アニメ「グラゼニ シーズン2」特集 森高夕次×大根仁対談|主人公が絶対に打たれなきゃいけない、野球マンガの妙

「グラゼニ」の映画監督バージョンを作ってみたい

大根 そもそもの話なんですけど、スポーツマンガってお金の部分はあまり描かないじゃないですか。年俸や税金などの話は、アンタッチャブルというか。

森高 ええ、そうですね。

全国東宝系で公開中の映画「SUNNY 強い気持ち・強い愛」のビジュアル。©2018「SUNNY」製作委員会

大根 でも、僕は映画やドラマを作りながら、お金のことを考えるわけですよ。最近だったら、自分が撮った映画「SUNNY 強い気持ち・強い愛」が公開されたばっかりなので、インターネットで20分おきに全国の興行収入を凝視しているとか(笑)。「この地方は全然、人が入ってねえ!」とか「なんであの作品のほうがハコが大きいんだ!」とか、みみっちいことばっかり考えている。

森高 いや、でもマンガ家だってみんな絶対にエゴサーチっていうか、自分の作品の感想を探していたりしますし、単行本の売り上げがよければうれしいですから。

大根 だからですね、映画監督やスポーツ選手なんていう職業は、どうしたって“ちょっとピュア”みたいな、お金の部分を考えるのはヨコシマな感じが漂いますけど、「いや、むしろそこをちゃんと考えようよ」と思うんです。僕は自分の作品が当たっても外れても、きっちりと数字を分析するタイプなので。

森高 プロ野球選手にしたって、かなりの部分でお金のことを考えていると思いますからね。

アニメ「グラゼニ」より。

大根 映画の場合は、映画賞や海外での評価などの付加価値もありますけど、僕自身はやっぱり全国公開のメジャー映画を撮っている立場なので、まず数字を出してヒットを狙う。そういった点は、有名マンガ誌の週刊連載と似たところがあると思うんです。

森高 あーでも、マンガの連載と全国公開の映画だと、動いているお金が桁違いですからね。プレッシャーもまったく違うと思いますよ。「グラゼニ」のアニメもね、1本を制作するのに何千万だなんていう話を聞いてしまうと、こちらとしては「そうかーっ!」みたいな(笑)。そのお金を誰かが出してくれたということを考えちゃうと、ある程度、ビジネス的にペイしてほしいと思いますよね。マンガの場合はそこまで考えてないですから。本当にモチベーションだけというか。そりゃあ、人気があったほうがいいとか、単行本が売れたほうがいいっていう気持ちはありますけど、それよりも「次にこんなアイデアを考えて発表したら、読者が驚くかもしれない」なんていう期待のほうが、僕の場合は上回っていますね。

大根 そう聞くと、自分の小ささがちょっと恥ずかしくなってきました(笑)。

森高 いやいや、映画の世界には僕にはわからないすごい苦労があると思いますから! キャスティングひとつにしても、今回の「SUNNY 強い気持ち・強い愛」だったら、篠原涼子や広瀬すずを出せばどのぐらいの観客が見込めるとか、そういったことの積み重ねだと思うので、マンガみたいに単純なものじゃないんじゃないかと。実は僕は「グラゼニ」の映画監督版みたいなものもやってみたいんですよ。

大根 おお、ぜひ僕に取材してくださいよ。

左から森高夕次、大根仁。

森高 映画監督というのは、非常に謎の多い職業ですよ。大根さんはすごく露出があるので、どんな生活を送られているかはなんとなくわかるんですけど、中には名は知られているけど、何年も映画を撮らない方もいらっしゃるじゃないですか。その間、単純にどうやって暮らしているのかなとか、聞いてみたいんですよ。

大根 面白いと思います。僕は所属してないんですけど、映画監督の協会というのがあって、そこに入っている監督たちの平均年収がいくらだっただろう……。ほとんどの監督が映画だけでは食えていないんじゃないかな。

森高 だから、現時点でお金のない映画監督が、どうにかして食べていく能力も必要だと思うんですよね。そういう部分を取材していくと、深い世界があるんじゃないかなと常々思っています。

椎名林檎の歌を使った「グラゼニ」の演出に鳥肌

──森高先生は、大根監督が「グラゼニ」の愛読者だということをいつからご存知だったのでしょうか?

森高 えーっと……誰かに教えてもらったんですよ。大根監督が、「グラゼニ」の「東京ドーム編」で椎名林檎の「青春の瞬き」という歌の歌詞を使ったエピソードについて、雑誌で「よかった」みたいに書いてくれているよって。

大根 そんな軽い褒め方じゃないですよ(笑)、もっと激賞していますよ!

──夏之介の高校時代を描いた「ナッツ編」で、彼が打たれてしまうシーンと併行して、「青春の瞬き」の歌詞が綴られていく部分ですね。

「グラゼニ~東京ドーム編~」より。高校2年時、怪我をしていた夏之介は秋の大会で敵チームに打ち込まれてしまう。同エピソードには椎名林檎の「青春の瞬き」の歌詞が使用されている。

森高 そうです。大根監督が書いてくれた文章が載っている雑誌も実際に見せてもらったんですよ。でも、僕はTwitterなどをやっていないから、こちらから「ありがとうございました」と伝える手段もなく、いつか言おうと思い続けていました。

大根 あれはTV Bros.(東京ニュース通信社)のコラムに書いたのかな。SMAPの解散が決まってから、「SMAP×SMAP」に椎名林檎が出たときに、「青春の瞬き」を歌っていたんです。「この曲を選んでくるんだ、さすがだなあ」と思いながら、「そう言えば、『グラゼニ』でもこの曲を使ったすごくいいシーンがあったぞ」と。その両者の表現の素晴らしさみたいなものをまとめて書いたんです。

森高 これは勝手に僕の頭の中に音楽が流れてきてやっているだけなので、もう完全に自己陶酔の世界ですね。読者の方たちにどう映ったのかはわからないですけど。

大根仁

大根 僕は子供の頃から、マンガを読んでいると音が聞こえてくる瞬間みたいなのがあるんですね。わかりやすいところだと、「迷走王 ボーダー」のザ・ブルーハーツの歌詞が出てきたところや、江口寿史先生が若いバンドを描いた「GO AHEAD!!」など。「グラゼニ」の「青春の瞬き」は、久々に聞こえてきましたね。少し鳥肌が立ちました。「ここだけ自分の手で映像化してえっ!」という感じです。

森高 そうそう、このまま映像にしてほしいんですよ。マンガだと、なかなか伝わりにくくて。

アニメ「グラゼニ シーズン2」
BSスカパー!にて2018年10月5日より毎週金曜日22:30~放送
アニメ「グラゼニ シーズン2」
スタッフ

原作:森高夕次・アダチケイジ「グラゼニ」(講談社「モーニング」連載)

監督:渡辺歩

シリーズ構成・脚本:高屋敷英夫

キャラクターデザイン:大貫健一

音楽:多田彰文

音響監督:辻谷耕史

アニメーション制作:スタジオディーン

製作:スカパー!・講談社

キャスト

凡田夏之介:落合福嗣

ユキ:M・A・O

田辺:二又一成

追田:乃村健次

小里:石野竜三

徳永:浪川大輔

渋谷:星野貴紀

松本アナ:松本秀夫

森高夕次(モリタカユウジ)
森高夕次
1963年長野県生まれ。コージィ城倉名義で作品を執筆し、森高夕次名義でマンガ原作者としても活躍する。1989年に週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)にて「男と女のおかしなストーリー」でデビュー。デビュー時から野球を題材にすることが多く、同年ミスターマガジン(講談社)にて「かんとく」、1995年に週刊少年サンデー(小学館)にて「砂漠の野球部」、2003年には週刊少年マガジン(講談社)にて「おれはキャプテン」など数々のヒット作を生み出している。一方で人間の暗い心理を浮き彫りにするような作品も手がけ、2002年にビッグコミックスピリッツで連載した「ティーンズブルース」では、ホストクラブにはまって転落していく女子高生を描き読者を驚かせた。現在の連載作に「グラゼニ ~パ・リーグ編~」「プレイボール2」など。
大根仁(オオネヒトシ)
大根仁
1968年12月28日、東京都生まれ。「アキハバラ@DEEP」「湯けむりスナイパー」などの深夜ドラマで演出を手がける。2011年に映画監督デビュー作「モテキ」で第39回日本アカデミー賞話題賞作品部門を受賞。その後「バクマン。」「SCOOP!」「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」などで監督・脚本、劇場アニメ「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」で脚本を担当。現在、監督・脚本を担当した最新作「SUNNY 強い気持ち・強い愛」が公開されている。