コミックナタリー Power Push - 「銀河英雄伝説」
藤崎竜×田中芳樹 両雄が語る「銀河英雄伝説」の舞台裏
この先何回ご迷惑をおかけするかわからない(田中)
──ラインハルトは黄金色の髪に蒼氷色の瞳を持つ、美しい若者ですからね。しかも“常勝の天才”とまで謳われるキャラなので、確かに彼の視点で共感を得るのは難しいかもしれません。今までマンガ版に登場したキャラの中で、描くのが大変なキャラは、やはりラインハルトですか?
藤崎 全員大変っちゃ大変なんですが……一番はアンネローゼですね。いつも同じものを着ているわけではないので、ファッションも難しいですし。
田中 そう聞いてはたと気付くと、確かに私もアンネローゼが一番書きにくかったかなと。だっておしとやかな女性って書きづらいんですよ。
藤崎 アンネローゼもラインハルトもそうなんですけど、小説に「黄金色の髪」と書いてあるんです。ただの金髪じゃないんですよ。私のイメージでも2人はすごくゴージャスで。ラインハルトの髪はツヤだけで1カット1時間、アンネローゼは2時間かかります。
──アンネローゼがラインハルトと一緒に暮らしていた頃のシーンは大変だったでしょうね。
藤崎 いやあもう本当に……。
田中 大変ご迷惑をおかけしました。ただこの先、何回ご迷惑をおかけするかわからない……あらかじめお詫びしておきます。
藤崎 最初から覚悟しているのでご心配なさらずに(笑)。ラインハルトのキャラデザインは初めからこのイメージでした。あとキルヒアイスも原作を読んだときのイメージを再現しています。この2人のように小説を読んだときのイメージが頭に残っている人はいいんですけど、例えばヤンはアニメのヤンが頭の中に残っちゃってて。
田中 なるほど。
藤崎 小説だと「若く見える」という記述があるんですけど、私はアニメのヤンがあまり若く見えなかったんです(笑)。だからアニメのイメージを、頭の中からリセットしなくてはと思って。
──小説でヤンが初登場したのは29歳のときでしたね。マンガ版の第1話でヤンの顔を描かれていますが、これは29歳を想定していらっしゃるんですか?
藤崎 いえ、これはもう少し若いヤンですね。
田中 ヤンはこのカラーページ以外ではまだ顔を見せてないですね。ユリアンも楽しみです。
藤崎 実は今、解決が急がれるユリアンのデザイン問題がありまして(笑)。途中で身長がヤンを越してしまうから、難しくて。
──「銀英伝」はラインハルトのいる銀河帝国側、ヤンのいる自由惑星同盟側、それに第3勢力のフェザーン自治領など、「三国志」みたいにたくさんキャラが出ますからね。
藤崎 そうです。描き分けないといけないから、難しいです。ミッターマイヤーもそろそろ決めないと……。
田中 本当に申し訳ありません。でも僕は気楽なもんで、ただただ楽しみです(笑)。
「銀河英雄伝説」を大河ドラマに(藤崎)
──キャラの服装はどうやって決めているのでしょうか?
藤崎 結構思いついたままなんですけども。例えば帝国軍の服装は、昔のヨーロッパの服をいろいろ参考にしています。ただそのまま描いてしまうと未来感がないので、小説に書いてある軍服に関する文章から、何種類もデザインしました。
──原作に忠実でありながら、未来感を出す。
藤崎 ここ変えちゃえ!って、忠実じゃない部分も結構あるんですが(笑)。
田中 全く構いません。小説だと服のデザインは「装飾が施されている」とかなんとか、10字以内ですむんですけどね。
藤崎 「この言葉がなければ」とはよく思います。あはは(笑)。制限がある中でのデザインも、結構楽しいです。
──宇宙戦艦などメカは加藤直之さんがデザインしたトクマ・ノベルズ版やアニメ版に準拠されていますね。
藤崎 そうです。加藤さんのデザイン以上のものはもう描けないと思ったので。なんと言っても、昔夢中で読んでいた小説の表紙が加藤さん。もうあのデザインからは逃れられないですね。
──それほどお好きだった「銀河英雄伝説」をコミカライズすると決まったときは、どんなお気持ちでしたか?
藤崎 いやあ、好きすぎて無理なんじゃないかと最初思ったんです。なんですけど、ほかの人が描くくらいだったら……と(笑)。
──やると決めるのに結構時間が掛かったりしました?
藤崎 いや、3分くらいです。
一同 (笑)
藤崎 決まってから、一度3話目くらいまで描きました。ラインハルトとヤンが初めて対峙するアスターテ会戦から始まるネームで描いてみたんですが、違うな、と思って。
──小説のスタート時点でラインハルトは20歳ですが、マンガ版は子供時代のラインハルトとキルヒアイスの出会いのエピソードから始まりましたね。小説とはかなり違う構成で描かれています。
藤崎 そうなんです。今まで「封神演義」と小野不由美先生の「屍鬼」をコミカライズしましたが、まずテーマを決めてるんです。例えば「封神演義」は、中国古典のこの作品をジャンプマンガに変えよう。「屍鬼」はとにかくリアルに、舞台の外場村を作り出そう、と。で「銀英伝」の場合は、何度目かの打ち合わせ中に「大河ドラマ」というワードが出てきて「それだ!」となりました。
──大河ドラマにしようと。
藤崎 はい、大河ドラマって子供時代からやりますよね。だからラインハルトも、最初から描かないといけない。
田中 それで子供の頃のエピソードからなんですね。ラインハルトとキルヒアイスの出会いのシーン、好きですねえ。
藤崎 よかったです。私も大河ドラマ、大好きなので。自分で描くのは結構楽しいですね。あと子供時代からのほうがわかりやすいだろうという意図もあります。
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遠く、遠く、遥かなる未来──
“常勝の天才”と“不敗の魔術師”と称される2人の英雄、ラインハルト・フォン・ミューゼルとヤン・ウェンリーがこの世に生を受ける。
時代の波濤に煌めく2つの灯火が銀河を翔け、人類の命運を動かす──。
悠久の戦乱に終止符を打つべく現れた、2つの巨星の運命を描くSF英雄譚!!
藤崎竜(フジサキリュウ)
1971年3月10日生まれ、青森県出身。1990年、「ハメルンの笛吹き」が第39回手塚賞佳作を受賞。同年、第40回手塚賞で準入選を受賞した「WORLDS」が少年ジャンプ ウインター・スペシャル(集英社)に掲載されデビューを果たす。1992年に週刊少年ジャンプ(集英社)において、「PSYCO+」で初連載。1996年に同誌で連載を開始した「封神演義」ではアニメ化やゲーム化も果たしている。その後も「サクラテツ対話篇」「屍鬼」「かくりよものがたり」など、 独特な作風で、多くの読者の支持を得る。2015年より週刊ヤングジャンプ(集英社)にて、田中芳樹原作による「銀河英雄伝説」を連載中。
田中芳樹(タナカヨシキ)
1952年10月22日生まれ。1978年に「緑の草原に……」で、探偵小説専門誌・幻影城(幻影城)の新人賞を受賞しデビューを果たす。1982年より「銀河英雄伝説」シリーズを発表。同作で1988年に星雲賞の長篇部門を受賞している。そのほか代表作に「アルスラーン戦記」やうつのみやこども賞を受賞した「ラインの虜囚」など。