうえで臨むことができたので。そういう環境でお芝居ができたのはすごくありがたかったです。

左から久野美咲、石毛翔弥。

左から久野美咲、石毛翔弥。

ヒーローになりすぎず、ならなさすぎず

──第2シーズンで再び灯子や煌四を演じた中で、第1シーズンからの変化や成長を感じた部分はありましたか?

石毛 第1シーズンは物語的に起承転結で言うところの起と承くらいの感じなので、どちらかというとしっとりめの作りだったと思うんです。劇的で派手なシーンもなくはないけど、基本的には会話もそんなに激しくはなかった。それが第2シーズンでは、もう1話目からけっこう激しいというか。

久野 そう、激しいんですよ! 激動ですよね。毎話数、大きなことが起こるし、息をつく間もないような展開が待ち受けています。

石毛 第2シーズンはすべて、休むところがない(笑)。だから煌四としては「どこか強さを持って演じなければいけない」というのがあったので、それが一番の大きな違いだったのかなと思いますね。

久野 煌四は行動を起こす側ですもんね。

石毛 そうなんです。どちらかというと第1シーズンでの煌四は悩みながら右往左往していた感じだったんですが、そのつながりで演じてしまうと、弱々しいまま終わってしまうので。でも、「煌四はヒーローすぎてはいけない」ということを第1シーズンからずっと言われていて。

「火狩りの王」第2シーズンより、煌四。

「火狩りの王」第2シーズンより、煌四。

──確かに、煌四がヒーロー然としすぎるのはウソっぽくなりそうですよね。悪い意味でアニメっぽくなってしまうというか。

石毛 そうなんです。能動的に行きすぎてもダメで、そのバランスが難しかったですね。テストでは悩みながらも少し強めの、ヒーロー然としたお芝居に寄せてみたんですけど、そしたら若林さんがブースに来てくださって「ヒーローしすぎだ」と。

久野 そんなやり取りありましたよね。

石毛 「そうじゃないぞ」と(笑)。そこで少し長いお話をさせていただいて。「ヒーローって、なんですかね?」とか。強く出すぎてもダメだし、かといって成長はしていかなきゃいけないので、内に秘めすぎてもよくない。「ヒーローになりすぎず、ならなさすぎず」という塩梅がなかなか掴めずにいたんですが、若林さんとのディスカッションを踏まえて方向性を探っていきました。それがすごく印象に残っていますね。

久野 灯子も、第2シーズンからは少し能動的になるんですよ。第1シーズンのときの灯子は自分に自信もないし、目まぐるしく変わっていく周りの環境についていくので精一杯で。誰かに「灯子、こっちだよ」って言ってもらわないと、自分の進むべき方向も判断できなかったんです。だけど、第2シーズンでは自ら「こっちへ行くんだ」って走り出すくらいの行動力と、もともと内に秘めていた意志の強さが表に出てきます。そこは灯子の成長をすごく感じた部分ですね。

「火狩りの王」第2シーズンより、灯子。

「火狩りの王」第2シーズンより、灯子。

──実際、第1シーズンの終盤で灯子が鎌を取って戦う意志を一瞬見せるシーンがありましたよね。あれを観て「ひょっとして灯子は変わり始めているのかな?」と感じたんですけど、その矢先に第1シーズンが終わってしまって。

久野 そうですよね(笑)。第2シーズンではその先がしっかり描かれていきますので。

ものすごいエネルギーの交換ができた

──おふたり以外の共演者についてのお話も伺いたいんですが、何か印象に残っているエピソードなどはありますか?

石毛 第2シーズンは前回よりも少し多めの人数で収録できたので、みんなで掛け合いのお芝居ができたのはうれしかったですね。

久野 クン役の國立幸さんが一緒のことが多かったですよね。

石毛 そうですね。僕と久野さんはけっこうブースでもしっとりしてるんですけど……。

久野 しっとり(笑)。

石毛 自分たちから盛り上げるタイプではないという意味で(笑)。そこを國立さんが、会話を回してくださったりとか。

久野 灯子を演じていると、物静かになってしまうこともあって。そんなときに、國立さんがムードメーカーになってくださって。「今の芝居、よかったよー!」って。

石毛 「君らの芝居、好きだぜー!」みたいな(笑)。

「火狩りの王」第2シーズンより、クン。

「火狩りの王」第2シーズンより、クン。

久野 あとは……ひばり役の石田彰さんと掛け合いのシーンはほぼ毎回ご一緒できたんですけど、すごく貴重な経験ができたなと思っていますね。

石毛 そうですね!

久野 現場で石田さんと「この役ってこうですよね」というような会話は一切していないんです。ですが、お芝居の中でものすごいエネルギーの交換ができた感覚が私はあって……石田さんのお芝居から伝わってくるものがものすごくあり、私の中でも感情の波がぶわーっと広がった瞬間が何回もあって、それは本当にありがたい経験だったと思います。

石毛 僕も、あるときブースで石田さんと2人だけになったタイミングがあったんですよ。緊張しすぎてひと言もしゃべれなかったんですけど……。そのときに録ったシーンで、リテイクがかかりまして。それは僕だけのリテイクだったので、本来であれば石田さんは入る必要はないんですけど、煌四とひばりが掛け合うシーンだからということで当たり前のようにサッと入ってくださって。お芝居をしやすいようにと気遣ってくださったんだと思うんですけど、そんなふうに現場の空気感を作ってくださる方ですね。

久野 石田さんのお芝居を聴いていると、たったひと言のセリフであっても、その言葉の意味がすべてじゃないと感じられるんです。考えてみれば、私たちが日常生活で交わす言葉もそうじゃないですか。そのひと言が本当に心情と結びついているものかどうかはわからないですよね。

「火狩りの王」第2シーズンより、ひばり。

「火狩りの王」第2シーズンより、ひばり。

──おっしゃる通りですね。全部を説明しちゃうと逆に伝わりづらくなるパターンとかもありますし。

久野 そういう、本来当たり前であるはずのことを改めて「そうだよなあ」って感じたんです。作品という作られた世界の中のものであるにもかかわらず、石田さんのお芝居にはそういうリアルさがものすごくあって、とても勉強になりました。第2シーズンでは灯子も煌四も、石田さんのひばりのお芝居にかなり引っ張っていただきましたね。

──素晴らしいお話をありがとうございます。では最後に、第2シーズンを楽しみにしている視聴者へ向けて、期待してもらいたいポイントをまとめていただければと……まあ、ここまでのお話にだいぶ含まれちゃってはいますが(笑)。

石毛 確かに(笑)。

久野 ね、たくさんお話しましたね(笑)。

石毛 アフレコの話にも通じちゃうんですけど、本当に「芝居優先でいい」という現場だったんですよね。「感情さえちゃんと作れていればOK」という方針を貫いていただいたおかげで、よりしっかりと集中することができたと思います。

久野 それは本当にそうでしたね。

石毛 そのうえで、第2シーズンではひたすら会話劇を繰り広げているので。キャラクター同士の心理戦であったり個人の葛藤であったり、そういったものを楽しみに最後まで観ていただけたらうれしいです!

久野 展開も目まぐるしくて、演じる私たちもついていくので精一杯だったぐらいなので。きっと観てくださる皆さんの心を揺さぶる作品になっていると思います。翔弥さんもおっしゃっていたように、キャスト陣みんなで丁寧に真心を込めてお芝居をさせていただきました。そしてスタッフの皆さんが絵や音響、演出で各キャラクターの心情の移り変わりを繊細に表現してくださっているので、そこにも注目しつつ楽しんでいただけたらうれしいです。どうぞよろしくお願いいたします!

久野美咲

久野美咲

石毛翔弥

石毛翔弥

プロフィール

久野美咲(クノミサキ)

1月19日生まれ、東京都出身。大沢事務所所属。主なアニメの出演作に「ひそねとまそたん」(甘粕ひそね役)、「世界征服~謀略のズヴィズダー~」(星宮ケイト役)、「ハッピーシュガーライフ」(神戸しお役)、「3月のライオン」(川本モモ役)、「七つの大罪」(ホーク役)、「リコリス・リコイル」(クルミ役)、「アリスとテレスのまぼろし工場」(五実役)などがある。

石毛翔弥(イシゲショウヤ)

8月20日生まれ、埼玉県出身。インテンション所属。主なアニメの出演作に「あやかしトライアングル」(二ノ曲宗牙役)、「七つの魔剣が支配する」(グウィン=シャーウッド役)、「その着せ替え人形は恋をする」(五条新菜役)、「ゴジラ S.P <シンギュラポイント>」(有川ユン役)、「遊☆戯☆王VRAINS」(藤木遊作 / Playmaker役)などがある。