コミックナタリー Power Push - 創刊5周年記念 月刊ヒーローズ
3カ月連続企画 第1回 白井勝也×糸井重里 対談
日刊、週刊で仕事をすること
「マンガ家になりたかった!」
──糸井さんが昔から好きだったマンガや、追いかけているマンガは何ですか。
糸井 それはもう平凡で、杉浦茂さんから始まって、手塚治虫さん、ちばてつやさん……もう本当に普通の、僕の世代の人が読んでいた通りです。少年誌を見なくなったのは何歳くらいかな。週刊少年サンデーの「おれは直角」(小山ゆう)が完結したとき、「終わっちゃったな」と思って急に寂しくなったんです。のちにその話を白井さんにしたら「1回離れた人は5年戻ってこない」って言ったんですよね。「はあ……」と。「みんなが離れていくことを知っていながら人気作を終わらせるってすごいことだな」と思ったんです。でも逆に、5年経つと戻ってくる人もいっぱい出るっていうことも知ってて「おれは直角」をやめさせるわけで。そんな難しい仕事されてるっていうのは、面白いなと思いました。
白井 (笑)。
糸井 あとはずっと経ってからですが、浦沢直樹さんの作品も追いかけて読んでいます。
──糸井さんは第20回手塚治虫文化賞記念イベントで浦沢直樹さんと対談をされていましたが、そのときに「自分もマンガ家になりたかった」とお話しされていましたね。
糸井 なりたかったんですけど。(マンガ家の現場を見聞きした今となっては)とてもじゃないけど、なれなくて本当によかったと思ってます。
白井 実際に描いたこともあるんですか。
糸井 あります。
白井 それは手元に残ってますか。
糸井 残ってないです。習作の話を南伸坊さんにしたら、「やりませんか」って言われてガロ(青林堂)に載せたことは1回あります。大学に入ったときに描いたのが2作あるんですけど、それはどこに行っちゃったかさえわからないです。
白井 短編ですか?
糸井 短編ですね。32ページくらい。
白井 結構描きましたね。
糸井 つまらないです。やっぱりセンスがないですね。
──しかし糸井さんはマンガ界や美術界に“ヘタウマ”の概念を広め定着させた「情熱のペンギンごはん」の原作も務められていますから、センスは溢れていたのでは。
糸井 ああ、(作画の)湯村輝彦さんとですね。そう考えるとあのときから本流のマンガじゃないですね(笑)。
白井 (笑)。
糸井 「マンガ家にはやりにくいことをやろう」っていうのがあったかな。だから白井さんに載せてもらえるようなマンガは僕は描けないんです。
──でも週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)で連載をお持ちでしたよね。
糸井 「馬鹿王」とか文字でお手伝いはしました。あと一度、白井さんが考えたキリンビールとのタイアップマンガ(「ビリーブ・ユー」)がありましたよね。大晦日だったかな、本来はみんな仕事をしていない日に、白井さんに「ちょっと話があるんだけど」って言われて。
白井 そんなことがありましたね(笑)。
糸井 「柴門ふみさんに話をつけるから、原作やらないか」って。うーん……あれは今思い返してもできなかった気がします、ちゃんと。僕の中で何かものすごく足りないものがあるっていう気がしながらやってました。柴門さんがいたから助かりましたけどね。
──マンガ誌では珍しいのですが、高橋留美子さんの「めぞん一刻」が終わったときには「めぞん一刻論」を発表されていますね。
糸井 あれは楽しかったです! 文字で描くマンガですよね。「なんとか論」のパロディですが、「こういう遊び方ができる」みたいな形であって。愛情の表明ですよ、もちろん。もともと作品を描いた方がいるわけですから、その人の頭の中を僕なりの歩き方をしてみる、みたいな。楽しかったですね。ああいうのを頼んでくれたのはうれしいです。
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- 月刊ヒーローズ創刊5周年特集 Index
- 第1回 糸井重里×白井勝也
- 第2回 樹林伸×白井勝也
- 第3回 高橋留美子×白井勝也
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糸井重里(イトイシゲサト)
1948年群馬県生まれ。「ほぼ日刊イトイ新聞」主宰。1971年にコピーライターとしてデビュー。「不思議、大好き。」「おいしい生活。」などの広告で知られ、作詞やエッセイ執筆、ゲーム制作など、幅広いジャンルでも活躍している。1998年にほぼ毎日更新のウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を立ち上げてからは、同サイトでの活動に注力をしている。2016年6月には、犬や猫と人が親しくなるアプリ「ドコノコ」をリリースした。
白井勝也(シライカツヤ)
1942年生まれ。小学館最高顧問。1968年に小学館に入社し、少年サンデー編集部に配属され、「男組」(雁屋哲・池上遼一)、「まことちゃん」(楳図かずお)などを担当する。ビッグコミック副編集長を経て、1980年にはビッグコミックスピリッツの創刊編集長に就任。「めぞん一刻」(高橋留美子)、「美味しんぼ」(雁屋哲・花咲アキラ)などのヒット作を手がけ、創刊5年足らずで100万部雑誌に押し上げた。2016年、株式会社ヒーローズ代表取締役社長に就任。
2016年12月1日更新