コミックナタリー Power Push - 「はるかリフレイン」

「ひぐらしのなく頃に」竜騎士07、語る もし読んでいたら「ひぐらし」は生まれていなかった

繰り返すことで失われる死の神聖性

──確かにもうここまで来ると、悲惨なシーンなんだけど、笑ってしまうというのはとてもよくわかりますね。

ドリフの「志村後ろー!」みたいな、お約束ギャグのようなものですよね。「はるかリフレイン」ではループものの登場人物が陥りがちな、独特の感情や現象を、みんな明るくあっけらかんと描いている。恋人が事故で何度も死ぬという状況すら、コメディとして仕立てているわけです。そもそもループを繰り返すと、必ず死の神聖性が薄れるんですよ。

──重大な出来事であるはずの死ですら、陳腐になってしまうと。

僕が「ひぐらし」を書いていて苦労したところもそこで。「死は怖いものだから避けていこう」というのが根本にあるんですが、何度も繰り返すとつくづく死が怖くなくなってしまうんです。「どうせ死んだって生き返るんだから、周りの人間を殺して回ればいずれ犯人がわかるじゃん」みたいな極論も出てきてしまう。

──その緊張感を失わせずに物語を作るのは確かに難しそうです。

「次はがんばろう」と、目の前で啓太が死んでもあっさりしたはるか。

「はるかリフレイン」は最初からコメディとして描かれているので、「こんだけ何やっても彼氏は死ぬんだから、そりゃあ目の前で死んでも苦笑するしかないわな」っていうのが、非常にストレートに描かれている。僕は死を怖いものとして書くためにすごく心を砕いたけど、最初からコメディとして描いてしまえばよかったんだなっていう。コメディとループっていうのは想像以上に好相性だったんだな、と思いました。

──竜騎士さんが自作で、死の陳腐化を防ぐためにされたことというと何がありますか。

例えば「ひぐらしのなく頃に」だと、ループをずっと俯瞰して見ている子が、そのことを1人で抱え込んで疲労してしまっているとか、ヒロインが暴走して、人を殺したり自殺したりしてしまうとか。そういう狂気をホラーチックに描いたことがそれにあたりますね。でもねえ、難しいんですよ。「うみねこのなく頃に」なんか、章ごとに大量に人が死んでいくわけで。

──「うみねこ」だと確かにその傾向は顕著ですよね。孤島の中で、20人弱の人間が毎回ほぼ全員死んでいくというのを繰り返すわけですし。

ただ「はるかリフレイン」でも、やり直しが効いてしまうということで失われる緊張感を、何も補完していないわけではなくて。あまり言うとネタバレになってしまいますが、無限にループできるわけではないということを後半には示していますし。

──「ひぐらし」でも後半になるにつれ、巻き戻せる時間が短くなるという制限がありましたね。

そういう制約を設けることは、言ってしまえば王道なんですよね。ただ「はるかリフレイン」が描かれた時代を考えると、この頃からそれらをしっかり押さえて、きっちり12回でまとめたというのは、やはりとてもすごい。本当に整理された物語だなあと思いますね。

ループが終わりを迎える2つの理由

──ループものに登場するキャラクターが陥る感情というのは、どのようなものなんでしょう。

時間をループすることができるようになった人っていうのは、当たり前なんですけど人生を受け入れなくなるんですよ。例えば何かテストを受けて結果が出たら、及第点にせよ赤点にせよ、普通は納得しますよね。「この時点でのベストなんだから仕方ないよな」「次はがんばろう」っていうふうに、取り返しがつかないことゆえに飲み込むわけです。それは逆に言うと、取り返しがつくようになったら、永遠に納得できなくなってしまうということ。

──リセットして、いつまでもよりよい結果を求め続けてしまうわけですね。

「次はがんばれよ」とテストの答案を返す教師。最初は最悪だった点数も、ループの中でどんどん上がっていく。

1日生きるだけでも、これでよかったのかな、リセットしてみようなんてことは山ほどあるわけですよ。それを実現できるっていうのが、ループものがここまで人を惹きつける魅力でもあるわけで。だからループをする人というのは、納得するまでずっとループし続けてしまうわけで、やっぱり言ってみれば頭がおかしくなってしまうんですよ。ルーパーが納得するというのは100点満点が取れたときか、もう疲れ切ったときのどちらか。

──なるほど。それで言うと「はるかリフレイン」の結末は……どちらになるかは言えないですが、分類できますね。

現代では、過去に戻って変えた世界も、元々いた世界も共存するという、いわゆる並行世界論が出てきたので、それに慣れている人が「はるかリフレイン」を読むと、あのオチは感慨深いかもしれないですね。

伊藤伸平「はるかリフレイン」2016年11月26日発売 / 復刊ドットコム / 756円
「はるかリフレイン」

TSUTAYAの“本の目利き”書店員と復刊ドットコムによる協同プロジェクト第1弾に選ばれたのは、90年代に進研ゼミ(ベネッセ)の「高1チャレンジ」で連載された、知る人ぞ知るSFラブコメディの傑作「はるかリフレイン」。1998年に白泉社より刊行された単行本を底本に、再編集・増補した復刻版が登場!

「啓太の死は運命なんかじゃない。このリフレインは神様がくれたチャンス!」異色の変身巨大ヒロインマンガ「まりかセブン」を生み出した、ミリタリー界やSF界ではコアなファンも多い伊藤伸平による痛快青春ストーリー!

伊藤伸平(イトウシンペイ)
伊藤伸平

1984年に少年サンデー増刊号(小学館)でデビュー。美少女アクションの第一人者で、特撮、アイドル、軍事、SFなどのオタク的知識に裏打ちされるギャグと、銃器や爆発を多用するハードなアクションが特徴。代表作に北爪宏幸のOVAをコミカライズした「モルダイバー」や「楽勝!ハイパードール」「まりかセブン」「キリカC.A.T.s」など。

竜騎士07(リュウキシゼロナナ)

同人サークル「07th Expansion」代表。架空の村・雛見沢村で巻き起こる怪死・失踪事件を描いたサウンドノベル「ひぐらしのなく頃に」シリーズを、2002年から2006年にかけてコミックマーケットで発表。同作は同人ゲームでは異例のヒットを記録し、アニメ化、コミカライズなど多数のメディアミックスが展開された。そのほかの代表作に「うみねこのなく頃に」「彼岸花の咲く夜に」など。