アニメは夏之介の声がイメージ通り
──やはり「グラゼニ」を読んで、プロ野球に対する見方そのものも変わりましたか。
変わりますよ。とりあえず僕は、一般人の感覚に近い凡田というキャラクターを通して、中継ぎ投手という存在がすごく好きになりましたから。もし凡田が大谷翔平選手のような大スターだったら、きっとそうは思わなかったろうし、作品もこんなに長く続かなかったと思います。
──凡田は連載当初は「プロとしてはやっていけるかどうかギリギリの立場」にいたということもあり、生活もかなり庶民的ですね。
プロ野球選手だって人間ですから、お酒を飲むときもあるし、ダラダラと休むときもある。ケガをすれば不安で落ち込むし、子供が生まれればがんばらなきゃいけないと奮起する。そういう部分が見られることで、プロ野球の世界を3Dに、より奥深く見せてくれていますね。連載が続く中で、セ・リーグのチームからメジャーに挑戦して、そこからまたセ・リーグに戻って、今度はパ・リーグへと、いろんなプロ野球の世界を見せてもらえるのも楽しいですよね。アニメ化すると聞いて、「よかったなあ」「大きな存在になったなあ」と思いました。思いきり上から目線な感想ですけど(笑)。
──実際にアニメの第1話をご覧になってみていかがでしたか?
だいたい僕みたいな原作を愛する人間は、アニメ化に対してあれこれと言うものですけど…………イメージ通りでした! 僕はあまり声優さんって詳しくないんですけど、凡田の声はとっても合っていましたね。
──凡田役は落合福嗣さんが演じています。
え? 落合福嗣さん? 落合博満さんの……ご子息の? ああ、そうだったんですか! いやー、知らなかったです。本当に。
──それぐらい違和感がなかったということですね。
バッチリでしたよ。アニメ自体もテンポに緩急があって、サイプレス上野とロベルト吉野さんのオープニングテーマがかかる部分の演出もオシャレで、カッコよかった! アニメファン以外のプロ野球好きも満足できる、完成度の高い作品だと思いました。
選手と同じように、監督にも人生がある
──原作のシーンの中で、特に印象に残っているものはありますか?
凡田が神宮スパイダースに所属していた前半のほうだと、二軍から丸金千太郎という若手キャッチャーが昇格してきて以降かな。凡田が千太郎を支えてやったりしながら、2人が活躍し始めるんですよ。あの辺りは、すごく面白かったなあ。私生活のシーンでは、ヒロインのユキちゃんが働く「キッチン味平」で、ちょっとずつ周りが凡田の存在に気付いていく流れが楽しかった。
──最初の頃は、凡田はただのお客さんで、誰もプロ野球選手だと気付かないんですよね。
それがプロ野球で活躍するに連れて、サインをもらう人が現れたり、ユキちゃんが凡田を意識し始めたり。あのプロとして認知されながら上がっていく気分は、自分自身同じような体験をしてきたので、読んでいてうれしくなるところでしたね。「よし、もっと有名になれ!」「年俸もさらに高くなれ!」と思ったりして。でも実際、プロ野球選手が近くでご飯を食べていても、気付かない人は多いんでしょうね。「ああ、でっかい人だなー」ぐらいで。
──キャラクターで、凡田以外に思い入れのある人はいますか?
監督を務めている人たちには、全体的に思い入れがありますね。凡田の古巣である神宮スパイダースの田辺監督、凡田を何かと気にかけていた名古屋ワイルドワンズの北王子監督、球界の盟主である文京モップスを率いた鈴木監督、その鈴木監督のあとを継いだ辺見監督……。彼らプロ野球の監督たちにも、選手と同じように契約があって、生活があって、結果を残すことが求められている。でも監督が勝利のためにすべての我を通しせるわけでもないんですよね。さまざまな取り決めの中で、監督も苦労しているという。
──監督によって、凡田の起用方法も大きく左右されていきます。
凡田は使い勝手がいいということで、登板過多になっていく流れは、「ああ、もう使わないでくれ……」という気持ちで読んでましたね。中継ぎの酷使は、現実のプロ野球においても大きな問題点だと僕は考えているんですけど、監督にも選手にも各々の思惑と葛藤があるんだなと。これがもし高校野球だったら、「肘に違和感があるからしばらく登板を控えたい」とも言えると思うんですよ。でもプロだと登板数で年俸が変わってきたりして、自分と家族の運命がかかっているわけだから、簡単に休むとは言えないというね。
──フロントやスタッフと、選手との関係性も、「グラゼニ」における注目ポイントのひとつですね。
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「今のプロ野球はダメ」という偏った主張が「グラゼニ」にはない
- アニメ「グラゼニ」
- BSスカパー!にて毎週金曜日22:30~放送中
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- スタッフ
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原作:森高夕次・アダチケイジ「グラゼニ」(講談社「モーニング」連載)
監督:渡辺歩
シリーズ構成・脚本:高屋敷英夫
キャラクターデザイン:大貫健一
音楽:多田彰文
音響監督:辻谷耕史
アニメーション制作:スタジオディーン
製作:スカパー!・講談社 - キャスト
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凡田夏之介:落合福嗣
ユキ:M・A・O
田辺:二又一成
追田:乃村健次
小里:石野竜三
徳永:浪川大輔
渋谷:星野貴紀
松本アナ:松本秀夫
- 土屋礼央(ツチヤレオ)
- 1976年9月1日生まれ、東京都出身。2001年にRAG FAIRのメンバーとしてメジャーデビュー。またツインボーカルバンド・ズボンドズボンのメンバーとしても活動し、2011年にはソロプロジェクトとなるTTREを立ち上げる。ラジオパーソナリティーとしても活躍しており、現在のレギュラー番組にニッポン放送にて毎週月曜から木曜まで13時から16時に放送されている「土屋礼央 レオなるど」、NACK5にて毎週日曜12時55分から17時55分まで放送されている「カメレオンパーティー」など。
2018年5月18日更新