音楽ナタリー Power Push - 「シン・ゴジラ」公開記念特集
安野モヨコ、庵野秀明を語る
7月29日に全国ロードショーとなる「シン・ゴジラ」。庵野秀明が総監督を務める本作の公開を記念し、7月28日から29日にかけて日本映画専門チャンネルで庵野の実写作品を集めた特集放送がオンエアされる。
コミックナタリーでは、庵野の妻である安野モヨコにインタビューを実施。2人の生活を題材にした「監督不行届」を発表し、近年もTwitterに庵野の日常を切り取った「ミニ監督不行届」を不定期でアップしている安野に、「シン・ゴジラ」制作中の庵野の様子を、家族、そして同じクリエイターの視点から語ってもらった。
取材・文 / 大谷隆之
ホッとしました
──今回は映画「シン・ゴジラ」公開を記念して、庵野秀明総監督の横顔を奥さまの安野さんに語っていただくという……何だか無茶振りの企画ですみません。
いえいえ、精一杯努めさせていただきます(笑)。
──作品はもうご覧になりました?
ラッシュ試写を見せていただきました。まだCGが完成前の段階だったので、ちゃんとした感想は言えないんですけど……。そして、旦那が作ったものを嫁が褒めるのもちょっとアレですけれど(笑)。個人的にはすっごく面白かった! ホッとしました。というのも私、(庵野)監督が最初にボソッと「ゴジラやるかも」とつぶやいたとき、思わず「えー、やめときなよ」って言っちゃったんです。
──そうだったんですか。
やっぱりゴジラって存在として大きいじゃないですか。いろんな世代の方から深く愛されているシリーズなので、生半可な作品では満足してもらえないし。ハリウッド版の「GODZILLA ゴジラ」が世界的にヒットした後に公開だから、どうしても比べられちゃうでしょう。そもそも「シン・エヴァンゲリオン劇場版」もできてないのに、絶対いろいろ言われるよって。作り手としてやりたい気持ちはわかるけど、妻としては断固反対だったんですね。でもそんな心配は、監督にはあまり影響しなかったらしく(笑)。しばらくして「モヨ、やることにしたよ」って明るく言われました。
──ははは(笑)。そのときの庵野監督、どんな表情でした?
うれしそうに見えましたね。あまり表情変わらない人なので、普段は何考えてるのかイマイチ読めなかったりするんですけど(笑)。そのときは素直に「ああ、本当にやってみたかったんだな」と感じました。きっとあの大変な「エヴァ」をまた作るためにも、必要な通過点としてやるしかない感じだったんですね。私もそれ以降は、「じゃあもう、がんばろう!」みたいな応援モードになって。次に覚えてるのは、監督が初めてゴジラのビジュアルを見せてくれたときかな。そのときは理屈抜きで「うわ、怖いっ!」って思いました。
──確かに今回の「シン・ゴジラ」、初代のフォルムを踏襲しつつ、なんとも言えない禍々しさが際立っていますね。
そう! あれに比べると、ファースト「ゴジラ」がちょっとかわいく見えちゃいますもんね。例えば表面のヒビ割れたテクスチャー感なんて特にそうですけど、怪獣が持ってる“気持ち悪さ”みたいなものへのこだわりはやっぱりすごいなと。監督の特撮愛ってこんなにも深かったんだなって。あの造形を見て、改めて感心したんです。
──それでいて庵野作品ファンなら思わずニヤリとするような表現も、しっかり入っている。詳しくは観てのお楽しみですが……。
そうですね(笑)。監督の好みやセンスがミックスされているところは、私も楽しかったです。
創作に関係する買い物は、庵野家では奨励されている
──庵野総監督は脚本も担当されてますが、自宅でも執筆を?
はい。あとは一緒に旅行したときに、宿泊先で書いてたり。「ちょっと缶詰めになってくる」って言い残して出かけていったり……。かなり精力的に仕事してたと思います。やっぱり、特撮が好きなんだろうなあ。今回の「シン・ゴジラ」はCGを使ってますけど、もとになっているファースト「ゴジラ」は、特撮ファン全体の原点みたいな作品だし。監督自身、自分もいつか特撮作品を手がけてみたいって、前々から言い続けていたので。
──そういえば安野さんのエッセイコミック「監督不行届」の中に、庵野監督が学生時代に作った自主映画を見て衝撃を受けるエピソードが出てきますね。監督自身が巨大化し、ミニチュアの街で怪獣と戦うという。
あれは誰だって驚くと思うなあ(笑)。ただ、私はまったくの素人なんですけど、ああいう映像を見ると、特撮ってすごく創造的な作業なんだって感じますね。例えば小さな模型を実物サイズに見せるためにワイドレンズですごく煽ったり、セット内に煙を入れてみたり。カメラを通した見え方を計算に入れて、細かい工夫が詰まってるでしょう。「ゴジラ」や「ウルトラマン」で育った監督も子供の頃からそこに惹かれていて。で、2012年の展覧会(「館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」)で樋口(真嗣)さんと「巨神兵東京に現わる」を作ったとき、その感覚が一気によみがえったんだと思う。
──ああ、なるほど。
あくまで私の想像ですけど、すごく楽しかったんじゃないかな。「シン・ゴジラ」のお話をお引き受けしたことも含めて、あの短編が監督に与えた影響は大きかったような気がします。
──「特撮博物館」の展示自体、失われつつある職人技へのリスペクトが大きなテーマになってましたよね。
そうなんです。よく監督も話していますけど、昭和の全盛期に培われたミニチュア技術って、結局は一代限りなんですよね。例えばセットの奥に垂らす書割(かきわり)にしてもそう。カメラを通した際に本物っぽく見える絵を描ける職人さんも、どんどん減っていて。昔は技術を持った方がたくさんいらっしゃったけれど、特撮自体が少なくなって、せっかく積み上げてきたノウハウが消滅しかかっている。それをなんとか残したいという気持ちが、監督の中では昔も今も強いんじゃないかなと。
──CG全盛の現代にも、そういう日本ならではの特撮文化を受け継いでいこうとする気概みたいなものは、今回の「シン・ゴジラ」からも強く伝わってきました。監督とは普段からそんな会話もされるんですか?
します、します。特撮については、私はほぼ聞き役ですけど(笑)。楽しいですよ。たまに愛が強すぎて、びっくりしちゃうこともあるけど。いつだったかな、監督が突然、何メートルもある巨大な東京タワーの模型を買いたいって言いだしたことがあって。どう考えても置き場所もないし。それがまた目の玉が飛び出るようなお値段なんですよ。で、よくよく理由を聞いてみると、やっぱり日本の特撮文化を支えてきた職人さんの作品だったの。その方がミニチュア人生の集大成として精魂込めた作品なので「どうしても欲しいんだ」って。
──いかにも庵野監督らしいですね。そんなとき、安野さんは暮らしを共にする妻として怒ったりされないんですか?
あ、それはないです。もう慣れっこになっちゃってるし、私の目の届く範囲を散らかさないでくれれば別に構わない。私だって古い浮世絵や絵手本をたくさん買ってますけど、監督に怒られたことは1回もないんです。靴とかバッグを買うことには、割と渋い顔するところもあるんですが(笑)。でも作品の資料だったり、創作に関係するものに関しては、むしろ庵野家では奨励されている。お互い、そのためにがんばって働いているところもありますからね。
──理想のオタク夫婦像ですね。ちなみにお家には仮面ライダーやウルトラマンと並んで、ゴジラのフィギュアも飾られてたりします?
うーん……どうだったかなあ。もはや多すぎて、正確には私も把握しきれてないんです。ファースト「ゴジラ」のフィギュアはどこかの棚にあった様な気がします。あと昭和のロボットみたいなゴジラやカラフルなロボットも。
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「24時間まるごと 祝!シン・ゴジラ」
日本映画専門チャンネル
7月28日(木)19:00~29日(金)22:00
庵野秀明が総監督を務める「シン・ゴジラ」が7月29日に封切られる。その公開を記念し、庵野がこれまでに手がけた実写5作品を連続放送。また「シン・ゴジラ」主演の長谷川博己、石原さとみ、芸能界屈指のゴジラファンとして知られる佐野史郎らゲスト10名が初めて鑑賞したゴジラ作品と、当時の思い出やエピソードを語る特別トーク番組「ゴジラ ファーストインパクト」全8回も一挙放送する。さらにゴジラ作品8本も放映され、その中にはシリーズで初めて全編4Kデジタルリマスターで送る「『キングコング対ゴジラ』<完全版>4Kデジタルリマスター」も含まれる。
庵野秀明実写映画 放送作品
「巨神兵東京に現わる 劇場版」
「式日」
「ラブ&ポップ<R-15>」
「キューティーハニー」
「流星課長」
©2012 Studio Ghibli
「ゴジラ ファーストインパクト」
日本映画専門チャンネル 毎週木曜 21:00~
8月までオンエアされる特別番組。ゴジラシリーズへの出演経験を持つ宇崎竜童、お笑いコンビ・ドランクドラゴンの塚地武雅ら計10名のゲストが初めて鑑賞したゴジラ作品と、鑑賞当時の思い出を語る。7月のゲストには元プロ野球選手の山本昌、「シン・ゴジラ」主演の長谷川博己、石原さとみらが並ぶ。
なお、抽選で555名に特製ゴジラTシャツが当たる「ゴジラ初体験記」投稿キャンペーンが7月31日まで特設サイトにて開催中だ。
「シン・ゴジラ」2016年7月29日より全国東宝系にて公開
東京湾アクアトンネルが、巨大な轟音とともに崩落する原因不明の事故が発生。首相官邸では閣僚たちによる緊急会議が開かれ「原因は地震や海底火山」という意見が多数を占める中、内閣官房副長官・矢口蘭堂(長谷川博己)だけが海中に棲む巨大生物による可能性を指摘する。内閣総理大臣補佐官の赤坂(竹野内豊)ら周囲の人間は矢口の意見を否定するも、その直後、海上に巨大不明生物の姿が露わになった。そして政府関係者が情報収集に追われる中、謎の巨大生物は鎌倉に上陸し、建造物を次々と破壊しながら街を進んでいく。この事態を受けて、政府は緊急対策本部を設置し自衛隊に防衛出動命令を発動し、米国国務省からは女性エージェントのカヨコ・アン・パタースン(石原さとみ)が派遣された。そして川崎市街にて、“ゴジラ”と名付けられたこの巨大生物と自衛隊との一大決戦の火蓋が切られた。果たして、日本人はゴジラにどう立ち向かっていくのか……。
スタッフ
総監督・脚本:庵野秀明
監督・特技監督:樋口真嗣
キャスト
矢口蘭堂:長谷川博己
赤坂秀樹:竹野内豊
カヨコ・アン・パタースン:石原さとみ
©2016 TOHO CO., LTD.
安野モヨコ(アンノモヨコ)
1971年3月26日東京都杉並区生まれ。1989年に別冊少女フレンドDXジュリエット(講談社)にて「まったくイカしたやつらだぜ!」でデビュー。岡崎京子のアシスタントを経て、別冊フレンド(講談社)にて「TRUMPS!」の連載を開始。フィール・ヤング(祥伝社)での連載「ハッピーマニア」では、恋する女性の心理を大胆に描き多くの共感を得た。なかよし(講談社)での連載「シュガシュガルーン」は第29回講談社漫画賞受賞。夫はアニメ監督の庵野秀明で、著作に夫婦生活を題材とした「監督不行届」がある。そのほか著作に「働きマン」「さくらん」「ジェリー イン ザ メリィゴーラウンド」など。現在はAERA(朝日新聞出版)で「オチビサン」を、フィール・ヤングで「鼻下長紳士回顧録」を連載中。
2016年7月28日更新