コミックナタリー Power Push - 創刊5周年記念 月刊ヒーローズ
3カ月連続企画 第1回 白井勝也×糸井重里 対談
日刊、週刊で仕事をすること
自分の中に言葉を宿すには
──白井さんにとって“週刊誌で仕事をする”というのは、どういうことなのでしょうか。
白井 何よりも生活のリズム、メリハリがハッキリしていることかな。週刊誌でいいのは、「ここでおしまい」っていう点があること。要するにそこから先は「(原稿が)落ちる」から、その点は延びないわけだよ、一切。月刊誌や月2回刊誌はけっこう無理が利いて、ズルズルいくことがあるじゃない。週刊誌っていうのはさ、毎週同じ曜日、同じ時間に「おしまい!」っていうポイントがあるから、メリハリがつきやすい。
糸井 そうですね。
白井 だから印刷の輪転機を止めて発売日を遅らせることもなければ……。
糸井 稀にそういうこともある?
白井 まあ、損害は被りますけど、たまには輪転を止めることもありました。
糸井 すごいことですよ。僕も週刊ペースの人間だと思ってたんですけど、「ほぼ日」ってそのうえを行く日刊じゃないですか。
白井 (週刊を)超えたよ(笑)。
糸井 「日刊」って酷いですよね。日刊は……何かを失いますよ(笑)。旅行に行けないですもん。まあ、行ってますけどね。
白井 「旅行中です」って書けばいいわけだから。
糸井 書き溜めはしないので、現地で必ずやるわけです。だから今まで「パッタリ寝ちゃいました」っていう日が1日もない。病気のときでも「病気です」って書く。ただ、他人にそこまで強要するのは難しいので、それは自前のメディアだからこそできていることですね。マンガの連載で「日刊」っていうのはありえない。あ、でも新聞マンガがありますね。
白井 それでも新聞の4コマだけでしょ。
糸井 考えてみると、一生マンガ家であり続けられた人ってそんなに大勢はいないんじゃないでしょうか。どこかでくたびれてしまいますよね。シンガーソングライターは、1枚出して2枚出して……3枚目を出したあたりから、僕はもう「どこか少し無理をしているんじゃないか」と思えてしまうんです。でも、中島みゆきさんが特例で。
白井 確かに。
糸井 中島みゆきさんは時代ごとに当ててますよね。
白井 「糸」は弊社の相賀(昌宏)が歌っているので、なんとなく耳に残っています。糸井さんは作詞って何曲くらいしてるの?
糸井 作詞は、矢野顕子さんとだけ続けてます。ほかの人にたまにポツンと、2年にいっぺんくらいやるときもあります。
白井 僕けっこう貢献してるんだよ。いつも前川清さんの「雪列車」をカラオケで歌ってるから。
糸井 貢献……?(笑)
白井 いくらか作詞印税が入るじゃない。
糸井 白井さんにしては些細ですね(笑)。
白井 (笑)。「雪列車」の歌詞の「無邪気色のひざかけ」とかね、ああいう言葉っていうのはなかなか出てこない。糸井さんは言葉を自由に操れるでしょ。しゃべる言葉にしても書く言葉にしても。その言葉っていうのは、自分の中にどう宿るんですか?
糸井 あ……ちゃんとしちゃいましたね。
白井 あははは(笑)。まともな対談にしようかと。
糸井 (笑)。うーん、言葉が宿ってる瞬間は、寝てるんですよ、きっと。意識なく、知らないうちに雨水のように溜まってる。だから自分の活動が停滞してるときは、言葉が生活の中に入ってくる機会が少なくなります。いっぱい感じてないと、貯まるものも貯まらない。読んだものとか観たもの、つまり小説や映画で感じて貯まる部分はもちろんあるんですが、僕の作法はそっちではないんです。だから僕にとってそういうのが貯まるのは、下手すると邪魔になることもあります。だけど「ちょっと上手に見せないといけないな」っていうのはプロの仕事としてたまにあるわけで。そういうときにはブッキッシュな側から貯めといたものが出てくるような気がします。「無邪気色のひざかけ」はたぶん、ある種の音に色がついているっていう脳の人がいるじゃないですか。ああいうものの表現ですよね。
白井 ああ。
糸井 でもそれはあとからそういうことだなって思うわけです。
白井 理屈づけになっちゃう。
糸井 ただ、そういう言い方が書けることも自分にはあるってわかったら、うれしいですよね。洗濯したときに「無邪気だな」って思ったんだろうなとか。説明はいくらでもできるけど、理屈づけされる前に「書けちゃった」っていうふうに書ける自由度を自分に許しておかないと、ダメなんでしょうね。
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- 月刊ヒーローズ創刊5周年特集 Index
- 第1回 糸井重里×白井勝也
- 第2回 樹林伸×白井勝也
- 第3回 高橋留美子×白井勝也
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糸井重里(イトイシゲサト)
1948年群馬県生まれ。「ほぼ日刊イトイ新聞」主宰。1971年にコピーライターとしてデビュー。「不思議、大好き。」「おいしい生活。」などの広告で知られ、作詞やエッセイ執筆、ゲーム制作など、幅広いジャンルでも活躍している。1998年にほぼ毎日更新のウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を立ち上げてからは、同サイトでの活動に注力をしている。2016年6月には、犬や猫と人が親しくなるアプリ「ドコノコ」をリリースした。
白井勝也(シライカツヤ)
1942年生まれ。小学館最高顧問。1968年に小学館に入社し、少年サンデー編集部に配属され、「男組」(雁屋哲・池上遼一)、「まことちゃん」(楳図かずお)などを担当する。ビッグコミック副編集長を経て、1980年にはビッグコミックスピリッツの創刊編集長に就任。「めぞん一刻」(高橋留美子)、「美味しんぼ」(雁屋哲・花咲アキラ)などのヒット作を手がけ、創刊5年足らずで100万部雑誌に押し上げた。2016年、株式会社ヒーローズ代表取締役社長に就任。
2016年12月1日更新