「ふしぎ遊戯 白虎仙記」が6年ぶりに再始動、つづ井×いそふらぼん肘樹の濃厚クロストーク

渡瀬悠宇「ふしぎ遊戯」シリーズの最新作として、2017年より月刊flowers(小学館)で連載中の「ふしぎ遊戯 白虎仙記」。休載により1巻発売後はしばらく動きが止まっていたが、渡瀬が画業35周年を迎えた今年、約6年ぶりに連載再開され、単行本の2巻が発売された。

コミックナタリーではこれを記念し、「ふしぎ遊戯」のファンである「つづ井さん」シリーズのつづ井と、「神クズ☆アイドル」のいそふらぼん肘樹のクロストークをセッティング。同世代で互いに気になる存在だったという2人は、キャラクターへの愛や忘れられないセリフ、マンガ家・マンガ好きとして渡瀬から受けた影響を語り尽くす。最後には、相手のリクエストに応えてそれぞれ描いたイラストも掲載しているのでお見逃しなく。

取材・文 / 岸野恵加

その奥深い世界観、今からでも追いつける!
「ふしぎ遊戯」シリーズ案内

1作目
「ふしぎ遊戯」

「ふしぎ遊戯」1巻

連載
少女コミック(1992年1号~1996年12号)

単行本
(紙版)小学館文庫 全10巻/(電子版)フラワーコミックス 全18巻

高校受験を控える美朱みあかは、親友の唯と図書館で「四神天地書」という古い書物を発見。読めば願いが叶うというその本に興味を持った矢先、2人で本の中の世界に吸い込まれる。紅南国こうなんこくという地に降り立った美朱みあか。“朱雀の巫女”と呼ばれ戸惑うが、国を救うため、巫女を守り、力を与える七星士を探す旅に出る。

2作目
「ふしぎ遊戯 玄武開伝」

「ふしぎ遊戯 玄武開伝」1巻

連載
少女コミック増刊(2003年4月15日号~2004年2月14日号)、少女コミック特別増刊 渡瀬悠宇パーフェクトワールドふしぎ遊戯(2004年vol.1~2008年vol.14)、flowers増刊 凛花(2010年10号~2012年16号)、増刊フラワーズ(2012年12月号増刊~2013年3月号増刊)

単行本
(紙版)小学館文庫 全7巻/(電子版)フラワーコミックス 全12巻

時は大正。女学生の多喜子は、反目しあう父・永之助が訳した中国の書物「四神天地書」の中に突然吸い込まれる。極寒の北甲国ほっかんこくに舞い降り、自分が“玄武の巫女”だという運命を知らされた多喜子。自らの使命を胸に、国を救うべく七星士探しに乗り出す。

3作目
「ふしぎ遊戯 白虎仙記」

「ふしぎ遊戯 白虎仙記」1巻

連載
月刊flowers(2017年10月号~)

単行本
(紙版・電子版)フラワーコミックス 既刊2巻

大正12年、関東大震災の最中に幼い鈴乃は父の書物「四神天地書」の中に吸い込まれる。見たことのない砂漠の地で、鈴乃は人に変わる虎・虎人フウイン寧蘭ネイランと出会う。彼女とともにカサルたち兄弟に救われた鈴乃は、そこで自分がこの地を救う“白虎の巫女”であると告げられて……。

つづ井×いそふらぼん肘樹
クロストーク

私たちは「同じクラスになったことはないけど、『面白い』という噂だけは聞こえてくる同級生のような存在」

──まずはおふたりの関係性について教えてください。つづ井さんは肘樹さんのファンだということを公言されていて、肘樹さんもXでつづ井さんについて何度かポストしていたことがありました。これまでおふたりに交流はあったんでしょうか。

つづ井 直接の交流はなく、私が一方的に肘樹先生のファンだったんです。先生のnoteがすごく好きで、「神クズ☆アイドル」の連載が始まる前から、Twitter(現X)を裏アカでフォローさせてもらってました。

いそふらぼん肘樹 裏アカで(笑)。ありがとうございます!

つづ井 コミティアで、肘樹先生の本を直接買わせてもらったこともあります。2回くらい……。

肘樹 ええ!? そうだったんですか?

つづ井 はい、すいません……(笑)。すごく応援してます! わー!

──作家と読者として対話したことはあったんですね。

肘樹 びっくりしました(笑)。私もつづ井さんが作品を投稿し始めた頃からお見かけしていて、ファンだったんです。実は1回お渡し会に応募したことがあったんですけど、落選してしまったんですよね。

つづ井 ええ、そうなんですか! また機会があるかはわからないですけど、次回があったらぜひ遊びに来てください……!

肘樹 ぜひ! つづ井さんが「神クズ」を読んでくださっていることを知って、すごくありがたかったんです。それで単行本でアンソロジー企画をやるときに、つづ井さんに寄稿を依頼したこともありました。「ファンなので逆に参加できかねる」と、丁寧なお断りをいただきましたが……。

つづ井 その節は大変失礼しました。自分のオタクとしての気持ちと、マンガ家としての活動の折り合いがつかず、お断りする形になってしまって。とても失礼でしたよね……。

肘樹 いやいや、高潔でおもしれーオタク、ますます好き……になりました(笑)。ちょうど私が上京するのと同時期につづ井さんも東京に引っ越したという投稿をお見かけして、勝手にシンパシーを感じていたんですよ。なんだか、同じクラスになったことはないけど、「面白い」という噂が聞こえてくる同級生のような存在というか。

つづ井 ああ、わかります。「あっちから楽しそうな声が聞こえるな……」とチラチラ見る感じですよね(笑)。こうしてお話しする機会をいただけて光栄です。

ガッツありすぎ、マルチタスクも得意な美朱みあかこそ巫女の器

──今日はおふたりに「ふしぎ遊戯」シリーズの魅力をじっくりお話しいただきたいと思い、お声がけさせていただきました。まずはそれぞれ、いつ頃「ふしぎ遊戯」に出会ったかを教えてもらえますか?

肘樹 おそらく私とつづ井さんは同世代だと思うんですが、そうなると「ふしぎ遊戯」をドンピシャで読んでいた世代ではないですよね?

つづ井 そうですね。私は7歳上の姉の本棚に単行本があって、小学校低学年の頃に読み始めました。

肘樹 やっぱりそうですよね。私も、近所の7歳くらい上のお姉さんのおうちにお邪魔すると、その人がいつも「ふしぎ遊戯」のアニメを観ていたんですよ。地元は田舎で、放送されてるアニメも限られている中で、それまで見たことがない重厚なストーリーが展開されていて、すごく憧れたんです。それで大学生の頃に初めてアニメを一気見して、原作もすぐに読破しました。

つづ井 なるほど。私の実家も田舎で、放送されていないエリアだったから、アニメは観たことがないんです。ひたすら単行本を姉の部屋で繰り返し読んでいました。当時私はちゃおを愛読していたんですけど、「ふしぎ遊戯」はちゃおの作品より展開がシリアスだったり、ちょっとエッチだったり……。

肘樹 うんうん。少コミ(少女コミック、現Sho-Comi。「ふしぎ遊戯」の連載誌)は、グンとお姉さん向けでしたもんね。

つづ井 まだ人生の中でマンガを読み始めた初期だったけど、「なんだこれは!」とすごく衝撃を受けました。そこから読むマンガの枠が広がったし、マンガをもっと好きにさせてくれたきっかけの作品だと思っています。

肘樹 わかります。私は大学生のときに原作を読んで、「次はどうなるの?」と引き込まれて。すごい作品だなと思いました。とにかくキャラクターの魅力が色褪せないんですよね。改めてしっかりストーリーを追うと、幼少期の記憶の片隅にあったキャラクターのことをどんどん好きになっていくのが、また面白かったです。

──個性豊かなキャラクターがたくさん登場するのは、「ふしぎ遊戯」の大きな魅力ですよね。おふたりは、特に好きなキャラクターを挙げるとすると誰でしょうか? 肘樹さんは、Xで星宿ほとほりへの愛を叫んでいるのを何度かお見かけしましたが……。

肘樹 はい(笑)。もちろん星宿ほとほりです! 子供の頃は、ビジュアル的には井宿ちちりが好きだったんですけどね。私は昔から、主人公に最初からはっきりと「好き」と言ってくれる男性が好きなんです。

美朱に思いを伝える星宿。
美朱に思いを伝える星宿。

美朱に思いを伝える星宿。

つづ井 肘樹先生が推している「こっちむいて!みい子」の吉田くんも、星宿ほとほりと同じタイプだ……!と思っていました。

肘樹 まさにです! でもやっぱり少女マンガの宿命で、そういう男子と主人公は結ばれないことが多いんですけど……。星宿ほとほりは本当にカッコいい男です。

──星宿ほとほり紅南国こうなんこくの皇帝でもある、朱雀七星士の1人。ナルシストなキャラクターかと思いきや、美朱みあかに純朴な恋心を抱くさまにはグッときます。

肘樹 美朱みあか鬼宿たまほめに最初から一直線なので、争う余地もなしという感じなんですが……。星宿ほとほりは皇帝なので1人城に残り、あまり戦地に行かないという位置付けも新鮮ですよね。会ったこともない朱雀の巫女を心の支えにして生きてきた彼ですが、巫女への憧れを胸に抱く瞬間だけは、皇太子ではなく1人の人間としていられたんだろうなって。

つづ井 「朱雀の巫女ならこの寂しさから救ってくれるかもしれない」と話していましたね。切ないですよね……。

肘樹 戦いに参加していたら、鬼宿たまほめに勝てる可能性もあったのかな? ……いや、ないか……! 勝たせてあげたかったです。

──肘樹さんの愛が伝わってきます。つづ井さんは、特に好きなキャラクターは?

つづ井 私は井宿ちちりがすごく好きです。子供の頃も好きでしたし、今回全巻を読み返しても、やっぱり井宿ちちりだなと思いました。たぶん私は、縁の下の力持ち的なキャラクターが好きなんです。当時は、24歳という年齢にめちゃくちゃ衝撃を受けましたね。

肘樹 けっこう大人なんですよね。美朱みあかは中学生で、周りのキャラクターも10代が多いけど。

親友との一件で顔に大きな傷を負った井宿は、いつも笑顔の仮面をつけて素顔を隠している。
親友との一件で顔に大きな傷を負った井宿は、いつも笑顔の仮面をつけて素顔を隠している。

親友との一件で顔に大きな傷を負った井宿は、いつも笑顔の仮面をつけて素顔を隠している。

つづ井 小学生の頃は「24歳!? 大人じゃん!」って驚いてました。でも今改めて読んだら、「24でこの落ち着きよう!?」と別の驚きがありましたね。いい意味で前に出過ぎず、お兄さん風を吹かせすぎず、飄々としていて。すごく魅力的です。あと女の子だと、娘娘にゃんにゃんのキャラクターデザインがかわいすぎて大好きでした。半分妖精のような立ち回りもかわいくて。

娘娘は四神天地書の世界を司る天帝・太一君と太極山に住んでいる。

娘娘は四神天地書の世界を司る天帝・太一君と太極山に住んでいる。

肘樹 ああ、わかります! 本当に「ふしぎ遊戯」って、キャラクターがキャッチーですよね。いいキャラクターとは、シルエットだけで差別化できているものだと思うんですが、「ふしぎ遊戯」はそのお手本みたいな作品。そういえば美朱みあかの髪型って、アニメでは固定で2つのお団子結びでしたけど、マンガだと下ろしたりポニーテールになったり、けっこう変わるんですよね。

さまざまな髪型の美朱。

さまざまな髪型の美朱。

つづ井 毎回おしゃれですよね! 唯ちゃんの髪も、後半にだんだん伸びていくのがかわいくて。ヒロインの髪型を変えるって、斬新な印象を受けました。キャラデザを固定せず、おしゃれを楽しんでいる感じ。美朱みあかのそんなところもかわいいなって。

肘樹 等身大の中学3年生という印象が強まりますよね。なのにこんなに過酷な目に遭って……。ストーリーの中で、どんどん目指すものが変わっていくじゃないですか。最初は朱雀七星士を揃えたらなんとかなると思っていたのに、次は神座宝を見つけなきゃいけなくなったり……。「美朱みあか、もう現実世界に帰りな?」って心配になっちゃうんですけど、絶対に挫けないんですよね。偉いよ、美朱みあか

つづ井 異世界に飛ばされただけでも大変なことなのに、受験勉強もちゃんとしていて。四神天地書の中に入って、命の危険が隣り合わせでも、方程式とか英単語とか、受験のことも考えてるし、お母さんのことも心配して……。本当に偉いですよね。なんてマルチタスクが得意な子なんだ!と。

肘樹 敵の術を破るために自分の胸を刺すなんて、ガッツがありすぎます。これが巫女の器なんだな、と感じますよね……。

つづ井 文句なしで、美朱みあかが朱雀の巫女だよ……。

朱雀を呼び出すため神座宝を手に入れたい美朱。玄武七星士の虚宿(とみて)と斗宿(ひきつ)から神座宝を渡す条件として、着ているものを脱ぎ、氷漬けに耐えるよう命じられる。

朱雀を呼び出すため神座宝を手に入れたい美朱。玄武七星士の虚宿(とみて)と斗宿(ひきつ)から神座宝を渡す条件として、着ているものを脱ぎ、氷漬けに耐えるよう命じられる。

──朱雀七星士と対立する青龍七星士も個性豊かで魅力的ですが、印象的だったキャラクターはいますか?

肘樹 私は房宿そいが好きですね。心宿なかごに一途で、最後はすごく切なくて……。

房宿は幼い頃に倶東国の大将軍でもある心宿にピンチを救われ、それからずっと彼を一途に思い続けていた。

房宿は幼い頃に倶東国の大将軍でもある心宿にピンチを救われ、それからずっと彼を一途に思い続けていた。

つづ井 違う出会い方をしていたら美朱みあかといい友達になれたんじゃないかな、と感じるのも、また切なかったですよね。