「ガルパン」はなぜ萌えミリタリーの金字塔となりえたか
──鈴木さんは、「ガルパン」がこれほどまでに人気が出た理由はどんな部分にあると思われますか?
それは、ぶっちゃけて言うと誰にもわからない(笑)。ただ1つは、水島監督のやりたいことと吉田さんの脚本の親和性がよかった。水島監督はチームプレイをどう動かすか、どう見せるかというのがすごくうまい。一方の吉田さんは、女の子5人くらいのグループものが非常にうまい。吉田さんは何がすごいって、セリフ1つでキャラクターを表現することができるんですよ。そういうセリフを書くことができる。だから「ガルパン」はあれだけたくさんキャラクターがいるのに、全部のキャラが魅力的なんですよね。それに「最終章」になると、キャラクターが登場せずに戦車の砲塔同士でしゃべってたりする。それでもお客さんは、どのキャラクターがしゃべってるのかきちんと想像がつく。
──キャラクターの画像をカットインで入れなくても大丈夫だと。そのくらい個性が際立っている。
戦車の見た目もそうです。Ⅲ突(Ⅲ号突撃砲F型)なんかは私がカラーリングをしたんですが、最初に提出したときは、もうちょっと抑えめの配色だったんです。そうしたら水島監督から、「これじゃだめだ。ひと目で、色で戦車がわかるようにしてくれ」と指示があって。38(t)戦車B/C型は金色で、M3(M3中戦車リー)はピンク色なので、それに負けないようにⅢ突もだんだらを入れたり、旗竿を立てたり、思い切り派手にしようと。そうしてできたのがあれです。水島監督は「そうだよ、こういうのだよ」とおっしゃっていました。
──確かに、あれなら戦車に馴染みのない視聴者でも、どれが誰の戦車かわかりますもんね。
出す戦車にも、架空戦記もののお約束っていうのがあって、要は史実では活躍できなかった車輌が活躍する、というのが大事なんです。たとえば「ガルパン」にはポルシェティーガー(VK4501(P))が出てきますけど、ポルシェティーガーは当時失敗作だとして制式採用されなかったものなんです。最近の研究だと、それなりに活躍したとも言われているんですが、そうした車輌が動いて活躍したらやっぱり面白いですよ。それに「ガルパン」は、IV号戦車の短砲身という、すごく弱い状態からスタートさせてるんですよ。そこから主人公たちの成長に伴って、戦車も強化して強くなっていく。これってスポーツものの王道ですよね。「ガルパン」は戦車じゃなくてもドラマが成立する青春部活ものの枠組みに、戦車を持ち込んで、それがうまく融合している。初心者にも入りやすいですし、新しく映ったのではないでしょうか。キャラクターだけ追っていても物語がわかる、楽しめるというのは大きいと思います。
晴風を家族にしたのは吉田さん
──成長という部分で比較すると、「はいふり」の晴風の乗員たちは、最初からみんな技術がありますよね。砲術長や水雷長はここぞという場面で毎回しっかり決めますし、機関科もトラブルをきっちり乗り切る力がある。
本当は船の動かし方もわからないところから勉強していく、というのがやりたかったんですけど、SF要素が増えたりしたのもあって、尺が足りなかった(苦笑)。それに女の子たちだけで出港する以上、素人ばかりだと沈んじゃいますから、別の道でプロだったり、詳しかったりする子たちの集まりにして。
──TVシリーズではそうして集められた乗員が、数々のピンチを乗り越えながら絆を深めて、精神的にも成長し、1つの“家族”になるという物語が描かれました。
「船の乗員は家族である」というテーマを決めてくれたのは吉田さんですね。バラバラだった乗員がだんだん家族になって、みんなで協力してピンチに立ち向かうというドラマになった。そこが吉田さんのうまさだと思います。
劇場版は晴風の物語の集大成
──劇場版ではどんなところに注目してほしいでしょうか。先ほど、本来やりたかったことが満を持してやれる、というお話もありましたが。
そうですね、劇場版はお客さんの観たいものを一番に据えつつ、TVシリーズでやり残したこと、やりたかったことを中心に仕上げました。OVAで戦闘がなかったという話がありましたから、戦闘はもちろんですし、横須賀にいるときの女の子たちの様子など、キャラクターの掘り下げもまだまだやりたい。それから、他校や先輩たちから晴風のメンバーがどう見えているかということを描いて、彼女たちの成長を客観的に見せられたらと思っています。あと我々がやり残したことというのは、艦隊戦です。PVとかでもすでに出していますが、大和型が4隻揃い踏みというシーンは、ぜひ劇場の大画面で観ていただきたいですね。大和型っていうのは現実には2隻しか作られてないですし、あれが4隻揃うというのは、我々としては夢なわけですよ(笑)。そういう詳しい人が「おっ」と思って語りたくなる要素もありますし、初心者がキャラクターだけを追って観ても話がわかるよう作っていますから、ただ女の子かわいい、戦闘カッコいいと思って観てもらうぶんにも大丈夫です。
──すごく盛りだくさんに思えますが、2時間に入り切るんですか?
正直、岡田(邦彦)さんが最初に脚本をくださったとき、「入るわけないじゃん」ってなりました(笑)。でも今回が晴風の物語の集大成というつもりでやるので、そこは期待していただけたらと思います。
──OVAはココちゃん(納沙幸子)がフィーチャーされた内容でしたが、劇場版ではどのキャラクターにスポットライトが当たるんでしょうか。
今回は副長のましろです。ましろの物語はTVシリーズでも一応の決着がつきましたが、まだ完結していない。それに、明乃ともえかの間に割って入って、三角関係を成立させてあげないといけないなと考えています。
──三角関係ですか。
TVシリーズまでの明乃は、晴風の艦長でありながら、幼なじみのもえかのことばかり考えていたわけですよ。一方、もえかも明乃のことは見ているけど、ましろのことなんて全然気にしていない。でも船の乗員が家族で、艦長と副長がお父さんとお母さんなら、2人はもっと特別な関係になってもらわないといけないというか、そうじゃないと話が先に進まないと思うんです。ましろが明乃ともえかの間でもっと存在感を示せるか。それこそずっと明乃の面倒を見てきたもえかに、明乃との関係を嫉妬してもらえるか。明乃を任せてもいいと思ってもらえるか。そういう部分にも注目してもらえたらと思います。
──劇場版というと、「ガルパン」が先行して成功を収め、4D版が上映されるなど、盛り上げてきた分野でもありますよね。劇場版をやるということで意識された部分もあるのかなと思うのですが。
もちろんです。「ガルパン」の映画のすごさっていうのは、やっぱり音だと思います。音響監督のこだわりもあるし、いろいろな劇場が協力してくださって、爆音上映なんかも実現しましたよね。爆音上映を観に行くと、まるでお尻の下から着弾するような音がするわけですよ。映画は全身で観るものだってことを再確認させてくれた。その特別な体験をしたいがゆえに、みんな劇場に足を運んだわけです。その昔、映画館は非日常を体験しに行く場所だった。それが非日常でなくなってしまっていたところを、「ガルパン」はもう一度非日常に揺り戻してくれたんですよね。
──「はいふり」も劇場でやるからには、その特別な体験ができるものにしたいと。
そうですね、TVシリーズではできなかったこと。それこそ大型艦がじわーっと迫ってくるような感覚は、小さなテレビやスマホの画面では迫力がないじゃないですか。激しい主砲の発射シーンなんかもぜひ大画面で、いい音響で観たい。できれば「はいふり」でも爆音上映をやっていただきたいですね。
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「はいふり」は「ガルパン」があったからこそ生まれた