コミックナタリー Power Push - 創刊5周年記念 月刊ヒーローズ

3カ月連続企画 第1回 白井勝也×糸井重里 対談

日刊、週刊で仕事をすること

「亜流」から「本流」をつくる

──おふたりとも雑誌やWeb、会社という媒体や組織を動かす仕事をされていますが、お互いの活躍について感じるところはどういったものでしょう。

糸井 僕から見たら、白井さんはメジャーをがっちり掴んでる人。メジャーな場って、大きさ故にものすごいピュアなものからドブ川みたいなものまで、全部飲み込んでるじゃないですか。ある種、我が身を捨ててないと取り組めないですよね。白井さんは若いときに文学青年だったと思うんですが、「そんなのいいよ!」って、バーンと束にまとめて縄で縛る側にまわった。

──商業的な場で、多種多様な表現を束ねて売り出す側に身を置いた。

左から糸井重里、白井勝也。

糸井 縛る側にまわったのは、運命でしょうね。僕らがやってるのは逆に、100万人のところから出ちゃいけないようなことをずっとしてきてるんです。コマーシャルの仕事でも、理論的には3億人に届くようにコマーシャルを打っていても、結果として100万人に届けばいいんです。意外に小ぶりなところでの仕事なんですよね。だから趣味性があるというか。そういう立場から白井さんを見てるとやっぱりすごいな、豪腕だなって。僕なんかひ弱だなって思います。

白井 よく言う(笑)。

──メジャーでありマスな市場で仕事をするには、自分の趣味性は置いて、スタッフワークで多くの人数を動かし、清濁併せ呑む豪快さが必要になる、と。

糸井 清濁っていうと、濁が目立っちゃうんですよね。

白井 清って消えるよね、濁の前ではね。

糸井 白井さんには清もあるんですよね。本当に。

白井勝也

白井 取ってつけたように(笑)。でも今言われたように、僕は本当に小説だけ読んでたんだ。会社に入るまでマンガをやるとはまるで思ってなかったし。大学の構内では「右手に(朝日)ジャーナル、左手に(少年)マガジン」って時代だったけど、僕はリアルタイムではマンガって読んだことなかった。だから大変だったの、社内の会議で。ほかの編集部員が何言ってるのかさっぱりわからない。それこそ、社会をうねらせるような大ヒットになった「巨人の星」ですら、言われてもピンとこない(笑)。だから資料室行ってさ、ひたすら読んだよ。

糸井 スピリッツ創刊のときは、白井さんがやったことをちょっと横目で見させてもらっていたんですけど。今までのビッグコミックがうまくいってる状態でスピリッツ創刊って、そんなに簡単にできるようなことじゃないと思うんです。

──ビッグコミック、ビッグコミックオリジナルと成功してきたから、絶対に失敗できない。

糸井 後の「本流」を作るようなタイプの「亜流」でしょう。

白井 ああ、なるほど。

糸井 スピリッツはやがて本流になりますよね。亜流を本流に引き上げることができるっていうのを、横目で見てて「すごいなー!」って思いました。だからあれは本当にマンガにどっぷりの人にはできなかった気がします。

──創刊執筆陣も、多くは小学館の別の雑誌で描いている作家が来ることになるので取り合いになったりしますよね。

白井 宮谷一彦さんっていう、なかなか描かない、原稿落とす作家を入れたりね。

糸井 ははは(笑)。

白井 だからマゾなんだよね、きっと。そういう目に遭ってみたいっていう(笑)。締め切りに原稿を提出できない人にいじめられてでも取りたいみたいな。名古屋の駅の新幹線のホームで待ち合わせして取ったりしてたね。

糸井重里

糸井 そういえば、スピリッツって創刊時は隔週発行でしたか?

白井 月刊で8冊やって、これはダメだと思ってそれから月2回刊にした。月刊では単行本にするサイクルも考えると、回転がダメだと思ってさ。

──しばらく経って1985年から週刊になりました。

白井 青年誌の周辺が騒がしくなった頃だからね。こっちにヤングジャンプ(集英社)の角南攻さんがいれば、あっちのモーニング(講談社)には栗原良幸さん(ともに編集長)がいる。

──ライバル誌との競争が激化しているときに週刊化してリードしようとした。激烈な市場、レッドオーシャンを自ら作っていくような状況だったのですね。

ヒーロー像と、マンガへの期待

──白井さんは今、ヒーローズの雑誌と会社を率いています。そこに関連して糸井さんにお聞きしたいのですが、糸井さんご自身の“ヒーロー像”はどんなものですか。

月刊ヒーローズ11月号。10月1日に全国のセブン‐イレブンにて発売される。

糸井 ヒーローって観念だと思うんです。だから本当に逃げ水みたいなもので、絶えず「ヒーローっていう概念があるんだ!」って思わせてくれる瞬間があって、その「現象」が僕にとってヒーローですね。だから無数にいるし、同時に「これが本当のヒーローです」って言われると「そうなのかな」って思います。ひねくれたところにヒーロー像はありますね。

白井 なるほど。

糸井 「君もヒーローだ」って言い方をすることがあるじゃないですか。雑ですけど、合ってると思うんです。特に今の時代はそうなってるんじゃないでしょうか。諦めちゃってる人よりも、「君もヒーローだ」って言われて喜ぶ人のほうが、付き合いたいですよね。

──糸井さんがこれからのマンガに期待したいものは何でしょうか。

糸井 マンガはすごいんです、とにかく。同じことを文字で読んでくれない人が、マンガだったら読む。内容をまったく変えなくても読む。こんなすごいものはないと思うんです。お寺では「悪いことをすると地獄に行くよ」っていうのを絵で描いた冊子がありますよね。

白井 教育マンガの一種として、お寺で売っていることがありますね。

左から白井勝也、糸井重里。

糸井 ああいうの、ずっとやってるんですよね。インドに行けばインドにもある。「お釈迦様はこうやって生きてきました」っていうのを、石を刻んでまでやっている。あれはもうマンガですよね。あの形にすればみんながわかるっていうことを作る側が信じてる。で、見る側も「あの形にしてもらってよかった、よくわかったよ」って言う。つまり、この形式そのものが、ものすごい武器なんですね。これはまだまだ鍛えられていくし、磨かれていくし、広がっていく。マンガのすごみはまだ本当にはわかられていない、と思います。

白井 マンガという武器が磨かれていく。そんなふうにできた作品を、読み続けたいね。「ほぼ日」でも、新しいマンガを連載していただけるとうれしいな。あ、ペースは「日刊」じゃなくても大丈夫ですよ(笑)。

月刊ヒーローズ創刊5周年特集 Index
第1回 糸井重里×白井勝也
第2回 樹林伸×白井勝也
第3回 高橋留美子×白井勝也
「月刊ヒーローズ11月号」/ 2016年10月1日発売 / 200円 / 小学館クリエイティブ
「月刊ヒーローズ11月号」
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糸井重里(イトイシゲサト)

1948年群馬県生まれ。「ほぼ日刊イトイ新聞」主宰。1971年にコピーライターとしてデビュー。「不思議、大好き。」「おいしい生活。」などの広告で知られ、作詞やエッセイ執筆、ゲーム制作など、幅広いジャンルでも活躍している。1998年にほぼ毎日更新のウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を立ち上げてからは、同サイトでの活動に注力をしている。2016年6月には、犬や猫と人が親しくなるアプリ「ドコノコ」をリリースした。

白井勝也(シライカツヤ)

1942年生まれ。小学館最高顧問。1968年に小学館に入社し、少年サンデー編集部に配属され、「男組」(雁屋哲・池上遼一)、「まことちゃん」(楳図かずお)などを担当する。ビッグコミック副編集長を経て、1980年にはビッグコミックスピリッツの創刊編集長に就任。「めぞん一刻」(高橋留美子)、「美味しんぼ」(雁屋哲・花咲アキラ)などのヒット作を手がけ、創刊5年足らずで100万部雑誌に押し上げた。2016年、株式会社ヒーローズ代表取締役社長に就任。


2016年12月1日更新