コミックナタリー PowerPush - 映画「銀の匙 Silver Spoon」

荒川弘が太鼓判、原作ファンも大納得!大ヒット農業青春マンガ、完全実写化

汚いところはちゃんと汚く写している

──原作のファンに向けて、映画で荒川先生が魅力に感じられた部分を教えていただけますか。

「銀の匙 Silver Spoon」カット

やはり、映像で生の北海道が見られるってことでしょうか。

──「銀の匙」が生まれた背景を、実際に観ることができるという。

はい。マンガに出てくるあの景色って、こんなに実はスケールや奥行きがあったんだって。空気がすごく伝わってくるので、マンガをより一層楽しめるようになるんじゃないかなと思います。あと汚いところは、ちゃんと汚く写していますし。

──汚いところというと。

馬小屋の横で、足元がぐっちゃぐちゃになってたり……あと、牛の直腸検査とかね。あれ、吉野役の岸井ゆきのさんしかやっていないんですけど。芸能界広しと言えども、牛の直腸検査をやったことがあるのは彼女ぐらいでしょうね(笑)。

──直腸検査は、声がすごくリアリティがあって面白かったです。

そして芸能界広しといえども、ばんえい馬をソリで扱えるのは、たぶん御影役の広瀬さんぐらいではないかと。

──確かに。直腸検査をしたり、ばんえい馬をソリで扱ったり……この撮影以外ではなかなか体験できないと思います。

芸能界で使うスキルじゃないですよね……(笑)。でも広瀬さんも中島さんも、普通の乗馬が短期間ですごく上手になられていて。あれはすごく驚きました。

と畜シーンも普通の感覚で描いている

──と畜場のシーンも印象的でしたね。豚に電気ショックを与えて気絶させるところは、実際に見るとインパクトがありました。

マンガ「銀の匙 Silver Spoon」より。

豚の解体を、実写映像で観られるという。あそこは、と畜するところを実際に見せて、役者さんたちの素の反応を撮影しているんですよね。

──ドキュメント映画のようです。でも改めて、生き物の命を奪って生きているんだということに関心が沸きました。

やはり私にとっては、身の回りで経験していることだったのですごく普通の光景なんですよ。と畜する職業の方もいるし、それを運んでく業者の方もいるし、もちろん家畜を育てている人もいる。

──別に教育的精神があって描いているわけではない?

全然ないですね。むしろ普通の営みとして描いてます。キャラクターを描きながら、何を食べているかとか、家族は何人いるかとか、どんな仕事をしてるんだろうと考える、その延長ですよね。その仕事が農家だったり、家畜を解体する人だったりするというだけで。

──なるほど。あのシーンを見た際の印象は、全然嫌なものではなかったです。「この肉を食べているんだな」という感じでした。

と畜のシーンを観て、肉を食べたくなくなる人もいるかしれないですけどね。駒場役の市川知宏さんは、農家の子の役なのに倒れそうになってしまったらしいですし。

──そういえば、先生が最初に映画を観られた後には、担当さんたちと肉を食べに行ったと伺いました。

あ、ステーキ屋に行きましたね。なんだか「お肉を食べよう」という雰囲気になったんですよ。単にお腹がすいてたからっていうのもあると思いますが(笑)。

たくさん食べてたくさん動いている映画

──でも確かに、見ていてお腹の減る映画だと思います。八軒がベーコンを作って皆にふるまうシーンも、すごく美味しそうでした。

荒川弘

やっぱりこの映画は、たくさん食べてたくさん動いてるから気分がいいのかなと。

──生徒役の皆さんは、本当によく身体を動かしていましたね。

ばんえい競馬の障害やコースを、手で作っちゃう。原作マンガでは先生がトラクターを使ってちゃっちゃっと作っちゃうんですけど。

──映画だと手押し車で土を運んで、人力で作っていました。

あのコース、生徒役の皆さんが本当に作ってくださったんですよね。撮影現場で、スタッフの方が「じゃあここにこうしてー」って言ったら、みんなで集まってワイワイ作る。そういう雰囲気はやっぱり見ていて気分がよかったです。

──本当の学校のようでしたね。

あと私たちが撮影を見に行ったとき、ロケ地の農業高校の生徒さんたちがピザを焼いてくれたんです。それがすごく美味しくて。

──それは美味しそう!

あと、トマトを育てているハウスに、生徒さんたちが毎日来ていて。トマトをもいで、サイズが合わないといった理由で売れないものを撮影地に持ってきてくださって、食べさせてくれたりしてました。

──羨ましい……北海道ロケならではの楽しみですね。

やっぱりみんなでニコニコ笑って食べたら、何でも美味しくて楽しい。そういう部分は、すごく伝わってくるんじゃないかなと思います。

「銀の匙 Silver Spoon」カット
映画「銀の匙 Silver Spoon」3月7日(金)より全国東宝系にて公開中
映画「銀の匙 Silver Spoon」
進学校に通いながらも受験に失敗し、「寮があるから」という理由だけで逃げるように大蝦夷農業高校【通称:エゾノー】に入学した八軒勇吾(中島健人)。将来の目標や夢を抱く同級生のアキ(広瀬アリス)や駒場(市川知宏)に劣等感を感じつつ、農業高校の生活に悪戦苦闘の日々。しかし北海道の雄大な自然とニワトリ、豚、牛、馬、そして個性豊かな仲間たちに囲まれた常識を覆す農業高校の生活の中で、八軒は悩み戸惑いながらも次第に自分なりの答えを見つけ始める。
「やれば出来るって…無理な事なんかないって」。
そんなまじめで正直な八軒に新たな難題が立ちはだかる…。
  • 出演:中島健人、広瀬アリス、市川知宏、黒木華、上島竜兵、吹石一恵、西田尚美、吹越満、哀川翔、竹内力、石橋蓮司、中村獅童
  • 原作:荒川弘「銀の匙 Silver Spoon」(小学館「週刊少年サンデー」連載)
  • 主題歌:ゆず「ひだまり」(セーニャ・アンド・カンパニー)
  • 監督:吉田恵輔
  • 企画・プロデュース:平野隆
  • エグゼクティブプロデューサー:田代秀樹
  • 脚本:吉田恵輔、高田亮
  • 音楽:羽毛田丈史
荒川弘「銀の匙 Silver Spoon (11)」 / 2014年3月5日発売 / 450円 / 小学館
「銀の匙 Silver Spoon (11)」

もうすぐ春がくる。
エゾノーの寮を巣立つ日が近づいてきた…
疲れた体を引きずって泥のように眠ったベッド…
実習と部活で空になった胃袋を満たしてくれた食堂…
良いことも嫌なことも分かち合った仲間たち…
そして、大豊作な思い出の数々…
八軒勇吾のエゾノーので一年は、濃厚な味がした。
冬編…クライマックス!!

荒川弘(あらかわひろむ)
荒川弘

1973年5月8日北海道生まれの女性。1999年月刊少年ガンガン(スクウェア・エニックス)にて「STRAY DOG」でデビュー。同誌での初連載「鋼の錬金術師」が雑誌の看板になるほどの大ヒットとなり、2003年にはアニメ化、その後も映画、ゲームなど多メディア展開が行われた。第49回(平成15年度)小学館漫画賞少年向け部門を受賞。2011年には、週刊少年サンデー(小学館)にて初の週刊連載作品「銀の匙 Silver Spoon」を開始した。自画像として牛を使用するのは、実家が牧場経営なことと、丑年生まれで牡牛座であることに由来する。