「今のプロ野球はダメ」という偏った主張が「グラゼニ」にはない
あとはアニメに登場するかはわからないんですけど、高校時代、凡田のひとつ上の先輩だった西浦。彼が好きです。高校のときは、いわゆるジャイアン的なエースだったんですけど、プロには行けず、今はケーブルテレビの社員になっている。凡田との関係も、学生時代とはかなり変わってしまって、年下の凡田から「ニッシー」と、あだ名で呼ばれていて。
──当人からしたら、過去の栄光と比較して卑屈になってしまう可能性もありますよね。
でも腹も立てず、心の底から後輩の凡田を応援しているというね。彼のスタンスって、なんかこうグッとくるんですよ。それもまた人生だなあって。もし僕がもっと若い頃に読んでいたら、カッコ悪いと思っていたかもしれないですけどね。40歳を過ぎたいま読むと、彼も彼でステキな人だなと感じます。
──西浦は、凡田の高校野球を描いた、いわゆる「ナッツ編」(ナッツは凡田の高校時代のあだ名)前半のメインキャラクターでもありますね。
本編の間に時折、挟まれてくる「ナッツ編」もいいですよね。でもできれば、「ナッツ編」だけをまとめて1冊の状態で読みたい。というのも、単行本の最後が「ナッツ編」というパターンが多いんですよ。本編に夢中になっていて、「ああ、この巻はあと1話分ぐらいしかページが残ってない!」と思っていたところで、「おい、ナッツ編かよっ!!」となるっていう(笑)。これ、たぶん「グラゼニファンあるある」だと思います。
──ちなみに、苦手なキャラクターはいますか?
最初は、契約にうるさい代理人のダーティ桜塚が、イヤで仕方なかったですね。凡田の周囲であれこれ画策していて、「余計なことするなよ」という感じで。だけど、読み進めていくうちに、意外とイヤな人じゃないことに気づく。代理人の仕事というのは、実際のところ、そういうものなんだろうなと。むしろ、代理人の意見がどれほど重要なのかがわかってくる。これがきっとリアルなんですよ。
──土屋さんは、「グラゼニ」に描かれているエピソードの何割ぐらいが真実だと思って読まれていますか?
え、全部が本当じゃないですか!? 僕はすべて信じちゃっていますよ。実際のプロ野球の世界も「グラゼニ」と一緒だと(笑)。あと基本的に「グラゼニ」って本当に悪い人って出てこないし、勧善懲悪的な描き方ってまったくされてないんですよね。ダーティ桜塚は確かに名前通り、少しダーティなキャラですけど(笑)、みんなが一生懸命、人生をいかに生きようかと考えている。それって、やっぱり原作の森高夕次先生がプロ野球を愛しているからだと思うんですよ。
──プロ野球に携わる人たちへのリスペクトを随所に感じますね。
ですよね! 「グラゼニ」には、「だから、今のプロ野球はダメなんだよ!」みたいな、偏った主張がまったく出てこない。「いまのプロ野球でがんばっている選手を応援したい」という森高夕次先生の思いだけが伝わってくるというか。だから、誰でも入りやすいし、読後もスッキリするんじゃないかな。お金にまつわるネタや、プロ野球のウラ話なんて、もっとダークに描くこともできたと思うんです。でも、ものすごく健全。イヤな気持ちにならない。
ラジオ実況のこだわりをマンガ化してほしい
──今後の「グラゼニ」に期待することは何かありますか?
僕は30年来の西武ライオンズファンなので、凡田がパ・リーグのチームへ来るという展開になって、今後がすごく楽しみになっているところです。セ・リーグに勝るとも劣らない人気になったパ・リーグを舞台に、凡田がどんな活躍を見せてくれるのか。あとは練習中や移動中にかかる費用がどういう扱いになっているかの細かい経費だったり、税金の話とかも教えてもらいたいですね。どこまでがチームからのお金で、どこからが個人のお金なのか。昔から気になっているんですよ。
──マニアックな視点ですね(笑)。
それと、ラジオの仕事もしている人間としては、プロ野球中継についてさらに詳しく突っ込んでほしいですね。実は今日のインタビューの前にニッポン放送で仕事があって、ラジオで野球中継を担当しているフリーアナウンサーの松本秀夫さんにお会いしたんですよ。「今日このあと『グラゼニ』の取材なんですよね。松本さんも何か関わっているんじゃないですか?」って聞いたら、「実は本人役で出ているんです(笑)」っておっしゃっていましたね。
──松本さんはオトワラジオというラジオ局でプロ野球の実況中継を担当するアナウンサーという役どころですね。
あと聞いたところによると、森高夕次先生はラジオ中継のヘビーリスナーだとか。TBSラジオの撤退がニュースになりましたけど、プロ野球中継はいま大事な過渡期にあります。だからこそ、その重要性を「グラゼニ」でぜひ描いてもらいたい。僕はね、ラジオのプロ野球中継、特に実況はすごい技術だと思っているんですよ。ほかのメディアじゃ、絶対にマネできないスキルが凝縮されている。
──具体的にどんなところが?
音だけですべての野球シーンを伝えるというのが、まずとんでもない。感動します。解説者によっては、「そうですね」という言葉をあえて口にしない人もいるそうです。理由は、時間がもったいないから。「そうですね」という返事をする時間を削って、別の情報を入れているという。そういったラジオ中継のこだわりを「グラゼニ」で読んでみたいですね。
──確かに「グラゼニ」にはラジオ解説者のOBもたくさん出てきますし、取り上げられてもおかしくない部分ですね。
あとは、凡田がいつか引退するのかどうか……。果たして森高夕次先生は、ラストのことまでどれぐらい考えているのだろうか……。でも、まだまだ先のことですよね。「グラゼニ」には、これからも僕たちを長く楽しませてもらいたいと思います!
※特集公開時、プロフィールに誤りがありました。訂正してお詫びします。
- アニメ「グラゼニ」
- BSスカパー!にて毎週金曜日22:30~放送中
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- スタッフ
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原作:森高夕次・アダチケイジ「グラゼニ」(講談社「モーニング」連載)
監督:渡辺歩
シリーズ構成・脚本:高屋敷英夫
キャラクターデザイン:大貫健一
音楽:多田彰文
音響監督:辻谷耕史
アニメーション制作:スタジオディーン
製作:スカパー!・講談社 - キャスト
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凡田夏之介:落合福嗣
ユキ:M・A・O
田辺:二又一成
追田:乃村健次
小里:石野竜三
徳永:浪川大輔
渋谷:星野貴紀
松本アナ:松本秀夫
- 土屋礼央(ツチヤレオ)
- 1976年9月1日生まれ、東京都出身。2001年にRAG FAIRのメンバーとしてメジャーデビュー。またツインボーカルバンド・ズボンドズボンのメンバーとしても活動し、2011年にはソロプロジェクトとなるTTREを立ち上げる。ラジオパーソナリティーとしても活躍しており、現在のレギュラー番組にニッポン放送にて毎週月曜から木曜まで13時から16時に放送されている「土屋礼央 レオなるど」、NACK5にて毎週日曜12時55分から17時55分まで放送されている「カメレオンパーティー」など。
2018年5月18日更新