コミックナタリー Power Push - グルメの殿堂 ゼノンコミックス
おいしいマンガはここから生まれる 酒、お取り寄せ、燻製…次のグルメは?
大島千春「いぶり暮らし」、高瀬志帆「おとりよせ王子 飯田好実」、新久千映「ワカコ酒」、山田怜「鳴沢くんはおいしい顔に恋してる」
山田怜インタビュー
ジャンルとしてはむしろ性癖マンガ
──女の子がおいしいものを食べたときに見せる表情“おいしい顔”が大好きという男子・鳴沢くんを描く本作。食べるのが主人公ではなく「ヒロインの食事シーンを見る」物語が新鮮でした。
ジャンルとしてはむしろ性癖マンガですね(笑)。鳴沢くん自身は、好きなものを見て喜んでる幼稚園児みたいにピュアな存在なんです。誰にも迷惑をかけない変態というか。
──女の子に点数をつけてノートにメモしていたり、ごはんを食べる顔を見て妄想を膨らませたり。高校生男子の行動としては、ちょっと危ないものを感じますね。
彼がおいしい顔をどれだけ好きかってことを表現するためには、ちょっと気持ち悪いくらいのほうがキャラが立ってていいかなと。妄想って、どこまでも自分に都合よくできるじゃないですか。だから実際には女の子がごはんを食べているだけなんですけど、鳴沢くんのフィルターを通して見たらとてつもないことが起こっているんだぞという。
──おいしい顔が好きっていう設定はどこから生まれたんでしょうか。
もともと考えていた案では、いつも機嫌の悪い鳴沢くんがおいしいものを食べたときだけ笑顔になるって設定だったんです。ただ不機嫌になるようなことがいっぱい起こるマンガは、お話自体のトーンが暗くなるんですよね……。
──暗い食マンガというのも、なかなか斬新だと思いますが。
食べ物を扱うマンガで暗いのはないよ……という話になり(笑)。でも私は鳴沢くんのことが好きだったから、なんとか彼が主人公のお話を描きたくて。それで鳴沢くんは見てる側にして、女の子を登場させて画面に華を出すっていう現在の構造が出来上がったんです。
──次から次へと好みの女性が現れて主人公が振り回される。少年マンガのラブコメ的な展開が、鳴沢くんのおいしい顔好きとマッチしていますね。
女の子が料理を食べてリアクションを取るというアイデアは、一般的なものですよね。ただ鳴沢くんが見てるっていう構造なら、いろんなパターンの女の子が出せるなと。食べる側の視点で物語を作ると、1人の顔しか描けないので。ほかの作品がやっていないことだから、ちょっと面白くできそうかなと。
鳴沢くんの心の壁を破れるのはイタリア人だけ
──複数のヒロインを出すという話でしたが、第1話に登場する女の子がまずイタリア人という変わり種なのにも面食らいました。
主人公の鳴沢くんは顔に大きな傷があって見た目に怖いし、常に不機嫌オーラを出しているのでクラスメイトからも敬遠されています。そういう男の子が張ってる心のバリアを破るには、彼にとって非日常な存在を出さなくてはいけない。いっそ外国人くらいのインパクトがないとダメだろうと思って。私自身もイタリア人と出会って、人生が変わったところがあるので。
──イタリア人と出会って、人生が変わった?
一時期スランプで、マンガが描けなくなったんです。このままじゃダメだ、なんでもいいから新しいことをしてみようと、ずっとやりたかったイタリア語を習い始めて。それまで私は自分の考えを主張するのがすごく苦手だったんですが、イタリア人はとにかく空気を読まないし、ズバズバ自分の意見を言うし、これでいいのか人間! と衝撃を受けたんです。そこから思い悩むのをやめて、自分も好きに描いてみようと思えるようになりました。
──その体験がヒロインのジュリエッタにも活かされている?
外国人のノリをまんま描いてしまうと読者が引いちゃうかもしれないので、抑え気味にはしていますね。ハグとか、自分を取り繕わない感じとか、文化の違いをエッセンスとしては入れていますが。
──そのほかにも1巻では幼馴染の陣馬冬子、中学生の天城春という2人のヒロインが登場しますね。
大人しくて感情表現も控えめな冬ちゃんは、リアクションが大きい外国人のジュリエッタに対して大和撫子というイメージ。春ちゃんは……担当さんから「エロキャラを1人出したい」と言われて考えたキャラなんです。
──春ちゃんは、鳴沢くんに色仕掛けをしてきますよね。ことごとく失敗に終わりますが。
はじめは鳴沢くんがエロい食べ方にひっかかるという設定を考えていたんです。だけど「そんな嘘の演技にひっかかる鳴沢くんでいいのか?」という疑問が湧いて。そこから、年上の男子にアピールしたくて大人っぽく振る舞おうと頑張るけど、空回りしちゃうっていうキャラになりました。背伸びをしている感じなら、エロい食べ方とかをしても可愛げがあっていいかなと。
性癖は直感だからなあ
──鳴沢くんはおいしい顔をする3人の女性に出会い、全員のことを好きになってしまいます。好みのタイプとかはないのでしょうか。
節操がないですよね(笑)。鳴沢くんはおいしい顔を見て幸せな気持ちになっているだけなので、自分の感情を恋愛に結びつけていないんです。だから単なる美人には無関心だし、食べ方しか見ていません!
──見た目の美しさとはまた違う“おいしい顔”の魅力とは、何なのでしょうか。
その人の本音が見える瞬間かな。美人が背筋を伸ばして綺麗な所作で食べていても、私はそれに恋はしないので。普段すごいクールにしてる人が、食べるときはすごくおいしそうにしていたら本性に触れたような気がしません?
──おいしい顔というのは、人の素が見えるから魅力的だと。
だいたいみんな建前を持って生きていますからね。でも食べているときは無防備になる。カッコいい人でもかわいい人でも、隙が見えたほうが人間らしくていいと思うんですよね。
──変態高校生のフェチマンガ、という話から始まったときはどうしようかと思いましたが。最後に、鳴沢くんの気持ちが少しわかったような気がしました。
でも性癖は直感だからなあ。好きなものは好きってことで、理由とかないかもしれませんよ(笑)。
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山田怜(ヤマダレイ)
1982年8月25日、静岡県生まれ。月刊アフタヌーンの四季賞にて佳作を受賞。2009年に別冊少年マガジン(ともに講談社)にて、山田瑯名義の作品「蓬莱ガールズ」でデビューした。山田怜に名義を変更し、2015年3月より月刊コミックゼノン(徳間書店)で「鳴沢くんはおいしい顔に恋してる」を連載中。
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