家族に向ける優しさこそが、ソーマの原動力
──キャラクターについてもお話を伺いたいのですが、小林さん演じるソーマについて、改めてご紹介いただけますか。
小林 ソーマは急に異世界に召喚され、王位を譲られてしまうんですが、そこであれこれ悩むのではなく「帰る手段もよくわからないし、任されたからにはやるしかないよな」と引き受けてしまうという、現実主義的なキャラクターです。そしてもともと頭が回るので、あれもしなきゃ、これもしなきゃといろいろやっていった結果、王としての風格が身に付いていく。かといってカリスマがあるというわけではないんですが、不思議な魅力を醸し出しています(笑)。それから僕が今まで関わった異世界ものの作品は、主人公の特殊能力をカギとしてストーリーが展開されることが多かったんですけど、ソーマは特殊能力もありつつ、一番の武器になるのはあくまで現代知識というところが特徴ですね。
──小林さんはキャストコメントでソーマについて「『すごい』ではなく『優しい』キャラクターにしていきたい」とおっしゃっていますよね。ソーマは次々と画期的な政策を打ち出していく「すごい」キャラクターであり、ほかにもさまざまな魅力を持っていると思うのですが、その中で「優しい」という要素にフォーカスした理由を教えていただけますか。
小林 役作りにあたって、異世界に召喚される前、ソーマがおじいちゃんと会話するシーンを参考にしたんです。ここでは「家族を作れ、そして家族を大切にしろ」ということが強調されていたので、この考えが彼の根底にあるものなんだろうなと思って。
──ソーマは物語が進んでいくと、水瀬さん演じるリーシアをはじめ、仲間たちのことを家族だと思うようになりますよね。その家族に対する優しさが、ソーマというキャラクターの核になっているということでしょうか。
小林 そうですね。彼は「俺が王になってやる!」という熱意を持っているわけではなく、あくまで押し付けられて仕方なく王をやっている。じゃあその原動力はどこから来ているんだろうと考えたときに、それは「王としてみんなを守らなきゃ」という気持ち、家族への優しさなんだろうと思っています。でもそれぞれのキャラクターとの絆を深めていくと、王としてではなくソーマ・カズヤとしての優しさも見せるようになりますね。その変化は物語が進んでいくと感じられると思います。
──そんなソーマの一番そばにいて、彼とともに国を再建していくのが、水瀬さんが担当されているリーシアですね。前国王の娘であり、ソーマの婚約者でもあります。
水瀬 リーシアは勇ましさを感じるビジュアルからもわかるように、城の中でじっとしているのではなく、自ら動いて国のためにがんばっているお姫様です。普段は国を背負う者として凛とした振る舞いをしているリーシアですが、ソーマにはくだけた姿を見せるようになるので、そのギャップがとてもかわいらしいですね。アニメの第1話では、お父さんの判断で勝手にソーマの婚約者にされてしまうので、最初だけソーマにきつくあたるんですけど、すぐに気に入ってしまう(笑)。
小林 何話か先まで粘って、ソーマに対して意固地なキャラクターを貫こうとしてたけどね(笑)。
水瀬 そうそう(笑)。あとは自分が悪かったことを認めて謝れるところは尊敬していて、姫としての気品を感じます。
──また序盤ではソーマが優秀な人材を求めて発した「唯才令」によって、それぞれに特技を持ったアイーシャ、ジュナ、ハクヤ、トモエ、ポンチョという5人が集います。どのキャラクターも物語で重要な役割を果たしますが、おふたりがとくに好きなのは誰でしょうか。
小林 みんな好きですけど、個人的にはハクヤが頭一つ出ていますね。
──ハクヤは豊富な知識を持ち、洞察力に秀でた青年ですね。どんなところが気に入っているのでしょうか。
小林 実は、ソーマの話についていけるキャラクターがハクヤぐらいなんです。ほかの人に対してはソーマ側から考えを発信するだけということが多いんですけど、ハクヤはしっかり返答をしていて、その意見に考えさせられるところがあったりする。
水瀬 確かに。唯一ラリーしているコンビかも。
──ソーマとハクヤの2人はバディっぽい関係性ですよね。
小林 そうですね。ハクヤが登場してからの会話は1つレベルが上がったような感じがして楽しかったです。
──水瀬さんはいかがですか?
水瀬 私はトモエがかわいいなと思います。
──“妖狼族”という種族の女の子ですね。集まった5人の中では最年少です。
水瀬 トモエは何かをするたびに、誰もが思わず手を差し伸べてしまうような、みんなの妹みたいなポジションのキャラクターなんです。そんなかわいらしいトモエがどんな特技を持っているのか、注目していただきたいです。
一国の姫の重責を感じた、綿花畑のシーン
──アフレコについても聞かせてください。先ほど小林さんは、ソーマが国の再建に関わる話をモノローグで語る場面で悩んだとおっしゃっていましたね。話の難しさを和らげるために、演じるうえでどのような工夫をされたのでしょうか。
小林 実際に難しいことを言ってはいるので、あとは堅苦しい言い方にならないように気を付けました。先生が教え子に教えているというよりは、あくまで同じぐらいの立場の人たちに向けて世間話をしている感じで、親しみやすく。
──視聴者が身構えてしまわないような話し方を心がけたということですね。
小林 そうですね。あと異世界ものではよく現代知識を説明するときに、主人公が「これも知らないんだ」的な反応をすることがあるんですが、そのときに嫌味な感じを出さないようにしたくて。そこが密かにがんばっていたポイントですね。
──ソーマの性格から考えても、馬鹿にしているつもりはないはずですからね。ほかに演じるうえで苦労されたシーンはありましたか?
小林 初めて国民に唯才令を言い渡すところはいろいろ考えました。このときソーマは王位を譲られたばかりなので変にカリスマ感を出すのは避けたかったんですが、もう少し王っぽく演じてほしいというディレクションがあったので悩んで。でもその前のエピソードで、ソーマが某アニメ作品のオマージュネタを披露したことがあったので、演技や真似をするのは好きなんだろうと自分の中で納得させて、王っぽい演説をしました。
──王を演じているソーマを演じたというか……。
小林 そうです(笑)。そのニュアンスの違いが伝わればいいなと思いつつ、「この人はあまり王っぽくないけど面白そう」と国民に思わせられるように、楽しそうな雰囲気を出しました。最初のソーマは「いかにも王らしくしゃべっているけど、クサい芝居だな」と言われるくらいでいいのかなと思っていて。徐々に王としての自覚が芽生えていくキャラクターなので。
──水瀬さんはリーシアを演じるうえで、心がけていたポイントはありますか?
水瀬 私は第1話の雰囲気を後の話数で引きずりすぎないよう意識していました。第1話のリーシアは急に現れた婚約者としてのソーマに対して、最初はキツく当たって、怒って、でもその次のシーンでは事情を知って謝って……とジェットコースターみたいに目まぐるしく感情を揺さぶられるんです。ただ第2話以降、ソーマの知識がエルフリーデン王国の力になると理解してからは、いろいろ教えてもらって役に立とう、ソーマの言っていることを理解しようと、フラットな感情でソーマに疑問を投げかけるようになります。
──リーシアは怒っていても、相手の事情や話を聞いて筋が通っていると思えば考えを改める柔軟さを持ったキャラクターですよね。ソーマに対しても、彼の能力や置かれた立場を理解してからは、気持ちを切り替えていくというか……。
水瀬 はい。だから第1話を終えてからは、どうしたらソーマが歩いているのと同じ道を辿れるかということを模索して学ぼうとする、フラットなリーシアを演じるようにしました。それから演じていて印象的だったのは、リーシアが「エルフリーデン王国について知ったつもりでいたけど、まだ知らない部分があった」と気付く場面です。
──綿花畑を前に、ソーマが「(綿花畑が)この国の食糧不足の原因だ」とリーシアに語るシーンですね。
水瀬 これまで理解できていなかった食糧難の原因がわかったときにハッとさせられたと思うし、それをしかも異世界の人に教えてもらうって、どんな気持ちだったんだろうと考えてしまって。リーシアは「この国の姫なら当然それを知っているべきだった」と自分をすごく責めていて、国のことを知ることの難しさ、姫という立場の大変さを感じました。この場面はリーシアを演じていて自分も苦しくなってしまいましたし、だからこそその場にソーマがいて、フォローしてくれてよかったなとも思いました。
序盤エピソードのアバンタイトルは必見
──アフレコにはおふたりで臨んでいるとのことでしたが、ソーマとリーシアの掛け合いについて話し合われたことなどはありましたか。
小林 話し合ってはいないですが、実際に掛け合いをしてみると予想と違うアプローチがくることがあったりするので、それが実質、話し合いみたいなものだったかもしれないですね。例えば第1話でリーシアにけっこう心を許してもらえたと思っていたら、第2話の収録ではまだちょっとだけツンとした態度で「あっ、なるほど! いきなりは打ち解けないよな!」ってなりました(笑)。それを受けて、ソーマも急に馴れ馴れしくしないようにして。
──水瀬さんは、小林さんの演技を受けて演じ方を変えたことはありましたか?
水瀬 さっきゆーりんさんが少し言っていたけど、リーシアたちが知らない某アニメのオマージュネタをソーマが披露する場面があって……。
小林 急に「速攻ことわざ発動!」って言い始めて(笑)。
水瀬 その演技が思っていたよりもノリノリだったから、こっちも全力で引けました(笑)。
小林 ははは(笑)。しっかりやらないで「日和ったな」と思われるのも嫌だなって思って(笑)。でもやりきったところで「何その言い回し……」って思いっきり引かれたから、それに対する返事は消え入るような声で。
水瀬 ここは実際に掛け合いをしないとできない温度感で演じられました(笑)。
小林 でも一応、ああいうのは恥ずかしいんだからね!(笑)
水瀬 そうなんだ! 生き生きしてるなあって思ったけど(笑)。
小林 ならよかったです(笑)。それからアフレコ現場では僕だけセリフ量が異常に多いのでよく息切れを起こしてしまって(笑)、いのりんには「大変だねえ、がんばってね」って励まされていました。
水瀬 特に序盤の話数のアバンは注目ですよ。毎話ソーマがものすごくしゃべっているから。
小林 耳を傾けてほしいですね。途中からこのアバンはなくなるんですが、それを知ったときはいのりんはがっかりしてたね(笑)。
水瀬 そうそう。ずっと続くものだと思っていたら、ある日「あれ、今日はアバンないじゃん」って(笑)。
小林 「楽しみにしてたのに」って言ってたよね(笑)。解放してくれよ俺を(笑)。
──小林さんは主役を演じられることが多いですよね。自分のセリフがいっぱいあることには慣れていらっしゃるかなと思ったのですが……。
小林 ははは(笑)。慣れてはいますけど、毎回胃を痛めながらやっていますね。「現国」に関してはナレーションが多いので、どこにアクセントを置こうとか、長い一文のどこで息継ぎしようといったことを考えるのが大変な作品です。
水瀬 ですので、リアルタイムで観る方は、遅刻しないでぜひ冒頭から観てほしいです(笑)。
──小林さんの努力の成果をお見逃しなくということですね。それでは最後に、改めて視聴者の皆さんへのメッセージをお願いします。
小林 最初は1人でがんばろうとしているソーマのところに、リーシアたち仲間が集まって、王国を再建していくんですが、その過程でさまざまな問題が起こります。それらの問題と問題の間には連続性があって、1話見逃したらだいぶ置いていかれてしまうので、そこは気を付けていただいて。僕も改めて第1話の完成版を観て「そういえばこの段階でここまで説明していたな」と思ったくらい、序盤の話が後の展開につながっていく。とくに第1話にはいろんな情報が集約されているので、内容をしっかりと覚えておいてほしいなと思います。
水瀬 主人公が国を救っていく展開には痛快さもあり、頭の今まで使っていなかったところを刺激されるようなところもあり(笑)。国を豊かにするための政策について今まで考えたことがなかったので、私自身も見ていてこういう救い方があるんだとか、こういう切り口があるんだということを学んでいます。ソーマはかなり頭のいい男の子なので、きっと彼の説明や提案を1回聞いただけだと「ん?」となる方も多いと思います。ですので録画して、わからないところは観返して、理解しながら次の話に進むようにしていただけると、より一層この物語の面白さを味わえるんじゃないかなと思います!
2021年7月24日更新