TVアニメ「現実主義勇者の王国再建記」が、明日7月3日よりTOKYO MX・BS11ほかにて放送される。同作は異世界に勇者として召喚され、さまざまな問題を抱える国の王位を譲られてしまった青年ソーマ・カズヤが、持ち前の合理的精神と現代知識を活かして王国を再建していく“異世界内政ファンタジー”だ。どぜう丸による原作小説は単行本がオーバーラップ文庫にて第15巻まで、コミックスは第7巻まで刊行されており、累計発行部数は100万部を突破している。
コミックナタリーではアニメでソーマ・カズヤ役を演じる小林裕介と、ヒロインのリーシア・エルフリーデン役を演じる水瀬いのりの対談を実施。過去にも別作品で幾度か共演し、「いのりん」「ゆーりんさん」と呼び合うほど気心が知れた2人だが、主人公とメインヒロインとしてタッグを組むのは初めてだという。本記事ではそんな両名に改めてお互いの印象を聞きつつ、それぞれの役柄の魅力やアフレコ時のエピソードなどについて話してもらった。
※当記事の取材・撮影は新型コロナウイルス感染症への対策を行ったうえで実施しています。
取材・文 / 齋藤高廣 撮影 / 星野耕作
「ゆーりんさんの声は苦悩を与えてこそ輝く」
──おふたりは過去に別作品で何度か共演されていると思いますが、主人公とメインヒロインとしてタッグを組むのは初ですよね。お互いの配役を知ったときの心境について教えていただけますか。
小林裕介 うれしかったし、安心だなと思いました。僕も人見知りするほうなので、ヒロインのキャストがすごく仲のいい人だと知って心強かったです。そういえば配役が発表された翌日か翌々日にいのりんに会う機会があって。そのときに「また俺、異世界行くわ(笑)」って言ったら「行こうよ何度でも!」と返してくれたのを覚えています。前向きなところが「まるでリーシアだ」と思いました(笑)。
水瀬いのり 私もまったく同じ気持ちでした。主人公がいてこそのヒロインなので、相方である主人公をどなたが演じられるのかということは、作品に取り組むうえで重要なことだと思っていて。なので「ソーマ役は小林裕介さんです」と聞いたときは本当に安堵しました。今は感染症対策で、ほかの方と一緒にアフレコをするのが難しい環境ですが「たとえ一緒に録れなくても、主人公がゆーりんさんなら安心してお芝居できるな」と。
──お互いに信頼し合っていることが伝わってきました。そんなおふたりですが、お互いの演技やお人柄についてはどのような印象を持たれているのでしょうか。
小林 いのりんは謎の落ち着きがありすぎる(笑)。「年齢を偽ってるのかな?」って思うくらい。本当にどっしりと構えているので、頼っちゃうことも多い、そういう不思議な魅力を持っている人ですね。それから僕にとってはいのりんというと、どうしてもかわいらしい役を演じる印象が強かったんですけど、今回初めて姫然とした凛々しさのある演技を聴いて「演技の幅の際限がねえな」って思わされました(笑)。
水瀬 いやいや、照れるからやめて(笑)。私のゆーりんさんのイメージは“近所にいるお兄さん”ですね。登下校とか通学路とかで「今日も行ってらっしゃい」って言ってくれるお兄さんみたいな親しみやすさがあって(笑)。
小林 (笑)。
水瀬 実は私のほうが10歳年下なんですけど、気兼ねなくタメ口でしゃべれる数少ない男性声優さんであり、「いのりん」「ゆーりんさん」と気楽に呼び合える唯一無二の存在。仲間というか、チームメイトというか、役者として強いつながりを感じています。演技について言えば、ゆーりんさんの声は迷いや苦悩を与えてこそ輝く声ですよね(笑)。今回ゆーりんさんが演じているソーマ・カズヤという役も、いきなり異世界に召喚されて何がなんだかわからない中、それでも自分にできることが何かを考えて、必死に切り開いていくキャラです。
小林 平穏な役はなかなか演じさせてもらえないという(笑)。
水瀬 いやいや、そういう役柄の演技ももちろん素敵なんですけど(笑)。キャラクターの苦悩や葛藤を演技で表現することは簡単なことではないので、私はゆーりんさんのそういうところをすごく尊敬しています。
ゼルリンうどんは試しに食ってみたい
──ここからは「現実主義勇者の王国再建記」のお話を伺っていきます。異世界に召喚されたソーマという青年がさまざまな問題を抱えた国の王位を譲られてしまい、現代の知識を活かして改革を行なっていくという物語ですが、原作を読んだ印象はいかがでしたか?
小林 会話のテンポもいいし、ストーリーもスムーズに進んでいくので、すごく読みやすいという印象でした。でも国の再建に関わる政策の話になると情報の密度が高くなって、しっかり読まないと置いていかれる。アニメでは政策の話をソーマがモノローグで語るのですが、正直最初は「これはうまく演じないと聴いている人たちが飽きてしまうな」という心配がありまして、3、4話ぐらいまでずっと頭をひねっていました。ただ、そこさえしっかり皆さんに届けられたら「なんかすげえな」と思わせる力のある作品だと感じています。
水瀬 私はソーマたちが地道によりよい国づくりをしていく物語を読んでいて、きっと私たちの文化もこうして発展してきたんだろうなと、歴史を学んでいるような気持ちになりました。またアニメでは速水奨さんのナレーションで「のちにこのことがこうなったのである〜」という世界観の説明が挟まるんですが、それを聴くと「私たちが観ているこの物語は歴史の断片であって、これが遠い未来の何かにつながる出来事になっているんだ」と感じることができて、わくわくするんです。
──壮大な歴史の流れを感じられるというか。
水瀬 そうなんです。その大きな流れの中のワンシーンにすぎないけど、ここがなかったらきっと先の流れが変わっていただろうと思えると、起こる出来事の1つひとつが面白くて。すごい魔法が使われたり、すごく派手なアクションシーンがあったりする作品ではないんですけど、ソーマを見ていると、地道に一歩一歩進んでいく姿勢は大事だと学べるし、カッコいいなと思います。
──確かにソーマは普通のことをしっかりコツコツとこなしていくキャラクターですよね。水瀬さんは作品について、キャストコメントでは「現代日本から異世界に召喚されたソーマが自らの知識やアイディアを駆使して様々な問題を解決して行く爽快な物語」とも語っていますが、ソーマが行う改革の中で好きなものはありますか?
水瀬 故郷の森を守っているアイーシャというダークエルフの子に、間伐について教えるところです。木を適度に伐採することで森林を保護できるということを全然知らなかったので、「へえ!」と思って。勉強になりました。
小林 普通知らないよね(笑)。俺も間伐っていう言葉しか知らなかったから「そういうことなんだ!」って思った。
──小林さんはいかがですか?
小林 僕は食糧難の問題を解決するため、新しい料理を作るところが好きですね。ソーマが自分の力だけでどうにかしようとするのではなく、自分よりも食べものに詳しい人にしっかり頼っていたところと、異世界ならではの食材と現代の知識を融合させていたところがよかったです。異世界のスライムみたいな動物を食材にしたゼルリンうどんは「試しに食ってみてえな」って思った(笑)。
水瀬 もし「現国」のコラボカフェをやるとしたら、再現メニューが作られそうだよね。
小林 確かに(笑)。
──それは食べてみたいですね(笑)。ちなみに、おふたりはソーマのように身の回りのいろんなことを改革していくほうでしょうか?
小林 改革したいとは思っていますね。ただリスクをかなり考えてしまうので、何かを変えたいと思っても、考えた結果「うん! やめよう!」ってなることが多い(笑)。
水瀬 私は自分にとって興味があることについてはけっこう迷いなく飛び込むタイプですね。刺激とか新しいものにワクワクする、好奇心を大事にして生きています。
小林 カッコいいなあ……。俺は誰かの後押しがないと最後の一歩を踏み切れない。
水瀬 そうなの?
小林 例えば飲み会をするとしても、いきなり全員に声をかけて誰も集まらないとダメージが大きいから(笑)、まずは1人に声をかけて、参加してくれるならほかの人にも声をかけてみる。あるいは誰かが「そろそろやりたいな」って言ってくれたら「じゃあみんなに声をかけてみるよ」って感じで動けるけど、自分からいきなり全員に声をかけることはできない(笑)。
水瀬 確かにゆーりんさんはそうかも! 「なんかやらない?」って言ったらめちゃくちゃ動いてくれるよね(笑)。
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家族に向ける優しさこそが、ソーマの原動力
2021年7月24日更新