「グッド・ナイト・ワールド」岡部閏×菊池カツヤ×Nornisが語る、心揺さぶる物語と終わりを彩る救いの曲

アニメ「グッド・ナイト・ワールド」の独占配信が、Netflixにてスタートした。原作マンガは2016年から、裏サンデーおよびマンガワンにて連載された作品。崩壊した家族が、ネットゲームの中で出会ったプレイヤーとの疑似家族に救いを求めるのだが、やがてゲーム内で起こる出来事が現実世界をも巻き込んでいき、予想もつかない方向へと展開していく。

コミックナタリーでは原作者の岡部閏、監督の菊池カツヤ、エンディングテーマを歌うVTuberユニット・Nornisの戌亥とこ、町田ちまによる座談会を実施。原作マンガを読み込んだというNornisの2人は、どんな感想を抱いたのか。すでに全話一挙配信されていることもあり、後半はネタバレもありで、原作からパワーアップさせた点などを聞いた。

さらにオープニングテーマを歌うVTuber・葛葉のインタビューも掲載。作品をすでに視聴済みの人もこれからチェック予定の人も必見だ。

取材・文 / 粕谷太智

「グッド・ナイト・ワールド」予告編1

原作は「感情がぐちゃってなる」「けっこうどころじゃなく重い」

──「グッド・ナイト・ワールド」の連載が終了したのが約6年前。今では作中で扱われているAIやメタバースという言葉も身近になり、アニメから作品に触れる人にとっては、また感じるものが変わってきそうですよね。アニメ化発表の際に岡部先生がGPTに作らせたコメントを発表していたのも面白い試みだなと思いました。

岡部閏 本当におっしゃる通りです。AIやメタバースについての情報を今では誰もが一般知識で持っていますし、ネットのあらゆる情報がビックデータになってそれがひとつのAIになるかもしれないという設定は、GPTでそのまま現実になっている。シンギュラリティという言葉もこすられすぎて、もはや誰も口にしていないですからね。

──現実に近づいたからこそ怖さが際立つようになったシーンもあるように感じました。

岡部 そうですね。このタイミングで満を持してアニメ化していただいて、内容も菊池監督に時代に合わせてパワーアップしてもらっていますし、そういう意味でアニメは“新生「グッド・ナイト・ワールド」”とも言える作品になりました。

──そのオープニング、エンディング主題歌を、この6~7年で急速に一般的になったネット発の文化である、VTuberの2組が担当することも何かの縁に感じます。Nornisのおふたりは、原作を読み込んで、エンディングテーマになっている「salvia」の収録に臨んだそうですが、まずは「グッド・ナイト・ワールド」の感想を聞いてもいいですか?

戌亥とこ 読んでいる途中は、心が折れそうになるくらい感情がぐちゃーってなりました……。なんというか息ができなくなるような。それでも読み終えると、感情を揺さぶる重い話でありつつも最後まで諦めずに読んでよかったと感じさせてくれる物語でした。

町田ちま 町田は最初、ほんわかしたゲームの話だと思っていたんです。それが読み進めていくうちに「あれ? この作品けっこう重め……?」と気づいて。しかも重さが“けっこう”どころじゃないじゃないですか。

Nornis。左が戌亥とこ、右が町田ちま。

Nornis。左が戌亥とこ、右が町田ちま。

──現実世界の描写が初めて出てくるあたりから一気に印象が覆されますよね。

町田 重めの話の作品が大好きなので、これは読み進めるのがめっちゃ楽しいマンガだ!と思いながら、一気に最後まで読んでしまいました。読み終わった感想を素直に言うと、よくわからなくなりました……。読後の感情が複雑すぎて難しいというか。すごく楽しく読ませてはいただいたんですが、どこに自分の感情の落としどころを持っていけばいいか、わかるようなわからないようなという感じで、ふわふわした気持ちになりました。

──菊池監督は今回アニメ化するにあたって原作のどんな魅力を活かそうと思いましたか?

菊池カツヤ この作品は家族愛の物語だと思いますが、家族1人ひとりの感情の起伏がすごくリアルですよね。人間って本来、急に怒り出したり、急に心を開いたりするじゃないですか。そこがしっかりと描かれている。映像化にするにあたっても、その原作の持ち味は活かさないといけないなと感じていました。

──序盤にある父・小次郎と太一郎の食卓でのやり取りは顕著ですよね。ふたりが歩み寄ってそのままうまくいくかと思ったところで、ほんの些細な発言に小次郎がキレたり……。

イチの現実世界での姿である太一郎と、その父・小次郎。
イチの現実世界での姿である太一郎と、その父・小次郎。

イチの現実世界での姿である太一郎と、その父・小次郎。

菊池 Nornisのおふたりが重い話だと仰っていましたが、私も最初は近い感想を持ちました。でも一方で、原作を読み込んでいくとすごくお茶目だなという印象も受けたんです。

岡部 お茶目ですか?

菊池 はい。シリアスなシーンの中に急にコミカルなやり取りが入ってきたり、それがすごく人間味があっていいなと。笑いの基本の「緊張と緩和」と言いますか、先生のお茶目の才能が発揮されているシーンもシリアスなシーンとともに絶対に原作から拾い上げないといけないなと思って制作に臨みました。

ED曲は「原作の印象にぴったり」「視聴者の救いになる」

──楽曲についても聞いていきたいのですが、エンディング主題歌を担当すると決まった際の感想をお聞かせください。

町田 アニメの主題歌を担当するのが、ずっと個人的な夢だったのですごくうれしかったです! お知らせを聞いてからはすぐに原作を読み込んで世界観に没入して収録に臨みました。

戌亥 エンディング主題歌は作品を観た後の余韻の味わいを与えてくれるもの、というイメージがあったんです。「グッド・ナイト・ワールド」を読み終えてこんなに感情の起伏がある作品だというのを知って、1話を観終えていろんな感情が渦巻いている視聴者に寄り添える歌にしなければと思いました。

──そんな思いが込められた「salvia」を聴いて岡部先生と菊池監督はどんな印象を受けましたか?

岡部 さっき、町田さんから「わからない」っていうお言葉をいただいたんですけど、原作の最後は描いていた僕もわからないままでいいというか、わかったような感じで突っ走っていました(笑)。その雰囲気が出ているんだと思います。

戌亥町田 ははは(笑)。

岡部 実はおふたりに歌っていただいたエンディングも近い雰囲気があるんじゃないかと感じていて。僕が曲を聴いた最初の印象は「2人で励ましあって夜が明けるまで待とうか」というものだったんですが、聴き終わってみると「2人でいれば夜が明けなくてもいいかな」という印象に変わっていったんです。闇が続いても、1人でさえいなければ、2人が力強く励まし合っていれば大丈夫だって。原作の最後も夜は完全には明けていない。そこが、町田さんがさっきおっしゃっていた「わかるようなわからないような」っていう印象になっているのかなと思うんです。そんな原作の印象にぴったりなとても素晴らしい楽曲にしていただき、本当にありがとうございます。

──戌亥さんと町田さんは、主題歌が発表された際のコメントで作中の感情や心象に触れてコメントを出されていました。今回、どんなふうに楽曲を解釈していましたか?

戌亥 歌詞を挙げると「好きだ嫌いだどっちでもない」「息を奪う痛みを希望と呼ぶんだ」だったり。ストレートに1個の感情、1個の結論に向かわせてくれない感じは作品と楽曲の中で共通している部分ですよね。現実世界に絶望して希望を求めた先のプラネットでもまた絶望するようなことが起きて、それでどれだけ感情が乱されても、いくら関係が崩れていても家族は家族であり続けるという作品のイメージも楽曲を通して表現されていると思いました。

第1話より、赤羽一家。

第1話より、赤羽一家。

町田 町田はさっきとこちゃ(戌亥)も言っていた「好きだ嫌いだどっちでもない 『愛してる』を君に捧ぐ唄だ」の歌詞が個人的に一番好きで。太一郎の小次郎さんへの思いが「憎しみ以外の感情なんて、無い……!!!」ってモノローグで書かれているシーンで、太一郎の目に自然と涙が浮かんでいるんですね。初めは全体を通して父親である小次郎さんから太一郎に対しての歌なのかなと思っていたんですが、その太一郎の姿を見て、小次郎さんだけじゃなくて太一郎にも小次郎さんへのぐちゃぐちゃした難しい感情があったらいいなと、そういう思いを込めて歌わせていただきました。

──町田さんから太一郎と小次郎の名前が出ましたが、岡部先生も先ほど「2人」というワードを出して楽曲の感想をお話してくれました。先生としてはこの「2人」というのは誰をイメージしていましたか?

岡部 「グッド・ナイト・ワールド」では太一郎と小次郎、レオンとサスマタをはじめ2人で語られるキャラクターが多いので、すべてに当てはめることもできると思います。歌詞に「呪い」というワードがありましたよね。「呪い」という言葉が、ふさわしいのは友達よりも親子だと思うので、いろんな解釈がありますが、今の2人の言葉も聞いて太一郎と小次郎がより近い気がしました。

──菊池監督にお聞きしたいのですが、このエンディングはアニメにどんな影響を与えていますか?

菊池 「グッド・ナイト・ワールド」は心に重くのしかかるようなお話が多くて、視聴者も毎話観終わった後に心を揺さぶられることになると思うんです。そんな中でNornisのおふたりの歌声と楽曲がすごく視聴者の救いになっているなと。全話一挙配信の作品なので、イッキ見される方も多いと思いますが、30分に一度、エンディングで気持ちを少し回復させていただける。アニメを完走していただくためにも、この楽曲がとても救いになりました。

第3話より、レオンとサスマタ。

第3話より、レオンとサスマタ。

物語展開に合わせて、エンディング映像が変わる仕掛けも

──オープニング・エンディング映像でも歌詞がテロップとして演出に使われていて、楽曲を大切にしているのが伝わってきました。

菊池 今回オープニングもエンディングも演出を畳谷哲也さんに担当いただきました。実は、僕はほぼ関わっていなくて、唯一お伝えしたのは、オープニングはアニメっぽくない映像にしてほしいということだけでした。事前に絵コンテも見せていただいたんですが、完成がどうなるか全然予想がつかなくて。

──畳谷さんはエフェクトアニメーションを得意としていて、アニメ「テルマエ・ロマエ ノヴァエ」などでは監督もやられています。新聞の寄りで歌詞を画面に大きく映し出す始まりは、かなり新鮮でした。

菊池 あれは畳谷さんが「『グッド・ナイト・ワールド』新聞」というのをまるまる一部作られているんです。記事もちゃんと読めるようになっていて、そのあたりのこだわりはすごいですね。畳谷さんのセンスが存分に発揮された映像になっています。

岡部 新聞をちょっとずつ見せていく演出は、「わかるようなわからないような」っていう原作の持つ胡散臭さをうまく表現しているなと思いました。新聞っていうのも、昭和レトロでもない、平成ポップでもない、そんな曖昧な立ち位置を感じてすごく好きです。菊池監督のおっしゃっていた新聞の話は初めて聞いたので、ぜひ新聞そのものも機会があったら読んでみたいですね。

──町田さんはアニメの主題歌を歌うのが夢だとおっしゃっていましたが、自分たちの歌にアニメの映像がついているのを実際に観ていかがでしたか?

町田 不思議な感覚でした。「グッド・ナイト・ワールド」のアニメ映像が我々の歌声とともに流れている……これは本当に公式なのか!?って、もううれしすぎてちょっと疑ってしまいました(笑)。私たちはまだエンディング映像しか観れていないんですが、本編も観るのが楽しみです。

菊池 エンディングは第6話から映像が変わるので、ぜひそこも楽しみにしていてください。

町田 そうなんですね!

菊池 エンディングに関しては、第6話から映像を変えたいということだけお伝えしていました。歌詞を演出に絡めて、曲に合った映像になっていますし、すごくいいまとめ方をしていただけたと思います。