クライマックスを間近に控えた、濱田浩輔「はねバド!」の15巻が発売された。good!アフタヌーン(講談社)にて連載中の本作は、バドミントンに青春を捧げた女子高生たちの熱い戦いを描くスポーツもの。2018年にはTVアニメ化も果たした。
コミックナタリーでは「はねバド!」15巻の発売を記念し、濱田のインタビューを実施。特装版に付属するミニ画集とともに、6年間の連載を経た今、改めて本作を振り返ってもらった。
取材・文 / 増田桃子
初期の絵はなんとかして目立ちたいっていう気持ちが表れている
──15巻は「はねバド!」初の特装版が発売されるということで。どうしてミニ画集を付けることになったのでしょうか。
担当さんから提案してもらって作ることになったんですが、買ってもらえるかなっていう心配のほうが大きかったですね。でも喜んでくれる人もいるかなと思って……。絵もけっこう変わりましたし、これまでの歩みを見られるってことで(笑)。
──こうしてまとめて見ると、絵柄の変化がわかりやすいですね。
初期の絵は、なんとかして目立ちたいっていう気持ちが表れているなと思います(笑)。僕、目線を向けている絵を描くのがすごく苦手なんですよ。表紙とかって、キャラクターにとってはグラビア撮影じゃないですか。そういうものに対する引き出しがないというか、インプットの量が足りないんですよね。だから9巻ぐらいから表紙の止め絵に限界を感じてきて、ちょうど全国大会が始まるタイミングだし、よりスポーツマンガらしくしようみたいな感じで、そこからは試合シーンの絵ばかりになりました。
──初期の頃はアニメっぽい塗り方ですが、最近はアートのような塗り方で、けっこう変わっているのかなと思うのですが。
デジタルなんですけど、特に塗り方は変わってないですね。ただ初期は普通に肌色を肌色として塗ってましたが、今は一度白黒で塗って、後から色を乗せることがほとんどです。
──だから印象が違うんですね。カラーで特にこだわっている部分はありますか。
サイケデリックな色味が好きなんですよ。どの色を使うか悩んだときはとにかく派手な色を置くっていう。あと表紙は、目にしたときにテンションを上げてほしいので、インパクトあるものを意識してますね。
──ちなみに画集の中で、特に気に入っているイラストは?
僕はこの、good!アフタヌーン2015年9月号の表紙イラストが一番気に入ってます。タイミング的にも一番絵柄が変わってきた時期のものですが、いまだに一番好きです。
本格的にスポーツをやろうと腹をくくったのが大きかった
──絵柄の変化についてはいろいろと聞かれることが多いと思うのですが、改めて変化の理由を聞かせてもらえますか。
読者の皆さんは、絵柄の変化のほうが気になると思うんですが、個人的にはネームのほうが変わっているなと思っていて。3巻まで描いたあたりで、作品が中途半端になっているというか、これ以上上に行けないんじゃないかと感じたんですよね。熱くなれないというか……。それで本格的にスポーツをやろうと腹をくくったのが大きかったですね。
──確かに、初期はコメディっぽい描写も多くて、スポーツものというよりは部活ものという印象が強いです。何かきっかけがあったのでしょうか。
うまく話が転がせなくて悩んでいたとき、担当さんが「誰かになる必要はないですよ」って言ってくれたのがけっこうでかくて。絵が変わったのも“かわいい女の子を描く人”になる必要がないと気付いたからだと思います。最初のうちは、かわいい女の子を描くことで、自分がこういう仕事を商業的にさせてもらえているってどこかで思い込んでいたところがあって。まあ言ってしまえば、マンガを描くうえで実力不足だったと思うんですよ。それと同時に、本格的なストーリーものを描く自信がなかったので、かわいい女の子を描くことでなんとかしようとしていたんでしょうね。それが自分の喜んでもらえるポイントなんだという認識だったので。
──そうだったんですね。
でも「本当にそうなのかな?」っていう疑問が出てきて。マンガ家志望だった頃のように、もっと自分が本当に描きたいと思うものを出してもいいのかもしれないと。ちゃんと作品として面白いと言ってもらえるものを目指してもいいんじゃないかという気持ちが出てきた。「女の子がかわいくなくなった」って言われるかもしれないけど、僕が面白いと思うものを素直に描いてみようと思えたのが4巻以降ですね。そこからは変ながんばりが消えて、リラックスして描けるようになったなと思います。
──絵柄やネームを変えることって、そんなに簡単にできるものなんでしょうか。
下手な時期というか、自分のスタイルがない時期って変われる気がするんですよ。僕はまだ絵柄がフラフラしている時期だったので、変えること自体は問題なかったです。ただ落ち着くのに10巻ぐらいまでかかりましたけどね。
──先程、絵柄よりもまずネームを変えたとおっしゃっていましたが、ネームを変えたことに伴って絵柄も変わっていったということでしょうか。
(絵柄を)変えた理由としては、当時の僕の技術的にかわいらしさを残したまま試合中の躍動感を出すのが難しかったことが大きいです。キャラクターをかわいらしく描こうとすると絵が止まって見えるというか……。躍動感がないことはずっと気になっていて、どうやったらそれを変えることができるのかと悩んでいた時期でもありました。今にして思うと、絵柄だけの問題じゃなくて、コマ割りやレイアウトも悪かったんですよね。コマの中でどれぐらいの大きさでキャラクターを収めれば動いているように見えるのか、みたいなことも、絵柄を変えていくことでだんだんわかってくるようになってきました。
──なるほど。
例えば、1巻のコニーの試合シーンがわかりやすいと思うんですけど、レイアウトのシルエットが全部切れちゃってるんですよ。もっと引いて体全体を入れれば、動いてるように見えるんです。あるいはそのときのレイアウトの考え方で、地平線を斜めにするとか。少なくともコマに対して人物がでかすぎますね。
──レイアウトはいつごろから意識しだしたんでしょうか。
5巻の綾乃となぎさの試合あたりからは完全に意識してました。ある界隈の人からしたらそんなの常識だろって言われるかもしれないですけど(笑)、知らなかったものですから。
──何を見せたいかが変わってきたのもあるんでしょうね。キャラクターをかわいらしく見せたいなら顔のアップがいいとか、体のラインが見えるようにとか。躍動感を優先した場合は引いたほうがいいと。
おっしゃるとおりだと思います。本格的にスポーツものをやろうとしたことが、絵柄にも表れていたんだなと。1巻のシーンはコニーの顔を描こうとしてたんでしょうね。
──絵柄の変化について、読者の方から何か言われたりしましたか。
それはまあ言われますよね(笑)。僕はTwitterをやってるので、「もう2度とお前には騙されないぞ」みたいなDMが来たりしました(笑)。
──「かわいいキャラが見たかったのに、絵柄を変えるんじゃない!」というお叱りが。
申し訳ないことをしたなと思いましたけど、嫌がらせでしたわけじゃないですし。まあ怒ってる人には嫌がらせみたいなものでしょうけど(笑)。
──逆に変わったことで読者が増えた部分もありますよね。
直接「変わってよくなったよ」みたいなことを言われたりはしてないですけど(笑)、離れずについてきてくれてた人がいるのはすごく感じますね。マンガを描いている以上、絵が褒められるよりは物語を褒められたほうがうれしいっていうのが、少なくとも僕にはあって。もちろん褒めてもらえたらなんだってうれしいんですけど、「絵がかわいければいいよ」って言われるのはちょっと寂しいですね。
ガットもシャトルも見えたことないですもん(笑)
──バドミントンをテーマにしたマンガで、ここまでヒットした作品は珍しいなと思います。
自分で言うのもアレですけど、バドミントンをマンガで描くのってかなり難しいと思います。個人的には、ワンバウンドしないのが難易度を上げているんじゃないかなと思うんですよね。テニスみたいにボールがバウンドするコマが入ると、マンガとしてリズムが作りやすいと思うんですが、バドミントンってシャトルを落としちゃいけないから、ひたすら打ち合いになってしまうんですよね。
──スピード感がありすぎると。
はい。そうすると間が取れないので、緩急を付けにくいんですよ。でもやっぱりスピード感は大事なので、そのバランスが難しいんじゃないかなと。あと細かいところですが、シャトルの描き方ひとつとっても、「はねバド!」はビームの打ち合いみたいに線が伸びる描き方をしてますけど、いろんな見せ方があると思いますし。ラケットを真っ直ぐに描くべきかどうかとか。僕はちゃんと描かない選択をしました。
──ラケットの動きは、腕を振っている仕草で伝わりますしね。
そうそう。だからガットもシャトルも描かなくていいんですよ。だって僕、試合観に行って思うけど、ガットもシャトルも見えたことないですもん(笑)。
──確かに(笑)。
1巻のときはちゃんとラケットも描いてるんですけど、力強さがないんですよね。それに気付いてからは、描くのをやめました。ラケットやシャトルが見えるのは演出上止まっている、スーパースローカメラで撮ったときだけになりました。
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勝敗に納得してもらえるように描きたい