コミックナタリー Power Push - 野田サトル「ゴールデンカムイ」特集

野田サトル×町山智浩対談

サバイバルにアイヌ文化に北海道グルメ 要素てんこ盛りな意欲作の裏側に迫る

野田サトル「ゴールデンカムイ」の勢いが止まらない。「このマンガがすごい!2016」オトコ編、「コミックナタリー大賞2015」ではともに2位にランクインし、多数のマンガ読みから2015年を代表するマンガのひとつとして支持を得ている。

コミックナタリーでは単行本5巻の発売を記念し、同作のファンだという映画評論家の町山智浩と野田のスカイプ上での対談をセッティング。野田が映画から受けた影響や、サバイバル、アイヌ文化、ミリタリー、新撰組、そして北海道グルメと数々の側面を持つ「ゴールデンカムイ」の創作秘話について語ってもらった。

取材・文 / 宮津友徳

「ゴールデンカムイ」とは

元兵士の杉元佐一は、かつてゴールドラッシュに湧いた北海道を訪れる。そこで彼は網走監獄の脱獄囚たちの入れ墨を全員分集めれば、アイヌが遺した莫大な埋蔵金の隠し場所がわかるとの与太話を聞かされ……。骨太な冒険活劇を軸に、アイヌ文化に北海道グルメ、新撰組の生き残りと、さまざまな要素をこれでもかと詰め込んだ一攫千金サバイバル。

  • 杉元佐一
    杉元佐一
    日露戦争での武功から「不死身の杉元」の異名を取った元兵士。ある目的のため大金を欲し、北海道を訪れる。
  • アシㇼパ
    アシㇼパ
    杉元が出会ったアイヌの少女。杉元と行動をともにし、彼にアイヌのさまざまな文化を教授する。
  • 白石由竹
    白石由竹
    「脱獄王」と呼ばれる天才脱獄犯。関節を容易に脱臼させられる特異体質の持ち主で、杉元の窮地を救うことも。
野田サトル×町山智浩対談

映画監督の音声解説がマンガの参考に(野田)

──町山さんはアメリカ在住ですので、本日はスカイプを使っての対談になります。そもそも今回の対談は、町山さんが「ゴールデンカムイ」のファンだということをうかがい、野田先生が「町山さんとぜひお話してみたい」とおっしゃったことから実現しました。

「ゴールデンカムイ」カラーカット

野田 「ゴールデンカムイ」を読んでいただいているというのを伺っていて。僕は映画も好きなので、ぜひお話してみたいなと。

町山 そうだったんですね。僕、「ゴールデンカムイ」を読んでいるってTVとかラジオでは言っていなかったんですけど、どうやら伊集院光さんが、僕と会ったときに「ゴールデンカムイ」の話をしたっていうのを、ラジオでしゃべっていたみたいですね。先生は北海道出身ですよね。今も北海道にお住まいなんですか。

野田 いえ、今は東京で描いています。23歳くらいのときに上京してきました。

町山 上京してからはアシスタントを?

野田 はい。まず久保ミツロウ先生のアシスタントを2年くらいさせていただいて。その後はいろんなところを転々として、最後に国友やすゆき先生の仕事場で長いことお世話になっていました。

町山 なるほど。やっぱり映画がお好きだと、映画から影響を受ける部分は多いですか。

野田 はい、最近だとDVDに収録されてる監督の解説をよく観ていますね。マイケル・マンとかデヴィッド・フィンチャー監督なんかはキャラの作り方とか、シーンごとの演出の意味を丁寧に説明してくれるのですごく勉強になるんです。

ゴロツキに斬りかかり威嚇する土方歳三。

町山 アメリカ人の映画監督は副音声で、セリフがないシーンの意味も教えてくれるような親切な人が多いんですよね。今回の対談のために改めて「ゴールデンカムイ」を読んでみたんですけど、確かに映画のオマージュがそこかしこにありますね。土方歳三が主役の「用心棒編」なんかは、まさに黒澤明監督の「用心棒」やそのマカロニ・ウェスタン版の「荒野の用心棒」ですよね。ただ土方が建物の中を突破していく戦術は、どちらにもない要素で面白かったです。

野田 やっぱり違う要素がないと、ただのパクリじゃないかと言われてしまうので(笑)。

町山 「ゴールデンカムイ」の場合は白兵戦のプロである土方と狙撃兵の戦いでしたからね。「用心棒」とは違う面白みがありますよ。

野田 そう言ってもらえるとありがたいです。

町山 宿場町で風がびゅうびゅう吹いてるところなんてまさに「用心棒」ですよね。

野田 やっぱりそこ気付いていただけましたか!

野田サトル「ゴールデンカムイ(5)」発売中 / 555円 / 集英社
野田サトル「ゴールデンカムイ(5)」
作品紹介

息を吐くように殺す!! 脱獄死刑囚にして殺人鬼・辺見が見初めたのは…不死身と呼ばれた元軍人・杉元。彼を殺りたい。殺られたい。辺見の歪んだ殺意と愛情が杉元一行に降り注ぐ……。そして、土方歳三の暗躍、第七師団内部の抗争!! 急転! 二転三転四転五転!! 試される大地・北海道で金塊を求め激突する正義と大義の第5巻ッ!!!!!!

野田サトル(ノダサトル)

北海道北広島出身。2003年に別冊ヤングマガジン(講談社)に掲載された読み切り「恭子さんの凶という今日」でデビュー。2006年には「ゴーリーは前しか向かない」で、第54回ちばてつや賞ヤング部門大賞を受賞する。2011年から2012年にかけて週刊ヤングジャンプ(集英社)で「スピナマラダ!」を連載。2014年より同誌にて連載されている「ゴールデンカムイ」は「コミックナタリー大賞 2015」「このマンガがすごい!2016」オトコ編でそれぞれ2位を獲得している。

町山智浩(マチヤマトモヒロ)

1962年生まれ。アメリカ在住の映画評論家。TBSラジオ「赤江珠緒 たまむすび」の火曜日放送にレギュラーとして出演しているほか、週刊文春(文藝春秋)などでコラムの連載を持つ。MP3ファイルのダウンロードショップ「映画その他ムダ話」では、映画について語った音声ファイルを有料配信している。