ナタリー PowerPush - ヘルタースケルター

岡崎京子担当編集が明かす連載当時と、蜷川実花監督が語る原作への思い入れ

「みんながスクラムを組んでやってる感じだね」って

──「マジック・ポイント」連載が終わって、次からどうしようという相談は?

なかったと思います。

──ええ?

いや、あったかもしれないですけど、たぶん大した話はしてないです。続けて描いてほしいとお願いしたと思いますが、内容については岡崎さんにお任せでしたから。

──「マジック・ポイント」は原作者の大原さんの色が出たものなので別ですが、短編「エンド・オブ・ザ・ワールド」などから岡崎さんはしばらくハードな内容を描き続けますよね。人を殺したり、沈めたり……。そういう完成原稿を読んだときに、恋愛モノが多い雑誌のカラーにあわないんじゃないか、とは思わなかったですか?

雑誌のカラーがこうだから掲載する作品はこうあるべき、といったことは考えていませんでした。自分の好きな作家に頼むというのが主眼で、その作家がその時いちばん描きたいものを描いてもらえたら最高なわけです。ですから、雑誌のカラーに合わせてっていうのはなかったです。面白ければなんでもありだと思いますし。

吉田朗

──でもたとえば、ネームをもらった時に「ここをもう少しこうしたほうが」みたいなやりとりは作家さんと当然ありますよね?

それがあんまり。ネームに対して感想は言いますが、基本的にマンガはマンガ家のもので、編集者はできるだけ邪魔せずに、描きやすいように、いわば仕事の道を掃除するのが役目だと思っています。特に岡崎さんの場合は本当にお任せでした。それに、ネームが締め切りギリギリだと物理的に修正する時間がない場合が多いんです。岡崎さんも締切が過ぎてからネームが来て、原稿完成まで2、3日ということがよくありました。

──そんなフィール・ヤングという雑誌について、岡崎さんが何か言ったりはしてなかったですか。

僕が覚えてるのは「みんながスクラムを組んでやってる感じだね」って言われたこと。雑誌によってはマンガ家同士がライバルで牽制し合ってる感じのとこもあるらしいですけど、うちはそういう印象だったみたいです。

この本の装丁をやった人に頼みたいと本を見せられることも

──基本お任せだとすると、たとえば単行本の装丁も岡崎さんが指示を出してたんですか?

そうです。この人に頼みたいと具体名をもらうこともあれば、この本の装丁をやった人に頼みたいと本を見せられることもありました。「シンプルなのにすっごいセンスがある。この装幀者はタダモノじゃないはずだから頼みに行こう」なんてね。そうしたら仕事場がとても立派な、日本のエディトリアル・デザインの草分けみたいな大御所の方だったことがあります(笑)。それが木村裕治さんなんですけど。

──「私は貴兄のオモチャなの」の時ですね。

木村裕治が装丁を手がけた「私は貴兄のオモチャなの」。

あのときは木村さんから「表紙に使いたいイラストレーターがいるんだ」と話されて、「いや、マンガの単行本の表紙に、そのマンガ家以外の人の絵を使うのはなしです」なんてやり取りをしました。それで結果的に岡崎さんの小さい絵をちょこんと入れた表紙になったんです。しかも線画というのはかなり大胆というか、ありえないデザインだったと今は思ってます。木村さんがマンガの装丁は初めてだったということもあるのでしょう。岡崎さんとしては複雑な気持ちだったかもしれません。ただ、マンガへの愛情うんぬんを抜きにして、デザインという点だけから見れば、やはりセンスは素晴らしかったと思います。これをきっかけに木村さんにはほかのマンガ家の装幀をたくさん頼むようになりました。

──この単行本だけ作品に英語タイトルが付いています。

これは木村さんからデザインに英文を使いたいと提案があったんです。それで「私は貴兄のオモチャなの」をどう翻訳するかいろいろと人に聞いて回って考えていたんですが、あるアメリカ人から「いろいろ意味合いを聞いてみると、つまりこういうことだろ」って“I wanna be your dog”というタイトルを提案されたんです。それを聞いて「ああ、それかも」っていう。もとは誰かの曲名なんですよね?

──ストゥージズですね。英語タイトルと日本語タイトルを両方用意するのは90年代の渋谷系ミュージシャンっぽいなと思っていました。そういう経緯だったんですね。

映画「ヘルタースケルター」

原作は第8回手塚治虫文化賞マンガ大賞に輝く、岡崎京子によるマンガ。岡崎作品として、初の映画化となる。岡崎は1996年、交通事故に遭って以来、執筆活動は行なっておらず、「自分の作品が演者を通してどう昇華されていくのか、大変興味深く見守りたい」とコメントしている。監督は、世界的フォトグラファーであり、初監督作品「さくらん」がベルリン国際映画祭に正式出品、大ヒットを果たした蜷川実花。本作の映画化に宿命を感じ、約7年の歳月を重ね、ついに念願を果たす。

試写会には、数々の著名人が足を運んだ。村上隆、向井理、松田翔太、熊田曜子、千秋、中田英寿など、多くの著名人がTwitterやブログでも絶賛のコメントを寄せている。一部のコメントは公式サイトに掲載されている。

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あらすじ

芸能界の頂点に君臨するトップスターりりこ。しかし、りりこには誰にも言えない秘密があった――。彼女は全身整形。「目ん玉と爪と髪と耳とアソコ」以外は全部つくりもの。その秘密は、世の中を騒然とさせる“事件”へと繋がっていく――。整形手術の後遺症がりりこの身体を蝕み始める。美容クリニックの隠された犯罪を追う者たちの影がちらつく。さらには、結婚を狙っていた御曹司の別の女との婚約スクープ! 生まれたままの美しさでトップスターの座を脅かす後輩モデルの登場。そして、ついに……!
りりこが“冒険”の果てに辿りつく世界とは? 最後に笑うのは誰?

キャスト

沢尻エリカ、大森南朋、寺島しのぶ、綾野剛、水原希子、新井浩文、鈴木杏(友情出演)、寺島進、哀川翔、窪塚洋介(友情出演)、原田美枝子、桃井かおり

スタッフ

監督:蜷川実花 脚本:金子ありさ
原作:「ヘルタースケルター」(祥伝社フィールコミックス)
音楽:上野耕路
テーマ・ソング:浜崎あゆみ「evolution」(avex trax)
エンディング・テーマ:AA=「The Klock」(SPEEDSTAR RECORDS)
製作:映画「ヘルタースケルター」製作委員会
制作プロダクション:アスミック・エース エンタテインメント シネバザール
配給:アスミック・エース
©2012映画「ヘルタースケルター」製作委員会

「ヘルタースケルター 映画・原作 公式ガイドブック」 / 2012年7月6日発売 / 1260円 / 祥伝社

沢尻エリカ主演×蜷川実花監督で映画化された、岡崎京子の傑作コミック「ヘルタースケルター」の映画・原作公式ガイドブック。 映画と原作コミックのシーンを比較する「場面比較集」や、桜沢エリカ、安野モヨコをはじめとする人気作家の豪華イラスト寄稿など、ここでしか見られない企画が満載。 監督、主演、主要キャストのインタビューから、後藤繁雄、中森明夫によるスペシャルコラムまで、映画と原作を同時に楽しめる充実の内容。 蜷川監督の撮影によるフォト満載。映画ファン、原作ファン必見の1冊!

ばるぼら「岡崎京子の研究」 / 2012年7月11日発売 / 1680円 / アスペクト

岡崎京子は日本のカルチャー史に何を遺してきたのか?

1980年代から1990年代半ばにかけて活動し「pink」「東京ガールズブラボー」「リバーズ・エッジ」「ヘルタースケルター」を生んだマンガ家・岡崎京子の軌跡をほぼ網羅した研究資料集成。デビュー以前から事故後までを解説と年表で読み解く全6章。初心者から長年の愛読者まで、21世紀の岡崎京子研究の基本文献となるでしょう。