アニメも、マンガと同じ視線の動き
──清水先生は、アニメの制作過程でキャラ設定表や絵コンテなどを見る機会があったのではと思うのですが、いかがでしたか?
清水 新鮮でしたね。絵コンテだけを見ていても、絵が実際に動いているようで、アニメや映画を観ているみたいだなと思いました。キャラ設定表も、こんなに安定してキャラが描けるのがうらやましいなと思ったり(笑)。あとは、絵コンテを見ていると、カメラ(視点)の動き、例えば「下から上に向かって動く」とか「右から左に向かって動く」とかが、私がイメージしていたコマ割りの視線の動きそのままだ!と思うときがよくあるのに驚きました。
──アニメは、原作のカメラワークにまで忠実なのですね。
清水 ほんとにありがたいです。
鈴木 映像の原則を逸脱しない程度に(笑)。
──(笑)。ちなみに清水先生は、普段アニメを観たりされますか?
清水 いえ、私アニメは全然と言ってもいいくらい観ないんですよ……。でも、すごく好きなアニメ映画があって、「名探偵ホームズ」という作品なんですが(1984~85年に放送されたテレビアニメ。宮崎駿監督が最初の6編の監督・演出を手がけ、のちに映画にもなった)、メインキャラクターが悪役も含めて好きなタイプのキャラというのもありますが、ゲストの子供キャラが大人顔負けの活躍をするのが面白くて、子供の頃によく観ていました。
鈴木 あ、「ホームズ」がお好きなんですか、初めてお聞きしました。
清水 昔から大好きで、子供の頃から何回も繰り返し観ています。
背景も主役! 世界観としての擬人化
──監督はお気に入りの細胞や、動かしやすいキャラはいますか?
鈴木 アクションもあるし、男キャラっていうこともあって、動かしやすいのは白血球ですね。あとは血小板かな。作画スタッフには「血小板はとにかくかわいらしく描いて」とお願いしています。「触ると“ぽよーん”ってしそうな感じ」と。僕は、「はたらく細胞」という作品は、背景も主役だと思っていて。美術監督の若林さんにもよく「この作品はキャラだけじゃなくて、背景もいちキャラだと思ってやってほしい」という話をしていました。
──原作でも、例えば肺の中が大規模な工場のようだったり、静脈弁が一方通行の駅の改札のようだったりと、人体の中ということを忘れそうになります。
鈴木 原作にないところをどう埋めるかは悩ましいです。世界観を逸脱しないために、清水先生だったらどう描くのか、というのはすごく考えてやっています。アニメオリジナルのシーンもあるんですが、今後、原作が続いていく中で、絶対出てきそうなシチュエーションは、先生にイメージをいただいて。逆に2度と出てこないだろうというシーンは、こちら側でデザインさせてもらっています。例えば原作にはエレベーターが登場していないのですが、アニメでは登場させる必要があったので、「エレベーター登場させてもいいですか?」と先生に確認して。
清水 マンガの背景にちょっとだけ描いてあるような細かいところまでアニメで再現していただいて……。本当にすごいなと思います。
鈴木 工場にある貼り紙も、原作では超小さく描かれていて、細かすぎて文字がわからないときに、「これなんて描いてあるんですか?」って先生に教えていただいたりしています(笑)。
──「お勤めご苦労様です」とか「ストレスに負けない体づくり」とか書いてあるリアルな貼り紙ですね。
鈴木 アニメオリジナルの貼り紙も登場しますよ。美術さんがすごくがんばってくれているので、とてもいい背景が上がっていると思います。
清水 本当にありがたいです……。感無量です。
鈴木 細かさが命ですからね(笑)。美術さんもそうですし、美術設定をやってくださってる曽野(由大)さんと橋口(コウジ)さんが、ゴリゴリ描いてくれるので。アニメで動かせるギリギリ限界までディテールを出すようにしています。
自分のなかで“清水茜トランスレーション”をやる(鈴木)
──マンガは基本モノクロの世界なので、アニメでは色が着くのも楽しみですね。
鈴木 それ、すごく難しいんですよ。カラーになっている画稿を資料に、原作ではモノクロしかない部分も想像してこちらで色を着けていくんですが、現場の流れ的に、全カットを清水さんにチェックしていただくわけにはいかないので、「たぶんここはこんな色だな」と、シミュレーションしていくんです。自分のなかで“清水茜トランスレーション”をやるんですね。
──監督のなかに、小さい清水さんがいる感じですね。
鈴木 今、育ててます(笑)。
──(笑)。そこまでご自身について考えを巡らせられるというのは、清水さんとしてはどういう感覚なのでしょうか。
清水 ちょっと恥ずかしいですね(笑)。
鈴木 すみません(笑)。
清水 できあがった1話の映像を観ていて、こんなに細かいところまで拾っていただいてすごいなとは思うのですが、あんなにこだわって作っていただいて、監督は、周りの方と、トラブルになったりしないんですか?
一同 (爆笑)。
鈴木 トラブルにはなりません……(笑)。性格が細かいので、原作の細かいところも拾いたくなってしまって、そのぶん時間がかかるんですよ。そうすると作業が膨大になってきます。例えば1話で肺が出てきますが、工場のような作りになっているので、奥のほうに写っているモニターや電光掲示板の文字なんかも全部細かく作っているんですよ。
──それは気の遠くなるような作業ですね。
鈴木 本編では小さくて確認できないんですけどね(笑)。そういうことをやっていると時間はかかるんですけど、そのぶん、ディテールを感じられるような映像になっていると思います。清水先生に、「アニメ化しなきゃよかった」なんて言われないようがんばっています(笑)。
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スギ花粉が落ちてくるときはアルマゲドンだよ(鈴木)
- テレビアニメ「はたらく細胞」
- 放送情報
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TOKYO MX:2018年7月7日(土)24:00~
とちぎテレビ:2018年7月7日(土)24:00~
群馬テレビ:2018年7月7日(土)24:00~
BS11:2018年7月7日(土)24:00~
MBS:2018年7月7日(土)26:38~
テレビ愛知:2018年7月7日(土)25:50~
北海道放送:2018年7月7日(土)26:38~
RKB毎日放送:2018年7月8日(日)26:25~
AT-X:2018年7月10日(火)23:00~ - スタッフ
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原作:清水茜(講談社「月刊少年シリウス」連載)
監督:鈴木健一
シリーズ構成:柿原優子
脚本:柿原優子、鈴木健一
キャラクターデザイン:吉田隆彦
細菌キャラクターデザイン・プロップデザイン・アクション作画監督:三室健太
サブキャラクターデザイン:玉置敬子
総作画監督:吉田隆彦、玉置敬子
美術監督:若林里沙(アトリエPlatz)
美術設定:曽野由大、橋口コウジ
音響監督:明田川仁
音楽:末廣健一郎、MAYUKO
アニメーション制作:david production
製作:アニプレックス、講談社、david production - キャスト
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赤血球:花澤香菜
白血球(好中球):前野智昭
キラーT細胞:小野大輔
マクロファージ:井上喜久子
血小板:長縄まりあ
ヘルパーT細胞:櫻井孝宏
制御性T細胞:早見沙織
樹状細胞:岡本信彦
記憶細胞:中村悠一
B細胞:千葉翔也
好酸球:M・A・O
マスト細胞(肥満細胞):川澄綾子
先輩赤血球:遠藤綾
肺炎球菌:吉野裕行
ナレーション:能登麻美子
ほか
©清水茜/講談社・アニプレックス・davidproduction
- 清水茜「はたらく細胞①~⑤」
- 発売中 / 講談社
- 清水茜(シミズアカネ)
- 1994年生まれ。東京都出身。第27回少年シリウス新人賞にて大賞を受賞。月刊少年シリウス2015年3月号(講談社)より「はたらく細胞」を連載中。
- 鈴木健一(スズキケンイチ)
- アニメーション監督・演出家。「HELLSING OVA」や「SD ガンダム三国伝 Brave Battle Warrious」では監督を務めたほか、テレビアニメ「ジョジョの奇妙な冒険」「ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース」でもシリーズディレクターを手がける。