2017年に全6話構成で始動した「ガールズ&パンツァー 最終章」。2019年6月15日にはファン待望の「第2話」が劇場公開され、「第1話」から続く大洗女子学園とBC自由学園の熱戦に終止符が打たれた。
コミックナタリーでは、10月11日からスタートする「最終章」第1話・第2話の4D上映に合わせた連載特集を展開。第1回には、2012年のTVシリーズからシリーズ構成・脚本を手がける吉田玲子に登場してもらい、水島努監督とのやり取りなど制作の裏側から、「ガルパン」ならではの脚本術まで、改めて「最終章」を振り返って語ってもらった。
取材・文 / はるのおと
コアラの森学園隊長の登場は“ノリ”
──TVアニメ「ガールズ&パンツァー」の放送は2012年10月から始まりました。準備段階から考えると、もう10年近くこのシリーズに携わられているのでしょうか。
準備から放送まで2年くらいかかっていたはずなので、それくらいになりますね。戦車で試合するというニッチな内容なので、当初はこれほど長く、多くの方に観ていただける作品になると思っていませんでした。
──ここまで人気が続く理由をどう分析されますか?
どうなんでしょう……戦車同士の試合のバリエーションがたくさんあって、戦車をマニアックに知らない方でも楽しめるからでしょうか。
──「ガールズ&パンツァー 劇場版」以降、作品内容と映画館で観るスタイルとの相性のよさも強く感じます。戦車戦の迫力を味わうのに映画館がうってつけの環境で、その体験が熱狂的なファンを増やした側面もあるのでは。
確かに、砲撃音は映画館で聞くほうが断然いいですよね。「こんなところから聞こえるの?」なんて笑っちゃうときもあるくらいです。
──吉田さんも新作が公開されるたびに映画館に行かれているのでしょうか?
行っています。4D上映の演出には全然関わっていないので、ウィットに富んだ演出も楽しませてもらっています。「劇場版」のお風呂のシーンで泡が出てきたときは驚きました。
──「ガルパン」は毎回登場キャラクター数が多いですが、多くのキャラクターに一言でもしゃべらせようとしているのが印象的です。
最近はもう、キャラクター名が台本の1ページ目に収まらないどころではないですから(笑)。試合に出ているキャラクターはもちろん、ギャラリーも含めてそのキャラらしいセリフを言わせるよう意識しています。
──メインではないキャラクターまでセリフにこだわられているおかげか、「ガルパン」はキャラクター人気が広く分散しているように感じます。
それも意外でした。大洗女子学園もチームごとに強くカラー分けしたし、それ以外の学校もかなり個性が強いキャラクターが多かったので。もちろん、みんな嫌われないようにというか、「友達になってもいいかな」と思われるくらいのキャラクターにはしていますけど。ただ水島監督の中では、当初から「『ガルパン』ではかわいい女の子をしっかり描く」というミッションがあったようなので、その点が成功していたらうれしいです。
──例えば「第2話」だと、知波単学園がコアラの森学園を下すくだりが少し描かれます。あそこでコアラのデザインまで新規に作って登場させる必要はないのに、それをするこだわりに「ガルパン」らしさを感じます。
あれはノリですね。コアラの森学園やワッフル学院、ヴァイキング水産高校などはTVシリーズの頃から名前は出ていましたが、水島監督が「本当にコアラがいたらいいね」「コアラが隊長かもしれない」というアイデアを言われたので……「ガルパン」はそういうノリで実現することが多いです。
──吉田さんは水島監督とほかの作品でも一緒に制作されていますが、「ガルパン」現場ならではの取り組み方は感じますか?
ご本人が戦車をすごくお好きなので、戦車戦をいかに面白く見せるかにこだわっておられます。これまで何度も戦車戦をやっていますが、それでも「まだもっと面白いものを」という意欲を持っていらっしゃるので、毎回、大変なようです(笑)。
「ガルパン」の肝は情報量の多さ
──「劇場版」を観たときに「これ以上に楽しい戦車戦なんて、ほかの映像作品では難しいのでは」と思いましたが、さらに高みを目指していると。
試合ごとに対戦相手も地形も違うので、その状況の中であらゆるものを活かしてどう面白くするか。そのこだわりはとても強いですね。それは水島監督だけでなく、コンテを描かれる方も、3D監督の柳野啓一郎さんもそうだと思います。
──その影響は脚本にも表れていますか?
「ガルパン」のシナリオって細部へのこだわりを拾いながら脚本を書くので、普段書いているものの1.4倍くらいのボリュームになるんです。それを圧縮しているのでセリフもト書きも多く、情報量が多い。そのため、特にTVシリーズのときは「これ、本当に尺に収まるのかな?」と少し不安もありました。
──それは試合のシーンだけでなく日常パートでも?
はい。だから声優さんも他作品よりテンポよくしゃべっていらっしゃるし、カットの切り替えも早い。そうした情報量の多さとテンポ感が「ガルパン」の面白さに繋がっていると思います。
──「ガルパン」はよくマニア心をくすぐるやり取りをしますよね。優花里やカバさんチーム(歴女チーム)辺りを筆頭に。ああいった小ネタがテンポよく交わされることで、かなり情報の密度を感じます。ただ吉田さん自身はミリタリー分野にはさほど詳しくなかったとか?
そうです。「ガルパン」ってプロットを作ったら、その後は水島監督と考証・スーパーバイザーの鈴木貴昭さん、プロデューサーの皆さんと一緒に、作戦会議をして試合の流れを決めていくんです。「どことどこが戦う。じゃあ作戦はどうする?」なんて言いながら地図の上でコマを動かして。私はまだ戦略とか考えられないので、その場でも素人ながらのアイデアや質問を出すくらいです。
──ではミリタリー方面の小ネタは、その首脳陣が出されているのでしょうか。
主に考証・スーパーバイザーの鈴木貴昭さんが考えてくれます。私が「ここでこういうネタが欲しいです」と脚本上で書いておくと、「こういうのどうですか?」みたいに提案してくれて。
──その分、吉田さんはみほたちの女子高生らしいやり取りに集中されていると。
はい。基本的には私がこれまで書いてきた普通の学園ものと同じ気持ちで、彼女たちの会話を書いています。みほたちが戦車でしているのは、戦争ではなくあくまで授業ですからね。
BC自由学園のこぼれ話はいずれどこかで
──ここからは「最終章」の内容について伺います。まず「第1話」から新たに登場したBC自由学園と大洗女子学園のサメさんチーム(船舶科チーム)が、どんなふうに生まれたか教えてください。
まずBC自由学園は学校名から作っていったところがあって。
──第二次世界大戦のフランスを二分した、ヴィシー政権と自由フランスを合わせた名ですね。
だから校内でエスカレーター組と外部生の対立構造がある。その上でフランスで有名なとある女性をモデルにしたマリーが隊長をすることになりました。
──「第1話」では、その対立構造が大洗女子学園を追い詰めるポイントとなりましたが……。
大洗女子学園と戦うためだけに手を組んだ、にわか仲良しですから(笑)。その辺りのこぼれ話は、今後どこかでお届けできるかもしれません。
──BC自由学園で書いていて印象的なキャラクターは?
マリーです。元ネタが元ネタだけに少し浮世離れさせたいけど、隊長なんだからそれなりに資質もあるんでしょう。そのバランスをどうしようか悩みながら書いた記憶があります。あと隊長の資質の1つとして身体能力を高くしました。
──マリーは戦車上でアクロバティックな動きを見せますよね。あれはなぜでしょう?
身体能力が高いので、戦場を飛び交う弾が当たらないんです。隊長全員というわけでもないですけど。ただマリーに関しては、アニメになるとあり得ないような不思議な動きをしていましたね(笑)。
──みほも「第1話」でムラカミのパンチを避けまくっていたので納得です。
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サメさんチームを一番怖がりそうなウサギさんチーム
2019年9月6日更新