音楽ナタリー Power Push - 「シン・ゴジラ」公開記念特集
安野モヨコ、庵野秀明を語る
毎日、何かしら励みになることを言ってくれる人
──撮影期間中、特に印象に残ったやりとりってありました?
うーん、何だろう。2年くらい前から「ミニ監督不行届」という感じで、監督との日常をまたちょっと描き始めたんです。ほんとに走り描きのメモみたいなレベルなんですけど、不定期にTwitterやブログにアップしたりして……。その中で「わしを大人扱いするな!」っていう名言があったんですね。そしたら数日前だったかな、「シン・ゴジラ」の最後の追い込みで連日徹夜が続いていて。監督が朝、全然起きてこなかったんですよ。何度声をかけてもベッドから出てこないので、ちょっと強めに「もー、いい加減に起きなよー」と言ったら、「わし、いつもは5歳児だけど、今だけは3歳児にならせてもらう!」って、いきなり意味のわからないことを言いだして。
──はははは(笑)。十数年前、単行本の「監督不行届」では確か、10歳って描いてありましたよ。
そこからさらに退行してるのかと。
──そういえば2014年には「監督不行届」がアニメ化され、その後、加筆版の原作コミックスも入ったDVDボックスが発売されました。
ええ、はい。
──その新装版コミックスの最後に、「妻の事を、ちと徒然に──」という庵野監督のメッセージが収録されていて。真っ直ぐな愛情と敬意に溢れた文章で、すごく感動したんです。
ありがとうございます。
──そこで庵野監督は、2005年に単行本「監督不行届」が出てからの10年を振り返りつつ、「是非、妻のマンガを読んで」「皆様に改めて、その面白さや感動を味わって欲しい」と綴られていました。妻への愛情と同時に、作品の本質もギュッとつかんでいるというか……。最大の理解者であり、よき批評家でもあるんだなと。
どうなんでしょうね。私にとっては、毎日、何かしらうれしいこと、励みになることを言ってくれる人かな(笑)。「鼻下長紳士回顧録」で久々に連載を再開した際も、エピソードごとに細かく感想を話してくれたんですけど……。その後、コミックスになる前に刷り出しを修正してたら、撮影で忙しい時期なのに「通して読んだらより一層面白いね」と言ってくれて。すごくうれしかったです。毎回必ず何か褒めてくれるんですよ。前の晩に描いた「オチビサン」のコピーを食卓に置いたまま寝ちゃったりすると、翌朝「昨日のはここがかわいかった」「この色がよかったね」とか……。私がどこで苦心したかを、理解してくれるのが一番ありがたいです。
──ほんと、愛妻家ですよね。
そうですね。私が言うのもなんですが、すごい愛妻家だと思います。
お互い、創作への影響はほとんどないんじゃないかな
──ちなみに2005年のインタビューでは、監督はこんなことも話しておられます。「嫁さんのマンガは、マンガを読んで現実に還るときに、読者の中にエネルギーが残るマンガなんですね」「『エヴァ』で自分が最後までできなかったことが嫁さんのマンガでは実現されていた」と。これを読んで、どう思われました?
そんなふうに考えてくれているとは知らなかったので驚きました。
──今回「シン・ゴジラ」を観ていると、ベースの部分にある種のポジティブさも感じたんです。圧倒的カタストロフィのもと、なんとか状況に対処しようとする人々が鮮やかに描かれていて……。
うん。確かに。
──もしかしたらそこは、監督が奥様から受けた影響も大きかったんじゃないかなって。勝手に想像してたんですけれど。
いや、それはわかりません。近くにいるから考え方とかはお互い影響されている部分があると思いますが、基本的には創作へのそこまでの影響はないんじゃないかな。
──そうですか。ところで安野さん、10年ほど前、週刊文春に「くいいじ」というエッセイを連載されてたでしょう。
あ、はい。
──その中の一編に、亡くなられた庵野監督のお父様について綴った「ネーブル」という文章があって。なんと言うか……義理のお父さんを惜しみつつ、息子である監督の姿も生き生き浮かんでくるように感じたんですね。月並みですが、深い愛情だなあと。
ありがとうございます。そんなふうに感じてもらえたのならうれしいです。ただ、私の中であの文章は、ちょっと特別かもしれない。基本は作家というフィルターを通さないと表現できないタイプで、素の自分を出すのは苦手なんですね。というか、できない。でもあのときは、書いてるうちに自然とそうなっちゃったの。フィルターを介さずに素直な感情を出せたのは、後にも先にもあの文章だけだと思います。
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「24時間まるごと 祝!シン・ゴジラ」
日本映画専門チャンネル
7月28日(木)19:00~29日(金)22:00
庵野秀明が総監督を務める「シン・ゴジラ」が7月29日に封切られる。その公開を記念し、庵野がこれまでに手がけた実写5作品を連続放送。また「シン・ゴジラ」主演の長谷川博己、石原さとみ、芸能界屈指のゴジラファンとして知られる佐野史郎らゲスト10名が初めて鑑賞したゴジラ作品と、当時の思い出やエピソードを語る特別トーク番組「ゴジラ ファーストインパクト」全8回も一挙放送する。さらにゴジラ作品8本も放映され、その中にはシリーズで初めて全編4Kデジタルリマスターで送る「『キングコング対ゴジラ』<完全版>4Kデジタルリマスター」も含まれる。
庵野秀明実写映画 放送作品
「巨神兵東京に現わる 劇場版」
「式日」
「ラブ&ポップ<R-15>」
「キューティーハニー」
「流星課長」
©2012 Studio Ghibli
「ゴジラ ファーストインパクト」
日本映画専門チャンネル 毎週木曜 21:00~
8月までオンエアされる特別番組。ゴジラシリーズへの出演経験を持つ宇崎竜童、お笑いコンビ・ドランクドラゴンの塚地武雅ら計10名のゲストが初めて鑑賞したゴジラ作品と、鑑賞当時の思い出を語る。7月のゲストには元プロ野球選手の山本昌、「シン・ゴジラ」主演の長谷川博己、石原さとみらが並ぶ。
なお、抽選で555名に特製ゴジラTシャツが当たる「ゴジラ初体験記」投稿キャンペーンが7月31日まで特設サイトにて開催中だ。
「シン・ゴジラ」2016年7月29日より全国東宝系にて公開
東京湾アクアトンネルが、巨大な轟音とともに崩落する原因不明の事故が発生。首相官邸では閣僚たちによる緊急会議が開かれ「原因は地震や海底火山」という意見が多数を占める中、内閣官房副長官・矢口蘭堂(長谷川博己)だけが海中に棲む巨大生物による可能性を指摘する。内閣総理大臣補佐官の赤坂(竹野内豊)ら周囲の人間は矢口の意見を否定するも、その直後、海上に巨大不明生物の姿が露わになった。そして政府関係者が情報収集に追われる中、謎の巨大生物は鎌倉に上陸し、建造物を次々と破壊しながら街を進んでいく。この事態を受けて、政府は緊急対策本部を設置し自衛隊に防衛出動命令を発動し、米国国務省からは女性エージェントのカヨコ・アン・パタースン(石原さとみ)が派遣された。そして川崎市街にて、“ゴジラ”と名付けられたこの巨大生物と自衛隊との一大決戦の火蓋が切られた。果たして、日本人はゴジラにどう立ち向かっていくのか……。
スタッフ
総監督・脚本:庵野秀明
監督・特技監督:樋口真嗣
キャスト
矢口蘭堂:長谷川博己
赤坂秀樹:竹野内豊
カヨコ・アン・パタースン:石原さとみ
©2016 TOHO CO., LTD.
安野モヨコ(アンノモヨコ)
1971年3月26日東京都杉並区生まれ。1989年に別冊少女フレンドDXジュリエット(講談社)にて「まったくイカしたやつらだぜ!」でデビュー。岡崎京子のアシスタントを経て、別冊フレンド(講談社)にて「TRUMPS!」の連載を開始。フィール・ヤング(祥伝社)での連載「ハッピーマニア」では、恋する女性の心理を大胆に描き多くの共感を得た。なかよし(講談社)での連載「シュガシュガルーン」は第29回講談社漫画賞受賞。夫はアニメ監督の庵野秀明で、著作に夫婦生活を題材とした「監督不行届」がある。そのほか著作に「働きマン」「さくらん」「ジェリー イン ザ メリィゴーラウンド」など。現在はAERA(朝日新聞出版)で「オチビサン」を、フィール・ヤングで「鼻下長紳士回顧録」を連載中。
2016年7月28日更新