コミックナタリー PowerPush - 池辺葵「繕い裁つ人」

Kissから誕生した新マンガ誌・ハツキスの連載作 孤独な洋裁店の店主を描く、作者の素顔に迫る

洋裁をテーマにしたのは、孤独な仕事を描きたかったから

「繕い裁つ人」より、仕立て屋という孤独な仕事に従事する市江。

──「繕い裁つ人」はもともと洋裁を描こうと思って始めたわけじゃないというのをKissのインタビューで拝見したんですが、そもそもストーリーの着想はどこから得たんですか。

孤独な仕事を描きたい、と思ったんです。孤独なことを描きたいという思いがずっとあって。

──1人でやる仕事の中でも、どうして洋裁を。

ほかに思い浮かばないというのもありましたし、趣味程度ですが自分で服を作ることも好きだったので。でも専門的な勉強は何もしてないし、絵も下手だからぜんぜん洋服がキレイに描けなくて……。そこは課題ですね。

──登場する仕立服は裾にボリュームがあったり、クラシカルなデザインのものが多いですね。

「繕い裁つ人」より、クラシカルなデザインのドレスが多数登場する。

中世ヨーロッパを描いた映画に出てくるようなドレスが大好きなんです。衣装だけでもうっとり眺めちゃいますね。

──対して市江の服は黒が多くて、シンプルです。

簡素にしました。彼女の中ではあくまで主役はお客さんで、自分は脇役だという感覚があるんです。ひたすら自分の仕事をしっかりやるっていう生き方を描きたかったんですね。だからあんまり彼女に説教くさいことを言わせたくないんだけど、ついつい決め台詞とか言わせちゃう……。

──いまはファストファッションが全盛ですが、「繕い裁つ人」はその真逆にあるオーダーメイドの世界を描いていますよね。そうした「1シーズンで着なくなる服があるのも当たり前」というような風潮へのアンチテーゼ的な思いは込めていらっしゃるんですか。

そんなつもりはないんです。何かを批判したり一方に偏りすぎないで、いろんな側面を描きたい。

──さっきも「一面的になりたくない」と言ってましたね。

そう、そうなんです。でも知らず知らずのうちにその、アンチテーゼみたいな感じになっちゃってるなって思うこともあって。そうならないためにも視野を広げないとと思っています。

実写映画版、ていねいに大事に作られていると思います

映画「繕い裁つ人」場面写真 (c)2014「繕い裁つ人」製作委員会

──来年には「繕い裁つ人」の実写映画化も控えています。

やっぱりまだまだヘタクソですけど……。映画のお話は、(三島有紀子)監督がマンガを気に入ってくださったとのことですごくうれしくて、ありがたかったです。

──制作には関与しているんですか?

脚本は何度か見せていただいて、「市江はこういうセリフは言いません」とか、さっき話に出たような現代へのアンチテーゼ、みたいなところが出ないようにしてほしいとか、思ったことはできる限り率直にお伝えするようにしました。

──原作ファンの方の反応を見ていると、「あのマンガの世界観を映像化できるのか」って不安も垣間見えるんですが、そういう方々に何を伝えたいですか。

映画「繕い裁つ人」場面写真 (c)2014「繕い裁つ人」製作委員会

私も正直どうなってしまうのか不安でしたが、監督さんから映画の脚本の説明をしていただいて、誠実にご対応いただけたので……。でも一番すとんと不安がなくなったのは、映画に関わる方たちの、作品に向かう姿勢を拝見できたからだと思います。一度撮影現場に行ったのですが、皆さん一生懸命ひとつの作品に向かってらっしゃって……舞台もすごくキレイで、光の色や当たり方、小道具に至るまで世界観が作り上げられていて、何かを作るものとして純粋にすごいなと思いました。読者の方にも楽しみにしていただきたいです。

──洋服もどんなふうに表現されているのか、期待が膨らみますね。

素敵でしたよ。ちらっと拝見した写真もフランス映画みたいって思ってました。マンガの「繕い裁つ人」とはまた違うものだと思うんですけど、ていねいに大事に作られている映画だと思います。映像で観るのがいまからとても楽しみです。

「ハツキス」2014年7月号 / 2014年6月13日発売 / 650円 / 講談社
「ハツキス」2014年7月号 / 2014年6月13日発売 / 650円 / 講談社
ラインナップ

ヤマザキマリ(原作:W・アイザックソン)「スティーブ・ジョブズ」、磯谷友紀「腹ペコな魔女 サティーとパールヴァティ」、雁須磨子「感覚・ソーダファウンテン」、池辺葵「繕い裁つ人」、原作:こやまゆかり 作画:霜月かよ子「ポワソン ~寵姫ポンパドゥールの生涯」、東村アキコ「海月姫外伝 BARAKURA」、葉月京「FRIEND OF FOE」、漫画:おおきたよる 原作:壁井ユカコ(GoRA) アニメ原作:GoRA・GoHands「K ―Lost Small World―」、奈良原せつ「年甲斐ないにもほどがある」、坂下七恵「13階の死神さん。」、小川彌生「刻待アパートメント」、百乃モト「私の無知なわたしの未知」、みなみうみ「小さなお人魚日和」、宇仁田ゆみ「柄ラボ」、沖田×華「透明なゆりかご」、岡田有希「さよならしきゅう」、浜名杏「いといろとりどり」

池辺葵「繕い裁つ人」5巻 / 2014年3月13日発売 / 648円 / 講談社
池辺葵「繕い裁つ人」5巻 / 2014年3月13日発売 / 648円 / 講談社

藤井の担当する洋裁教室の終了が決まり、パリ支店への転勤を希望する藤井。一方、何も知らない市江は、南洋裁店での日々の生活の中で、自分が本当に欲しいものを見つけることとそれを手に入れることの困難さを改めて心に刻んでいた。そして藤井のパリ転勤が正式に決定。それを耳にした市江は……。

池辺葵(イケベアオイ)
池辺葵

2009年、Kissマンガセミナーにて、「落陽」でデビュー。その後、Kiss PLUSにて「繕い裁つ人」の連載を開始し、現在はハツキス(ともに講談社)にて連載中。同作は2015年1月に、実写映画が全国公開予定。主な作品に「サウダーデ」(講談社)、「どぶがわ」(秋田書店)など。9月には、秋田書店のWEBマンガサイト「チャンピオン・タップ」で連載されていた「かごめかごめ」の単行本が発売を控えている。