花とゆめ(白泉社)の創刊45周年を記念し、コミックナタリーでは特集を展開中。第2回には、累計部数120万部を突破した「黒伯爵は星を愛でる」を2018年に完結させ、4月より新連載「執事・黒星は傅かない」をスタートさせたばかりの音久無に登場してもらう。フィナーレを迎えた「黒伯爵」を振り返っての思いや、内弁慶なお嬢様と変態執事の恋を描く「執事・黒星」の想定外な展開とは?
文 / 三木美波
「ぼく地球」「赤僕」が読みたくて花ゆめ読者に
──音さんは花ゆめ読者でしたか?
はい。小学生の頃に友達に花ゆめの存在を教えてもらって。それまでは幼年誌を読んでいたのでちょっと背伸びした感じがしましたが、「ぼくの地球を守って」や「赤ちゃんと僕」が読みたくて買い始めました。
──その2作が連載されていた1980年代後半から90年代も、名作揃いですよね。ほかにお好きな作品はありますか?
いっぱいあって挙げきれないのですが、「ガラスの仮面」が衝撃的でした。残念ながら、私が花ゆめを買っていたときはもう長期休載されていたので雑誌では読めていないんです。でも、マヤと亜弓さんや速水さんの関係にドキドキしつつ、マヤは次に何をするんだろうというワクワク感で、本当にページをめくる手が止まらない面白さでした。児童館で単行本を読んでいたんですが、抜けている巻もあったりして「ギリギリッ……(歯ぎしり)」と。今も友人たちとマヤの真似をしたりします(笑)。
──あはは(笑)、マンガが好きな子供時代だったことが伝わってきます。
ええ、保育園の頃から外で走り回るよりも絵を描いたり本読んだりすることが好きだったインドアな子供で。小学生のときに児童館で、先ほど挙げた「ガラスの仮面」や「うる星やつら」「ベルサイユのばら」などの名作マンガに出会って、私も物語を作ってみたいなあと思うようになったのがマンガ家を志したきっかけでした。ノートに鉛筆で描き始めて……その頃から、マンガ家になる方法もわからないのにマンガ家になるぞって思ってましたね(笑)。
──最初から花とゆめに作品を投稿していたんですか?
いえ、幼年誌に投稿していました。でも少女マンガの自由さを感じさせてくれた花ゆめにだんだん心が向いていって。要するに、オタクになったんだと思います(笑)。
──オタクに(笑)。交流のある花ゆめ作家さんはいますか?
今はミユキ蜜蜂ちゃんに遊んでもらっています。この前、今は別のところで描いている同期デビュー組のみんなも一緒にアフタヌーンティーに行きました。
「花ゆめらしい作品」はない気がする
──音さんは2004年に「兎の仮面の男」でザ花とゆめ(白泉社)でデビューを果たし、「花と悪魔」「女王様の白兎」「黒伯爵は星を愛でる」、そして新連載の「執事・黒星は傅かない」とずっと花とゆめで連載を続けています。現在の花ゆめの良さを、作家の視点から語ってもらえますでしょうか。
そんなことを語らせていただくのは100年早いですが、昔も今も多彩なジャンルの作品があるのがいいと思います。私は特にファンタジーものが好きで。
──確かに、花ゆめにはコメディ、学園もの、歴史もの、スポーツなど本当にさまざまなジャンルのマンガが連載されてきましたが、ファンタジーは昔から強いジャンルですね。「天使禁猟区」「紅茶王子」「フルーツバスケット」「神様はじめました」など、ちょっと考えるだけでファンタジー要素がある作品がたくさん浮かびます。音さんの「花と悪魔」は悪魔、「女王様の白兎」は宇宙人、「黒伯爵は星を愛でる」は吸血鬼が出てくる作品ですし、花ゆめ連載中の作品でも、「それでも世界は美しい」「コレットは死ぬことにした」「蒼竜の側用人」「贄姫と獣の王」とたくさん……。
そうなんです、今の花ゆめはファンタジーの連載が多いので、ファンタジー好きとしてはとてもうれしいです。
──かつての花ゆめ読者で、今は花ゆめ作家の音さんが、「花ゆめらしい作品」と聞いたとき、どんな作品を思い浮かべますか?
「らしい」というのはない気がするんです。連載が始まったときに「花ゆめでは珍しい作風だな」と思っても、載っているうちにだんだん花ゆめっぽく感じてくるような、そんな懐の深い雑誌だと思います。
──ああ、そうかもしれませんね。音さんが花ゆめでマンガを描くにあたり、自分に課していることやこだわりなどはありますか?
花ゆめに限ったことではないと思うのですが、大半の読者さんが見たいのはキャラクターであってストーリーではないと考えていて。作品はキャラクターの魅力があってこそで、そのキャラクターが動くことでストーリーが面白くなる、というスタンスの作品作りを心がけています。決してストーリーにキャラクターが引っ張られてはいけないなと。
──なるほど。ストーリーありきだと、例えば描きたいストーリーラインに持っていくために主人公にいつもは言わないような、違和感がある言動を取らせてしまったりする。そうではなくて、主人公の言葉だったり行動だったりを大切に、ストーリーを考えていく……ということでしょうか?
ええ。でもこれは連載をする中でじわじわと実感できたことなので、昔は全然できていませんでした。今もできているかはわからないのですが、それを忘れないようにしたいと思っています。
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黒星の変態キャラは全然予定になかった
- 花とゆめ12号
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花ゆめ45th YEARはまだまだこれから!!
表紙:師走ゆき「高嶺と花」
付録:高屋奈月「フルーツバスケット」由希&夾のW缶マグネット
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Kindle版 税込5832円
下町で花売りをするエスターは、母を亡くし、双子の兄とも離れ離れ。「いつも笑顔でいれば、素敵な王子さまが現れるわ」という母の言葉を支えにしていたある日、エスターのもとにヴァレンタイン伯爵が現れ、「貴女は今日から私の花嫁です」と……!? しかし、伯爵には別の顔も……!? 半吸血鬼のシンデレラストーリー!
- 「執事・黒星は傅かない」1巻
2019年7月19日発売決定 -
「黒伯爵は星を愛でる」の番外編も収録。
- 音久無(オトヒサム)
- 4月22日生まれ、東京都出身。2004年に「ヒトサンマルマル」でビッグチャレンジ賞に準入選し、同年「兎の仮面の男」でザ花とゆめ(白泉社)にてデビューを果たす。代表作は「花と悪魔」「黒伯爵は星を愛でる」など。2019年より花とゆめ(白泉社)にて「執事・黒星は傅かない」を連載中。
2019年11月20日更新