コミックナタリー Power Push - たらちねジョン「グッドナイト、アイラブユー」
神経質で小心者の男子が初の海外にびくびく カルチャーショックと心の成長描く旅ドラマ
保守的な弟とは正反対に、日本の枠に收まらない自由な兄
──ロンドンの次はパリへ?
パリへの移動はユーロスターという、イギリスとヨーロッパを繋ぐ英仏海峡トンネルを通る高速列車を使いました。日本の新幹線みたいな感じで、事前にチケットを取らないと片道2万5000円ぐらいかかります。それなりに高いんですが快適なんです。
──2話で大空くんが、バッグを盗まれたのがユーロスターでしたね。
はい。でもバスなどほかの交通手段よりチケット値段が高いだけあって、客層がいいので、「ユーロスター……ガラの悪い人は乗らないな」って思いました(笑)。だからマンガで置き引きしたのも、明らかなチンピラというよりは“ちょっと調子乗った学生の若者風”くらいに描きました。
──そういう車内の雰囲気も取材しないとわからないものですね。その後、到着したパリでは、どんなところをチェックしたんでしょう。
主人公の兄・大地くんがパリの古着屋で働いているという設定なので、その参考になりそうなお店を探しました。マレ地区にブティック街があって、日本で言う下北沢、いや代官山とか表参道といった感じでしょうか……。
──若者っぽい感じ?
気取ってなくて、若者向けの店もあるような地域でファッション最先端といった感じです。パリの古着屋は日本のように安いものを置いてる感じではなく、ヴィンテージ物を置いているお店が多いんです。取材したのは男性向けのものしか置いてない店で、編集さんと女2人で入って最初いぶかしがられましたけど、「店内を撮影させてもらってもよいか?」と言ったら、笑顔で接客してくれました。店員さんがとても身奇麗にしていて、兄の大地のイメージに近いたたずまいだったのでとても参考になりました。
──大地がゲイという設定は、どこから?
元々好きなブランドや作り手に同性愛者の方が多くて、ファッションセンスやファッションそのものが好きというのもあるんですが。大空くんとの対比というか、対極にいる正反対なキャラにしたかったんです。保守的な弟に対して自由奔放な兄という感じで。
──自由すぎて家を飛び出してしまったと。
そうですね。同性愛者が生活していくには、日本は窮屈だろうなと思って。フランスにはパックスという事実婚のような制度があるのですが、パックスは同性愛者同士でもOKなんです。だからと言ってどんな問題もクリアな場所というわけではないでしょうが、大地にとって純粋に楽しそうな場所ですよね。
どこを見てもキラキラ、レストランの店員も優しいイケメン
──ほかに取材された場所はありますか?
「これぞパリの街並み!」って感じの写真を撮りたかったので、翌朝はマルシェ(市場)に行きました。その後、マカロンで有名なラデュレの店舗に併設されたサロンでモーニングをして。担当さんオススメのフレンチトーストとか、たくさん食べましたね。
──パリは食のバラエティが豊富そうですよね。
外食文化なので、お店はどこも夜遅くまでやってますね。パリ2日目のお昼はバスティーユにあるビストロに行きました。アール・ヌーヴォーの内装が見事な地元の人が使うお店で美味しかった。店員さんも若くてイケメンで、みんな愛想よくて。お揃いの前掛けとネルシャツを着ててかわいいんですよ。オーダーを聞くときも距離が近くて、肩越しに「一緒にメニューを見てあげようか、何食べたいの?」みたいな(笑)。きまぐれのサービス精神がすごいです。
──執事喫茶ばりのおもてなしですね! ちょっとチャラい感じなんでしょうか。
チャラいというか、とにかく華やかなんです。人だけじゃなく、街並みもどこを見てもキラキラ。ロンドンは整備されてて異国感が薄いので、「旅に来たぞ!」っていう高揚感を得たいなら、やっぱりパリかな。私たちは結局、エッフェル塔も凱旋門も行ってないし、セーヌ川もノートルダム寺院もルーブル美術館も通り過ぎただけなんですけど……街を歩いているだけでも楽しかった。ただし、なにをするにもお金がかかる。パリへ行くたびに「お金があればもっと楽しめたはず……」とか寂しいことを思ってしまいます(笑)。
──治安はどうですか?
場所によりますが、よいほうではないですね。パリでのんきにカメラを構えてたらスリに遭うくらい。貴重品はインナーに入れとかないとダメだし、日本みたいに飲食店で席取りに荷物を置くとかありえない……! 私たちが行ったときも、小さい女の子が「サイン、プリーズ」って色紙をグイグイ押し付けてきたから「なんだろう、これは」と思っていたら、カバンの隙間から物を盗るスキを狙ってて。片言の英語で追い払おうとしても引かなかったのに「この子スリだ!」って、日本語で叫んだら逃げていきました。また大空くんがパリへ降り立った時に使用した北パリ駅も、何をするでもなくウロウロしてる男の人がたくさんいて、若干怖いかもしれません。
──同じヨーロッパなのに、ロンドンとは全く異なるパリの印象は、大空くんにとってどういったものだったのでしょうか?
パリではロンドンよりさらにたくさんの人種、文化に触れる事になりました。そこに華やかさも加わり芸術やファッションに興味のない大空にとってはパニックそのもののような街でした(笑)。知らないものがあるのだと初めて知る土地になったと思います。
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一人で、母を看取った。「私の死を、ロンドンの友人に伝えて」そう書かれた遺書に従い、大学3年生の夏、大空は久しぶりに再会した兄と共にイギリスへ渡ることになった。
初めて訪れた異国の地で、母の若き日、兄の秘密、そして“家族”の真実に出逢うとは知らずに……。
新鋭・たらちねジョンが鮮やかに描き出す、ファミリールーツジャーニー待望の第1巻。
執筆陣
秋山シノ、oimo、川床たろ、佐倉チカ、たらちねジョン、中条亮、藤谷陽子、雪広うたこ、武蔵野ぜん子
たらちねジョン
1月20日生まれ。別名義にたらつみジョンがあり、BABY(ふゅーじょんぷろだくと)などでも活躍している。COMIC it vol.1より、初の少女マンガ「グッドナイト、アイラブユー」を連載開始。