1974年に創刊された花とゆめ(白泉社)の45周年を祝う本特集も、折り返しの第4回に突入。今回は「墜落JKと廃人教師」の5巻が発売されたばかりのsoraへインタビューを行った。
主人公・扇言(みこと)が屋上から飛び降りようとするシーンから幕を開ける「墜落JKと廃人教師」は、2017年に全3回の集中連載としてスタート。好評を博して連載化が決定、第1巻は発売後1週間で即重版がかかり、5巻までで紙と電子合わせて累計60万部を突破している。そんな花ゆめのニューカマー・soraに、扇言に迫る“クズ教師”灰仁の創作秘話や、花ゆめでの月2回連載と他媒体での月1回連載を掛け持ちできる驚きの月産量の秘訣を聞いた。
文 / 三木美波
先生のほうが引いてしまっては「JKが死ぬ」
──“女子高生と教師のラブストーリー”は少女マンガの定番とも言える題材ですが、通常は大人である先生が生徒の恋心を拒絶したり、生徒から一歩引いたりという描写が多いですよね。でも「墜落JKと廃人教師」は、先生のほうから生徒を口説いたりグイグイとスキンシップをとったりと、話運びが新しいと思っていまして。
この作品は自殺志願の女子高生を「どうせ死ぬならその前にいけない恋愛をしよう」と先生が引き止めるところからスタートしていて、先生のほうが引いてしまっては「JK死ぬな」と思ったのでグイグイいってしまってます。
──確かに1話でも灰葉仁先生、通称“灰仁(廃人)”は主人公の女子高生・扇言に「生きろ」とか「死ぬな」とか通り一遍の言葉をかけずに、「ちゃんと口説く前に死なれちゃ困るんだけど」と言って飛び降りを思いとどまらせましたね。
そもそも本当の初期は、灰仁には教師設定はなくて。「主人公といつも一緒にいるには」「キャラにギャップをつけるには」「このキャラのこの性格で過去の出来事の設定的にはどういう職につきそうか」ということを考え、なるようになった結果が教師だったんです。
──初期の作品イメージとして「元気に鬱ろう!! ネガティヴダイアロジックラブコメディ」というワードがあったとか。その言葉の通り、自殺未遂から始まる物語であることや、バレンタインのエピソードは餓死、プールのエピソードは溺死を想像させるシーンで始まったりと、どこかシリアスな要素を孕みつつ、クスッと笑える場面も多い独特の読み心地です。soraさん自身は、「墜落JK」のシリアスとコメディのバランスをどう捉えていますか?
「墜落JK」はシリアスなネタに、ラブコメの皮を被せて擬態させる感覚で描いています。なので描く側としてはキャラの過去からテーマまですべてを知っているので「シリアス7、ラブコメ3」なのですが、読んでもらったときに「シリアス3、ラブコメ7」くらいで受け取ってもらえていれば成功かなと思います。
──soraさんがこれまでのストーリーを振り返ってみて、特に印象に残っているエピソードはどれですか?
1話と2話はセットで思い付いたんです。この作品の肝を作った話だと思っているので、この2つはぶっちぎりです。
──1話は屋上から飛び降りる寸前の扇言と灰仁の会話劇で、2話は扇言が駅で飛び込みをするのではと勘違いした灰仁のさりげない優しさと思いやりが光るエピソードでしたね。肝というのは?
作品のテーマとスタイルです。テーマは誰が読んでもきっと伝わると思っているので聞かないでください。スタイルは、ネガティブでシリアスなテーマを柔らかく重くなく描きつつ作品全体はローテンションであること、1話完結形式であること、エピソードが不穏な始まりであること、などです。
──なるほど。ほかに印象に残っているエピソードはありますか?
3巻18話のお盆祭り回です。演出とキャラの気持ちの盛り上がりが、なんかうまいこと描けた気がします。あとは盗聴デートなんていう今まで描いたこともないネタだったというのも、印象に残っている理由かもしれません。
──友達の高峰一馬と2人でお祭りに行った扇言に、灰仁が盗聴器を仕掛けた盗聴デート回ですね。盗聴器の存在に気付いている扇言は一馬と会話しつつも、それが灰仁に向けた言葉にもなっていて……という。一方的な盗聴なのに会話が成立していてまさに「ダイアロジック(対話)ラブコメディ」を感じました。現在単行本は5巻まで発売されていますが、ストーリー全体の流れはsoraさんの構想通りになっていますか?
根本的な大筋部分は思い通りになっていると思います。ただ、1つひとつのエピソードだけで見ると、少し予想外の展開になっているのかもしれません。原稿が上がった後に次の回について軽く担当さんと話すのですが、ネームではそのとき話したものと全然違う話を描いたり、ネームがボツって話が丸々変わったりなどよくあるので、けっこうライブ感が強いです。
マンガって麻薬だなと思います
──花ゆめ作家さんは、臨機応変でライブ感のあるマンガ作りをする方が多いみたいですね(笑)。「墜落JK」はクズだったりぼっちだったりと癖のあるキャラクターが多いですが、soraさんが気に入ってるキャラクターは誰ですか?
有働淳人です。
──4巻から本格登場した彼ですね。家計のためにバイトを364連勤して、虚ろな顔で線路に立っているところを扇言に助けられた情緒不安定な男子高校生。有働を気に入っている理由は?
闇を抱えたキャラが好きなんです……と答えようと思ったら基本的に全員抱えていましたね。強いて言うなら、有働淳人の情緒不安定さには同情と親近感を覚えます。
──有働、今後も活躍しそうですね。発売されたばかりの5巻の、見どころを教えていただけますでしょうか。
JKのメンタル面での成長でしょうか。たぶんですが今まででいちばん笑顔が多いです。あと5巻にはミニカラー画集が付いた特装版もあるんですが、カバーとイラスト2点が描き下ろしだったので、コミックス本体と合わせてカラーをめちゃくちゃたくさん描きました。カラー作業は大好きなのでとても楽しかった反面、スケジュール的には本当に大変でした。でも今まで描いてきたイラストを色校でまとめて見たときは感慨深いものがありました。
──スケジュールと言えば、花とゆめで「墜落JKと廃人教師」を月2回連載、KADOKAWAのComicWalkerで「転生魔女は滅びを告げる」を月イチ連載と、soraさんはかなり生産量の多い作家さんですよね。毎月何ページくらいを仕上げているんでしょうか?
定期的な休載や1話2分割掲載があったり、コミックスの描き下ろしや読み切りが追加されたりで月によってページ数が違うのですが、ざっくり計算して多いときで80~90ページくらいだと思います。
──すごい! 過密なスケジュールで知られる少年マンガ誌などの週刊連載が1話19ページくらいなので、ほぼ同量の月産枚数になりますね。編集担当の方から「sora先生は作画が速い」と伺ったのですが、ご自身ではマンガを描くどの過程が速いと思いますか?
ほかの方を知らないので自分からはなんとも言えないのですが、まさに毎日寝る間を惜しんで描く状態でやっているのが作画が速いと思われる一因かもしれません。あまり休みなく描いているという意味なだけで寝ていないわけではありませんけどね。
──なるほど。
マンガって麻薬だなと思います。何を差し置いてでも描くほどとても楽しいです。
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福山リョウコ先生が憧れ
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- 発売中 / 白泉社
豪雨降りやまぬとある夜、女子高生・扇言はクズ教師・灰仁宅への“お泊まり”を強行され……!? そして、文化祭シーズン到来。人混みと喧噪の中、2人の恋は秘密裏に──。
「文化祭が終わった後一番記憶に残ってるのは俺がいい」
もどかしい距離のキケンなつり橋効果LOVE!
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雑誌の表紙や付録用カット、本編の扉絵など、連載開始から単行本4巻分までに描かれた美麗なカラーイラストをたっぷり30点以上収録。この画集だけの描き下ろしイラストや未公開ラフ画も掲載、「墜落」ファン、そしてsoraファン必携の特装版。
- 花とゆめ16号
- 2019年7月20日発売 / 白泉社
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雑誌 税込400円
「墜落JKと廃人教師」が初のドラマCD化!
灰葉仁:中村悠一
落合扇言:雨宮天
高峰一馬:内山昂輝
- sora(ソラ)
- 2015年、第65回ビッグチャレンジ賞にて「ヤンキー少女とひねくれ男子」で佳作受賞。2016年、花とゆめ(白泉社)にて「先見少年シンドローム」でデビューし、2017年より同誌にて「墜落JKと廃人教師」を連載中。三月ソラのペンネームでも活動している。
2019年11月20日更新