コミックナタリー PowerPush - 山本英夫「HIKARI-MAN」
「ホムンクルス」から4年、ついに放たれる新連載 自身初の“ヒーローもの”に込めた思いとは
マンガ界に、2014年最後となるかもしれないビッグニュースが舞い込んできた。「殺し屋1」「ホムンクルス」の山本英夫が、12月8日発売の週刊ビッグコミックスピリッツ2015年2・3合併号(小学館)にて新連載「HIKARI-MAN」を始動させるという。予告によれば、ゲームとパソコンが好きな男子高校生の体に起きた、不思議な現象が描かれるとのこと。そのタイトルやビジュアルと併せて、スタート前から読者の想像力をかき立ててやまない。
連載開始を記念しコミックナタリーでは、山本へインタビューを敢行。新作「HIKARI-MAN」が生まれた経緯や、約4年ぶりとなる新連載への思いを語ってもらった。
取材・文・撮影/安井遼太郎
ほんの少し生きている感じがする
──本日はお忙しいところありがとうございます。「ホムンクルス」の完結以来約4年ぶりの新連載に対する思いは、率直に言っていかがでしょうか。
そうですね……やっぱり自分がマンガを描いていると、それが載っている雑誌が書店やコンビニで売られたり、単行本が並んでいるのを見たりするのが、楽しいというか、ほんの少し生きている感じがするんです。そういうのは、久々の楽しみではありますね。
──自分が生きている証を、世の中に示している感じですか。
いや、そこまでのパワーがあるかはわからないんですが(笑)。まあそこまででなくても、雑誌に載っているということは、弾を発射している状態ではあるので。だからそこまで売れていなかったとしても、誌面に掲載されているだけで安心できるっていうのは、マンガ家さんなら誰でもあるんじゃないかと思います。
──逆に載ってないときには、不安な気持ちがあったり?
載っていない期間も、いつか発信しようと担当さんと準備をしているので、不安は感じなかったんですが……。野球やサッカーで、ベンチを温めている人に近いかもしれない。もどかしさみたいな気持ちがありました。
毛穴からニュルッと、暗いものが
──「ホムンクルス」終了から、「HIKARI-MAN」が生まれるに至った経緯を教えていただけますか。
実は「ホムンクルス」が終わった後は当分、原作業に専念してお話作りを楽しみたいという気持ちがあって……。まだマンガとしては形になっていないですが、いろいろシナリオを書いたりしていたんです。そうこうしている間に4年ぐらい経って、貯金も減っていくし、さっき言ったもどかしさもあったので、そろそろマンガ家としてオリジナルの作品をしっかり描こうかと。
──構想はいつ頃から練られていたものなんでしょう。
温めているネタの中のひとつとして、6年ぐらい前から原型はありましたね。
──そうなんですね。新連載を始める際、そのネタの中から「HIKARI-MAN」が選ばれた理由というのは。
「ホムンクルス」のときはちょっと批判的な、変わった色合いが強かったので、同じようなネタを並べないようにとは思っていました。同じようなダークなネタもストックとしてはあったんですけど今回は、より違ったものを目指したというか。
──やはりこれまでの作品とは一線を画して、違ったものを出そうとしている?
ええ、意識的にそうしようとしてます。今までの作品に比べて明るいというか、ダークではないものにしようと。描いてるうちに暗い要素が出てきてしまう感じはやっぱりありますが……こう、毛穴からニュルッとね。
──確かに山本先生といえば、「殺し屋1」「ホムンクルス」で見られた強烈な表現を期待されるファンも多いでしょうね。かく言う私も、先生の描かれる男性器が大好きで。
ははは(笑)。「殺し屋1」のとき、若い女性のアシスタントに屹立したものを描いてもらおうとしたら「先生、私わかんない……」って言われたことがあります。
──えっ、その後どうされたんですか。
「とりあえずダメ元でやってみてよ」って言ったら、血管が浮きまくった、まるで竿に血管が刺さっているような一物が上がってきました(笑)。その子が自分の中の巡り会いたいものを、想像で描いたんでしょうね……。たぶん、ご覧になったのはそれだと思いますよ。
好きなものの垂れ流しは卒業
──いい話を伺えました(笑)。「のぞき屋」の頃から、そういった表現に対する志向は明確にあったんですか?
うーん、どうでしょう。「のぞき屋」や「殺し屋1」を描いたときはまだ20代だったんですが、もう本能に任せて描いてたと思うんです。そういう表現が単純に好きだったんでしょうね。今だって、好きなものを好きに描いていいと言われたらグチャッとしたものになっちゃうと思います。なんでああなるんだろうなあ……。
──(笑)。読者にこんな印象を与えてやろう、という意図は……。
ないですね。ほとんど寝言に近いんじゃないですか。
──ご本人でも理解しかねる部分があると。
うん。なぜああなってしまうのか、わからないですねえ。「HIKARI-MAN」を描いても、結局そういう部分がどんどん出てきちゃう。でもそれも自分の中から出てきた大切なスパイスやエキスですから、たぶんストップはかけないほうがいいと思うんですよ。だからそこを柔らかく見せるというか、本質だけ出して表現を抑えるというか。そういう風にできたらいいなと。
──内に秘めたものを醸し出しつつ、表現として控えめに。
ええ。それはメインのテーマではないけれど、大切にしたいところではあります。垂れ流しは卒業、ということで(笑)。
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掲載ラインナップ
- 山本英夫「HIKARI-MAN」
- 花沢健吾「アイアムアヒーロー」
- 玉井雪雄「ケダマメ」
- ゆうきまさみ「白暮のクロニクル」
- 阿部潤「忘却のサチコ」
- 河合克敏「とめはねっ!鈴里高校書道部」
- 高橋のぼる「土竜の唄」
- 真鍋昌平「闇金ウシジマくん」
- 長月キュー「東伍郎とまろすけ」
- 浅野いにお「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」
- さだやす(ストーリー協力:深見真)「王様達のヴァイキング」
- 曽田正人(原案:瑞木奏加)「テンプリズム」
- 吉田戦車「おかゆネコ」
- 小田扉「団地ともお」
- せきやてつじ「火線上のハテルマ」
- 丹羽庭「トクサツガガガ」
- 高尾じんぐ「くーねるまるた」
- こざき亜衣「あさひなぐ」
- 手原和憲「夕空のクライフイズム」
- 柳広司/渡辺雄介/霜月かよ子「ジョーカー・ゲーム」
- 水口尚樹「小光先生の次回作にご期待ください。」
- はまむらとしきり/村正みかど「エロゲの太陽」
- ホイチョイ・プロダクションズ「気まぐれコンセプト」
- 中崎タツヤ「じみへん」
- 原克玄「るみちゃんの事象」
山本英夫(ヤマモトヒデオ)
1968年生まれ。1989年、週刊ヤングサンデー(小学館)掲載の「SHEEP」でデビュー。以後「おカマ白書」「のぞき屋」「殺し屋1」「ホムンクルス」と、常に先鋭的な題材をテーマに、メガヒット作を連発。2014年12月発売の週刊ビッグコミックスピリッツ2・3合併号(小学館)より、4年ぶりとなる待望の巨弾新連載「HIKARI-MAN」をスタートさせる。