「ふしぎ遊戯 白虎仙記」が6年ぶりに再始動、つづ井×いそふらぼん肘樹の濃厚クロストーク (2/2)

四神天地書の中に入って叶えたい、張宿ちりことの夢のセッション

──恋模様やアクション、紅南国こうなんこく倶東国くとうこくの対立など、さまざまな要素がテンポよく展開していく「ふしぎ遊戯」ですが、特に印象的だったシーンは?

つづ井 展開が怒涛で、挙げるとキリがないんですけど、やっぱり柳宿ぬりこが亡くなるシーンは忘れられないです。その少し前に、美朱みあか鬼宿たまほめを助けながら彼が言う「生きてりゃあねえ!! つらいことでもいつか笑って懐しく話せる時が来るのよ! そうなれる日まであんた達は死なせないよ!!」っていうセリフは、すごく胸に刺さりました。このシーン、自分の記憶の中では見開きだと思っていたんです。でも読み返したら、1ページの中の小さいコマに収まっていて、すごく驚きました。それくらい衝撃を受けたということですよね。

つづ井が挙げた、柳宿の印象的なセリフ。

つづ井が挙げた、柳宿の印象的なセリフ。

肘樹 この言葉はもう、忘れられないですよね。こんなに早く、大事な仲間が欠けてしまうなんて……という衝撃も大きかったです。柳宿ぬりこは亡くなる前、致命傷を負っているのに、しっかり尾宿あしたれにトドメを刺すし、みんなのために岩を動かしてあげるんですよね。本当に彼らしいなって。アニメだと、現実世界で柳宿ぬりこ美朱みあかがお出かけして遊ぶ、“If”なシーンが描かれるんですよ。あんなふうに幸せなシーンを、もっともっと見たかったですね。

つづ井 わあ、それはぜひ見たいですね……。柳宿ぬりこ美朱みあかと同じ目線で話せる存在で、すごく魅力的なキャラクターだったからショックが大きくて。しばらくは続きをなかなか読めなかったです。

肘樹 切ない……。「ふしぎ遊戯」は少女マンガだけど、バトルシーンではガッツリ戦うじゃないですか。それもすごく迫力があって、ハラハラしました。

つづ井 柳宿ぬりこのほかにも、激闘を経て、体を貫かれるほどのダメージを負って亡くなるキャラがいたり……。魔物もしっかり怖くて、幼い頃は直視できなかった記憶があります。そんな迫力にもドキドキさせられていました。

──ちなみにおふたりは、もし四神天地書の中に入れたら、誰の立ち位置になって、何をしたいですか?

肘樹 うわあ、難しいですね。巫女ポジションもありですか? いや、美朱みあかみたいなガッツは持てないですね……。

つづ井 難題ですね! でも、私はこのキャラクターになりたいとかはないかな。善良な一市民になりたいです。紅南国こうなんこくに住んで、激動の展開に翻弄されていたい。

肘樹 いいですね(笑)。私は叶うのであれば、張宿ちりこの近所に住む人になって、七星士の字が出ておらず自分に自信が持てない張宿ちりこを励ましてあげたいです。そして、私は口笛が趣味なので張宿ちりことセッションしたいし、私とのセッションをヒントに、新たな技を生み出してほしいです。

つづ井 うわあ! 最高の回答すぎますね。

肘樹 真剣に考えました(笑)。

草笛が得意な張宿。幼いながらも高い知力を持つ。

草笛が得意な張宿。幼いながらも高い知力を持つ。

生き生きと動くキャラ、シリアスな中でも絶対に忘れないギャグ…「ふしぎ遊戯」と渡瀬悠宇から受けた影響

──おふたりはそれぞれギャグマンガやエッセイマンガを描いていらっしゃるので、渡瀬先生とはジャンルが異なりますが、マンガ家として「ふしぎ遊戯」から影響を受けた部分はありますか?

肘樹 おっしゃる通り、私が描いているのはギャグマンガなのでいろいろと異なるとは思うんですが、渡瀬先生のマンガ家としての姿勢には共鳴する部分があります。渡瀬先生は単行本のおまけページで、柳宿ぬりこが死んでしまう回の原稿を描き上げて号泣されたと書かれていたんですよね。キャラクターが物語を動かしている、ともよく書かれていて。自分もマンガを描いていると、「まさかこんな展開になるなんて」と、作者ながら驚くことがあるんですよ。キャラクターが物語を先導しているなって。渡瀬先生の魅力的なキャラクターが作品の中で生き生きと動くさまは、同じマンガ家としてリスペクトしていますね。

つづ井 私もジャンルが違いすぎるので、直接的に「こういう影響を受けました」とは言えないんですが、「ふしぎ遊戯」が自分の創作物の好みにかなり強く影響を与えている感覚はあります。中国風の世界観や、シリアスの中に絶対にギャグを入れて楽しませようとする気概だったり。そういう要素が好きになったのは、間違いなく「ふしぎ遊戯」を読んでからですね。

肘樹 ギャグを入れてくる感じやテンポのよさ、私も大好きです! 渡瀬先生の「絶対彼氏。」も、ポップなテンションがずっと続いていて好きな作品です。“理想の恋人フィギュア”のナイトが本当に健気だし、主人公のリイコが好きな幼なじみのソウシくんも魅力的で。元気でかわいい作品が読みたい方にはおすすめです。

「絶対彼氏。」より。上からナイト、リイコ、ソウシ。

「絶対彼氏。」より。上からナイト、リイコ、ソウシ。

追えていなかったことをすごく後悔、時代に合わせて進化し続ける「ふしぎ遊戯」

──「ふしぎ遊戯」は1996年まで連載され、その後玄武の巫女・多喜子の物語を描く「玄武開伝」が2003年から2013年まで発表されました。そして今回2巻が発売された「白虎仙記」では、白虎の巫女・鈴乃の物語が描かれていきます。

つづ井 私は「ふしぎ遊戯」以降のシリーズを追えていなかったんですが、今回お話をいただいて「白虎仙記」を読んだら、やはりすごく面白くて……。「玄武開伝」はまだ読めていないんですが、絶対にすぐ読もうと思っています。

肘樹 私も同じく追えていなかったんですが、この取材のお話をいただいて読み始めたら止まらず、「玄武開伝」を一気読みしてしまいました。「ふしぎ遊戯」初代シリーズとも少し雰囲気が違って。バトル展開が多いのでハラハラするし、ヒロインの多喜子が薙刀で戦えるというのも、新鮮でよかったですね。

──初代シリーズの本編でも玄武の巫女、白虎の巫女の物語は語られていて、「白虎仙記」ではそれが詳細に描かれていきます。白虎七星士の婁宿たたらも序盤からさっそく登場するので、ワクワクする読者の方はきっと多いですよね。「白虎仙記」を読んで、まずどんな感想を抱きましたか?

つづ井 私はまず、ヒロインの鈴乃ちゃんがすごくかわいくて大好きになりました。おっとりしていて優しくて。序盤の8歳の鈴乃ちゃんを見て「このまますくすくと育っておくれ」と願っていたら、やっぱり巫女としての過酷な運命を背負うことになって……。ここからどんどんつらい宿命が襲ってくる予感がしますが、「鈴乃ちゃん、成長を見せておくれ!」と、ぐっと唇を噛み締めて思っているところです。

幼少期に関東大震災に遭った鈴乃。鈴乃の父親は鈴乃を生き残らせるために、四神天地書の中の西廊国(さいろうこく)に飛ばす。
幼少期に関東大震災に遭った鈴乃。鈴乃の父親は鈴乃を生き残らせるために、四神天地書の中の西廊国(さいろうこく)に飛ばす。

幼少期に関東大震災に遭った鈴乃。鈴乃の父親は鈴乃を生き残らせるために、四神天地書の中の西廊国(さいろうこく)に飛ばす。

──天真爛漫な美朱みあかとも、凛とした強さを持つ多喜子ともまた違う、鈴乃のヒロイン像は新鮮ですよね。

つづ井 本当に、とてもかわいいです……!

肘樹 幼少期を見ると、もう何も起こらないで……と祈ってしまいますよね。私は「白虎仙記」を読んでまず、今回も世界観がとてもしっかり描かれているなと思いました。2巻の巻末に渡瀬先生の取材旅行記が収められていますけど、文化圏がこれまでのシリーズともまた違っていて、見ているだけでも楽しいです。

舞台の西廊国。渡瀬は取材旅行として、シルクロード交易の拠点だったウズベキスタンに赴いた。

舞台の西廊国。渡瀬は取材旅行として、シルクロード交易の拠点だったウズベキスタンに赴いた。

──肘樹さんは、特に好きなキャラクターはいますか?

肘樹 私は、実は虎人フウインだけど、鈴乃の代わりに白虎の巫女になりすます寧蘭ネイランがすごく好きです。巫女の鈴乃を支える存在かと思いきや、対立構図になるとは……!と、驚きました。初代シリーズでも朱雀と青龍の対比が好きだったので、これからどう相対していくのかが気になります。寧蘭ネイランは、最初はワイルドなお姉さんの印象がありましたが、ニルシャと再会したとき、無邪気な女の子の顔を見せているのがかわいかったですね。

虎人の寧蘭。白虎の巫女を騙る。

虎人の寧蘭。白虎の巫女を騙る。

仲間もおらず、孤独に生きてきた寧蘭。幼い頃に1度だけ出会い、自分を理解してくれたニルシャを慕っている。

仲間もおらず、孤独に生きてきた寧蘭。幼い頃に1度だけ出会い、自分を理解してくれたニルシャを慕っている。

つづ井 あそこのシーン、かわいかったですよね! 寧蘭ネイランは、少し房宿そいに通ずる雰囲気も感じます。

肘樹 寧蘭ネイランは過酷な世界で生きてきて、ニルシャに優しくしてもらったことを支えにして生きてきたんでしょうね。すごく健気だなと。

つづ井 寧蘭ネイランは虎の姿になりますが、虎の描写もめちゃくちゃ迫力があってカッコいいですよね。「白虎仙記」は、初代シリーズとはまた違った絵柄の魅力だと感じます。

肘樹 わかります! 渡瀬先生は時代に合うように絵柄のチューニングをされていますよね。初代シリーズの中では、鈴乃の運命が結末まで明かされていますが、「白虎仙記」の中では渡瀬先生がどう描いてくださるのかも気になります。

──「玄武開伝」のラストは、初代シリーズで描かれていた結末に帰着していましたが、「白虎仙記」では渡瀬先生が物語をどう運んでいくのか気になりますよね。初代シリーズに登場した婁宿たたら奎宿とかきはすでに登場していますが、今後昴宿すばるが登場するのも楽しみです。

肘樹 初代シリーズで、おばあちゃんだった昴宿すばるが若返ったときのノリが好きだったので、あの姿が見られるのは楽しみですね! 鈴乃はおとなしい子だから、ああいう元気なお姉さんがそばにいてくれると心強いんじゃないかな。

昴宿は白虎七星士の1人で、同じく白虎七星士である奎宿の妻。時間を操る能力を持っており、美朱がピンチの際には若返って戦闘に加わった。

昴宿は白虎七星士の1人で、同じく白虎七星士である奎宿の妻。時間を操る能力を持っており、美朱がピンチの際には若返って戦闘に加わった。

──ちなみに渡瀬先生は、flowers掲載のインタビューで「(今後の『白虎仙記』では)美朱みあかの兄が鈴乃に会うまでの流れをちゃんと描けたら」とお話しされていました。

つづ井 そうなんですね! 奎介けいすけさん、すごく好きなので楽しみです。

肘樹 めちゃくちゃ妹思いなお兄ちゃんですよね。私も大好きです。アニメだと、図書館で四神天地書を読んでいる奎介けいすけさんのシーンが、次週への引きになることが多かったんですよ。美朱みあかの行く末をリアルタイムで見守る彼は、さぞかしハラハラするだろうなと思いながら見ていました。

──おふたりのように、初代シリーズは夢中で読んでいたけど「玄武開伝」「白虎仙記」をまだ追えていない方もいるでしょうし、「白虎仙記」で初めて「ふしぎ遊戯」シリーズに出会う方も多いと思います。最後に改めて、コミックナタリー読者へ「ふしぎ遊戯」の魅力を伝えていただけますでしょうか。

つづ井 はい。今回「白虎仙記」を読ませていただいて、続きがとても楽しみになりましたし、初代シリーズを読んでいた頃の思いが蘇りました。今後もまだまだ「ふしぎ遊戯」の世界を奥深く楽しめそうでうれしいです。そしてこれまでに「玄武開伝」「白虎仙記」を追ってきていなかったことをすごく後悔したので、私と同じような皆さんもぜひ、一緒に楽しんでほしいです。

肘樹 「ふしぎ遊戯」シリーズは、自分も本の中の世界に入ったのかと思うくらい、世界観がしっかり作り込まれています。キャラクターも1人ひとりが生き生きと描かれていて、そこに存在していることを実感をもって感じられる作品ですね。「白虎仙記」はまだ2巻だからすぐ追いつけますし、未読の方はぜひこれを機に「ふしぎ遊戯」デビューしてほしいです!

「ふしぎ遊戯 白虎仙記」が連載再開された号のカラー扉。

「ふしぎ遊戯 白虎仙記」が連載再開された号のカラー扉。

──ありがとうございます! ちなみに、お互いの絵柄で「ふしぎ遊戯」のキャラクターをイラストに描いてもらうとしたら、誰をリクエストしますか?

肘樹 えー! 誰にしようかな……。

つづ井 うーん。好きなキャラの井宿ちちりと言いたいところですが……肘樹先生の絵柄だと、美朱みあかとかが映えそうな気もして……。

肘樹 ああ、口を大きく描きそう(笑)。

つづ井 そう! 口が大きな、ギャグ顔の女の子が映えると思うんです。でも先生が好きな房宿そいも見てみたいな……!

肘樹 ありがとうございます。うーん、悩みますね。つづ井さんに描いてもらうなら、張宿ちりこかな。小柄な張宿ちりこは、デフォルメされたかわいらしい絵柄に合うと思うんです。つづ井さんのあの絵柄、大好きです!

つづ井 うれしい、ありがとうございます!

つづ井&いそふらぼん肘樹が
「ふしぎ遊戯」のイラストを描き下ろし!

クロストークが盛り上がった後日、急遽予定にはなかった「ふしぎ遊戯」のイラストを2人に依頼。ともに快諾し、リクエストを受けたキャラクターを魅力たっぷりに描いてくれた。

つづ井

つづ井のイラストエッセイ。
つづ井のイラストエッセイ。
つづ井のイラストエッセイ。

つづ井のイラストエッセイ。

いそふらぼん肘樹

いそふらぼん肘樹のイラスト。

いそふらぼん肘樹のイラスト。

プロフィール

つづ井(ツヅイ)

2014年10月にX(@wacchoichoi)で絵日記の投稿を開始。2017年、デビュー作の「腐女子のつづ井さん」が第20回文化庁メディア芸術祭の審査委員会推薦作品に選ばれた。現在はCREA(文藝春秋)のWebサイト・コミックエッセイルームで「とびだせ! つづ井さん」を連載中。地方の実家を飛び出し、東京で始めた一人暮らしの日々が綴られている。なお4月には、「つづ井さん」シリーズのTVドラマ化が発表された。

いそふらぼん肘樹(イソフラボンヒジキ)

2017年、月刊コミックZERO-SUM(一迅社)に掲載された「神クズ☆アイドル」でデビュー。「神クズ☆アイドル」は読み切りが好評を経て連載化され、「次にくるマンガ大賞 2019」ではコミックス部門の3位を受賞した。現在、単行本の最新8巻が発売中。また2022年にはTVアニメ化も果たしている。