コミックナタリー Power Push - 「銀河英雄伝説」
藤崎竜×田中芳樹 両雄が語る「銀河英雄伝説」の舞台裏
田中芳樹が1982年に世に放ったスペースオペラ小説「銀河英雄伝説」。“常勝の天才”と謳われるラインハルトと、“不敗の魔術師”ことヤンの2人を軸に、英雄たちが戦いを繰り広げる姿を綴った壮大なSF作品だ。昨年9月に藤崎竜が週刊ヤングジャンプ(集英社)にて今作のコミカライズを手がけることが発表され、話題をさらった(参照:藤崎竜が田中芳樹の「銀河英雄伝説」を独自の視点でマンガ化、YJで連載)。
コミックナタリーでは単行本1巻の発売を記念し、藤崎と田中の対談を実施。作品や登場キャラクターの魅力、原作とは違う構成にした意図など制作秘話を語り合ってもらった。
取材・文 / 三木美波
高校生の頃に「銀河英雄伝説」に出会った(藤崎)
──「銀河英雄伝説」が発表されてから34年経ちますが、藤崎先生のマンガ版に、2017年の新アニメプロジェクトと、いまだに愛され続けていますね。
田中芳樹 当時はこんなの書いちゃって売れるんだろうか、という気持ちが強かったんですよ。ただ20世紀前半くらいのアメリカのスペースオペラは読んでいて面白いんだけど、物足りないところがあるなあ、と生意気なことを考えまして。もっと書きようがあるはずだし、どうせ次の作品も売れなくてもう仕事も終わりだろうから好きなことを書いちゃれ!と。ただ幸いに書きはじめると、いろんなささやき声が聞こえてきて、ストーリーやキャラクターが勝手にできあがっていくので。時間的にはキツかったんですけど、割と楽しく書き上げられたなという気分です。
──ささやき声というのはご自分の中から湧き上がってくるものですか?
田中 ええ、ほかの作家の方は“神様が降りてくる”と言いますね。でも僕の場合は悪魔がささやくんです(笑)。
藤崎竜 そんな(笑)。僕は高校生の頃に「銀河英雄伝説」に出会いました。海外のSFが大好きで読んでいたんですけど、日本のものも読んでみようと探してて、ついに「銀英伝」に行き着いた。面白かったですし、たまらなかったですね、本当に。次の巻は一体いつ出るのかと(笑)。
──藤崎先生は「銀英伝」のどこに惹かれたんでしょうか?
藤崎 宇宙が舞台で世界観が大きい、英雄と英雄の戦い、魅力的なキャラがたくさん……もう面白い要素がいっぱいじゃないですか。ラインハルトは理想的な英雄、片やヤンは見たこともない英雄。この2人が戦うんだから面白くないわけがない。
田中 ありがたいですね。ラインハルトは、東方遠征して大帝国を作り上げたアレキサンダー大王とか、17歳でロシアのピョートル大帝を打ち負かしたというスウェーデンのカール12世とか、過去の英雄からいいとこ取りして作りました。
藤崎 ラインハルトとヤンは一対で生まれたと、昔インタビューでおっしゃっていましたね。
田中 ええ。2人はほとんどタイムラグなく生まれた気がします。カッコいいのと、カッコ悪いのと(笑)。
──ヤンがカッコ悪いほうですか?
田中 ええ、そうだったんですよ。女性読者からは支持されないだろうから、せめて作中で……と思って結婚させてやったら、読者からも案外モテましたね。必要なかったな(笑)。
藤崎 僕はヤンが一番好き。ヤンは素晴らしいです。
──藤崎先生が描かれた「封神演義」の太公望と通じるところがありますよね。ヤンは「魔術師ヤン」と呼ばれるくらい奇策を用いる軍人ですし、太公望も敵味方関係なく驚くような策を使う軍師です。
藤崎 そこらへんはとても影響を受けています。読んだものは全部自分の中に蓄積されてますが、「銀英伝」が一番影響力が大きいと思います。
田中 藤崎さんの「封神演義」、必ず完読するつもりでおりますけど、まだ全部は読んでいないんです。ただ原作の中国古典「封神演義」がこうなるのかとすごく驚きました。横山光輝先生の「殷周伝説」は同じく「封神演義」をベースにオーソドックスに描いていらっしゃって、比べて読むととても同じ原作とは思えない。世の中に食材は限られているかもしれないけど、料理人の違いでナイフさばき、ソースの混ぜ方なんかも変わってきて、いくらでもパラレルワールドができていくんだと思いました。
──田中先生はご自分の小説がマンガや舞台などにメディアミックスされるとき、内容に関して一切リクエストを出さないと伺っています。「銀英伝」は道原かつみ先生も長年コミカライズを手がけてきましたね。藤崎先生という違う料理人による「銀英伝」をお読みになっていかがでしたか?
田中 「ああ、こうきたか!」と。
藤崎 (笑)
田中 キルヒアイス視点で物語が進んでいきますよね。ラインハルトを客観視していて、「ラインハルトはすごいやつだけどちょっと危なっかしいぞ」ということが伝わってくる。自分がいないとラインハルトはどこに飛んでいくかわからないというキルヒアイスの気持ちが、押し付けがましくなく自然に伝わってきて、大変ありがたい作り方をしていただいていると思っております。
藤崎 キルヒアイス視点というのは元から決めていました。ラインハルトは天才なので、彼の視点だと描けないんですよ(笑)。それに描いたとしても読者の共感が得られないと思って。
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遠く、遠く、遥かなる未来──
“常勝の天才”と“不敗の魔術師”と称される2人の英雄、ラインハルト・フォン・ミューゼルとヤン・ウェンリーがこの世に生を受ける。
時代の波濤に煌めく2つの灯火が銀河を翔け、人類の命運を動かす──。
悠久の戦乱に終止符を打つべく現れた、2つの巨星の運命を描くSF英雄譚!!
藤崎竜(フジサキリュウ)
1971年3月10日生まれ、青森県出身。1990年、「ハメルンの笛吹き」が第39回手塚賞佳作を受賞。同年、第40回手塚賞で準入選を受賞した「WORLDS」が少年ジャンプ ウインター・スペシャル(集英社)に掲載されデビューを果たす。1992年に週刊少年ジャンプ(集英社)において、「PSYCO+」で初連載。1996年に同誌で連載を開始した「封神演義」ではアニメ化やゲーム化も果たしている。その後も「サクラテツ対話篇」「屍鬼」「かくりよものがたり」など、 独特な作風で、多くの読者の支持を得る。2015年より週刊ヤングジャンプ(集英社)にて、田中芳樹原作による「銀河英雄伝説」を連載中。
田中芳樹(タナカヨシキ)
1952年10月22日生まれ。1978年に「緑の草原に……」で、探偵小説専門誌・幻影城(幻影城)の新人賞を受賞しデビューを果たす。1982年より「銀河英雄伝説」シリーズを発表。同作で1988年に星雲賞の長篇部門を受賞している。そのほか代表作に「アルスラーン戦記」やうつのみやこども賞を受賞した「ラインの虜囚」など。