コミックナタリー Power Push - 創刊5周年記念 月刊ヒーローズ
"3カ月連続企画 第3回 白井勝也×高橋留美子 対談
“読者”だった高橋留美子が語るあの頃のマンガ、描き続けたいもの
サンデーとマガジン、ライバル誌同士の“抗争”
──マガジンの内田編集長は劇画家を大切に起用していましたよね。それをライバル誌が引き抜いてしまった。
白井 敵の戦力を削ぐってことは、一番大きいことでしょう。あっちですごいものを描かれるよりは、こっちで描いてもらって相手にダメージを与える。こっちが当たればもっとプラスで、倍以上の差が開く。これがうまくいくと快感になってくるんだよね(笑)。
高橋 「男組」ではないけれど、まさに“抗争”ですね。
白井 今でこそサンデーとマガジンは50周年記念の企画を一緒にやったりしてフレンドリーな関係になってるけど、その頃はもう敵対関係どころじゃなかったから。当時の編集長は「マガジン」と聞いただけで顔色が変わった。同じ喫茶店に講談社の人が来ていたと知ったら「空気を入れ替えてくれ」と言う(笑)。それくらい激しくてね。そして“打倒マガジン”を旗印にして逆転の下地ができてきたときに、高橋先生がいらっしゃったんです。
高橋 当時小山ゆう先生の「がんばれ元気」が連載されていて、「男組」は終わっておりました。「男大空」はまだ始まっていなくて、大島やすいち先生の「おやこ刑事」(原作:林律雄)や、楳図先生の「まことちゃん」が連載中でしたね。
白井 編集長は高橋先生のことを「すごいのが来た、天才だ」って言っていてね。彗星のごとくデビューしました。大学の漫研出身で、初の連載が即ヒットっていうのは極めて稀な例です。僕は「うる星やつら」と「らんま1/2」の新装版を、毎日寝る前に読み返してるんですよ。よくできていますよね、今でもホントに面白い。
高橋 ありがとうございます(笑)。
白井 高橋先生のあと、「陽あたり良好!」などの少女マンガと、少年ビッグコミックで「みゆき」を描いていたあだち充先生が「タッチ」を始めたことが、200万部を発行するサンデー黄金時代をもたらしたんです。「うる星やつら」「タッチ」が2大看板になって、ラブコメはマガジンやジャンプには真似できない。サンデー独自の路線が引けて、読者にも好意的に迎えられました。ほかにも細野不二彦先生の「GU-GUガンモ」があり……。
高橋 村上もとか先生の硬派な「六三四の剣」があり……。
白井 今考えてもすごいラインナップですよね。
プロになってわかる作家たちのすごさ
──高橋さんはデビューが決まって、自分が読んできた作家と同じ雑誌に入って執筆するのはどんな気持ちでしたか。
高橋 やっぱりうれしかったですね。もちろん、怖さもありましたけど。描き始めると、自分が今まで読んでいた雑誌ではなくなるんです。読者だと人のマンガに好きなことを言えるじゃないですか。載り始めたら一切それがなくなって、尊敬しかなくなる。なぜこの作家たちが載っているのかがわかるんです。そういう、プロとアマのラインが身に迫ってくる。
──プロのマンガ家が限られた時間の中でどれだけのクオリティを出しているか、身をもってわかると。
高橋 そうですね。自分の中で納得できるクオリティということもありますし、「保てるのか」という点が重要です。
──“保てる”とは。
高橋 面白さを、ですね。作品の面白さは、描いてみて反応をもらえないとわからない。「わからなくても、これを描かなくちゃ続けられないんだな」っていう怖さがありました。そういう“保つ”恐怖は感じたんですけど、でもやっぱりサンデーに載るうれしさが先に来ましたね。
白井 「うる星やつら」は1話完結型でしたが、ネタに詰まったらどうしていたんですか?
高橋 最初は5話の短期集中連載として始まったんですけど、4話目でもう弾切れを起こしまして(笑)。それまでの4話は劇画村塾で描きためていた原作みたいなものがあったので、5話目からがホントに0からのスタートだったんです。
──高橋さんが新人の頃に受けたアドバイスで覚えているものはありますか。
高橋 初代担当の三宅さんはコマを削ることを教えてくれました。ネームを持っていくと「このコマいらないね、無駄だね」って、加えることなく落としていってくれる。それがなぜなのか考えると、確かに削ったほうがわかりやすいと気付く。「あ、本当にいらない。ダラダラ描くと無駄が多くなるんだ」とわかりました。
白井 いらない枝を切って、幹を伸ばしていく感じかな。
高橋 その見極めは、新人だと人の目を通さないとわからない。打ち合わせをすることは重要ですし、ためになるとわかりましたね。
待ちきれずに台風の中買いに行きました(高橋)
──高橋さんが雑誌の創刊から関わるのは、白井さんが創刊編集長を務めたビッグコミックスピリッツが初めてでした。創刊時のことを思い出してみて、いかがですか?
高橋 スリルがありましたよ。創刊されることを周囲に言ってはいけないので、もちろん秘密にしていたんですけど。私、秘密を持つって初めてだったんです。「バラしたら殺されるのでは」と本気で思っていました(笑)。
──(笑)。
高橋 創刊時、それぞれの作家によるキャラクターが椅子に座っているポスターを作ったんですね。記念写真を撮ってるみたいで、「これから始まるんだ」っていうワクワク感がありました。時代もバブルの前で熱かったので、“これから感”がすごかったんです。創刊されたらポスターに並んでいたキャラクターのマンガが読めて……楽しかったですねえ。
白井 創刊の日はキオスクに行ってね。買ってくれる人を見かけたら、うれしくて後ろから拝んだりしてました(笑)。
高橋 創刊日の前日が確か台風でした。家の隣の雑貨屋さんには1日早く雑誌が入荷されていたんですけど、台風の中、待ちきれなくて創刊号を買いに行きました(笑)。
白井 創刊号の後記に、「アンケート至上主義を排して本を作っていくんだ」と書いているんですよ。意気盛んでしたね。それで僕、1986年に週刊化したあと、すごいことを考えてさ。スピリッツを週2回刊にしようと思ったんだよ。
高橋 ええっ! 先ほど、週刊連載は過酷だとおっしゃっていましたよね!?(笑)
白井 月曜発売と金曜発売で、誰もやったことのないことやろうよって。いやー、みんなからすごい顰蹙を買いました。「絶対無理です!」「いつ校了するんですか!」って。週刊化が成功していい気になってたんだ、少しね(笑)。
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- 月刊ヒーローズ創刊5周年特集 Index
- 第1回 糸井重里×白井勝也
- 第2回 樹林伸×白井勝也
- 第3回 高橋留美子×白井勝也
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高橋留美子(タカハシルミコ)
1957年10月10日新潟県生まれ。日本女子大学卒業。大学在学中の1978年に「勝手なやつら」で第2回小学館新人コミック大賞少年部門佳作を受賞し、同作が週刊少年サンデー(小学館)に掲載されデビューとなった。同年、同誌にて連載を開始した「うる星やつら」で、1981年に第26回小学館漫画賞、1987年には第18回星雲賞コミック部門を受賞。同作はテレビアニメ化もされ大ヒット、ヒロイン「ラムちゃん」は時代を超えて愛され続ける人気キャラクターとなった。また、劇場版となる「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」は押井守監督の出世作としても高い知名度を誇る。以降も「めぞん一刻」「らんま1/2」など歴史に残る人気作を数多く生み出し、代表作の殆どが映像化され、いずれも不動のヒットを記録している。2002年、「犬夜叉」にて第47回小学館漫画賞少年部門を受賞した。2009年より最新作「境界のRINNE」を執筆中。
白井勝也(シライカツヤ)
1942年生まれ。小学館最高顧問。1968年に小学館に入社し、少年サンデー編集部に配属され、「男組」(雁屋哲・池上遼一)、「まことちゃん」(楳図かずお)などを担当する。ビッグコミック副編集長を経て、1980年にはビッグコミックスピリッツの創刊編集長に就任。「めぞん一刻」(高橋留美子)、「美味しんぼ」(雁屋哲・花咲アキラ)などのヒット作を手がけ、創刊5年足らずで100万部雑誌に押し上げた。2016年、株式会社ヒーローズ代表取締役社長に就任。