「ステージ用意しとくから君たち自由に動いて」という体制でマンガを描いている
──「兄友」のストーリーを振り返ってみて、特に印象に残っているエピソードを2つ挙げるとしたら?
第1話で西野が言った「妹さん…可愛いな」はやっぱり欠かせないと思います。あれにすべてが詰まっていると言っても過言ではないはずですので(笑)。
──まさに「壁ごし&つつ抜けLOVE」なシーンでした。
それからもう1つは、お寺で新年を迎えるシーンです。このあたりでこの2人だけの関係性が作られ始めたのかな、と思います。……なんて他人事のように振り返りましたが、実際描いているときは「ステージ用意しとくから君たち自由に動いて」みたいな感覚なので、後になってから「君たち、もしかしてこのときこんな感じだったんじゃない……?」と気付きます。読者のように。
──あはは(笑)。初詣のエピソードは単行本の2巻に収録されてますが、“今から考えるとこの辺りで2人の関係性が……”という感じなんですね。ストーリー全体の流れは、赤瓦さんの思い通りになりましたか?
今言ったように「ステージ用意しとくから君たち自由に動いて」という体制なので、登場人物が自由に動いたり動かなかったりするんです。そのせいでストーリーの流れが思うように作れないことがあって。でも、担当さんとも相談しながら「ここでこのキャラにこうさせようと思ってたけど、むしろストーリーを変えてこういうふうに……」と変更して作り上げた展開は、元のものよりもキャラクターが生き生きと動いているように思います。
──「キャラクターが生き生き」と聞くと、個人的にはまいが西野とPCを買いに行った49話を思い浮かべます。家電販売員のおじさんがすごく生き生きしてて、恋愛的に盛り上がってる場面だからまいや西野をアップにすべきなのに、モブのおじさんがアップになってるから面白くて笑っちゃうんですよね。単行本のコメントでも、49話は「一番評判が良かった」と書かれていました。
49話は「テンポよく、モブキャラも面白く描けたぞー」とは思っていたのですが、ここまで皆さんに気に入っていただけるとは思っていませんでした。「店員さんに共感!」という声を多くいただけたので、「思いがけず初対面の人と好きなマンガの好きなカップルの話で盛り上がってテンション上がりまくった!」という状況をこの49話で味わうことができたのではないでしょうか。私が読者の立場だったら確かにうれしいですね(笑)。
天使と悪魔の話が狸の話に
──花とゆめで連載中の「ラブ・ミー・ぽんぽこ!」についても聞かせてください。人間の婿を探すため、人里に下りて来た化け狸のぽんこを主人公にした婚活コメディですが、狸を主人公にした理由は?
初めは天使と悪魔の話を考えていて、紆余曲折を経て狸の話になりました。
──めちゃくちゃ紆余曲折しましたね。
詳しく説明すると天使が一(はじめ)と真(まこと)、悪魔がぽんこの立場で、互いに正体を隠して学校で交流を持っていて。一ポジションの天使は悪魔である同級生のことを「めちゃくちゃかわいい。もしかして人間ではなく彼女も天使なのでは?」と思っているんですが、真ポジションの天使に「目を覚ませ、きっとあいつは悪魔に違いない」と忠言される……という話でした。
──確かに「ラブ・ミー・ぽんぽこ!」と構造が似てますね。一はたぬ沢蘭子ことぽんこのことを狸だとはまったく知らずに「天使は存在したんだ」と崇拝に近い感情を持っていますし、真はたぬ沢が狸だとは気付いていませんが、男をゲットするために学園に来たことを見抜いています。
ええ。それが担当さんとの打ち合わせを経て狸になりました。
──なぜ狸に?
よく覚えてなくて……。天使と悪魔ではストーリーを練るうえでなにか不都合があったからだったと思うんですが。
──狸に化かされた感じがあって面白いです(笑)。狸の取材には行きましたか?
これから行く予定です! 家の近くに野生の狸が出るのに、狸のいる動物園は近場にないというなんともいえない状況です。
──人間のたぬ沢も美人ですが、狸のぽんこがもふっとしていてすごくかわいくて。狸を描くときのこだわりを教えてください。
「かわいく!」「動物感を出す!」「デフォルメ化しすぎないように気を付けて!」「とにかく動物感を忘れない!!」と頭の中で唱えながら描いています。表情豊かと言われますが基本の表情バリエーションは実は多くなく、ちょっとした首の傾きだとか口の開き方だとかを調節して独特のぽんこ的な表情を作り出します。
──「ぽんぽこ!」で気に入ってるキャラクターは?
やはりぽんこです。理由は「狸が少女マンガの主人公をしているから」です。人間にも化けますが、あくまで本体は狸であり、思考も自意識も動物寄りです。私が描いてきた中でも一番「今までにない!」と思うキャラクターで、自分でもかわいいと思いながら描いています。
──赤瓦さんはデビュー作の「恩返しUMAうにょくらげ」だったり、「兄友」の動物ネタだったり、「フルバ」トリビュートのボルゾイやヌートリアなど、動物を描くのがお好きな印象があります。
動物を描くのはとても苦手なんです。骨格を見て勉強しているのですが、角度やポーズが変わると一瞬で混乱してしまいます。「ぽんぽこ!」を描く際も「私にできるのかな……」と不安でしたし、実際動物マンガとしては目も当てられないほどの出来だとは思います。
──ぽんこはもちろん、雪紘の好きなダメ犬とかとてもかわいいと思うのですが。
描き上げた動物たちは思いのほかかわいくて(笑)。私の中に「かわいく描く!」という1つの柱があるからだと思います。そこさえしっかりしていれば、後は画力のレベルアップあるのみなのでこれからの成長に期待していただきたいです。
──今まで描いてきて印象に残っている動物は?
やっぱりぽんこ! 一番こだわっているキャラクターです!
──動物からは少し離れて、ご自身の絵柄で特徴のある部分はどこだと思いますか?
あまり自分では特徴がわからないのですが「髪が好き」「手が好き」と言っていただけることがよくあります。実はどちらも苦手なのですが、逆に苦手だからこそ「ここは気合い入れて描かないと!」となって特徴のひとつになっているのかな、とも思います。
──確かに、まいもたぬ沢も髪がキュートです。「ぽんぽこ!」の1巻には「四角関係(?)婚活ラブコメ」というキャッチフレーズがつきましたが、今後どんなラブが展開されるのでしょうか?
婚活をしているので「ラブコメ」と銘打っていますが「四角関係(?)ラブコメ」にあたるかどうかは作者の私にもよくわかりません……。「兄友」と同じく「ステージは用意しとくから君たち自由に動いて」体制ですね。
──「ぽんぽこ!」の見どころはどこだと思いますか。
とにかくぽんこです! 担当さんから「何をしても腹立つ!(いい意味で)」と褒められるキャラクター性を大事にしていきたいと思います。
──今後の展開を、明かせる範囲で教えてください。
ほかにも動物がたくさん登場します。
──最後に赤瓦さんのファン、また花とゆめの読者にメッセージをお願いします。
いつも応援ありがとうございます! この先も読者の方に好きと言っていただけた自分のマンガの空気感を大事にしつつ、成長していきたいと思っています! これからもどうぞよろしくお願いいたします!
- 赤瓦もどむ「ラブ・ミー・ぽんぽこ!①」
- 発売中 / 白泉社
種の生き残りを懸けて、人間の雄と番うために山からやってきた化けだぬき・ぽんこ(♀)。より良い雄と結婚するため、セレブな学校に入学したが、たぬき姿のときにとある双子に拾われてしまう! その双子とはセレブな学校でも一目置かれる二ノ宮兄弟! 化けだぬきであることもすぐにばれてしまうが、ある条件のもと、ぽんこの婚活を手伝ってくれることになり……!?
「ラブ・ミー・ぽんぽこ!」の出張版が10月25日発売のザ花とゆめファンタジーに掲載
- 花とゆめ22号
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雑誌 税込400円
赤瓦もどむ「ラブ・ミー・ぽんぽこ!」が初表紙! 付録は「暁のヨナ」「コレットは死ぬことにした」「ラブ・ミー・ぽんぽこ!」のかわいい動物たちがペーパーバッグになった「Halloween♪あにまるペーパーバッグ」。
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- 2011年、ザ花とゆめ(白泉社)にて「恩返しUMAうにょくらげ」でデビュー。花とゆめ文系少女(白泉社)で鳳乃一真のライトノベル「龍ヶ嬢七々々の埋蔵金」のコミカライズを担当。2015年に「兄友」の連載がスタートし、2018年に全10巻で完結。同作は横浜流星主演により実写映画化、実写ドラマ化を果たした。現在花とゆめ(白泉社)にて「ラブ・ミー・ぽんぽこ!」を連載中。
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2019年11月20日更新