コミックナタリー Power Push - 「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」

自分を信じることしか方法のない少年たち 長井龍雪監督×シリーズ構成・岡田麿里 対談

「そっか、こいつオルガのこと好きだったんだ」(長井)

──群像劇ということもあり「オルフェンズ」には数多くの登場人物が出てきますが、どの子も個性的なキャラクターばかりで魅力を感じます。

左からオルガ・イツカ(CV:細谷佳正)、ユージン・セブンスターク(CV:梅原裕一郎)。年少組がオルガに懐く様子が気に入らず、オルガに反発する姿を見せていたユージンだが……。

長井 最初は単純に多様性だけを考えて配置していったんですけど、物語が進むうちにそれぞれに個性が出てきて。収まるべき場所に収まっていったなと思います。ユージンも、当初はもう少しフワッとしたポジションにいて。オルガに対する形で生まれたキャラクターではあったんですけど、反発しながらも結果的に“オルガ大好き”な人になっていったりとか。それも声を聴いていくうちに、「ああ、ユージンはこっちのほうだね」って。「そっか、こいつオルガのこと好きだったんだ」って気付いていったんです。

岡田 長井監督は、最初に設定したキャラクターの性格に振れ幅があることを、基本的にはよしとしないんです。口頭で「こうしてみたいんだけど」と言うと、だいたい駄目出しされる(笑)。だから「あ、このままだとこのキャラクターはフワッとしたまま進んじゃうな」って思ったときは、そのキャラに対して、毛色の違う強めのセリフを1つ入れておくんです。それを読んだ長井監督に「なんか変だね」って言われなかったら、「あ、このキャラはこっちのラインにいけるんだな」ってわかるんですよ。

──岡田さんのほうでも方向性を探ってみるんですね。

岡田 例えば、長井監督ってキャラクターを成長させるのがあんまり好きじゃないんです。わかりやすい成長を見せたがらないタイプで。

長井 急に「成長」とか言われると、「なんでだよ」ってちょっと引いちゃう部分があるんです。

クーデリア・藍那・バーンスタイン(CV:寺崎裕香)。火星独立運動に関わる中心的な人物。鉄華団と行動をともにすることで過酷な現実に直面した彼女は、“革命の乙女”として頼もしい1人の女性へと成長を遂げていく。

岡田 こういった群像劇って、成長物語と食い合わせがよすぎて難しい部分もあると思うんです。なので脚本を書くときに「このぐらいの成長描写だったらいいのか?」「こういうセリフを言ってもいいのか?」っていう、チャレンジみたいなものはします。とは言え、完成した映像を観ると、監督は成長を成長としてしっかり描くんですよね。通してくれたところは全力を持ってやってくれる。

長井 コンテを描いてるときに「ああ、こういうことだったんだ」ってシナリオに対して理解し直すところがあって。シナリオだけ読んでいるときは、自分の理屈で考えるので納得いかない部分もあったりするんですけど、コンテにしてみるとなんとなく見えてくるものもあるんです。他人事というか、キャラクターを俯瞰で見られるようになるんですよね。「そっか、こいつ成長するんだ」「まあでも、ここで成長するよな」って、納得できるんです。

彼らにとってはそうするしか方法がない(長井)

──「オルフェンズ」は鉄華団たち少年兵の姿を中心に描いていますが、少年兵やテロなどといった現実世界にもある問題を、物語を作るうえではどう意識されているのでしょうか。

「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」第1期第24話より。「鉄華団の未来のため、囮になり自分たちの命を賭けてくれ」と語るオルガに対し、鉄華団の少年たちは「それで鉄華団が見れる未来が大きくなるなら」と作戦に乗る。

長井 企画の段階では、そういった部分も考慮して物語の要素として入れたんですけど、そこに対する答えは決めないで始めたんです。もちろん「よい」「悪い」で言えばよくない問題だっていうのはわかっているんですけど、でも本人たちはそれを悪いことだと思ってないよね、というところがこの物語の出発点で。やってる行為がいいことでも悪いことでも、彼らにとってはそうするしか方法がないので。

──少年たちは「間違ってる」とか「正しい」とかではないところで動いている。ただ、そんな鉄華団を前にしたメリビットさんが、第24話で「こんなの間違ってる」と顔を覆うシーンは、ハッとさせられましたし、胸が苦しくなりました。

長井 そう感じていただけたならよかったです。俺らもあそこはメリビットさんがいてくれてよかったと思いました。

岡田 どう考えても鉄華団は間違ってることしかしていない。でもオルガたちは自分を信じているから、シナリオとしては間違ってることを正しいことのように言わせなくちゃいけなくて。だけど彼らの行為を否定してくれる人がいないと、鉄華団側からの視点しか映し出せない……と模索していたんですけど、メリビットさんがいてくれて助かりました。

──メリビットさんのあの言葉があったおかげで、現実に戻された感覚がありました。オルガたちは幼い命を犠牲にしてでも戦うことしか知らないから、それが正義かのように見えてしまうけど、それが本当に正しいことなのか、と。

幼少期からオルガと深い絆で結ばれている三日月は、「オルガの目指す場所へ行けるんだったら何だってやってやる」と揺るぎない信念を持ち戦う。

岡田 アニメの恐ろしいところは、映っていることだけが正しいかのように、作ってる人たちもそれを信じてるかのように見えてしまうんですよね。セリフだけに注目すると、鉄華団もそこまで聞こえの悪いことを言っていないので。

長井 とは言えどちらが正解というわけでもないので、そのあたりの話は提示するだけなんですけど。

岡田 メリビットさんが「こんなの間違ってる」って言ったから変わる話でもないというのが、この「オルフェンズ」なのかなと思います。

「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 第2期」

2016年10月2日(日)より毎週日曜17:00~
MBS/TBS系列全国28局ネット

キャスト
  • 三日月・オーガス:河西健吾
  • オルガ・イツカ:細谷佳正
  • ユージン・セブンスターク:梅原裕一郎
  • 昭弘・アルトランド:内匠靖明
  • ノルバ・シノ:村田太志
  • クーデリア・藍那・バーンスタイン:寺崎裕香
  • アトラ・ミクスタ:金元寿子
  • ハッシュ・ミディ:逢坂良太
  • ザック・ロウ:古川慎
  • デイン・ウハイ:木村昴
  • ラディーチェ・リロト:深川和征
  • ククビータ・ウーグ:斉藤貴美子
  • マクギリス・ファリド:櫻井孝宏
  • ラスタル・エリオン:大川透
  • イオク・クジャン:島崎信長
  • ジュリエッタ・ジュリス:M・A・O
  • 石動・カミーチェ:前野智昭
  • ほか
長井龍雪(ナガイタツユキ)

1976年生まれ、新潟県出身。アニメーション監督、演出家。主な代表作に「とらドラ!」「とある科学の超電磁砲」「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」「心が叫びたがってるんだ。」など。

岡田麿里(オカダマリ)

1976年生まれ、埼玉県出身。脚本家。「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」「心が叫びたがってるんだ。」「花咲くいろは」「LUPIN the Third -峰不二子という女-」など、数々の作品でシリーズ構成や脚本を務める。