コミックナタリー Power Push - 池谷理香子「ハコイリのムスメ」
「シックス ハーフ」作者が新作で描くは箱入りお嬢様とイケメン男子の偽装婚約
イケメンな行動は、胸キュンよりニヤニヤしてしまう
──今回の男性キャラ、紀之も登場シーンから大変カッコいいですね。
ありがとうございます。笑顔がないですよね(笑)。暗い人ってわけじゃないんですけど、今のところ、ほとんど笑ってない。紀之はかなり真面目な人ですね。
──ついイケメンというのにひっぱられますが、実は真面目。
珠子さんよりもずっと。東京に行けることになって「ラッキー!」と思えるタイプじゃない。引っ越してきたときも、「自分は居候だからリビングとダイニングは使わない」って言ってみたり、頑固なところがあります。
──池谷先生の男子キャラクターは、みんなカッコいいのですが、いわゆる王子様像とは少し違いますよね。ちょっと影があるような場合が多い。
どちらかというと「いい味出してるなあ」みたいな人が好きなのもあるんですけど、男の人のカッコいい行動みたいなものをよくわかっていないんですよ。リアルに想像するとキュンとするよりもニヤニヤしちゃって。でも実際に自分が壁ドンとかされたら、飲み会とかで、20年間くらいは自慢するでしょうけど(笑)。マンガで読むのはいいんですよ。壁ドンのシーンとか「おお、おおお!」って思うんですけど、自分が描くとなると……オリジナルなシチュエーションが何も思い浮かばない。こりゃダメだなって。描くとしてもどうしてもギャグっぽく描いちゃうと思う。壁ドンってある意味ラテンな行動というか、勇気ある行動ですよね。「この女、自分に惚れてるな」っていう確信があるからやれるというか……なんて考えちゃう人は、描けない(笑)。ネームを切るときに、自分がちゃんとワクワクしていないといいものにならない。
──確かに「シックス ハーフ」のあーちゃんも、壁ドンをかっこよくしそうなタイプではないですね(笑)。不思議な、でも魅力的な男性でした。
巻数を重ねるうちに、読者の方に好きになってもらえたらいいなと思っていましたね。一発では好きになってもらえないなとわかっていたので。キャラとしては地味でしょう? 1話目とかだと、ただ優しい、いいお兄ちゃんだなっていう感じですし。
──そういった地味な王子様を出すのって、かなり勇気のいることだと思うのですが。
途中、ちょっと焦りました(笑)。やっぱり読んでいて「こんな男の子と付き合いたい!」って思ってもらえたらうれしいなというところはあるので。男性として好きになるなら、開くんのほうがわかりやすいですよね。正直だし、顔もカッコいいし。でもリーゼントですからね(笑)。2人とも色気が足りないと思ったりもして。
──読者人気は競っていたのでは? 最後のほうまでどちらとくっつくのかわからなかったですし。
読んでいる人が、先を読めないほうが面白いですよね。
血反吐を吐くくらいの感情を描かないとおもしろくない
──「シックス ハーフ」に限らず、池谷先生の作品は読んでいてざわざわした気分が続きます。ちょっといつも不穏で、サスペンスフルな感じがあって。
ざわざわしますか。なんでだろう?
──「ハコイリのムスメ」も、期待感とともにざわざわしはじめているところはあります。全体的にはポップで明るい印象ですが。
今のところは。トビラとかも明るい感じで描いていますし。ただ確かに、私のマンガはだいたいちょっとずつ暗くなっていったりするので。
──暗い……というかどんどん深まっていくというか。
珠子たちが、これからいろいろなことを経験していく中で、どんどん人間関係が濃厚になって、重みを増していくかな、とは思います。深刻な気持ちが増えてくる。人の感情って、やっぱり真剣じゃないとつまらないじゃないですか。歯ぎしりするとか、血反吐を吐くくらいの感情じゃないと面白くない。……いや、気持ち的にですよ? 血反吐を吐いている絵は描かないですけど(笑)。パっと見クールでも、心の中はみんな葛藤しているわけで。1人ひとりの感情が高ぶったりするところは、きっちり描いていかないと、と思っています。
──ではこれから、ですね。
この2人が、大学4年間の契約婚約中にどうなっていくか、という話じゃないですか。それが4年経って、本当に「契約終了! じゃあね!」って終わったらびっくりしますよね(笑)。読んでくれている人は、2人がくっつくといいなとかいろいろ想像してくれると思うんですけど、いい感じにそれを裏切って、斜め上をいけたらと思っています。
──たぶん、池谷先生のファンは、そこに期待しているところもあって。先ほど言ったざわざわもそうですが、いつもちょっとずつ裏切られるのが気持ちいいというか。
それはちょっと、意識しているところはあるかもしれませんね。
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あらすじ
珠子は東京暮らしに憧れる箱入り娘のお嬢様。偶然出会った紀之にも後押しされ、その夢は膨らんでいく。猛反対していた祖父だが、珠子と紀之が許婚同士となり、2人が同じ大学に合格すれば、東京行きを認めると!!まさかの提案に珠子と紀之は、なんと偽装婚約を!?
- 池谷理香子「シックス ハーフ」全11巻発売中 / 集英社
- 1巻 / 432円
- 11巻 / 453円
あらすじ
バイクで事故った詩織は目覚めると記憶を失っていた。家に戻り兄・妹と暮らし始めるが関係はぎくしゃくするばかり。学校ではヒドい噂を流され孤立してしまう。過去の自分が分からず、居場所を見つけられない詩織は……!?
「ハコイリのムスメ」が表紙&巻頭カラーで登場。1巻の続きが掲載されている。このほか、ままかり「まわれ!白川さん」と櫻井リヤ「無頼だるR」の新連載2本もスタート。付録は矢沢あい描き下ろしのイラストを使った「NANA」のクリアファイル。
池谷理香子(イケタニリカコ)
11月5日茨城県生まれ。1989年、多摩美術大学在学中にYOUNG YOU(集英社)にて「いつか何処かで」でデビュー。以後、同誌で作品を発表するが2006年掲載誌の廃刊にともない発表の場をCookie(集英社)へと移す。同年より年下男子との恋愛模様を描く「微糖ロリポップ」、2009年より事故で記憶を失った女子高生を主人公に据えた「シックス ハーフ」をそれぞれCookieにて連載。その他の代表作に「サムシング」「FUTAGO -ふたご-」など。