電子書籍ストアのDMMブックスを持つ合同会社DMM.comが、Webのタテ読みマンガ……いわゆるWebtoon事業への参入を2021年12月に発表した。その背景には2019年に前年比37.3%の伸びを記録したタテ読みマンガの市場規模の拡大がある(2020ウェブトゥーン事業実態調査)。
そしてDMMはタテ読みマンガへの参入に合わせて、コンテンツ制作スタジオ・GIGATOON Studio(ギガトゥーンスタジオ)を新たに設立。これまでオリジナルマンガを作っていなかったDMMが、制作から販売までの体制を整えつつある。どのような戦略を持ってタテ読みマンガ事業を展開していくのか、同スタジオ代表取締役CEOの太田淳一郎氏、編集の責任者を務める取締役COOの五十嵐悠氏に話を聞いた。またGIGATOON Studioに協力しているという「全裸監督」のプロデューサー・たちばなやすひと氏からのコメントも到着。DMMブックスで独占配信中のGIGATOON作品の試し読みも公開しているのでチェックしてみよう。
取材・文 / 三木美波撮影 / ヨシダヤスシ
今はタテ読みマンガの制作スタジオ黎明期
──これまでDMMはオリジナルマンガを作っていなかったので、タテ読みマンガ事業への参入、そしてコンテンツの制作スタジオ設立というリリースに驚いた人も多かったと思います。今日はDMMの制作スタジオGIGATOON Studioの中心人物であるおふたりにたっぷりとお話をうかがっていければと思いますが、まずは自己紹介からお願いできますか。
太田淳一郎 GIGATOON Studioの代表取締役CEOを務めさせていただいてます。仕事のキャリアでいうと携帯電話キャリア、アパレルメーカー、スタートアップを経てDMMグループに入社しました。
五十嵐悠 GIGATOON Studioの取締役COOとして、編集の責任者を務めています。元小学館のマンガ編集者で、少年サンデー、マンガワン、コロコロコミックなどで働いていました。
──ここ1、2年でタテ読みマンガの制作・編集を行う会社がいくつも設立されましたが、“スタジオ”を名乗る会社が多いなと思ってまして。GIGATOON Studioもそうですね。
五十嵐 タテ読みマンガは、マンガというよりもアニメに近い制作方法を取ることが多いんです。具体的にいうとプロット、シナリオ、ネーム、下書き、背景、彩色といった工程を属人化せず、多くのクリエイターが関わる分業制ですね。だから編集部というよりスタジオのほうがしっくりくる。タテ読みコンテンツのスタジオは今後も数多く設立されると思いますが、生き残るためにアニメのスタジオのようにそれぞれの色を出すべく努力している状況だと思います。
──色というと、例えば京都アニメーションの作品だったら作画が美しいとか、ufotableだったらアクションの期待値が高いとか。
五十嵐 そうです。アニメだと「あのアニメスタジオの新作が来期放送されるから観ないと!」みたいに言われることもありますが、国内のタテ読みコンテンツのスタジオではまだそれがない。今が黎明期だと思っていますし、「GIGATOON Studioの新作なら読む!」というところを目指しています。
──そういえば、LINEマンガで連載中の「俺だけレベルMAXなビギナー」は、タテ読みの人気作「俺だけレベルアップな件」の“制作スタジオの新作”という触れ込みだったんです。日本では“誰々先生の新作”と作家の名前が出るのが一般的なので、Webtoonらしい表現ですよね。「俺レベ」はタテ読みが読者にも作り手にも浸透している韓国の作品ですが、今後日本でもスタジオがクオリティの担保につながってくるのかもしれません。
“GIGATOON”を作っていく
──タテ読みコンテンツ事業に参入ということですが、具体的には?
太田 DMMブックスで、3月15日からタテ読みコンテンツの取り扱いを開始します。まず読めるようになるのは、GIGATOON Studioオリジナル作品ではなく既存のタテ読みマンガです。
五十嵐 国内外の多くの作品を取り扱うので、一気にDMMのプラットフォームでタテ読みが盛り上がっていくと思います。ぜひDMMでタテ読みマンガを体感してほしいですね。
太田 そして夏頃からGIGATOON Studioのオリジナル作品がスタートしていきます。
五十嵐 2022年のうちに始まるGIGATOON Studioのオリジナル作品は、50作品程度を想定しています。「復讐の赤線」で人気のユーナ株式会社と組んだ作品や、「ワタシってサバサバしてるから」原作のとらふぐさんとの作品などを現在制作中です。
──DMMがタテ読みコンテンツに参入することを決めた理由を教えてください。
太田 Web発信のマンガコンテンツ市場が伸びていて、それに最適化しているのがタテ読みです。参入した理由をシンプルに言うと、成長市場でビジネスチャンスがあるから。それに、メジャーなタテ読みプラットフォームに日本産のものがないというのも理由でした。今後伸びていく市場に国産のプラットフォームを作って、国産コンテンツを流通させる必要があるなと。
五十嵐 今は電子ストアもさまざまな出版社のマンガを取り扱うだけでなく、ストアのオリジナル作品を作るのが主流です。でもDMMブックスはこれまでオリジナル作品をほぼ作っていなかった。そこは競合に負けている部分でもあるし、逆に言うと伸び代でもあって。GIGATOON Studioではタテ読みだけじゃなく、従来のヨコ読みマンガも手がける予定です。
太田 客観的に見てもDMMブックスはすごく優秀な電子ストアなんです。でもDMMは攻めの文化なので、利益を出していればいいというものじゃなく、競合に成長率で勝つことをひとつの目標にしています。
──確かに競合の1つであろうピッコマは日経トレンディ(日経BP)の「2021年ヒット商品ベスト30」で9位に入り、2020年に前年比約2.8倍の販売金額376億円を達成したとありました。成長著しい市場なのは間違いないですね。
太田 今後もタテ読みコンテンツ市場の成長は継続すると思っています。実は、僕たちはタテ読みコンテンツ市場をマンガ市場とは捉えておらず、モバイルコンテンツ市場だと認識しているんです。ユーザーがスマホを見ている時間を、いかにGIGATOON Studio作品を読むことに使ってもらえるかを考えています。
五十嵐 僕も最初はタテ読みを「マンガの延長上」と考えていたんですが、その考えで動いてると危ういかもしれないと変わってきて。今ではスマホに最適化された、新たなエンタメの形だと思っています。個人的にはマンガアプリの黎明期以上の盛り上がりをタテ読みに感じているんですけど、バブルだとも考えていて。タテ読みに参入する会社は多いと思いますが、淘汰もされる状況になってくるかなと。この数年で、いかにいいプラットフォームを提供できるか、いいコンテンツを揃えられるかが鍵になってくる。
──タテ読みはマンガの延長上にあるものではない?
太田 従来のマンガ市場とは商流がかなり違うんです。従来のマンガ市場は単行本になって印税が入ることありきでシステムが組まれているけど、タテ読みは単行本化を前提にしていない。
──ビジネスモデルが異なると。
太田 それに、これからモバイルコンテンツ市場は伸びていくのでもっと作品が求められますが、作り手……マンガ家になれる人は限られています。マンガ家って1人でストーリーとキャラクターが作れて、絵も描けて、色塗りもできてっていうすごい人たちなんですよ。
──超人ですよね。
太田 そう、超人なんです。でもそんな超人、天才って数少ないじゃないですか。タテ読みは制作フローを細かく区切って分業制にしているので、話作りは得意だけど絵が描けない人、色を塗るのは好きだけど線画は得意じゃない人、風景をずっと描いてたい人、みたいな“オールマイティではないけどさまざまな才能を持つ人”が活躍できるシステムなんです。
五十嵐 太田が言うように、マンガは1人の天才による、その人の創作物です。でもタテ読みは属人化せずに分業制にすることで、参加するみんながクリエイター足りうる。つまり、クリエイターとして生きていける人を圧倒的に増やすことができるんです。これは僕らの目指すところだと思っていて。
太田 ええ。僕らGIGATOON Studioでは“マンガの次を作る”というミッションを掲げています。
──つまり従来のマンガ市場でヒットする“次のマンガ”ではなく、“マンガの次”という新しいものを作ると。
太田 そうです。そういった意味でも従来のマンガ市場とは異なると思っています。