ナタリー PowerPush - ヘルタースケルター
岡崎京子担当編集が明かす連載当時と、蜷川実花監督が語る原作への思い入れ
がむしゃらで感情的な主人公と自分がシンクロしやすかった
──蜷川さんが岡崎作品を映画化するなら「リバーズ・エッジ」なのかなと思っていたんですね。というのは以前、ダ・ヴィンチ2003年7月号(メディアファクトリー)の「好きな岡崎作品は?」というアンケートに「リバーズ・エッジ」を挙げていましたし、spoon.2005年4月号(角川グループパブリッシング)でも太田莉菜さんをモデルに「リバーズ・エッジ」誌上実写化企画をやっていたので。
「リバーズ・エッジ」もやりたいなと思っていたんですけど、やっぱり作品の空気感が自分と合うのは「ヘルタースケルター」だと、どこかのタイミングで思ったんです。岡崎さん独特の空気感がどうしても「リバーズ・エッジ」のほうが強いですし、「ヘルタースケルター」のほうがビジュアルに関しては自分の得意な世界観にある程度寄せやすいなと。あと、岡崎さんの描く主人公はもう少し達観したような、自分の身の丈を知っているような、何かを諦めたような人が多い気がしますが、この作品はがむしゃらで感情的で。岡崎さんの作品にしては珍しく、「ヘルタースケルター」の熱さと滅茶苦茶な感じが自分とシンクロしやすくて。どっちもすごく好きな作品ですが、私にとって映像にしやすいのは「ヘルタースケルター」だった、ということになります。
──なるほど。たしかに誌上企画の「リバーズ・エッジ」は真っ白な印象で、蜷川さんの個性の一つでもあるマゼンタ(紅紫色)を際立たせた写真ではなかったです。
これはまず「リバーズ・エッジ」をやってくださいというオファーだったので、その世界を再現できたら面白いなと原作に寄せて撮った写真です。これは何年前ですか?
──2005年なので7年前になります。
映画担当者 ちょうど映画の企画が立ちあがったぐらいですね。
映画のプロデューサーから「原作もので映画をやってください」という球だけ投げられてきていて、原作は何がいいかな? とちょうど考えていた時期です。なんとなく自分の中で、もし自分が「リバーズ・エッジ」を映画に撮ったらこんな感じになるのかな? と、ちょっと思いながら撮っていた記憶があります。
──「リバーズ・エッジ」の常に死が傍らにあるようなムードと比較すると、「ヘルタースケルター」はどんなことがあっても生きてやるという力強さがあって、後者を選んだのは3・11以降の状況ともリンクしているのかなと思ったんですが。
そうですね、7年前からやりたいと思っていて、本当にいろんなことが関係してこの時期になりましたが、やっぱり自分の中では3・11のことは結構つながっていて。だから力強くってことではないですが、あの時に見たみんなの動き方、物事の忘れ方だったり、それは自分も含めてですが、3・11が影響してるなというは、撮り終わってから自分の中にありました。
ビジュアルを作り出してからは原作は読まない
──「ヘルタースケルター」は蜷川さんが自分の方にグイッと寄せて撮った感じが全面に出た映画でした。原作のここになら自分が介入できると思ったポイントなどはありますか?
単純に、自分が映画をやるならビジュアルを楽しみにしてくれる人がいるので、そこはおさえておかないと失礼だなというのはあって。得意なビジュアル要素を足しやすそうだっていうのは頭にあったと思います。ほかにも自分のいる業界の話だし、ファッション写真の撮影シーンを派手にできたらいいかなと当初は思っていました。
──当初は、となると、では実際は?
実際の進め方としては、まず原作から好きな台詞を全部抜き出すことが最初の作業でした。「さくらん」(蜷川の初監督映画。原作・安野モヨコ。2007年公開)の時もそうでしたが、自分が何に引っかかってるんだろうって確認できるんです。原作を片手にとにかく脚本を組み立てる。ビジュアルはわりと得意なので、脚本先行でやってから、ビジュアルを作ろう、という手順でした。
──撮影現場で原作を確認することはありましたか?
ビジュアルを作りだしてからは、現場では原作は読まないようにしていました。だからある時期までは原作に寄った作り方をして、脚本ができてからはそこに戻るようなことはしない。全作業が終わってからも読み返してはいません。そういうやり方をしました。
映画「ヘルタースケルター」
原作は第8回手塚治虫文化賞マンガ大賞に輝く、岡崎京子によるマンガ。岡崎作品として、初の映画化となる。岡崎は1996年、交通事故に遭って以来、執筆活動は行なっておらず、「自分の作品が演者を通してどう昇華されていくのか、大変興味深く見守りたい」とコメントしている。監督は、世界的フォトグラファーであり、初監督作品「さくらん」がベルリン国際映画祭に正式出品、大ヒットを果たした蜷川実花。本作の映画化に宿命を感じ、約7年の歳月を重ね、ついに念願を果たす。
試写会には、数々の著名人が足を運んだ。村上隆、向井理、松田翔太、熊田曜子、千秋、中田英寿など、多くの著名人がTwitterやブログでも絶賛のコメントを寄せている。一部のコメントは公式サイトに掲載されている。
大ヒット上映中!
あらすじ
芸能界の頂点に君臨するトップスターりりこ。しかし、りりこには誰にも言えない秘密があった――。彼女は全身整形。「目ん玉と爪と髪と耳とアソコ」以外は全部つくりもの。その秘密は、世の中を騒然とさせる“事件”へと繋がっていく――。整形手術の後遺症がりりこの身体を蝕み始める。美容クリニックの隠された犯罪を追う者たちの影がちらつく。さらには、結婚を狙っていた御曹司の別の女との婚約スクープ! 生まれたままの美しさでトップスターの座を脅かす後輩モデルの登場。そして、ついに……!
りりこが“冒険”の果てに辿りつく世界とは? 最後に笑うのは誰?
キャスト
沢尻エリカ、大森南朋、寺島しのぶ、綾野剛、水原希子、新井浩文、鈴木杏(友情出演)、寺島進、哀川翔、窪塚洋介(友情出演)、原田美枝子、桃井かおり
スタッフ
監督:蜷川実花 脚本:金子ありさ
原作:「ヘルタースケルター」(祥伝社フィールコミックス)
音楽:上野耕路
テーマ・ソング:浜崎あゆみ「evolution」(avex trax)
エンディング・テーマ:AA=「The Klock」(SPEEDSTAR RECORDS)
製作:映画「ヘルタースケルター」製作委員会
制作プロダクション:アスミック・エース エンタテインメント シネバザール
配給:アスミック・エース
©2012映画「ヘルタースケルター」製作委員会
「ヘルタースケルター 映画・原作 公式ガイドブック」 / 2012年7月6日発売 / 1260円 / 祥伝社
沢尻エリカ主演×蜷川実花監督で映画化された、岡崎京子の傑作コミック「ヘルタースケルター」の映画・原作公式ガイドブック。 映画と原作コミックのシーンを比較する「場面比較集」や、桜沢エリカ、安野モヨコをはじめとする人気作家の豪華イラスト寄稿など、ここでしか見られない企画が満載。 監督、主演、主要キャストのインタビューから、後藤繁雄、中森明夫によるスペシャルコラムまで、映画と原作を同時に楽しめる充実の内容。 蜷川監督の撮影によるフォト満載。映画ファン、原作ファン必見の1冊!
ばるぼら「岡崎京子の研究」 / 2012年7月11日発売 / 1680円 / アスペクト
岡崎京子は日本のカルチャー史に何を遺してきたのか?
1980年代から1990年代半ばにかけて活動し「pink」「東京ガールズブラボー」「リバーズ・エッジ」「ヘルタースケルター」を生んだマンガ家・岡崎京子の軌跡をほぼ網羅した研究資料集成。デビュー以前から事故後までを解説と年表で読み解く全6章。初心者から長年の愛読者まで、21世紀の岡崎京子研究の基本文献となるでしょう。