一番わかりやすくミュージカルができた第3話の運動会シーン
松井 あと楽しかったのは第3話の「Run! Run! Run!」ですね。一番わかりやすくミュージカルを作った感じ。治療シーンの曲はやっぱりミュージカルというより、“治療の曲である”というイメージのほうが強くて。運動会やハイキングの回はいわゆるミュージカル感が出せるので、作り方も全然変えてました。
──第3話はBパートに入ってからずっとセリフに節回しが付いて、そのまま「Run! Run! Run!」のミュージカルシーンへつながっていく、インパクト大の話数でした。あれはどういうふうに作っていったんですか?
入江 Bパート頭からしばらくは曲を使用せず、私の棒読みのアカペラに合わせて映像を作って、アフレコ現場では私のアカペラをミュートして、キャストの皆さんのアドリブで節回しを付けていただきました。今のところはもっとメロディっぽく、そこはもっとへろへろな感じで、ってお願いしたりして。ソニアが歌い始めるところからは、高橋さんと松井さんに作っていただいてます。
松井 「Run! Run! Run!」は、コンテと曲のデータをもらって歌詞を乗せたんですけど、絵コンテをいただいたときにだいたいのセリフはあったんですよ。でも「コンテにこの子が写っているからといって、この子が歌ってなくていいよ」と、その裁量権はある程度いただいていました。それで歌詞を作ったんですが、文字だけだとどんなふうに歌うかが伝わりにくいと思ったので、自分で仮歌を歌って(笑)。
入江 それを聴いたときに大笑いしましたし、楽しくなるって確信しましたね(笑)。
高橋 「これこれ!」ってなりましたよね。「Run! Run! Run!」ができたときに、いわゆるミュージカル曲としてわかりやすくいいものが1曲できたので、すごく楽になったというか。松井さんと「ようやく見えてきましたね」って話をしたのを覚えてます。
──第3話はAパート冒頭の「まなびたまえ」も印象的です。足音やカーテンを閉める音などのSEが、曲の一部のように使われていますよね。
入江 あのシーンは、デモ曲のリズムに合わせて原画のキーになるところを合わせていくような感じでレイアウトを作っていったので、必然的に音響さんもそこに足音をつけることになったという感じです。曲に合わせてアニメーションを作ったからできたことですね。
──じゃあ、最初からSEが入ることを想定して曲を作ったわけではなかったんですね。
高橋 そうですね。逆に、第5話のメドレーで曲が行進に切り替わるところは、監督からいただいたコンテで足を踏み鳴らしているカットがあったので、たぶんこういうストンプの音が入るだろうな、その足音がカウントになって曲が変わるようにしよう、と考えたり。映像を観て我々が音楽でアンサーしたり、デモに映像のほうを合わせていただいたり、両者いろんなキャッチボールがあって。
入江 その順番は話数によってかなり違ってましたね。詞を先行したり、絵コンテを先行したり、曲を先行したり、曲が上がったあとでまた絵コンテやってまた曲のほうを調整していただいたり、逆があったり。
高橋 そういうインタラクティブな感じはアニメならではだし、面白かったですね。
松井 音響さんとかキャストさんも含めて、ここまで作品とシームレスにつながっていく作業はけっこう珍しいですよね。しかもTVシリーズでは、なかなかないと思います。
第2話の劇中歌がその後の基準に
──では続いて、高橋さんのお気に入り曲を教えてください。
高橋 まずは先ほども触れた第5話のメドレー(「山には素敵なものがある~てっぺんまで登ろう~星と蛍」)です。この曲はちょっと毛色が違っていて、治療ソングでもないし、心情を歌うだけでもない。最初はみんなで歌っている場面だけど、後半はいわゆるイメージソングっぽい使われ方をしていく。いろんな機能が1セットになってるんですね。ミュージカルソングとしての多幸感みたいなものを一番表現できた曲かなって思いますし、完成した映像を拝見して、すごく感動しました。蛍の映像がすごくて、普通に田舎に帰りたくなっちゃった(笑)。そのくらい美しいシーンに仕上がっていて、思い出深いです。
高橋 あとは第2話の「ちいさな声、おおきな世界」が、実は最初に作った曲なんです。僕らが「ヒーラー・ガール」の世界観やヒーリングという設定を体に入れていきながら作った曲で、1つの指針になった大事な曲だと思います。最終的に高垣(彩陽)さんの爆発が入ってすごく気持ちいい曲になったので、単純に音楽としても素敵なものになったなと。
入江 僕もやはり、「ちいさな声、おおきな世界」が印象に残っています。最初に曲と歌詞をセットでいただいて、「完成はこうなるんだ」という方向性を明確に把握するきっかけになったという点で、本当に重要な曲でしたね。そこから「第2話はああいう形でやったから、こっちの話数のイメージシーンはこういうふうなアプローチにしよう」とか、第2話を踏襲した形で派生させることが可能になったので、制作上も作品を把握するうえでも、大きな曲だったと感じています。
響の部屋にあるマンガは、実は……
──お話を聞いていると、まだまだ語られていない裏話がありそうなんですが、これから2回目以降の視聴で注目してほしい点や、劇中歌アルバムで楽しんでほしいポイントを教えていただければ。
高橋 本当に細やかなところまで演出が効いていて、テンポがよくて、無駄なところがない。ぱーっと気持ちよく見れちゃうんだけど、考察できるところもいっぱいあって、何度でも楽しめる作品だと思います。音楽の部分のこだわりとしては、本当にいろんな音楽を書かせていただいたんですが、実は劇伴は一部を除いて、ずっとオープニングのモチーフを使ってるんですね。オープニングはやっぱり作品の顔なので、「忘れないで、主題歌これですよ!」って主張するというか(笑)。そんなところもこだわって作ったりしてるので、全12話通しての音楽の流れも感じていただければなと思っております。
松井 せっかくなら、この世界で音声医学というものがどんな立ち位置か?というのを理解したうえで観ると、また違った楽しみ方ができるのかなと思いますね。先ほどもお話したんですが、なんでこの曲でこの言葉を使っているのか、この世界のヒーリングの要素について考えながら書いているので、ぜひ歌詞カードでじっくり見ていただけたらうれしいです。あとはこの作品、キャラクターのバックグラウンドを細かいところですっごい表現してるんですよ。びっくりしたのが、響の部屋に「プロレスウルトラ列伝」ってマンガが置いてあって。元ネタって、あの昭和の某プロレスマンガですよね?
──監督、すごくうなずいてますね(笑)。
入江 気付いていただいてありがとうございます(笑)。あの「プロレスウルトラ列伝」は実はお父さんから持たせてもらったもので、キャラクターとしての意外性もですが、お父さんのほうへの導線も感じられるといいなって。
松井 そういうキャラクターの理解を深めるための要素が、いっぱい仕掛けられてると思うんですよ。それはちょっと僕も観直して、探してみようと思います。
──では最後に入江監督、お願いします。
入江 まず音楽については、劇中で聴いた曲をCDで改めて聴くことで、高橋さんが考えたいろいろな仕掛けを集中して解析できるでしょうし、歌詞を読んだときに、作品世界の中での作詞家の意図や思いも感じることができる、そういう楽しみ方が存分にできるものになったと感じています。そして素敵な曲、素敵な歌がたくさんありますので、日常の中で曲として歌として、癒されるもの、楽しんでもらえるものとしてお手元に置いていただけたら、すごく幸せな1日を過ごせると思いますので。
──ヒーラーの歌ですから、癒し効果は抜群ですよね。
入江 アニメについても、「今日はこの話数を観ようかな」というふうに、うきうきしながら気軽に再生ボタンを押せるような作品になったんじゃないかなと。映像としても背景さん、撮影さんなど各セクションがすごく丁寧に美しい形で映像を仕上げてくださったので、環境ビデオのような形でスクリーンに流しながら仕事をするのもいいと思います。いろんな楽しみ方ができる作品になったと思いますので、日常の中での癒しの時間としてこの作品を使ってもらえると、すごくうれしいです。
プロフィール
入江泰浩(イリエヤスヒロ)
アニメ監督、脚本、演出、アニメーター。代表作は「灼熱の卓球娘」「CØDE:BREAKER」「鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST」「KURAU Phantom Memory」。
高橋諒(タカハシリョウ)
作曲家・編曲家、ミュージシャン。「アイの歌声を聴かせて」「吸血鬼すぐ死ぬ」「ようこそ実力至上主義の教室へ」「ACCA13区監察課」など多数のアニメで劇伴・主題歌を手がける。Void_Chords名義でも活動している。
高橋諒[Void_Chords] (@RyoTakahashi111) | Twitter
松井洋平(マツイヨウヘイ)
作詞家でテクノポップユニット・TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDのメンバー。「犬王」「アイの歌声を聴かせて」「プリパラ」「ガールズ&パンツァー」「機動戦士ガンダムAGE」など多数の作品に参加。「アイドルマスター」シリーズなど、二次元アイドルを題材にしたメディアミックスプロジェクトでも作詞を手がけている。