コミックナタリー Power Push - マーガレットコミックス特集 あの頃も、これからも!一生少女マンガ宣言 第16回 八田鮎子「オオカミ少女と黒王子」
キャラクターをコントロールしない
5月から7カ月にわたりマーガレット、別冊マーガレット(ともに集英社)の作家にインタビューを行ってきたこの連載も、ついに最終回。ラストを飾るのは、「オオカミ少女と黒王子」の八田鮎子だ。同作は2014年にTVアニメ化され、2016年5月には実写映画化されることも決定している人気作。特に腹黒なドSキャラの佐田恭也が、女性読者から絶大な支持を得ている。
コミックナタリーでは八田にドS男子の代名詞とも言える佐田くんの、キャラクター創作の真意を聞いた。また小学生の頃からマンガ家になると決めていたという八田のルーツや、影響を受けたマーガレット作品についても語ってもらった。
取材・文 / 門倉紫麻
佐田くんはドSじゃなくて「かまってちゃん」です
──嘘つきな、オオカミ少女のエリカちゃんと、腹黒ドS王子の佐田くん、というキャラクター設定はどのようにして生まれたのでしょうか。
うーん、なんとなくインパクトを大事にしようと思って始めてしまったので、ノープランだったんですよ(笑)。しばらく手探り状態でしたね。佐田くんのキャラクターがわかってきてからはストーリーも動くようになったんですが。私、「くっつくまで」を描くのが少し苦手なんです。
──確かにかなり早めの段階で2人がくっつきましたよね。
もうちょっとじらしたかったんですけど……すみませんという感じです。私のマンガは展開が早いですよね。
──サクサク進んで気持ちいいです。
もうちょっとじっくり描いてほしいなと思っている方もいると思うんですが……すれ違っているシーンを描くとストレスがたまるんですよ(笑)。
──でも無理矢理引き延ばすのではなくて、よきタイミングでエリカが告白をして。そのときの佐田くんの返しが素晴らしかったです。「どうしていいかわからない」というエリカに「なら悩めば」「俺の一挙一動をいちいち気にして 日々悶々と過ごせばいい」と返す。すごいドSっぷりがたまりませんでしたが、あれは読者を喜ばせてやるぞ!というようなお気持ちで描いたのでしょうか。
いえいえ(笑)。佐田くんは平たく言えば「相手に自分のことばっかり考えてほしい人」だと思うんです。でも「俺のことばっかり考えろ!」という言い方はしないので、それを佐田くん風に言えば、ああいうセリフになる。
──なるほど、ドS発言みたいなものの真意を読み解いていくと印象が変わってきますね。
ドSじゃないんです。素直じゃない人、「かまってちゃん」なんです。それが俺様ふうに映っちゃったのかなあと。私からすると、わがままな子供みたいな人ですね。
佐田くんは「メリークリスマス」って絶対言わない!
──6巻で花火大会に行って、2人とも泥だらけになってしまったことを嘆くシーンがありますよね。そこで佐田くんが「…おまえとこーなってから ろくな目にあってねーな」と言いますが、「こーなってから」というのがすごくいいなと思いました。
えっ、どういうことですか?
──「おまえと『付き合ってから』」って言うのが恥ずかしくて言えないんだなと思いまして。なんてかわいいんだ!と。
そうなんです! よくわかってくださいました(笑)。「付き合ってから」とは言えないんですよねえ、佐田くんは。言っちゃだめなセリフっていうのがもうわかっていて。「デート」も言わない。あと友達を「お友だち」っていうんですよ、嫌味っぽく。
──仲良しこよし的な感じになるのがいやで、わざと言うわけですね。
そう。クリスマスに、ネックレスのことを「首輪」って言ってエリカに渡したくらいからなんとなくキャラができていって。最初は全然、あんな展開じゃなかったんですよ。エリカの家にケーキを持って行って「メリークリスマス」って言うような展開だったんですけど(笑)。当時の担当さんに「これは佐田くんじゃないでしょ」とリテイクを出されて。今なら、絶対言わない!ってわかるんですけどね。もしあそこで佐田くんが「メリークリスマス」って言っちゃってたら、キャラができていなかったと思います。今、セリフに迷わないのは、キャラが完璧にできてるってことなんだなと思います。
──では長く続けてきて、どんどん描きやすくなって。
描きやすい時期もあったんですけど……今は難しいですね。佐田くんとエリカが熟年カップルみたいな感じになってきて(笑)。あとは結ばれるシーンを描くかどうかですかねえ。読者の方からも「見たい」と言われていて……こんなに見たいと言われる少女マンガってあるのかな!?と思いますが。
──やっぱり色っぽいからでしょうかね、佐田くんが。
それもあると思いますし、佐田くんがエリカに冷たくしてきたので、あんまりイチャイチャした場面がない。なので、結ばれたという象徴が欲しいと思っている人が多いのかもしれませんね。
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- 第16回 八田鮎子
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- 「オオカミ少女と黒王子」実写映画化決定!2016年5月ロードショー
©八田鮎子/集英社 ©2016 映画「オオカミ少女と黒王子」製作委員会
八田鮎子(ハッタアユコ)
2002年、別冊マーガレット(集英社)にて「ずっと君の王子様」でデビュー。その後、「ひよこロマンチカ★」「オーダーは僕でよろしいですか?」「ボクの世界 キミのリアル」「悪い子の味方」「キミを中心に世界はまわる」「ぐるぐるめぐる」と6作の短編集を刊行。2011年に「オオカミ少女と黒王子」の連載を開始し、2014年にTVアニメ化。2016年5月には実写映画も公開される。
2016年1月22日更新