1974年に創刊されて以降、数々の名作少女マンガを送り出してきた花とゆめ(白泉社)に、異色のヒロインが誕生した。彼女の名はぽんこ。第1話の開幕3ページ目にしてトイレで踏ん張っているシーンを披露した化け狸ヒロインである。
この「ラブ・ミー・ぽんぽこ!」を描いているのは、横浜流星主演にて実写ドラマ化・映画化も果たした「兄友」の赤瓦もどむ。花とゆめの創刊45周年を記念した本特集の8回目となる今回は赤瓦に登場してもらい、「兄友」「ラブ・ミー・ぽんぽこ!」、そして赤瓦についてたっぷりと話を聞いた。
取材・文 / 三木美波
「幸福喫茶3丁目」が「私の中の花とゆめ!」
──赤瓦さんがマンガ家を志したのはいつ頃ですか? 花ゆめの特集でほかの作家さんにも聞いているんですが、皆さん「小さい頃から絵を描くのもお話を考えるのも好き」で、「子供の頃からマンガ家になる以外の選択肢がなかった」とか「マンガ家になる方法もわからなかったけどなるって決めた」とか、幼少期からマンガ家になることを意識していたのが印象的で。
私も、保育園児の頃にはすでに絵を描く楽しさにハマっていました。小学校低学年で自由帳にマンガを描き始め、「絵やマンガを描く仕事に就く」ということは自分の中ではほぼ決定事項でした。
──すごい。そのマンガはお友達に見せたりしてたんですか?
はい。ノートに描いたマンガを友達が「我先に!」と回し読みしてくれたり、その感想をもらったり、保健室の先生に頼まれて描いた4コマのポスターが予想外に生徒にウケているのを目の当たりにしたりといった思い出が、自分の「マンガ家になりたい欲」を刺激していたのだと思います。
──子供の頃、花とゆめは読んでいましたか?
雑誌は購読していなかったのですが、中学生の頃には花ゆめ作品をコミックスで買い漁って。特に「幸福喫茶3丁目」(松月滉)は「これが私の中の花とゆめ!」というべきマンガで、友人からコミックスを貸してもらったのをきっかけに自分で全巻購入するに至りました。
──「幸福喫茶3丁目」、懐かしいですね! キャラクターが生き生きしていて、読んでいると幸せな気分になれるお話でした。そう言えば、4月発売のザ花とゆめキュート(白泉社)で「フルーツバスケット」好きな作家さんたちによるトリビュート企画に寄稿してましたよね。紫呉の椅子にボルゾイが座っていても「紫呉じゃない」ってみんな気付かなくて、吹き出してしまいました(笑)。
ありがとうございます! トリビュートに参加できたのは「赤瓦さんって『フルーツバスケット』好きでしたよね……?」と担当さんからお声がけいただいたことがきっかけです。
──「小学生の頃から透君が大好き」「由希君にゾッコンでした!」と雑誌のコメントに書かれていましたね。
私が「フルーツバスケット」を知ったのはアニメが最初でした。当時、アニメに原作があるという概念すら薄い幼少時代の話なんですが、1話で透くんのビジュアルが出てきた時点で「かわいい、好き」となっていたので、ほぼほぼ本能でゾッコン状態でした。もちろん由希くんにも……。
──あはは(笑)。花ゆめ作品をたくさん読んだとのことですが、「花ゆめらしい作品」と聞いたとき、どんな雰囲気を思い浮かべますか?
恋愛以外で何か別のテーマがあって、それを進行している過程で爆弾級の恋愛要素が放り込まれるといったイメージが強いです。個人的に花とゆめのこの比率がとてもいい塩梅です。
──ああ、その不意を突かれる感じ、わかります(笑)。花ゆめに投稿された理由は?
「幸福喫茶3丁目」なんです。どこかの雑誌に投稿したいと考え始めたとき、「幸福喫茶3丁目」が連載されているということで初めて雑誌の花とゆめを購入して。「幸福喫茶3丁目」もそうですが、花とゆめが持っている独特の雰囲気に惹かれて、「自分もここでマンガを描けたら……」と思いました。
──そして2011年に「恩返しUMAうにょくらげ」でデビューされたんですね。「龍ヶ嬢七々々の埋蔵金」のコミカライズ連載を経て、2015年に代表作の「兄友」をスタートさせます。現在の花とゆめの良さを、連載作家の視点で語っていただけますでしょうか。
「かなり自由に描かせてもらっている!」と思います。連載中の「ラブ・ミー・ぽんぽこ!」を見ていただいたらわかると思いますが(笑)。
──わかります、狸が普通に少女マンガのヒロインでびっくりしました(笑)。
のびのびとした作風に惹かれて花とゆめに投稿して、のびのび育てられた感があります。
──特に毎号楽しみにしている連載中の作品は?
「コレットは死ぬことにした」(幸村アルト)です。独特の世界観といいますか、死後の世界の設定などが非常に空想的で胸躍ります。心理描写が繊細で温かみがあって、一読者として応援させてもらっています。
──デビューからこれまでのマンガ家としての活動の中で、うれしかったこととつらかったことを教えてください。
なんだかんだ、日々いただける感想が常に「最もうれしい出来事」です。基本的に自分の作品で誰かを楽しませたり驚かせたりすることが好きなので、反応が見られるとうれしくなります。つらかった出来事は、実は今のところ特にありません!
──45周年を迎えた花とゆめですが、今後どんな雑誌になっていってほしいですか?
1つひとつの作品が読者の方にとっての宝物になるような、「作品を大事に!」という花とゆめの雰囲気がこの先も続いてほしいな、と思います。
「兄友」で「特に超展開や悲しい展開がなくてもいいんだ」と気付いた
──赤瓦さんにとって初のオリジナル連載「兄友」は実写ドラマ化・実写映画化を果たし、2018年に完結しました。3年間の連載を終えた率直な感想を聞かせてください。
想像以上に長く続いたな!と思います(笑)。元が読み切り作品だったのもあり、出ても5巻くらいまでかな?と思っていたのですが、メディア化したことも影響してか、気付けば10巻まで出していただけることになっていました。最初から最後まで一貫して平和な雰囲気で走り抜けた「兄友」ですが、「特に超展開や悲しい展開がなくてもいいんだ」と、ひとつの気付きを得ました。もちろん物語上必要な場合はそういったものを差し込みもしますが、無理に雰囲気を変えなくても10巻までは走れるとわかったのは、作品の空気感を重要視する自分にとっては大きな収穫でした。
──「兄友」は周囲の恋愛観についていけない女子高生・まいが、兄の友達・西野と恋に落ちるラブコメディです。「壁ごし&つつ抜けLOVE」というキャッチコピーの通り、まいと兄の部屋は壁が薄くて、西野が兄の雪紘の部屋で「妹さん…可愛いな」と言ったり、雪紘にまいについて相談したりするのをまい本人が聞いてしまう……という展開はどういうきっかけで思い付いたんでしょうか?
自分のテリトリー内に赤の他人がいるのはかなり緊張すると思うのですが、それが男女の意識に繋がったらどうだろう?と考えました。実際にはちょっとご勘弁願いたいシチュエーションかもしれませんが、そこを「あ、これなら嫌じゃない! いいかも!」と思わせることができたら面白いな、とも思いました。
──西野は、現代の少女マンガの中では珍しいタイプのヒーローだと思っていまして。なんらかの突出した才能やカリスマ性があり「現実にはいないだろうけどカッコいい」というヒーローではなく、まいに一途でとても優しく落ち着いていて何事も普通にできる、「現実にもいるんじゃないか」とちょっと夢を見させてくれるタイプというか……。
壁越しにヒーロー側の本音が聞こえてきて、かつ人柄も知れるという状況なので、その人柄は安心感の持てる人でなくてはいけませんでした。例えば俺様系の人なのに壁越しに聞こえる本音は優しくてウブ、という状況も面白いですが、それだとまいの相手役としては精神年齢が低いように感じてしまいます。
──なるほど。まいに合うのは裏表のない、安心できる人だと。
なので西野を描くときは“普段は虚勢を張って格好つけている”感じが出ないようにと気を付けました。ほかの女性がそういう人を好きになったとしても、まいは好きにはならないので……!
- 赤瓦もどむ「ラブ・ミー・ぽんぽこ!①」
- 発売中 / 白泉社
種の生き残りを懸けて、人間の雄と番うために山からやってきた化けだぬき・ぽんこ(♀)。より良い雄と結婚するため、セレブな学校に入学したが、たぬき姿のときにとある双子に拾われてしまう! その双子とはセレブな学校でも一目置かれる二ノ宮兄弟! 化けだぬきであることもすぐにばれてしまうが、ある条件のもと、ぽんこの婚活を手伝ってくれることになり……!?
「ラブ・ミー・ぽんぽこ!」の出張版が10月25日発売のザ花とゆめファンタジーに掲載
- 花とゆめ22号
- 発売中 / 白泉社
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雑誌 税込400円
赤瓦もどむ「ラブ・ミー・ぽんぽこ!」が初表紙! 付録は「暁のヨナ」「コレットは死ぬことにした」「ラブ・ミー・ぽんぽこ!」のかわいい動物たちがペーパーバッグになった「Halloween♪あにまるペーパーバッグ」。
- 赤瓦もどむ(アカガワラモドム)
- 2011年、ザ花とゆめ(白泉社)にて「恩返しUMAうにょくらげ」でデビュー。花とゆめ文系少女(白泉社)で鳳乃一真のライトノベル「龍ヶ嬢七々々の埋蔵金」のコミカライズを担当。2015年に「兄友」の連載がスタートし、2018年に全10巻で完結。同作は横浜流星主演により実写映画化、実写ドラマ化を果たした。現在花とゆめ(白泉社)にて「ラブ・ミー・ぽんぽこ!」を連載中。
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2019年11月20日更新