1月に「覆面系ノイズ」を完結させた福山リョウコが、8カ月ぶりに花とゆめ(白泉社)に帰還した。「彼女とか要らね」「無駄口叩いて馬鹿やってる方が絶対いい」と豪語する男子高校生を主役にした新連載「恋に無駄口」が花とゆめ19号にてスタート。さらに福山はほぼ同時に青年誌・ヤングアニマルZERO(白泉社)でも新作「聴けない夜は亡い」を発表し、不定期で連載していく。
花とゆめの創刊45周年を記念した本特集の第6回となる今回は、福山へのインタビューを実施。“白福山”と“黒福山”と本人が呼ぶほど毛色の違う新連載2本の誕生経緯、「覆面系ノイズ」に懸けた6年間、そして花とゆめへの思いを語ってもらった。
取材・文 / 三木美波
新連載、読者にもモダモダしに来てほしい!
──9月5日発売の花ゆめ19号で、「覆面系ノイズ」完結から8カ月ぶりの新連載「恋に無駄口」がスタートします。
わー! もう8カ月経つんですね、時間の流れ怖い!
──それに9月9日に誕生する新増刊・ヤングアニマルZEROでも新連載「聴けない夜は亡い」が始動します。青年誌での連載は初めてですが、今の率直なお気持ちは?
花ゆめでの連載とそんなに違いはなくて、どの雑誌に載るかはあまり頓着していないですね。あ、でもZEROの編集さんから「おっぱいが大事」と言われたので、サイズを大きめにしてシャツの質感やシワの表現もがんばってます(笑)。
──少女誌とは異なる点ですね(笑)。
はい。最近は女性作家さんが青年誌で描かれることも増えてきてますし、皆さんあまり絵柄を変えてはいないので、私も線を少し太くするくらいで変わらずに描いています。
──まず、花ゆめの新連載「恋に無駄口」からお伺いします。「覆面系ノイズ」は“片恋×バンド”がテーマとしてありましたが、新連載はどんな題材で描く予定ですか?
“青春は無駄である”です。
──「覆面系ノイズ」ではバンドに懸ける少年少女たちの、かなり密度の濃い青春を描かれているので、また違う方向性の作品ですね。
そうなんです。私、ずーっと根をつめるタイプの子たちというか、生き急ぐ少年少女を描いてきたので、しょうもない話が描きたくて。
──1話を拝読すると、仁科くんをはじめ葵、シロ、マヤという男子4人組が楽しそうにどうしようもない青春を謳歌しています。
はい、青春を無駄に過ごしている男の子たちが恋にモダモダする話なんです。読者にもモダモダしに来てほしい!
──あはは(笑)。福山さんは“青春は無駄である”と思ってますか?
うーん。“無駄”と“かけがえがない”って表裏一体だと思っていて。無駄な時間を過ごしていた当時は気付かなかったけど、今考えたらめちゃくちゃかけがえのない青春だったっていうこと、あると思うんです。「覆面系ノイズ」とか「悩殺ジャンキー」みたいに、目標に向かって駆け上がるような青春もいいけど、何気ない青春の日常を1話完結で描いてみたいと。
──1話目、ネタバレなので詳しくは言えませんが仁科くんと叶さんが出会うシーンには驚きました。マンガに登場する出会いのお約束としてネタ化されていますが、そういえば実際にマンガで読んだことはなかった展開だと気付かされて。
あんなド典型、初めて描きました! しかも大ゴマ使って(笑)。マンガ家19年目でこれを描くとは……。何かしょうもないことを描くというテーマでネームを切っていたら、ああなってしまったんですよね。この作品は、読者さんに構えずに読んでほしいんです。「覆面系」はいい意味でも悪い意味でも「読むのに力がいる」と何度か言われたことがあって。私、ご飯を食べながらマンガを読むことが多いんですが、それくらい気軽にいつでもウェルカムなラブコメを目指したいと思ってます。
マンガを描けなくなった
──ほぼ同時にスタートする「聴けない夜は亡い」は、「恋に無駄口」とは打って変わってシリアスな物語です。
実は「聴けない夜は亡い」のほうが先にできたんです。だから、「恋に無駄口」はその反動で生まれた真逆なラブコメなんですよ。
──「聴けない夜は亡い」は、父親を亡くした少女が「お通夜の間に話を聞いて告別式の朝迄に依頼を遂行する」という葬儀屋の通夜オプションを申し込む場面から始まります。主人公は、大切な人を喪った依頼者の話を聞く“聴き屋”の青年。死をテーマにしたシリアスな部分と、福山さんの持ち味である、感情に訴えるエモーショナルな部分が同居していて、過去作とは趣の違う作品だと感じました。
もともと「死をテーマに」とは考えていなくて、ベースの設定は「覆面系」が終わった後に花ゆめで描こうと思って考えていたものだったんです。男の子が過去のトラウマから、自分の夜の時間を貸すバイトをする物語。でも「別のネタで」となり、寝かせておきました。そのあと、身の周りで不幸や病気を目の当たりにすることが重なって、ちょっと思い詰めちゃった時期がありまして。私はマンガを描くことを愛しているので、失恋した直後だろうがなんだろうがマンガを描けていたんです。でも、そのときは描けなくなってしまって、花ゆめの新連載のネタ出しをしなければいけなかったのに全然できなくなってしまったんです。死に関わるネタしか考えられなくなってしまったんですけど、そのときに「あ、夜を貸すバイトの話、死を絡めればきっと描ける」と思って。花ゆめの新連載の準備より先に、こっちのプロットとネームを描きました。もう本当になんの苦労もなくスルスルと出てきて。
──そして「聴けない夜は亡い」ができたと。この話を青年誌で連載しようと思ったきっかけは?
「覆面系」を一緒に立ち上げた編集さんがヤングアニマルに異動していたんです。花ゆめには向かないマンガだし、私から「こういう話が描きたいんですけどどうですか?」と話を振りました。最初はアニマル本誌で連載と考えてくださっていたんですが、新増刊の誕生時期と合致して。
──花ゆめもアニマルも隔週発売なので、本誌連載が実現していたら大変だったでしょうね。
そう、スケジュールは懸念事項だった……というか実現したら地獄でした(笑)。「聴けない夜は亡い」は隔月刊のZEROで、しかも不定期連載なので無理はせずにやっていこうと思います。
──それでもダブル連載は覚悟が必要かなと思います。決断された理由は?
両方描きたいって思ってしまって。思っていたことをすべてぶつけた「聴けない夜は亡い」も、そっちで思いを吐き出せたから生まれた、「恋に無駄口」も。本当に真逆なので、読者の皆さんには黒福山と白福山を楽しんでほしいです。
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一番うれしかったことも大変だったことも
「覆面系ノイズ」で味わった
- ヤングアニマルZERO 2019年10/1増刊号
- 2019年9月9日発売 / 白泉社
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雑誌 税込850円
福山リョウコの新連載「聴けない夜は亡い」が開幕。
- 福山リョウコ「覆面系ノイズ」全18巻
- 発売中 / 白泉社
-
Kindle版 税込8748円
歌が大好きなニノは、幼い頃2つの別れを経験する。1つは初恋の相手・モモ。もう1つは曲作りをする少年・ユズ。いつの日かニノの歌声を見つけ出す……2人と交わした約束を信じてうたい続けてきたニノ。時はすぎ、高校生になった3人は……。TVアニメ化、実写映画化も果たした話題作。
- 福山リョウコ(フクヤマリョウコ)
- 和歌山県出身。2000年にザ花とゆめ(白泉社)に掲載された「カミナリ」でマンガ家デビュー。2003年に花とゆめ(白泉社)で10代のモデルを主人公とした「悩殺ジャンキー」の連載を開始、同作がヒットし代表作となる。その後、2008年より2012年まで「モノクロ少年少女」を発表。2013年から2019年までバンドと片恋をテーマとした「覆面系ノイズ」を連載。TVアニメ化、実写映画化も果たす。
2019年11月20日更新